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54話 Devil's whisper Ⅰ

「やあ、久しぶり」

声を掛けられた京也が目を覚ます。そこは薄暗く何も見えなかった。

「こっちだよ」

声の聞こえる方向に振り返るとそこにはツクヨミが立っていた。

「何の用だ?」

「あははっ、そんな警戒しないでよねぇ」

両手を上げ敵意の無い事を示す。

「ちょっと雑談がしたいだけだよ」

「雑談?」

ツクヨミの意図が分からず京也はさらに不信感を募らせた。

「あぁ、最近私の力を使いこなせてる君に私は関心してるんだよ、ただ、その力を過信しすぎてる、君も結彩も」

「どういう意味なんだ」

「短く結論から言おうかな、ビーニを殺したのは君なんだよ」

「俺が…だと…嘘を付くなっ!」

ツクヨミに掴みかかろうと手を伸ばしたが京也の手はツクヨミを透過した。

「っ!?」

「私は精神だけの存在なんだよ?私に危害を与えられないし与える事は出来ないの」

挑発を込めたような口調が京也の怒りを煽り立てた。

「話を戻そうか、君がアークアルマ放ったトドメの一撃…あれは神殺しの一撃…浄化の光なの」

「浄化の光だと?」

「そうよ、本来私の力を使う君があの力を行使しようとするだけで崩壊したはずなんだよね…」

「けど…」

「そう!君の身体は崩壊しなかった!」

大袈裟にも見える動きと共にツクヨミは自身の考えを語り始める。

「恐らく原因は玖由の小娘だろうねぇ」

「玖由先輩が…」

「あの小娘が君に触れた時、光を感じたでしょ?」

ツクヨミの言葉を聞きその時の事を思い出した。

「一瞬だったから気のせいなのかと」

「違う、それは恐らく奇跡の才能だよ」

「なんだよそれ…」

聞き慣れない単語に京也は尋ねる。

「簡単に言えば確率の操作よ、どれだけそれが起こる可能性が0に近くともそれを100にする力それが奇跡の才能…そしてそれは本来…幼子しか持っていないもののはずなんだよ」

「じゃあ…なんで」

「まぁ…君と私と同じ感じなんじゃないかな、ただ小娘の方にはその自覚は無いのだと思うけど…あと私の保身の為にも忠告しておくけど幼子は警戒心が異常に高いから小娘の前では決して幼子の事を話題にしたら駄目、そして小娘とは絶対に敵対しない事よ、軽くても殺されるわ」

「軽いって次元じゃ…」

「ふふっ殺すなんてまだ優しい方よ」

恐怖すら感じる事をツクヨミは笑って答えた。そんな時に響き渡る音が聞こえる。

「どうやらここまでのようだね、頑張りな」


「や…きょ…や!…京也っ!起きて!」

「なんだ…綾乃…」

寝ぼける京也に構わず切羽詰まった声で京也の腕をつかみ引っ張る。

「寝てる場合じゃないんだよ!松根が…松根がっ!」

立ち止まった綾乃が振り返る。その目には涙が流れていた。そして直後耳を疑うような言葉が京也の耳に入った。

「死んだ…」

「えっ…」

二人が松根の部屋に向かうと既に玖由が遺体の調査をしていた。

「京也君も来たんだ…」

顔を合わせようとはせず横目で京也の姿を見て小さくそう呟いた。その先にはまるで眠っているように見える松根の姿があった。そっと近づく京也だったが

「死因は胸の銃痕…心臓を的確に貫いてる即死だったでしょうね」

聞かれる前に玖由は端的に説明し立ち上がる。

「どこ行くの?」

綾乃の質問に答えることなく玖由は部屋を出て行く。

「心配だからついて行ってくる」

「私も行くわ」

明らかに様子がおかしい玖由が心配になり京也と綾乃は後を追いかける。

「なんで着いてくるの?」

追いかけてきた二人に玖由は問いかける。

「先輩が心配で…」

「心配要らないわ、憐斗にこの事を説明しに行くだけよ、付いて来なくても良いわ」

「でも…」

「心配要らないって言ってるでしょ!放っておいて!」

声を荒らげた直後、我に返り玖由は二人を見た。

「ごめん…なさい」

バツが悪そうに呟き駆け出した。綾乃達を振り切った玖由は自分の個室に駆け込む。

「はぁ…はぁ…うっ!?」

我慢の限界に達した玖由はトイレの前で座り込み嘔吐する。

「玖由!無理するからっ!」

「無理でも…私がやらないと…」

未だに自分を庇って亡くなった梨絵の光景がフラッシュバックを起こしていた。

「絶対に私の目の前で死人は出させないって…決めてたのに…なにがいけなかったのかな…」

玖由の弱音に瑞鶴はただ無力感を感じ玖由を抱きしめた。


「あれって…」

玖由はしばらくそっとしておこうという考えから二人は松根の部屋に戻ると部屋の出入口に葵だけでなく露と金剛の姿もあった。

「二人とも久しぶりですね」

落ち着いた声で露は二人に声をかけ部屋に視線を向ける。三人だけでなく警察隊全員が部屋に入ろうとしない姿に疑問を持ち露に尋ねる。

「どうして部屋に入らないんですか?」

「あの子がネ…」

金剛の視線の先には部屋の中で松根の遺体を調べる一人の姿があった。

「何好き勝手してんだよ!」

「あっ!?」

「ストップ!動かないでっ!」

その少年と思われる人物は突然口を開き叫ぶ。

「何をいきなり!」

その言葉を無視し京也は一歩前に踏み込んだ。その瞬間京也の目の前に腕が伸ばされ行く手を阻まれる。

「動くなって言われたでしょ」

真横から彼と同じ背丈の少女が目を光らせ呟く。

「お前は…クリークか」

その問いには答えず視線だけを前に向ける。その間にその人物は京也の手前でしゃがみ手袋を着けた手で何かを掴む。

「欠片…?」

「ん…その声は…」

その人物は京也の声を聞き見上げた。

「もしかして京也くん…!?」

頭に被るベレー帽のつばを指先で上げ自分の顔を見せる。

逸希(いつき)なのか…?」

「うん」

「えっ…と知り合いなんですか?」

思わぬ再会に露は困惑しながら綾乃に尋ねる。

「逸希は幼なじみだったんです」

「なんでそんな格好を…?」

「僕、探偵やってるからね」

「そうなんだ…それで手掛かりはあったのか?」

再会の感動に浸るのも束の間松根の死因の手掛かりに繋がるものがないかを逸希に尋ねる。

「むぅ…いくつか見つけたよ」

そんな京也に不満そうな表情を僅かに見せながらジッパーの付いた袋を見せる。その中に入っていたのは血塗れの弾丸だった。

「床に刺さってた、不自然なのが全く火薬の反応がないんだよ」

「どういう事?」

「普通銃から放たれた弾には火薬が付着してるはずなんだけどそれが無いんだ、なのに心臓を貫いて床までめり込む程の威力があるんだよ」

「一体どうやって…」

「分からないかな、そしてこれだ」

先程京也の足元で拾った切れ端を見せた。

「恐らく手袋の切れ端、犯人は銃弾に指紋がつくのを恐れた」

「弾を込める時にか…」

京也の推測に逸希は頷く。

「もしそうじゃ無いとしたらどうかしら?」

声のした方角を振り返ると瑞鶴に支えられた玖由が立っていた。まだ顔色は蒼白な玖由は二人の推論を否定した。

「どういう意味かな?」

推測を否定した玖由にイラッとした逸希は問いかける。

「君は銃弾に火薬が付着してないのは不自然って言ってたでしょ、なら銃を使わない手段で弾丸を放った可能性は考えなかった?」

「銃を使わない手段でなんて…どうやって!」

詰めよろうとする逸希に玖由は手の平を突き出す。

「手…とか、まぁあくまで憶測でしかないのだけど、何らかの細工をした手袋を付けて指で銃弾を弾いた、銃弾が手袋と擦れた摩擦で手袋の一部が切れた」

「そんな事、誰ができるって…まさか、殺人鬼(あさしん)!?」

「かもしれないわね」

「殺人鬼?」

「近頃、殺人を繰り返してる人物ですね…殺人鬼と言うのは私達が勝手に呼んてるだけですが…」

露はそうつぶやきタブレットPCを取り出し資料を綾乃に見せる。

「殺人鬼の殺し方は常軌を逸してるのです…だから今回も…」

資料と共に添付されている写真には腹の中身を抉られている者、四肢を切り落とされている者等、目を逸らしたくなるものばかりだった。

「とにかく犯人であろう殺人鬼を探しましょう」

玖由のその言葉に反論する者は居なかった。

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