3話 Secret Ⅰ
(この人は一体…)
「これから時間ある?色々聞きたい事あるでしょ?私も色々聞きたいから」
自分の考えを整理させたい京也は玖由の提案に同意する。
「決まりね、場所変えましょ」
そう言われ京也は玖由に連れられ1つの建物の前に来る。
「ここは…?」
「入って」
と扉を開ける。鈴の音と共に1人の女性が顔を出す。
「いらっしゃい、玖由やないどうしたん?」
「ちょっと良いかな加奈?」
関西弁で話す加奈の名前を呼びはその人の元に近づく。
「憐斗に言われてあの子のクリークを調べてるんだけど場所借りていい?」
「クリーク…?」
横目で玖由の連れてきた男の子を見る。そして首に掛けた結晶が目に入る。
「船型っぽいけど…分かったわ」
京也に察せられ無いように小声で話し、加奈は京也を手招きする。個室に入り
「ここなら誰にも邪魔されないから」
と玖由は手を伸ばし首に掛ける結晶を持ち上げる。
「これは…?」
「父親から貰ったものです…お守りとして」
「父親…そうなんだね」
(なら京也君にも分からないかな…)
「それで、京也君の聞きたい事は?」
「先輩…」
「あ…呼び捨てでいいわよ玖由って感じで先輩とか呼ばれるような事してないからね」
「流石に…それは…玖由先輩…は何者なんですか」
「……まぁいいわ、私はアームズよ」
「っ!?」
「京也君も聞いたことあるでしょ?」
「はい…父も母もそれでしたから…」
京也の浮かべる表情を見て玖由は全てを察する。
「ごめんなさい…嫌な事思い出させたみたいね…」
「両親はそれに殺された…んです…」
(それって…まさか葵が…)
と、脳裏に自信に銃口を向ける葵の姿を思い出す。
「っ…」
突然頭を抑える玖由に京也は戸惑う。
「大丈夫……大丈夫だから…」
と京也に向かって言うが京也にはその言葉は玖由自身に言い聞かせている様に聞き取れた。
「それで…君の武装が見たことが無かったから知りたくてね…」
一呼吸を置き玖由は俯きながらそう答える。
「興味があるのは俺のこれですか?」
「そうね」
その言葉を聞き京也は首から結晶を取り外し玖由に差し出す。
「興味があるなら上げます、俺には必要ありませんから」
「でも、親の仇をうつには必要だと思うけど?」
「そんな物が無くても戦えます」
「まぁそれは建前で、いつまでも守ってもらうのが嫌、だからアームズになれば強くなれる、そう思ってるね」
(この人…どうして…)
「何故分かるかって?私が助けた2回とも君は戸惑いの中に悔しさがあったから、守られる側から守る側になるには力がいる、だからこれは君が…」
「いらないって言ってるだろっ!」
そう言い出ていく。
「図星か…」
「玖由も言い過ぎやったんやない?」
「私にも京也君にも余計な感情が芽生えなくて済むから…もしこのクリークが敵で京也君も敵になった時に躊躇ってしまわないように…」
その言葉を聞き加奈は玖由の頭を撫でる。
「玖由は真面目やね」
玖由は机に放り投げられた結晶を手に取り
「さて…どうしようか…」
と呟いた。
飛び出した京也は玖由に言われた言葉が頭を離れ無かった。
(守る側になるにも力が必要…か…)
自身が身につけていたものがアームズになる為の物と知った瞬間すぐにでも投げ捨てたかった。持っているだけでもまた大切な人を失う気がしたのだった。
「どうしたらいいのか…」
「なーにしてるのかな?」
背後から抱きつかれた京也はよろめきながらも綾乃を見る。
「綾乃はアームズってどう思う?」
「えっ!?どうしたのいきなり」
「いいから」
「…覚悟がいると思うよ、一つ一つの行動で大袈裟に聞こえる運命が変わるだから中途半端な決断なんてできない、1か10か見たいにね」
と真剣に答える。
「よく知ってるんだね」
「えっ…まぁ…知り合いに居るから」
焦りを隠しきれないながらも誤魔化し綾乃は目を逸らす。
「そう…」
その時、綾乃のスマホが明かり震える。取り出し画面を見た綾乃の表情が厳しくなる。
「ごめん…ちょっと用事、先帰ってて」
と来た道を戻るように振り返り駆け出す。連絡を受けた瞬間の表情を見た京也は今までに見た事の無い表情に戸惑いその後ろ姿を見送った。
ーーーー
「ごめん遅くなった!」
動きやすいように後ろに髪を結びながら少し薄暗い部屋に入る。
「遅い」
咎める訳ではなく嫌味の様に呟く玖由にムッとし軽く睨みながら
「しょうが無いでしょ、帰り道だったんだからさ」
と言い返す。
「まぁまぁ二人とも」
と2人の間に入り眼鏡を掛けた蒼嵐が宥める。
「3人とも準備は出来たか?」
憐斗が部屋に入り机に地図を広げ
「場所はこの辺りだな」
と土佐湾近海を囲むように大きく丸を付ける。
「商船が襲撃を受けているという連絡が入った、高知基地から既に向かっているが…」
と憐斗は一枚の写真を3人に見せる。そこには黒い影が写っていた。
「偵察部隊が撮った写真だ、2人には分かるだろう」
その写真を瞬間、玖由と蒼嵐はその写真に移るものに確信を持てないと言うより持ちたくなかったが最後の憐斗の言葉に動揺する。
「「アルマ…」」
二人の言葉に憐斗は冷静に頷く。
「あぁ…そして恐らくこいつらが今回の事件の元凶だ」
「これがアルマ…」
写真という形でも初めてアルマを見た綾乃は恐怖を感じる。
「少しでも怖いと思うならこの作戦には参加しない方が良い」
「怖くても…なんとかなるわよ!」
アイツは負の感情が動力源、少しでも恐怖を感じれば強くなる、だからそんななんとかなるなんて精神論は私達の足を引っ張るだけ、邪魔だから来なくて良い」
と玖由は思っている事を隠す気がないというように強く言い放つ。
「玖由言い過ぎ…」
強く言った玖由に蒼嵐はそう呟き恐る恐る綾乃を見る。もし本当に行かないと言えばどうしようかと思いながら。しかしそんな心配は必要無かったように綾乃は
「…っ!やってやろうじゃない!」
と綾乃に火がつく。
「怖いなんて感情与えてやる!それでもどれだけ強くても綾乃が潰してやる!」
と2人には挟まれた蒼嵐の前から玖由に向けて言い放つ。
(す…すごいやる気…)
「そういう気じゃないと困る」
玖由はいつもの口調で小さく呟くが少し嬉しそうだと蒼嵐には感じられた。
「3人共、任せて良いか」
「「了解」」