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56話 Devil's whisper Ⅲ

「なんで俺が…」

未だに納得をしていない粟木は相変わらず文句を呟いていた。

その声は外に居る京也にも聞こえておりそんな様子にため息をついた。

「ため息ついてると幸せ逃げるぞー」

覗き込むように京也の顔を見て、人差し指で京也のおでこをつつきながら綾乃は京也に声を掛ける。

「ため息も付きたくなるだろ…」

「まぁ、理解できるけど」

今だに聞こえる文句の数々に苦笑いを浮かべながら答えた。

「それより、今のところは問題無いみたいよ、ここに来る前に逸希のところにも行ってたけど異常は無かったって」

建物内の巡回をしていた綾乃は以上が無いことを報告した。

「分かった、引き続き頼む」

「うん…ねぇ京也…」

本当に殺人鬼が現れるのか不安になった綾乃は京也に尋ねようとしたとき頭痛が綾乃を襲い脳裏に刃物を持ち上げる粟木の姿が過ぎった。

「っはあ!?」

突然の事に困惑気味の京也の両肩を持ち

「部屋をあけて!」

「だが、あいつ部屋に誰も居れないように鍵を…」

「なら!壊す」

砲塔の武装のみを纏いそれを扉に押し当て砲撃の衝撃で扉を粉砕する。

「なっ…!?」

刃物を持った粟木が自分の腕を切ろうとしていた。粟木の瞳はほぼ白目を剥き体液が流れ出る箇所全てからそれらを垂れ流し発狂に近い状態となっていた。

「何やってんだよ!」

振り下ろそうとしていた腕を抑え止めようとするが粟木はその腕を京也ごと持ち上げる。

「まずい…」

危険を感じ咄嗟に腕を離すが枷が無くなった腕を振り回し刃先が京也に向かってくる。しかし突如出現した装甲が刃物から京也を防ぐ。

「大丈夫!京也!?」

「あぁ、すまない」

その時粟木は装甲を乗り越え京也の目の前にて着地、その着地の衝撃は京也のバランスを崩させた。そこを狙い粟木のタックルが京也に直撃、咄嗟に防御姿勢をとったがそれを無視し軽々と吹き飛ばされ壁に衝突し穴を開けた。

「っ…」

「遅れてごめん…って大丈夫京也!?」

綾乃の連絡を受けて到着した逸希は壁の瓦礫に埋もれかけていた京也を引っ張り出す。

「問題ない…あいつあんな馬鹿力してんのかよ」

「あれは粟木さん…?…いや違う何かが操ってる!?」

「何かって?」

「分からない、ただ黒いもやみたいなものが見えてる…」

「俺には何も見えないけど…」

「それが僕の才能、観察力だからね」

逸希は自分の目を指さし答える。

「でも、対象をある程度見ないと行けないから心眼のあの人の下位互換なんだよね」

「あの人?」

そう問いかけた綾乃を不思議そうに見つめ何かを察したのか

「それよりも、今はあの人の救出が先だよ」

綾乃達が攻撃を仕掛けてこない為再び自傷行為に及ぼうとしているのを見て話を逸らした。

「させない!」

逸希は手錠を投げ放ち粟木の刃物を持つ右腕に引っ掛ける。手錠は勢いを衰えず粟木を引っ張り柱にもう片方が引っ掛かり粟木の動きを抑える。

「これで抑え…」

そう言いかけたのと同時に粟木が手錠を引きちぎり立ち上がる。

「嘘だよね…」

再び襲いかかってくる粟木に頭を抑えながらも床を強く踏み込み、大きく息を吸い込む。

「はぁっ!」

床を蹴り粟木の反応した時には既に腹部に逸希の右肘が打ち込まれていた。

「大人しくしてよね」

「ぐ…ァ…ッ」

痛みに苦しむ粟木の足を自分の足と絡めバランスをくずさせ倒し腕を捻り起き上がれないようにする。

「ぐァァァァァッ!!」

それでもなお粟木は立ち上がる。骨が折れている音と感覚を感じすかさず逸希は手を離した。そこを狙われ後ろ蹴りが直撃し吹き飛ばされるが、逸希のクリークが受け止める。

「ありがとう…烈風」

無言で頷き京也達の元で逸希を降ろす。

「どうする…これ以上強引にすると彼の身体が持たないかも…」

逸希の行動ですら抑えられなかった粟木を抑える手段は思い付かなかった。その時ワイヤーが窓ガラスが突き破り粟木に絡みつき、外に連れ出される。

「なに!?」

「追いかけるよ!」


「はーい、一本釣りなのだよ」

映月は捕まえた粟木を木に括り付けて木の周囲を何周もしながら眺める。

「はやく切り離して上げないと」

心配そうな表情の蒼嵐は呟く。

「慌てないのだよ、それにこの呪縛は簡単に剥がせない…」

「見つけた!…君たちは誰だ!?」

粟木の気配を追い逸希が草木を突き抜けて現れる。そこに居た映月、蒼嵐を見て敵意を露わにする。

「蒼嵐さん!?」

逸希の後を追ってきた綾乃と京也は蒼嵐の姿を見て驚きの声を隠せなかった。二人の様子に逸希は敵意を抑える。

「なんで蒼嵐さんが、そいつを!」

「まぁまぁ落ち着くのだよ、この子を助けたかったら君の力を引き出さないとなのだよ」

「…ツクヨミの力の事なのか」

「その通り!」

指を鳴らしながら明るい口調で京也の言葉を肯定する。そんな映月とは裏腹に蒼嵐は俯き京也達とは目を合わせようとしなかった。

「待って!」

逸希の鋭い一言でツクヨミの力を発動する京也を止め映月を見る。

「本当にそれだけなのですか?なにか隠してますよね」

その言葉を聞き映月は小さく舌打ちをする。その音は隣に居た蒼嵐にしか聞こえていなかった。

「そーだね、失敗をすればこの子は死ぬ…正確にはアルマ…いや、もっと正確に言えばハザードアルマ化するのだよ」

「何故、ハザードアルマだと分かるんだ?」

「この子の苦しみ方を見れば一目瞭然なのだよ、ハザードアルマは人を最大限苦しませて最高の負を糧にアルマ化するのだよ、こんなプレッシャーを与えたくないから黙っていたのだよ」

「今の言葉…どう思う?」

その言葉の真意を見るように鋭い目を向けていた逸希は小声で綾乃に意見を求めた。

「嘘は言っていないと思うけど」

「分かった…」

「さて、どうする?」

映月は笑を浮かべながら京也に選択を委ねる。

「人を助ける為にこの力を手に入れたんだ」

と言い京也は粟木に手をかざす。すると京也の手を中心に衝撃波が包み黒いモヤが京也達にも見えるようになる。

「あれが!」

広げていた手を握り拳をモヤに向けて突き出す。直撃したモヤは京也の一撃を受け消滅、同時に本紫色の塊が飛び出す。

(やっぱり出たのだよ!)

その塊を手にしようと映月が手を伸ばしたが直前で逸希が横から奪う。

「やっぱり狙いは別にありましたね」

塊を手に逸希が鋭い声で呟いた。

「返すのだよ!それは…それは…」

映月の声が徐々に小さくなり悔しそうな表情を浮かべた。

「それは貴方達が手にするものじゃないから」

今まで口を閉ざしていた蒼嵐が口を開き映月の代わりに答える。

「どういう意味ですか!?」

「知る必要は無いのだよ!」

「っ!?」

背後からの気配を感じ身をかがめると同時に頭上を刃が通過、すかさず烈風が実体化し武装を纏う映月の動きを抑える。

「お願い流星」

「うん…」

蒼嵐の指示で実体化した流星が烈風に銃口を向け発砲し映月の妨害の阻止をする。障害が無くなった映月は再び逸希から塊を取り返そうとする。対して逸希は猛攻を寸前でかわし続ける。

「はぁっ!」

「うぐっ…」

しかし、猛攻に押され逸希は映月の突き出された刀の鞘の一撃をもろに受け全身に力が込められなくなり手から塊がこぼれ落ちる。

それを手に取ろうと映月は試みるが流星の隙を突き放っていた烈風の弾丸が塊を弾く。

「綾乃っ!」

「蒼嵐!」

自身の名を呼ぶ声に同時に反応し二人が同時に飛び上がり塊に手を伸ばす。

「っ!」

綾乃は蒼嵐に砲塔を向けるが、躊躇った隙を狙われ蒼嵐が突き出された砲塔を掴む。同時に砲弾が放たれるが狙いが大きく逸れた場所に着弾、その時掴んだ砲塔を振り回し、綾乃ごと投げ飛ばす。

「しまった…!」

蒼嵐が塊を手にするのを見た逸希は烈風を呼び武装として自身のみに纏う。武装を纏った逸希の力は大幅に上がっている為映月を難なく押し倒し一発の蹴りで映月は地を滑るように吹き飛ばされる。すかさず身を反転させ蒼嵐を取り抑えようとするが突き出された腕を捕まれ反対に逸希が組み敷かれる。

(これがヴァルキュリーシステムなのか…)

逸希を救出しようと二人に駆け寄ろうとする綾乃を映月が阻止に向かおうとするが二人の間に結晶の槍が突き刺さり、二人は地に足をつけ距離をとる。同時に無数の槍は蒼嵐に向けても放たれ気づいた蒼嵐は寸前で回避、一瞬注意から外れた逸希はそれを見逃さず蒼嵐の塊の握る手を弾く。乾いた音が鳴り響き蒼嵐の手から塊が飛び出す。転がるそれは足にぶつかり止まる。それを手にし

「もうやめろ!」

そう叫んだのは京也だった。

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