45話 War begins Ⅰ
「やっぱり体調良くならないのね…」
「えぇ…情けない事に」
明らかに顔色の悪い夏琳を玖由は心配する。
「私の事は放っておいてアルマを」
「わかった」
「あと、ここにハウが居るわ…敵か味方か分からないけど」
「ハウがこの戦場に…」
玖由は蒼嵐に何をそそのかしたのか問いたださなければならなかった。その目的の為にはとても重要な情報だった。
「ありがとう…」
そこに京也達も着地する。玖由は地図を広げ
「私達が居るのは旧京都御所跡よ」
「攻め方から…見て…ヘルプは東側…比叡山に本体が居るはず」
「ワーストの京都本陣は愛宕山みたい、ヘルプは夏琳の予想どうり比叡山に居たわ」
艦載機を放ち偵察をしていた瑞鶴が各陣営の本拠点地を見つけ出し知らせる。
一呼吸の間を置き玖由は再び口を開く
「立花さんと京也君と綾乃は比叡山に向かってください」
「南帆さんはここで夏琳達の護衛をお願いしてもよろしいですか?」
「良いですけど…まさか玖由ちゃん一人で…」
「……お願いします」
玖由はヴァルキリーシステムをつかい空高く飛翔した。その姿を唖然と見届けてしまっていた南帆は我に返り京也達に玖由の指示に従うように促す。渋々頷いた三人は比叡山に向かった。
(ハウ…必ずあなたを見つけ出し全てを吐かせてやる)
悪魔の様な笑みをみた瑞鶴は背筋が凍った。
夕立、松根、葵の三人は京都に向かう道中に現れるアルマを散らしながら進んでいた。
「やっぱり数が増えてないですか!?」
「そうですわね」
四本の大鎌でアルマを押し潰し、アームから覗いた砲塔から一斉に射撃が開始され周囲のアルマを消滅させる。
「もしかしたら本陣に近づいてしまっているのかもしれませんわね」
「引き返すにしても…」
戦意をほぼ喪失している松根を庇いながら引き返す余裕は葵にも夕立にすら無かった。
「進みましょうか」
「はい」
「………」
三人が歩みを進めようとした瞬間、夕立はさっきを感じアームから大鎌を切り離し投げ放つ。切り裂いた木々が倒れ巻き上げられた土埃の中から映月そして蒼嵐が姿を見せた。
「なんで…二人が…」
動揺しながら問いかけた質問に答えることなく二人は攻撃を仕掛けてくる。
「どういうつもりですの!?」
「申し訳のだけど敵対するなら容赦しないのだよ!」
攻撃を受けた大鎌を切り離し直接手に持ち押し返す。
「敵対…あなた方は内通者でしたの!?」
「そうだよ!」
映月は銃口を夕立に向け放つ。それを大鎌を横にし自身の前に突き出すことで銃弾を防ぐ。
さらにその状態のまま夕立は砲塔を向け砲撃。しかし映月に突き進む砲弾を蒼嵐が切り裂き落とす。
「蒼嵐…」
身構えた蒼嵐は地を蹴り夕立との間合いを詰める。夕立は手にもつ大鎌を蒼嵐に向け振る。既に大鎌の間合いに入っている蒼嵐には距離をとってかわすという手段は不可能になっていた。
(あなたまで…どうして!)
その考えが夕立の動きを僅かに鈍らせてしまいその隙に蒼嵐は大きく後ろに仰け反る事で大鎌を避け、目の前を大鎌が通過し終わるのと同時に体制を戻り再び盾がわりにしている大鎌の背後に居る夕立に向けて刀を突き出す。しかし刀は大鎌を貫いたが夕立までは届かなかった。それを見て刀を手放しさらに間合いを詰め脚を振り上げる。振り上げる脚の装備につけられた刃物に気づき夕立は後ろに下がる。
「遅い…」
小さく呟きヴァルキリーシステムを稼働夕立の動きを上回る程の素早さで間合いを詰める。
「やらせません!」
蒼嵐の動きに僅かに遅れながらも梨絵が二人の間会いに割り込み予め展開をしていた装甲で受け流し蒼嵐を押し倒す。
「玖由達を守る為にとはいえどうして敵になる必要があるんですか!?」
「こうでもしないと守れ無いから」
「違う!あなたはそうやって逃げているだけです!」
その言葉に蒼嵐の表情には動揺が現れていた。
「違う…違うっ!」
そう否定するが自身でもそう考えてしまっている自分がいる事は理解しているみたいだった。それを他人に指摘されると是が非でも否定したくなるそれが人の心理なんだろう、梨絵は蒼嵐の様子を見てそう感じた。
「逃げていたとしても!これが私の答えだからっ!」
梨絵に訴えるのでは無く自身に言い聞かせるように叫び忍ばせていた銃口を梨絵に向けた。
「…っ!」
一瞬躊躇いを見せた蒼嵐に気づき素早く距離を置く。
「逃がさないの!」
夕立を振り切り映月が梨絵の背後から攻撃を仕掛ける。しかし夕立がアームを伸ばし勢い殺す。
「なっ!?」
後ろから引っ張られる力に抗えずそのまま地面に落下した。
「あなたの相手はわたくしですわ」
夕立は大鎌を振り下ろすが映月は身体を少し横にするだけで避け爆弾を取り出し押し付け爆発を起こさせる。黒煙から滑るように下がりながら夕立は飛び出す。
「わたくしも…手加減は無しにしますわ」
今の映月よりも狂気的な表情で鋭くとがった視線が映月を捉えた瞬間全ての大鎌を切り離し夕立の姿が消える。
「!?」
気づくと映月の周りに砲塔が自身を向いた状態だった。
「いつの間に!」
飛び退くのと同時に砲撃。砲弾の直撃は失敗したがそれは夕立の狙いどうりだった。地面を強く踏み込むと、夕立の周囲の地面が凹み亀裂と衝撃が広がる。衝撃により地面に刺した大鎌が宙に浮く。それを夕立は身体を回し蹴りで二本同時に映月に向けて放ち、更に二本を手に持ち勢い良く振り上げ大鎌を大空に向けて放ち残った一本を手に自身の背後に向けて空砲を放ちその衝撃を利用し大きく飛翔。同時に五本の大鎌と夕立が向かってくる状況に映月は興奮していると言いたげに笑みを見せ自ら大鎌に突き進む。
「これぐらいなら!」
手にした刀を縦に回転する大鎌を受け止める。その衝撃は想像以上で大きく後ろに押し返されたが、力技で無理矢理大鎌の軌道を変え向かってくる二本の大鎌に衝突させ勢いの相殺されたそれは宙をまう。間髪入れずに残りの大鎌に注意を向けたがそれの挙動は規則性が無く映月にそれの軌道を見極める事が困難だった。
(ワイヤー…!)
大鎌の背後で一瞬反射した光を見た映月は大鎌の挙動を夕立が操作している事を理解する。映月の様子からからくりがバレたと確信した夕立は大鎌を一度手前に寄せ勢い良く前方に突き出す。加速した大鎌は一気に映月との距離を詰めた。防御をしようと試みたが大鎌の衝撃に弾かれ正面が無防備となってしまう。
「隙ありですわ!」
「なっ…!?」
頭上に大鎌を振り上げた夕立が目に入る。同時にそれが振り下ろされ為す術無く地に叩き落とされた。
「っ…」
「あらあらもう終わりですの?呆気ないですわね」
あからさまな挑発をし、嘲笑う夕立を映月は見上げる。
「ここで引くならあなたを内通者という事だけ報告するだけで済ませてあげますわよ」
「はっ、私そこまで馬鹿じゃ無いのだけど」
嘲笑を嘲笑で返し映月はガラス瓶を取り出しハザードアルマを召喚しようとした時、轟音が鳴り響きその数秒後再び轟音が響き、更に衝撃波までが届きその場の全員がよろめいた。
「何をしたのですの!?」
夕立は映月達に問いただす。
「さっきの衝撃…まさかなのだけど…あれを持ち出してきた!?」
「あれ…って?」
「説明は後でするのだよ、とにかく今は」
瓶をしまい煙幕を放つ。
「待ちなさい!」
大鎌を振り風を起こし煙を散らすが既に二人の姿が消えていた。
「一体…なにが…」
「ねぇ…京也…あ…あれって何か分かる?」
比叡山に到着していた京也達は眼下の琵琶湖を見る。そこには山と湖に挟まれる形で線路が敷かれ、四本のレールに跨り巨大な砲塔を備えた列車が停車していた。
「どーみても列車砲だね…」
双眼鏡から目を離し呟く。
その時砲塔が火を噴き衝撃波と共に砲弾が打ち上げられた。