55話 Devil's whisper Ⅱ
「ねぇ」
「何かしら?」
部屋に戻ろうとしていた玖由を逸希が呼び止める。
「何を企んでるのかな?」
「企むなんて失礼な言い方しないで欲しいのだけど」
「なら言い方を変えるよ、なにを考えてるの?君には殺人鬼以外に犯人が居るって思ってるんじゃないかな」
(へぇ…流石に探偵と言うだけあるわね)
「もしそう思ってたらどうするの?」
玖由の瞳が鋭く逸希に刺さる。
「無理やりにでも言わせる!」
「そう…私こんなんだし力づくは困るかな」
と言い玖由は目の前に指をつきだす。
「私は君を疑ってる」
その言葉に逸希はムキになり
「どうして僕が全く面識のない人物を殺さなければならないんだ!」
怒鳴り声を玖由にぶつける。
「だからよ、面識ない人物を殺せば自分は疑いから外れる、それに銃弾はあなたしか調べてない証拠隠滅も改ざんも出来る」
「ふざけるな!そんなのただの屁理屈じゃないか!」
逸希は玖由に詰めよろうとしたが今の玖由だと抵抗出来ないと思った瑞鶴が目の前に立ちはだかった。
「えぇ、屁理屈よ」
「なっ…」
あっさりと認めた玖由に逸希は自分の耳を疑った。
「屁理屈を真実にするのが探偵でしょ」
「……」
「心配しなくともあなたを疑ってないから」
「なぁっ!?…やっぱり君の事は苦手だよ…」
「奇遇ね、私もよ」
玖由は微笑みながら話し
「どうしてあなたがそんな嘘をついてるのか理解できないし…」
鋭い瞳に全てを見抜かれた感覚になり逸希は目を見開く。
「う…嘘って…何を!?」
戸惑いを隠せていない逸希の問いに答えず玖由は部屋に戻った。
「本当に良いの?」
「なにが…?」
ベッドに玖由を座らせて瑞鶴が尋ねる。
「あの子なら力になりそうだったけど」
「駄目よ、関係ない人を巻き込めないわ」
その言葉に瑞鶴はため息を付いた。そんな瑞鶴を無視し通信機器を手にする。
「今のうちにやることはやっておきましょ」
「あ、どこ行ってたの?」
逸希に気づいた綾乃が駆け寄ってくる。
「なんでもないよ、それより何してるんだい?」
動揺を悟られないように振る舞い逸希は話題を逸らす。
「露さんから資料借りて調べてるのだけど…」
机に広げる資料の一枚を逸希が引き抜く。
「何か分かった?」
「被害者が全員アームズである事しか…」
京也がお手上げと言いたいように呟く。
「そっか…一応確証はないのだけど被害者は全員暴力的な性格だったって噂もあるんだよ」
「ちょっと待って松根はそんな事ないわ!」
松根の性格が暴力的では無いのは綾乃達がよく理解していた。その為その共通点は間違っているのではないかと思った。
「そうみたいだね…彼女を軽く調べたけどそんな子だとは思えなかった…」
「だったらなんで松根が」
二人の会話を聞きながら
「暴力を嫌っているのか…なのにこんな殺し方をしていたのか…」
京也は手掛かりが無いか改めて遺体の写真を目にし悲惨さを見て青ざめた。
「恨みでもあるのかもしれないですね…」
(強い恨み…か…)
葵は京也の相槌で話した自分の言葉が頭の中で引っかかった。
(まさか…!)
葵は部屋を飛び出した。
「どこ行くの!?」
「ちょっと調べてきます!あとこれを!」
と葵は資料を投げふわりと机に舞い落ちる。
「二人目の被害者の情報…?これになにが…」
京也が資料を手にしようとした時あることに気づいた逸希が呼び止めた。
「待って!」
舞落ちた左右には一人目、三人目の被害者の資料があり逸希がそれを見渡す。
「しりとりだ…」
「どういう事なんだ?」
「被害者を順番に並べると名前でしりとりができているんだよ!」
「確かに…でもそれも偶然じゃ…」
「そんな事言ってたら全て偶然で話が出来る!手掛かりの少ない今、僅かに可能性があるならそれをやらないと!」
「でも…」
戸惑う綾乃の肩を逸希が掴む。
「証明は僕がする、だから!これ以上犠牲になる人を減らす為にも…!」
「分かった」
これ以上犠牲者を増やしたくないという思いは綾乃達も同じだった。
その後京也と綾乃は露と協力しリストアップした人達の警護に、逸希は事件について調べる事となった。
「玖由っ!って…」
扉を開けると玖由は身支度を済ませて立っていた。
「遅いわよ、早く行きましょ」
「行くってどこに…!?」
「佐世保よ」
「そんなさも当然のように言ってますけどどうやって…」
「行く足ならもう用意されてるわ」
「えぇ…」
相変わらずの手際の良さに引き気味の葵の手を引っ張る。
「話はあと、とにかく急ぐわよ」
言われるがまま車に乗せられた葵は不満げな表情を見せながら尋ねる。
「説明を求めても良いですか?」
「簡単な事よ、予言してもらっただけ」
「茉莉さんに!?」
「そうよ、巫女の制約で詳細は教えて貰えなかったけど佐世保に私達が探している人が居るみたいよ」
「玖由が…茉莉さんを頼る程なのですか…」
「いや、そうじゃないわよ」
表情を変えずに葵の言葉を否定する。
「足取りなら見つけ出す事なら可能だけど時間がかかるからね」
予想外の回答に唖然とし頭を抑えた
「流石ですね…」
「あぁ?俺が狙われてるかもだって?」
手分けをし警護をする事となり京也、綾乃、逸希は一人の男の護衛をするべく神戸に居た。
「そうなんだ、だからしばらく警護させてもらうよ」
「ふざけるな!確証はあるのか?」
高圧的な態度にイラつきを感じながらも逸希は話を進める。
「無いよ、ただ次の犠牲者の候補に君かいるだけだよ、根本粟木さん」
「なら帰れ!」
そう言い放ち逸希を突き飛ばす。突き飛ばされた逸希を綾乃が受け止め
「ちょっと!私達はあなたを守る為に…」
「必要ないな!俺は強い!殺られるわけないだろ!」
怒鳴り続ける粟木の前に京也が静かに歩み寄る。
「あ?なんだてめぇ、これ以上しつこいと殴るぞ」
京也の胸ぐらを掴み脅迫をする。体格は二倍はある粟木を睨み、次の瞬間宙に浮いていた足を粟木の肩まで振り上げ足を絡ませながら肩に押し当て胸ぐらを掴む手を掴み腕を強引に引き伸ばし、身体を捩る事で粟木の腕が縛られる。
「ぐあっ!?」
激痛に思わず手を離す粟木に追い討ちを仕掛けるように馬乗りになり喉元に指を突き当てる。
「あ…がっ…」
「思いがあるな、お前は強い訳じゃない、むやみに力を行使して満足しているだけの弱者だ!」
大人しくなった粟木に逸希が再び近づき
「君の今までの行いは調べさせてもらった君は一機動隊の隊長らしいねそれも、黒に近いやり方をしたみたいだけど…それよりも君は自分に都合の悪い隊員達にはどんな手段を使ってでも従わせてみたいだね」
「あ…当たり前だ!力のある者が上に立つのは当たり前だろ!」
「そうやって!、力しか信じない結果が多くの人から恨まれて!、数々の行いが命を狙われるかもしれないっていう結果を招いたことを君は自覚しなさい!」
逸希の迫力に負けた粟木はそれ以上反論すること無く大人しく項垂れた。
「逸希も大胆ね」
「当たり前の事さ」
そう言いながら帽子を被り直す。
「さて、話はついた事だし各自交代で彼の部屋の警備、悪いけど君にはなるべく部屋に居てもらうよ」
粟木に話し掛けるが彼はそっぽを向き
「ふん…」
相変わらずの態度を貫きながら返答をした。
「あの子達もいい線はいってるのだよ、けどそれじゃこの死の連鎖を止められないのだなぁ」
タワーの頂上から京也達の会話を盗聴していた映月は立ち上がりズボンのホコリを払う。
「なら、私が止める」
後ろに立っていた蒼嵐が口を開く。
「頼もしいね、アレの存在はこちらにとっても厄介なら存在だから抑えられると良いのだけど」
映月の言葉を聞き蒼嵐はタワーから飛び降り追いかけるように映月も飛び降りた。




