62話 Curse Ⅰ
現時刻から4時間前
「京也達は?」
「玖由達の元に向かったわ」
結彩からの報告を聞くが、それに対する返答はなくゆっくりと立ち上がる。
「JU-16ジェット機で向かわせているから後1時間もあれば間に合うだろう…さて」
「?」
不思議そうな表情を浮かべながら結彩は戸惑う。
「俺達も動くか」
「動くって…?」
「次の罪人を見つけ出す」
「そう簡単に言うがあてでもあるのか?」
ソファーに寝そべる大和が憐斗に尋ねる。
「あぁ目星は付いている、説明は後でする」
格納庫に向かった憐斗達の先には一機の輸送ヘリが起動準備をしていた。
「あ、憐斗さん!A227-L整備完了っす!いつでも行けるっすよ!」
秋津洲をパートナーとする常磐花音が元気よく憐斗に報告する。
「ありがとう」
「えへへ」
無邪気に笑う花音の頭を優しく撫でヘリに乗り込む。
「おぉー!」
撫でられた頭を抑え喜ぶ花音を見て大和は小さく頬を膨らませつつも飛び乗る。そんな大和を見て結彩は苦笑いを浮かべた。
乗り込んだのを確認した特殊部隊員の操縦により離陸する。
「それでどこに向かうの?」
「宿毛基地だ」
「そこに何があるんだ?」
「何があるという訳では無いんだ、あるかもしれないと言うだけだ…まぁ母さんの予言だから間違いは無いだろうが」
巫女の力は相手には曖昧にしか伝わらない、今回は宿毛に罪人が現れるという事しか聞けていなかったのだった。
「?」
よく分からないといった様子で二人は同時に首を傾げた。
「その近辺では最近次々と高熱といった体調不良で死亡するといった事が起きているらしいんだ」
「流行り病とかではないのか?」
「その可能性もあるがそれにかかるのは必ず一人、複数人が同時にかかったという報告はない」
「それは妙ね…」
「そして病死する直前に全員決まってこう言った『鬼に殺される』と」
その語りを聞いたその場の空気が更にひりついた。
「鬼って…」
「あぁ十中八九、罪人の仕業だろうなだが不可解な点もある、罪人の姿形の証言だけが異なるんだ」
「まって…どういうことなの…!?」
理解が追いつかないと言いたげに困惑しながら結彩が憐斗の説明を止める。
「その話が事実だとしたら複数居るということになるの…」
罪人の強さについては報告で聞いていた結彩はそれが複数居るという状況に僅かに青ざめた。
「そうかもしれないな」
その一言には疑問を拭えきれていないといった口調で言葉を発した。
「まだ何か引っかかるの?」
「同時に同じ場所で罪人が現れたのが初めてだからな」
「成長とか分裂した可能性でもあるというのか?」
「あくまでも可能性の領域だ、実際に確認するまでは確信は出来ないが」
憐斗は窓から景色を眺めながらそう答えた。
ー2時間前ー
宿毛に到着した憐斗達の元に宿毛基地局長 志波崎龍馬が待っていた。
「お待ちしてました」
「夜にすまない」
「問題ないです、現状呪いで殺されたのは10名…」
「呪いって…なんだ?」
予想外の単語が飛び出しそれに憐斗は食いついた。
「なにか情報を得られないかと調査している中で『 これは呪いだ』と言う人が数名いたのです」
「呪いなんて存在するわけが…」
「いや、アルマも呪いが視認できるような姿になったようなものだそれが元の罪人も呪いの類を使えても不思議ではない」
(問題は罪人が呪いをどこまで使いこなしているかだな…万が一にも暴走させようものなら取り返しがつかなくなる)
「犠牲者は全員アームズだったな?」
「はい…私が力不足なばかりに…」
悔しさを滲ませる龍馬の肩を叩き
「あまり気にするな、そのまま表向きで調べてくれ俺達は裏から調べてみる」
「裏の顔?」
結彩がそう尋ねた直後、憐斗と大和の背後に何者かが現れそれに驚いた大和は肩を震わせ素早く振り返る。
「なっ!?…って君たち居たんだ…」
忍びような姿の男女の二人を見て胸を抑えながら小さく呟く。
そこに居たのはAB-2をパートナーとする岩永望希と望希の姉でありAM-16をパートナーの海咲だった。
「この人達は?」
「宿毛基地の偵察隊の望希と海咲だ、ここで起きている異変も二人から教えて貰ったんだ」
「初めまして二人とも、よろしくお願いしますね」
「「こちらこそよろしくお願いします」」
息のあった返答に結彩の表情が引きずる。
「あ…あと気になってたんだけどその格好は…?」
「気分的なあれです」
海咲はそう返答
「き…気分的な…あ…あれですか…」
曖昧な返答に苦笑いを浮かべながら反応に困る結彩は憐斗に助けを求めるが憐斗はすぐさま目をそらす。
(えぇぇ……)
「とにかく今日の所は休息を取られてはどうですか?」
「そうだなそうさせて貰おうか」
困る結彩を見た龍馬の機転により話題が変わる。
「では、引き続きの案内は彼女が引き継ぎますので」
と龍馬の隠れていた少女が一歩前に出る。
「如未咲果です」
「じゃあ頼むよ」
龍馬の言葉を聞くと見上げて一礼した。
「ではこちらへどうぞ」
咲果の先導で廊下を歩く最中目の前からフードを深く被り顔が見えない人物が歩いてきていた。その人物は憐斗達一行に気づくと傍から見ると挙動不審のように慌てながら廊下の端に張り付くように寄る。その前を通り過ぎる時も決して目を合わせようとせず俯いていた。不思議に思った結彩は通り過ぎた後も、振り返りその人物の動向を見ようとするがすぐさま向かいの部屋に飛び込むように隠れてしまった。
「彼女は築島深崎です、彼女は以前はあんな感じでは無かったのですけどね……着きましたよ」
咲果は一室の前で立ち止まり振り返る。
「ここが憐斗さんの部屋で隣が結彩さんの部屋となってます」
更に部屋の説明をしようとする咲果を憐斗は止める。
「大丈夫だ、あとは俺達でしておくよ」
一瞬戸惑った表情を見せながらも一歩後ずさりをし
「分かりました、ごゆっくり」
一礼し咲果は引き返した。
「今日は休むか…」
憐斗は部屋の扉を掴む。
「俺はずっと部屋に居る、何かあったら言ってくれ」
「うん」
頷き結彩も扉を開けて部屋に入る。
(何しようかな…)
一人となった結彩だったかやる事が思いつかず畳に座り考えていた。
(呪い…について調べようにも私には調べる手段なんて無いし…)
その時、部屋の外で何かが倒れたような音が聞こえ驚き身体が震え、恐る恐る窓から外を見る。そこには玖由ぐらいの少女が倒れていた。慌て部屋を飛び出し階段を駆け下りて少女の元に向かう。
「大丈夫!?」
「う…うぅ…」
結彩が声をかけると少女は呻きながら顔をあげる。
「お姉さん…美味しそう……」
「えっ!?」
思いもよらない発言に後退りしたがその直後少女の腹から大きな音が響く。
「お腹…空いてるの?」
「ぅん…」
地面に突っ伏したまま答えた少女に困惑しながら
「食堂ある場所分かる…?何か作れそうなら作ってあげるけど…」
「本当!?知ってるよ!きて!」
唐突に元気を取り戻した少女は喜びながら結彩に食堂の場所を教えた。
「はい、親子丼だけど…口に合うかな?」
「いただきますっ!」
勢い良くがっついた少女は一口食べた直後目を輝かせ丼の中の食べ物を休む暇なく口の中に入れていく。
「んーー!」
口いっぱいに頬張った少女は満足気な表情を浮かべる。
「良かった、口に合って」
「うん!あとはデザートかな」
「えっ!?」
「あっ、大丈夫だよ、それはいっぱいあるから!それじゃありがとうね!」
そういい食堂を飛び出し出ていった。
「変わった子だったなぁ…」
片付けを終え部屋に戻った結彩は思わず心の声を口に出してしまった。
(明日もあるし今日はもう寝ようかな)
とベットに横になる、そして眠りにつくまではそう時間はかからなかった。