58話 Crazy gap Ⅱ
スキー板のようなものを両足に取り付けた玖由に秋は戸惑いの表情を浮かべていた。
「安心して足でまといにはならないようにするから」
そう言い海面を加速しすすむ。
「そんな事が言いたかったんじゃないんだけとなぁ…」
秋は頭をかきながら玖由の後を追った。
『葵!』
襲われるアームズからアルマを引き離しながら玖由の無線に応答した。
「どうしました?」
『アルマの注意を集めて!ここまで多いと一つずつ落としてたらキリが無いわ!』
「分かりました…けど…」
『問題無いわ、殲滅できる方法はあるわ!アレらの性質を利用するのよ』
「!?…なるほど…分かりました」
(流石玖由ですね…)
梨絵はそう思い、無線を切り刀を納刀し使い慣れた剣と銃を手にし大きく息を吸い込む。
「みなさーん!少し離れててくださーい!」
葵は大声で他のアームズ達に警告をする。アームズの動きを見て両手の武器を構えた。
「はぁっ!」
アルマの塊に葵は銃弾をばら撒くしかしそれを察知しアルマは回避行動をとりかわす。動きがバラついた隙を狙い葵の振る剣を振りすれ違いざまに切り裂いていく。
「まだまだ!」
周囲に居たアルマの一部が葵を脅威と認識して攻撃を仕掛ける。しかし狙いは全アルマの注意を引く事の為、葵はさらに攻撃を激しくする。剣の刃を自身に向くように持ち変えその状態から腕を振り上げ剣を投げ放つ。鈍い音で刃先がアルマに突き刺さりその衝撃からアルマの身身体がくの字に曲がる。銃弾をかいくぐり葵は突き刺した剣の柄を掴み、刺さるそれを盾にアルマとの距離を詰め、距離が狭まったのを確認し剣を引き抜き蹴り飛ばす。蹴られたそれはアルマの群れにのしかかる。それには大量の爆弾を口に詰められ身体にひとつの爆弾がくっついていた。
「さよなら」
貼り付けられた爆弾が起爆し口に詰められた爆弾に誘爆その爆破は周りを巻き込み消し飛ぶ。その様子に唖然とするアルマ達の目の前に葵は突然現れ
「よそ見してると…」
アルマは身体に何かを突きつけられた感覚を感じ葵の手元を見る。そこにあったのまミサイルだった。
「……!?」
ミサイルを起動させアルマこど吹き飛ばし爆発させる。
「まだまだまだ!」
空中で身体を不規則に回転させ銃弾をばら撒く。
葵の暴れ様に怖気付いたアルマ達はばら撒かれる銃弾に次々に被弾していく。その姿に葵を最大の脅威と認識したアルマ達が一斉に葵に攻撃を集中させる。ようやく狙いどうりの行動を始めたアルマに葵は笑みを浮かべ弾幕を回避し高度を上げる。葵を追いかけるように打ち続けるアルマだったが月明かりにより目を眩ませ銃弾が意図しない方向に飛んでいく。
(まさか…!)
逆光の中、夜空に照らされた影が何かを放つ仕草をする。徐々に近づきそれがミサイルだと気づいた頃には既に回避不能の距離まで狭まっていた。爆発による黒煙に飛び込み飛び出した先に居たアルマに刃を振った。しかしそれは甲高い音と共に弾かれその反動で葵の身体が大きく仰け反ってしまう。
「…っ!?」
葵は衝撃を与えられた原因の正体を見る。
(角…ですか!?)
そこには僅かに欠けた一本の角を持つ人型のアルマ浮遊していた。
「鬼のアルマ…また!逃げてください!それには絶対勝てません!」
秋の叫びを聞き葵と玖由は驚きを隠せずに居た。
「私達の全力でも角に傷をつけただけでした…」
「けど、放っておく訳にはいかないです!」
葵は小銃を腰に引っ掛け玖由から受け取った刀を引き抜く。
(まぁ私…剣の扱いは苦手なんですけどね…)
梨絵はそう思いながらも強く握りしめアルマに刃先を突き出しながら特効する。それに気づいたアルマは刃を振り上げ突き出された剣を弾く。その衝撃を利用し身体を大きく回転させもう片方の刀を振り上げたが、距離を置いたアルマに刃が触れることなく目の前を通過した。しかし同時にトリガーから指を離す。すると圧縮された衝撃波が放たれ欠けていた角を切り裂く。
「まだだっ!」
更に剣を突き出しアルマを突き刺そうとした。その時甲高い音と共に剣の先端が宙を舞っていた。
(なに…!?)
「剣が折られた…なんて硬さなのですか…」
戸惑う葵の剣をアルマは素手で掴む。
(引っぱられる!?)
アルマに剣を奪われないように力を込めるがアルマから発せられる瘴気に剣が飲み込まれる。それが手に触れた瞬間、葵は頭が押し潰されるような痛みに襲われ思わず剣から手を離す。
(×…× …××× ……)
全身の力が思うように入らず海上に落下する。そんな葵を玖由が受け止める。
「大丈夫!葵!?」
「……」
言葉は聞こえていたがそれが理解出来ず思考が真っ白になっている葵は玖由の返答に答える事が出来無かった。
「葵!葵っ!」
(…は……それ…は…な…に……な…まえ…?…なま…え…名前…そうだ…名前…だ…だれの…誰の…名前…ですか……そうだ…わ…私だ…私は…あおい…私の名前は葵だ…)
何度も呼びかける玖由の呼びかけが徐々に理解ができるようになり反応を見せる。
「あなたは……玖由…?」
「そうよ!玖由よ!葵、大丈夫!?意識をしっかりさせて!」
瞳の光がはっきりと戻り、葵は起き上がる。
「ごめんなさい…あいつの瘴気に触れた瞬間全てが支配される感覚になって…」
「それがあのアルマの恐ろしい所…あの瘴気に呑まれた仲間は全員…発狂死したの…」
「「!?」」
「じゃあ一発でも攻撃を受けたらアウトの鬼畜ゲームって訳ですか」
そう呟く葵だったがその言葉には恐怖等は一切感じられず反対に楽しそうな口調に感じられた。
「大丈夫なんですか!?」
「問題ないですよ、むしろこっちの方が私に向いてるので」
葵の発言に戸惑う秋だったが反対に玖由は葵の考えを察し苦笑いを浮かべ
「無理だけはしないでよ」
「了解です」
そう答え葵は再び飛翔した。
「さ、私達は今のうちにやる事やるわよ」
葵を見送り玖由は秋に作戦を提案した。
「正気とは思えないですけど…了解しました、全員に通達しておきます」
再び上昇してくる葵に対し鬼はアルマに銃口を向けさせるがそれに臆すること無く鬼を通り過ぎ上昇。
「今!照明弾一斉発射!」
同時に照明弾が至る場所から放たれ眩い光により周囲は昼間以上に明るく照らされる。それに驚きつつも距離を取ろうとする葵を追撃するようにアルマに指示を出す。
背後から迫るアルマに注意を向けつつ上空を縦横無尽に翔ける。読めない動きをする葵に対しアルマはミサイルを手に囲い込むように放つ。それに気づき空気を溜めていた刀を引き抜き振り返ると同時に振り上げ刀が通過した軌道を衝撃波として放ちミサイルを切り裂く。
爆発し黒煙を上げアルマ達はそこに突っ込むのを躊躇う。しかしそこから葵は現れアルマの目の前をすれ違った。直後上半身と下半身が二つに割れ状況が把握出来ないまま消滅する。
「よし…!」
消滅するアルマを確かめる葵だが、背後に集中していたため目の前に現れた鬼に気づくのがおくれ剣を掴まれる。
(しまった!?)
動揺の表情を浮かべる葵に満足するような笑を浮かべ鬼は葵を引き連れ急降下し海面に叩きつけようと投げ落とす。更にアルマに指示を出し追撃としてミサイルを放たさせた。それ次々に命中し爆発の黒煙の中から気を失った葵が現れる。更に確実に仕留めようとする鬼のアルマは他のアルマを引き連れ降下する。
「なーんてね、ですよ」
突然目を覚ました葵は小さく舌を出し呟く。
「航空隊突撃!海上隊、一斉対空射撃開始!」
鬼アルマが気づくと周りには多数のアームズ達がアルマを奇襲し迎撃する。
(照明弾で視界を奪い更に囮役がアルマを引き付け周りの動きを悟られ無いようにして特定の場所まで誘い込み一気に叩く…こんな作戦を考えるなんて…)
状況に対応が出来ず鬼のアルマは混乱状態となる。
「隙あり!」
葵は刀を突き出し鬼の腹に突き刺す。さらに同時にトリガーを引き衝撃波がアルマを貫く。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…ッ!」
次の瞬間、鬼にアルマが放熱をはじめ熱風により葵達は吹き飛ばされる。
「なに…!?」
鬼のアルマの装甲に亀裂が入りそこから赤い光が漏れ出す。
「葵!離れて!」
鬼の放熱が翼として視認ができる状態とかなった瞬間、回避行動をとらなかった葵以外の航空隊は血飛沫を上げ海面に落ちた。
再び鬼が翼を広げた瞬間鬼の姿が消える。身構えた葵だがその目の前に人影が現れ鬼の一撃を止めていた。
「京也くん!?」
「間に合って良かった」
と言い鬼を吹き飛ばす。
「ここからは俺が相手だ」