60話 Crazy gap Ⅳ
起き上がる鬼に向け玖由はワイヤーを放ち全身に絡ませそれを切断する。
それを解こうと鬼はもがくがその度にワイヤーが絡まり身動きが取れなくなる。焼き切ろうと放熱するもワイヤーには焦げた様子すら無かった。
「耐熱ワイヤーなんだから、そう簡単に…焼ききれないわよ…」
「それよりあの鬼どう倒すの!?」
「近い近い…」
詰め寄るように尋ねる綾乃を避けるように玖由は顔を遠ざけた。
「あいつは他のアルマと違って再生力が異常…生半可な攻撃じゃ倒せない」
「それにあいつ攻撃を受ける度に硬化してる気がする…バグかも」
「それは無いし、実際硬化してるわ…」
逸希の言葉を否定し現実を突きつける。
「ならどうすれば…」
「簡単よ、それ以上の火力を…ぶつければ良いだけ」
「ゴリラかっ!私達にそんな火力を出せる武装なんて持ってないわよ!」
冷静に突拍子の無い発言をした
「ゴリラ…までとは言いませんがそんな火力誰が出せるんですか…?」
流石の葵も困惑しつつも問いかける。
「京也くん、任せたわ」
「えっ!?俺ですか?」
突然の指名に困惑する京也
「あなたのツクヨミ力とこの銃を合わせればいけるはずよ…」
そう言いながら小型レールガンを手に取り京也に差し出す。
戸惑いながらも握る小銃を手に取る。
「えっ…」
手に取った瞬間、玖由の手に触れその手が震え尋常ではない程の汗をかいていた。それでもそれを察せられないように振る舞う玖由を見てそれを握る力が強くなる。
それを感じ少し驚きの表情を浮かべながらも優しい微笑みを浮かべる。その時ワイヤーを徐々に引きちぎり
「任せたわ…」
「はい!瑞鶴、先輩をお願いします」
「あっ、えぇ」
「綾乃達はあいつの注意を撹乱してくれ!」
そういい先陣を切って京也は飛び出した。戸惑いつつもそれが最善だと考えた綾乃達も京也に続く。
「まったく…無茶ばっかりするんだからさぁ」
戦闘が不可能な状態の玖由を抱き上げ鬼の標的にならないようにその場を離れる。
「これぐらい…憐斗のする無茶に比べたらマシよ…」
と気力を使い果した玖由は気を失う。
(任せたわよ、京也)
「はぁっ!」
京也が結晶の剣を振り上げ鬼を切り裂こうとする。しかし硬化を続けた鬼の身体に触れた瞬間、剣が砕ける。それを予想していた京也は素早く砕けた結晶の粒子を再創造させ鋭利な塊として鬼に放つ。
それに対し鬼アルマは防御体制をとり受け止める。攻撃が収まり視界を遮っていた両腕を広げると目の前に脚に付けられているエンジンを向けた逸希が居た。
「飛んでけ!」
エンジンをフル回転させ発生させた衝撃を直撃させ鬼を吹き飛ばす。
「まだまだ!」
追撃しようと逸希は吹き飛ばした鬼の後を追う。
これ以上追撃されまいと鬼は熱エネルギーの塊を逸希に向けて放つ。
それに向けて装甲を展開し防御する。防がれつつも距離を開けることに安堵した鬼アルマだったが装甲の裏から綾乃が飛び越え現れ展開された装甲を蹴り鬼との間合いを詰める。
「ァ!?」
「逃がさない!」
砲塔を突き出し構える綾乃から逃れようと身を翻した鬼だったが
「逃さないと言いました!」
葵がミサイルを片手に持ち身構えて立っていた。
引き返せない鬼は引き寄せられるように葵に近づいてしまい間合いを見て突き出されたミサイルをねじ込まれる。直後追いついた綾乃が空中で身体を捻り鬼に垂直になるような体制になり直下に居る鬼の背中向けて砲撃、同時にねじ込まれたミサイルも起爆し爆発を起こす。
「今よ!」
黒煙の中から叫ぶ綾乃の声を合図に照準を鬼に定める。
しかし、鬼アルマは全開のパワーを地に叩きつける。すると激しい地揺れと共に地割れが発生し地に足をつけていた京也、葵、綾乃はバランスを奪われた。
バランスを崩した弾みで手にかけていた引き金を引いてしまいレールガンから放たれた一閃は黒煙を巻き上げ鬼とは程遠い地点に着弾してしまう。
「しまった…!」
「不意打ちですね…っ!?」
距離を開けようと葵は背後に飛ぶが衝撃波のような一撃が打ち込まれ地に叩き付けられる。
「な…なに!?」
黒煙で遮られていた視界が晴れると同時に鬼の標的が綾乃に向く。防御体制を取る綾乃だったが狂ったように繰り出される猛攻に防戦一方となってしまっていた。遂に装甲、更に両腕両足の武装が破壊されそんな中に鬼の懇親の一撃が叩き付けられ胸部武装の破損と共に倒されてしまう。
「かはっ…」
全身を損傷した綾乃は地に血を吐き僅かに開く瞳で鬼を見上げる。
「綾乃っ…!」
鬼はとどめを刺そうと炎の刃を作り出す。だがそれは瞬時に消滅してしまう。
「間に…あったわね…」
訳が分からないといった様子で何度も刃を作ろうとするがそれは叶わず直ぐに消滅してしまう。
「流石に…エネルギーを…っ…使い…果たした……でしょ…」
途切れ途切れになりながらも勝ち誇るように呟く。怒りを現すように鬼は足を振り上げ綾乃を蹴り続ける。
「やめろ…!」
鬼との間に割って入ろうとする京也を逸希が制する。
「僕が時間を稼ぐ…そのうちに京也は小銃のチャージを!」
そう言い逸希は鬼と対峙する。
(けど…俺が誤射をしたせいで…)
恐る恐る小銃のエネルギーを見る。案の定溜まっていたエネルギーメーターが0を指していた。
(この力だけであの鬼を倒す事ができる可能性なんて…)
『出来ないなんて言わないでほしいのだけど』
その言葉が脳裏に響いた瞬間激しい頭痛のような痛みが京也を襲い思わず頭を抑える。目を開けると京也は薄暗い空間に立っていた。そして目の前に自身とそっくりな姿をしたそれが向かい合うように立っていた。
「お前は…」
「そうツクヨミさ、それより!君は私の力を過小評価し過ぎなんだよ」
不満気な表情で京也を指さし詰め寄る。
「お前の力の事なんて知らない」
はっきりとそう言い指を払う。
「んなわけ、ないでしょ!」
振り払われた指で再び言葉と共に指を突きつける。
「その力を行使している以上、私の力は理解している!分かってないのは自覚してないからでしょ!」
怒号の勢いで言葉を放つツクヨミは指さす手で京也の胸ぐらを掴む。
「君は強さが欲しいのでしょ?ならそれに君が限界をつくってどうするのよ!」
「っ……」
「なら、私が代わってあげようか?」
不敵な笑みを浮かべながらツクヨミが提案をする。
「どういう事だ?」
ツクヨミの見せる笑みを見て警戒心を強めた京也が問いかける。
「そんなに警戒しないでよ、この力の手本を見せるついでに敵を排除してあげるって事」
「断る」
即答に近い速さでツクヨミの誘いをはっきりと断る。
「なんで!?いい提案じゃないの!?」
「そうだな、ならこれだけハッキリさせろ、敵って誰だ?」
その質問に動揺した様子でそれを誤魔化すように振る舞う。
「俺の敵か、それともお前の他の敵か?」
「ちっ…」
小さく舌打ちをしツクヨミは京也の瞳を見据える。
(ハッタリで言ってるわけじゃない見たいね…あいつの入れ知恵か…)
「分かった…勝手にすればいいわ」
そう呟き京也に背を向けるとツクヨミの姿が徐々に薄れる。
「待て!お前の敵って誰なんだ!」
「教えないし、教えても君には倒せない」
一言言い残しツクヨミは消滅した。
「っ!?」
鬼の猛攻をいなし逸希は攻撃を試みるが装甲の硬さに歯が立たず反撃をくらい吹き飛ばされるが、後から何者かに受け止められる。
「京也…!?」
「あとは任せろ」
(限界を超えてみせる)
逸希に距離を取らせ鬼と対峙する。拳を作り全身に力を込める。体内から脈打つ感覚を感じ筋肉が震え引きちぎれるような感覚を京也は感じる。
異様な雰囲気を感じた鬼アルマはすぐさま京也に襲いかかる。
「はぁぁぁぁぁっ!」
雄叫びを上げ京也は振りかざされた拳を受け止める。同時に鬼に触れる手から結晶が勢いよく京也に向け放出され右半身を覆う。その瞬間脳裏に輝く何かと対峙している光景が過ぎるが今の京也はそれを気にすることは無かった。
突然の出来事に動揺しながらも鬼は掴まれた腕に力を込める。しかしその時、自身に右腕が無い事を自覚する。
「お前は…俺が殺す…」
今までの半端だった結晶の鎧が形を変え京也の右半身を覆う。それを認識した鬼の視界は次の瞬間には暗闇になっていた。