5話 Secret Ⅲ
任務の翌日、重い体を引きずりながら玖由は校門を超える。チャイムが周りの人を急かすがそれでもマイペースに校門を超える。
「玖由…刺激的ですよね…」
影から玖由を見る人影が居たが玖由は気づくことが無かった。
「何してるの?」
背後から声をかけられ廊下を歩く蒼嵐を見る。
「別に…」
「早くしないと間に合わないわよ」
と玖由の背中を押す。その姿を見ていた憐斗に
「裏切り者…そして裏切り者の招待を知る内通者か…憐斗はどう考えてるんだ?」
「恐らく今までに関わった人物、あるいはこれから関わるだれか、という事になるな」
「まぁ今1番怪しいのはこの子か…」
「このタイミングの転校生かぁ、何かはありそうだな」
「転校生に関しては夕立が調査してくれている大和には別の事を調べて欲しい」
「何を調べれは良い?」
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蒼嵐に背中を押され教室の前に来た玖由はため息を付きながら恐る恐る扉を開ける。
「遅すぎですっ!」
罵声に耳を塞ぎつつ声の主に
「朝から元気ね、委員長」
と皮肉たっぷりの言葉をぶつける。長い髪に右目が隠されてる委員長と呼ばれた朝月帆夏は手を腰に当て
「当然です、あなた見たいに…ちょっと!」
説教が長くなると感じた玖由は素通りして行こうとするがすかさず腕を掴まれる。
「間に合ったんだからいいでしょ…」
「良くありません!どうせ蒼嵐さん連れてきてもらったんでしょう!」
振り返ることなく再びため息を付き
「…分かった、気をつけるから…」
と言うとようやく解放される。席に着席し再度大きなため息を付く。
「ため息ばかりしてると幸せが逃げちゃうぞ」
隣に座る綾乃が笑顔で玖由をからかう。
「それで逃げるならもっとしてる…」
と玖由は腕を枕にし机に突っ伏し寝る体勢になる。
「それにしても2人は仲が良いわね」
「は?どうしたらそう見えるの…やたら私にばかり絡んでくるし…」
「そらね…玖由はマイペース過ぎるというか…ねぇ」
苦笑いをしながら綾乃は言う。
「今更知ってる事、技術を学んだところで何も変わらない」
「はぁ…」
と綾乃は羨ましそうに突っ伏す玖由を眺めていた。その時、扉が勢いよく開き
「みんなおはようっ!」
と龍が勢いよく入ってくる。
「朝から元気ないなガッハッハッ」
「うっさいっ!」
「ハウッ!?」
バカ笑いする龍を摩耶が股間を蹴り上げ静まらさせ崩れ落ちる龍を無視し話し始める。
「いきなりだけど今日から転校生が来る事になったの」
ゆっくりと扉が開き華やかな容姿の少女が姿を見せる。
「みなさま初めまして神崎松根と申します、刺激的な日々になれば良いなと思っております」
(今なんて…!?)
松根の自己紹介を聞き自分の耳を疑いつつ顔を上げる。そして隣の綾乃を見ると同じ様に驚きを隠せない表情で松根を見ていた。
「聞いた?」
「うん…刺激的って、それに神崎は確か玖由の前の仲間の人と同じ名字だよね…」
「何かありそうな感じか…それより今日だれか休んでた?」
と自分の後ろの空いている席を指さす。
「いや、元から空き席だけど…あっ…」
「ここが私の席にですね!よろしくお願いしますわ」
「よ…よろしくね」
若干引きづった笑みを浮かべながらも挨拶をする綾乃とは反対に玖由は再び寝る体勢になっていた。
ーーーーー
「神崎松根さんですか…」
と普段の黒いドレスだと目立つため黒色は変わらずジャージを身につけた夕立が松根の家の前に立っていた。
「とにかく自宅に来てみたものの何を調べたら…!?」
視線を感じ振り返る。すると立ち去ろうとする影を見つける。
(誰か知りませんが逃がしませんわ!)
夕立は高く飛び上がり一軒家の屋根から地上を見下ろす。すると夕立と同じく黒ずくめでフードで顔を隠した人物を見つける。再び飛び上がり夕立は腰にベルトを展開し巻き付ける。すると大鎌が飛び出す。
「はぁっ!」
その人物に向けて大鎌を振り下ろすがそれは素早く後ろに下がり夕立の背後に回る。
「っ…!」
振り返ると自身に銃口が向けられており咄嗟に目の前に装甲を展開する。しかし装甲に衝撃が感じられず前を見るとそれの姿が無かった。
「どこに…」
見渡すと遥か先に屋根と屋根を飛び越える姿を見つける。
(確かあの先は商店街ですわ…人混みに紛れて逃げる気ですか…!)
と夕立も追いかける。
今日も午前中のみだった京也は夕食の材料を買いに商店街に来ていた。その時前から走ってくる人物に気づかず衝突する。衝突の瞬間その痛みとは別に静電気が走ったような痺れる痛みを感じた。
「「!?」」
「見つけた特異点…」
すかさず起き上がり京也を引きずるように再び駆け出す。
「ちょ…ちょっと待ってくれ!」
と止まるように言うが聞く耳をもたず走り続け人気の無い裏道に来る。京也は最終手段として精一杯の力で引っ張る。するとその人は足を滑らせ前のめりになり、掴んでいた京也もろとも転ぶ。
「痛った…」
覆い被さる様に転んだ京也は自分を包む柔らかいものの感触に嫌な予感がする。
「っっ~急に引っ張られるなんて…」
額を抑え顔を上げた少女のは自分に覆い被さる京也を見て言葉を失う。フードで顔をを見れなかったが明らかに動揺していた。
「すまないっ!」
「いいよ別に…突然連れていかれたら困惑するのは当たり前だから…だから事情を話したら大人しく着いてきて」
「事情…だと…」
「何をしてるのですかっ!」
目の前にいきなり着地し大鎌を少女に振り下ろす夕立に京也は更に困惑する。
「危ない危ない」
パイプに飛び移っていた少女は2人を見下ろす。
「特別にあなた達のゲームのヒントをあげる、『姉は死んでいない』」
そう言った瞬間大量の煙幕が巻かれる。夕立は京也を抱き上げ煙幕から逃れる。
(くそっ…一体なんなんだよ…)
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放課後2人に松根が話しかける。
「お二人とも時間はありますか?」
「どうし…」
「無い」
要件を聞こうとする綾乃を遮り玖由ははっきりと答える。
「大方、学校の案内をして欲しいって所でしょ?今日この学校に来てからあなた興味深く色々見てたから」
と片付けをしながら答える玖由に
「凄いです玖由さん!ですがこれから用事なのでしたら仕方ありませんね…」
と松根は尊敬の眼差しを向ける。
「そうだれこう言う時は帆夏ー!」
綾乃は帆夏を呼び寄せ
「松根さんに学校の案内をしてあげて欲しいのだけど」
と委員長である帆夏に案内を頼もうとする。
「分かりました、私も松根さんに色々聞きたいですし…」
いつもならどんな頼み事も快く引き受けてくれる帆夏だったが快諾とは言わない表情をしているのを玖由は見逃さなかった。
「良かったわね、じゃあ私達は帰るわ」
玖由はそう言いながら教室を出ていきその後を綾乃は追いかける。しばらくの沈黙の後教室に残された帆夏が口を開く。
「あなたはどうしてこんな学校に来たのですか?」
「お姉ちゃんを探すためですわ、ですがすぐ分かりそうです、人間って直ぐにボロが出ますから」
「そう…お姉さんですか…見つかるといいですね」
と松根に背を向ける。
「さ、学校を案内してあげます」
教室の外からその言葉を聞いていた玖由と綾乃はその場から立ち去る。
「どうしたの玖由教室を出る振りをして外から盗み聞きするなんて」
その質問には玖由は答えず学校の使われていない部屋に入る。そして玖由と綾乃はカードをかざすと見るから重そうな扉が開く。司令室に通じる廊下を歩き憐斗の居る司令室に入る。
「ふ…綾乃…玖由さんまで!?」
「京也!?」
「京也君どうしてここに…」
司令室に京也が居る事に驚くと同時に綾乃と玖由はお互いが京也を知っている事に驚きを隠せなかった。