42話 Those who know the truth Ⅱ
「それで私の所に来たのね〜」
茉莉は落ち着いた様子で2人を見る。
「まさか…姉妹お互いに揃って来るとわね…いや、葵ちゃんは梨絵ちゃんと言った方がいいのかな?」
その言葉に葵は身をふるわせた。
「どうして…それを…?」
(私の事を知っているのは松根と蒼嵐だけだったはず…)
「驚いた?これでも私も巫女だからねぇ」
「なら教えてください!ここに来た理由も分かってるはずです!」
「その事なら彼女の方が詳しいわよ」
二人は背後に気配を感じ振り返る。そこに居たのは羽根だった。その姿は痛々しいかったが
「流石に驚かせるようになるぐらいまでは回復できましたね」
「お姉ちゃん…」
再開に嬉しそうに目を輝かせた松根だったがその感情を抑え
「知ってる事教えてください、今は時間が無いんです!」
「落ち着いて、一から話しますから」
松根を落ち着かせる羽根の姿を見てやはり姉なんだなと梨絵は感じた。
その時おもむろに針を手にしそれを松根に放つすると小さな虫の様な機械を貫き壁に突き刺さった。
「盗聴されてたねぇ」
「流石玖由ですね」
「まず、玖由達が世界を崩壊させるには切っ掛けが必要なのです」
「切っ掛け?」
「絶望をさせる事」
「絶望?…どうやって…」
「この世界の悪意に触れさせれば良いだけです」
「だから…蒼嵐は…!」
その説明で二人は今までの蒼嵐の行動が理解できた。
「蒼嵐が殺した人物は全て罪を犯した人物ばかり…なにが切っ掛けになるか分からないから…」
「なら…憐斗さんは…!」
「憐斗はこの事は分かってるみたいね〜というか憐斗は二回この世界を作り替えてるみたいよ」
「二回も…!?」
「一回目は結彩の死を回避する為…ただしこの時は憐斗も力の制御が未熟だったから死を無くす事しか出来なかったみたい…」
「それで二回目はあの戦争の時ですか…」
梨絵の言葉に茉莉は頷く。
「その時に憐斗は世界を作り替えようと…争いのない世界にしようとしたの」
「けどそれも…失敗したのですよね」
「その原因が玖由ちゃんなの」
「どういう事ですか!?」
松根は身を乗り出し茉莉に尋ねる。
「ち…近いわ…」
鼻どうしが触れ合うほど近く茉莉は思わず後ろに身を引いた。それでも視界の半分以上を遮る松根の顔の後ろに映る梨絵の表情も驚きを隠せていなかった。
「やっぱり梨絵ちゃんも知らなかったのね」
「まずは玖由の力の説明が必要ですかね…むぐっ…!?」
羽根が説明しようとするとその口を茉莉が抑える。
「これは私が説明するわ、二人共巫女の力の原理は理解してるよね〜」
頷く二人を見て話を続ける。
「神の声を聞けるけどそれを他人に伝える事ができない…その制限はだれがかけたと思う?」
「神では無いのですか?」
梨絵の答えに茉莉は首を振り
「違うの、本来なら神は巫女を通じて人々に伝えようとした、けどそれを邪魔したのが『 神の幼子』」
「神の幼子?」
聞きなれない単語に二人は疑問を持つ。
「神の幼子は次元を支配する神に対抗する為に人々が創造した兵器、しかしそれに怒った神々は神の幼子諸共人々を消そうとした、それを予期した神の幼子は一人の子供に宿り人々の消滅する運命を書き換え人々を救った、そしてその人物は自身をこう名乗ったの…玖由と…」
「どういう事ですか!?」
「書き換えられない手段、という意味で玖由らしいですよ」
「そして幼子が宿る全員が同じ名前なの」
「それは…偶然では無いのですか!?」
「偶然としか解決できない事を起こすのが幼子の力ですから」
「神の幼子の力は運を操作する事、使い方を間違えれば他人の命を操れるわ」
「憐斗が変えるのと同時に玖由が力を使って世界の改変を阻止したと…争いが無くなる世界が嫌なのでしょうか」
「もしかしたら玖由は争いがある世界の望んでるのかも知れませんね…」
梨絵の発言に松根は睨み上げ、胸ぐらを掴む。
「どうしてそんな事を言ったのですか!?」
「松根は争いが無い世界がどういうものか知らないからです!」
「はーい、そこまでですよぉー」
睨み合う二人の間に羽根が割ってはいる。
「争いが無いという事はこうやって意見言って言い争いが出来なくなる世界は松根はどう思いますか?」
姉の言葉に松根は梨絵から手を離し歯を食いしばる。
「争いがあるから私は離れ離れになったのに…」
小さく呟いた松根の一言に対して羽根は言い返せなかった。
「次は〜」
と茉莉は梨絵を見る。
「なーんで梨絵ちゃんが葵ちゃんに憑依してるのか教えてくれるかな〜?」
「葵ちゃんに梨絵がいた理由?」
いつものテンションで映月は蒼嵐の質問を聞き振り返る。しかし今の蒼嵐の雰囲気に冗談が言える状況では無いと感じた。
「…葵ちゃんの才能なのだよ、霊と関われる才能…多分それを使って梨絵と会話したのだろうね」
姉であるはずの自分が知らなかった妹の秘密を他人が知っている事に虚しさを感じそれが余計に蒼嵐の機嫌を悪くさせた。
「…やばいのだよ…」
気まずい空気が更に悪化した瞬間、映月の無線がなり耳を当てる。
「ちょうど良かった!」
逃げ道を見つけた映月は慌てて無線に応答する。
「えっ…京都が…わかったのだすぐ行く」
「どうしたの?」
「京都がヘルプに襲撃されてるみたい…憐斗達の襲撃で向こうも焦ってるのだね…」
「なんで京都が」
「昔から神聖な場所と言われていたのだよ、実際五神が現れたのも京都と言われているのだよ」
(それに…あいつが…いや今は考えない方が良いのかな)
「どうしたの?」
考え込む映月の姿に覗き込むように尋ねる。
「なんでもないのだよ」
京都の防衛に向かう二人の後ろ姿を眺める人影があった。
「流石に勘づいたか…」
映月の変装に使用したマスクを外し少年が姿を見せた。