46話 War begins Ⅱ
空気を切り裂く音は玖由の耳にも届きその場で振り返る。上空から接近する砲弾に気づき素早く来た道を戻った。
(間に合わない!)
状況を確認し瑞鶴は玖由を引き寄せ周囲に装甲を展開する。同時に砲弾は山に直撃し爆発
「榴弾!?」
衝撃波と熱風が玖由達を飲み込む。
(こんな砲撃どこから…自走砲や戦艦の砲撃の威力じゃない!)
灼熱の熱風により周囲の木々が発火を始めた。
「まずいわ…!」
「玖由っ!」
行く手を阻まれる前に炎を掻い潜り頂上に向かった。向かう道中で玖由は無線に着信がある事に気づく。
「綾乃?」
『良かった!無事だったのね!』
安堵の声が聞こえ
「この砲撃の原因を見つけてるのね、一体なにが!」
『列車砲だよ、馬鹿みたいに大きな砲塔が着いてる』
無線に立花が割り込み答える。
『おそらくヘルプの最終兵器だろうね』
「…っ」
その時、再び砲塔が火を噴く。砲撃音が無線を通じて玖由にも届く。
『玖由!気をつけ……』
無線が途絶えた瞬間、榴弾が空気裂く甲高い音が響き始める。それはこのまま直進をすれば爆発に確実に巻き込まれる進路だった。しかし背後は燃え盛る炎が退路を失わせていた。
「玖由あそこ!」
瑞鶴が指を指した先には玖由一人が入る事ができそうな洞窟があった。
「あそこしか無さそうね!」
玖由は方向を変え洞窟の入り口に飛び込む。瑞鶴は自身の体格だと確実に入れないと理解し飛び込む寸前に結晶に戻る。玖由の姿が洞窟の奥に消えると同時に榴弾は着弾、次は地面をも抉る程の威力で爆発を起こした。
「玖由!玖由っ!」
突然無線が途絶え安否確認をしようとする綾乃だったが応答は無くひたすら無音だった。
「先輩ならきっと大丈夫だって、また気づけば連絡がくるさ」
京也は綾乃を宥める。
「さて…作戦を変更するよ!私達はこれ以上被害が出る前に列車砲を破壊するよ!」
「「了解!」」
三人は列車砲の破壊の為山を下った。
「さっきからの砲撃は何!?」
「分かりません!ただあの威力の砲撃がここに命中すれば洒落にならないですね」
この状況でも襲いかかるアルマをなぎ払い南帆は答えた。
「とにかく後退を!」
夏凛達は避難民を京都駅に誘導を開始する。その姿を見ていた人影は
「まだまだこれから楽しくなるんだからさ…」
その少年が指を鳴らすと避難民の一人が呻き声を上げながら悶え始め何かを引き剥がすように自身の全身を引っ掻き回し始める。突然の狂気的な行動に周囲の人々にも恐怖が伝染しパニックが起こる。その中でも発狂するそれはアルマへと変貌した。パニックが更に大きくなり我先にと逃げ始める。
「落ち着かせないと…!」
「それもそうだけど」
大井はアルマ化した人間に対して攻撃を仕掛けた。不意打ちを狙い無力化を試みていたがそれを容易に受け止められる。
(嘘でしょ…人間の力じゃないわよ)
腕を捕まれ噛み付こうとするそれを引き剥がし距離をとる。しかし反動でそれはよろめきながら背後の群衆に突っ込んでしまう。
「しまった!」
「……」
すぐさまそれは人々に襲いかかる。それに襲われた者はアルマ化した人間と同様、発狂を起こしアルマ化していく。それが更に混乱を引き起こし収拾がつかない状況となっていた。
「夏凛…こいつらはもう人間じゃない!」
砲塔を構えた大井だったが逃げ惑う人々が斜線を遮る。
「っ!」
これ以上増やす訳には行かないと言う気持ちが焦らせ大井から冷静な判断力を奪う。
『アルマの位置情報を送る!それを利用して撃て!』
という無線の直後、南帆と大井に上空からの周囲のアルマの位置情報が送られた。
「そういう事ですか…まったく」
南帆は砲塔を空に向け砲撃、打ち上げられた砲弾は空中は破裂し中から拡散された小さな弾丸が地上のアルマに降り注ぐ。小さな弾丸は位置情報をリンクしている為一般市民やアームズに誤射するこなく確実にアルマを貫いた。
大井も魚雷を放ち誘導しアルマを巻き込み爆発を起こす。
アルマ化した人間を殲滅した二人の元に虎狼と佑が合流した。
「間に合ってよかった、大丈夫かい?」
「遅すぎます、どこで道草をくってたんですか」
いつもの棘のある口調の南帆だったがその表情は安心した笑みを浮かべていた。
「事情は後で聞こう、今は避難民の誘導だ」
「了解」
「だーかーらーそんな事させないって」
飛び降りてきた少年は生徒会の三人を頭を掻きながら見る。めんどくさいという雰囲気を隠さない少年に虎狼は警戒しながら問いかける。
「君がこんな事をしたのかい?」
「そうだけど?」
悪びれる事無くさも当然の事と言うように答える少年に虎狼は拳の力が入る。
「佑…避難民の誘導を頼む、我々が奴の相手をする」
佑は頷き大井、夏凛と共に避難民を誘導した。
「すまないが避難誘導の邪魔はさせないしここで倒させてもらう」
「え?お前達が、僕を?」
挑発するような発言に限界を迎えた南帆は瞬時に少年に斬りかかり地に叩きつけた刀から放たれた衝撃波によって吹き飛ばされる。
「っーなかなかやるね!」
少年は身を低くし南帆との距離を詰める。瞬時に砲撃に切り替えるが左右に不規則に動き的を定められないようにし距離を縮める。
「お姉さん砲撃向いてないね」
腕から突き出された砲塔に気づき後ろに下がろうとするが空砲が南帆の腹部を貫き大きく吹き飛ばされる。
「南帆君!」
吹き飛ぶ南帆を片手で受け止め短剣を少年の周囲に投げ放ち地に刺す。同時に眩い光と共に爆発を起こし少年を巻き込む。
「効かないよ!」
「だろうね」
黒煙から姿を表したのと同時に少年の首を掴み虎狼は南帆が喰らった攻撃と同じく腹部に空砲を打ち込み地上に叩きつけた。
起き上がろうとする少年に虎狼は腕を踏み立てないようにする。
「その程度で勝てるわけないだろう」
「ま…だ…だぁっ!」
足を腕の力で持ち上げ立ち上がりメモリーカードを取り出す。
「あれは…特殊部隊の…!?」
少年がそれを読み込ませると武装が実体化し少年に纏う。
「10式…」
「はぁっ!」
突き出された砲塔を砲塔で受け流し甲高い音を鳴り響かせ火花を散らす。腰につけられた機銃を少年に向け弾幕を放つ。それに対し装甲を前面に展開し防ぐ。自身の装甲に向けて砲撃、同時に砲塔を向けられていた部分の装甲のみがくり抜かれ至近距離からの不意打ちが虎狼に直撃した。
「会長!」
虎狼と入れ替わりに南帆が前に出る。南帆の一撃は装甲を粉砕、地に足をつけ前に踏み込み切り込むが少年は大きく仰け反り回転させた履帯と接触させ受け止める。履帯の回転に流され刀が折れてしまう、しかし折れた刃に繋がれたワイヤーが巻き戻し再び刃が一体化し突き出し少年を吹き飛ばす。
「っ…」
『そこまでです』
無線から羽根が少年の行動を止める。
『分かりませんか、今のあなたでは勝てない、あれだけの人間を犠牲に出来れば十分です、それに…』
目の前から向かってくる巨大な砲弾をかわし羽根は話を続ける。
『あなたも巻き添えをくらいますよ?』
「ちっ…わかった」
無線を断ち少年は再び砲塔を二人に向け、それを見て身構えるが、次の瞬間自身の下に砲撃し煙を巻き上げる。
想定外の行動に理解が遅れたが瞬時に南帆は刀を振り煙を切り裂く。しかしそこには少年の姿が既に消えていた。
「どこに…!?」
「消えた…か…周囲の警戒をしつつ佑の元に向かうぞ」
「はい」
「さて、上手く働いてくださいね」
静かに笑いながら羽根は呟いた。