35話 Truth is Ridicule Ⅴ
「お待たせしました」
玖由達の元に冬菜が合流する。
「合流する道中工事の周囲を偵察しましたがやはりここが一番手薄みたいです」
「夕立が攻めて体制が崩れたままなのか…なら今しかないわね」
「気を付けてくださいね、夕立の武装をあんなに吹き飛ばす何かが居るのは間違いありませんから」
「「了解」」
工場内に潜入した四人は暗闇の建物内の中暗視スコープを取り付ける。
「っ!?」
スコープに映ったのは無惨に殺された死体が転がっていた。玖由はその場に立ち尽くしたまま動けなくなる。
「誰がこんな事を」
「夕立…か…それとも…」
「違う」
電池の切れた人形のように動かなかった玖由が口を開く。
「殺し方が多様すぎる…夕立は人の殺傷をする時必ず大鎌で殺る…そして蒼嵐は…必ず心臓を潰している、それに比べてこの死体は…」
「首を折られていたり…ガラスを突き刺されていたり…使えるものはなんでも使う殺し方ですね」
「べつの誰かが居た跡という事か」
「不安要素増やしてどうすんのよ!」
頭を抱える綾乃をよそに調子を取り戻した玖由は歩を進めた。
「本当に人気がありませんね…」
武装を纏い警戒をしていた冬菜だったが
「殺気…危ないっ!」
京也の目の前に玖由は割り込み刃を振るう。接触した衝撃で玖由はよろめくと同時に掠めた刃が暗視スコープを掠め破壊される。
「どうして!?レーダーで探知できないなんて…」
続けざまに攻撃を仕向けるそれに玖由は殺気を頼りに防御を繰り返す。
「綾乃!」
「…あれの事か!」
綾乃は手を叩き銃口の大きな銃を取り出し
「打つよ!」
「京也くん!冬菜っ!暗視スコープを外して目を閉じて!」
玖由の言葉と同時に綾乃は引き金を引き眩い光を纏った玉を放つ。
「閃光弾…!?」
その人物は光に視界を奪われる事を防ぐ為背を向ける。
(今…!)
気配を頼りに相手との間合いを詰めつかみ倒す。
「えっ…」
「「!?」」
その人物の姿に玖由達は絶句した。
「私…?」
その人物…少女の見た目は玖由を鏡で写した程そっくりな姿をしていた。
「ちっ!」
動揺した隙を突き少女は足を突き上げ玖由を蹴りあげる。
「あなたは誰!」
「私はあなたよ」
「そんな答えを聞いているんじゃない!」
声を荒らげ玖由は攻撃を仕掛ける。
「ならなんと答えれば良いの!」
「なんで!」
短剣を振り下ろすがそれを見切られ弾かれ短剣が宙を舞う。
「あなたは私なのは理解している!」
間髪入れずに拳を突き出し少女は防御の体制をとるが勢いを止めれず後ろに下がる。
「私は未来のあなた、望みの答えでしょう!」
追撃をしようとしていた玖由の拳が寸前で止まる。
「未来の…私…」
「未来の玖由が何しに来たのよ!」
綾乃は問いかけるとクユは懐かしむように綾乃を見る。
「私の存在を無くす為」
「はっきりと言えば良いんじゃない?私を殺りに来たって」
玖由の言葉に二人は動揺する。
「私が居たら未来に不都合があるみたいね」
「その通りよ!だから!」
瞬時に間合いを詰め玖由の首を掴み脚を絡ませ宙に浮かせる。体制を戻される前にクユは首を掴んだままその手を地面に打ち付ける。
「かはっ…」
地面に亀裂が起きる程の衝撃を受けた玖由は血を吐く。
「死んで!」
「ふっ…」
クユを嘲笑うように玖由は笑みを見せ
「なら…私がどうするかわかるでしょ…」
足を振り上げる。クユは素早く後ろに飛ぶがその時玖由の靴の裏から銃口が覗いているのに気づく。
「しまった…!」
「遅い!」
銃口から放たれた銃弾はクユの顔目掛けて突き進む。咄嗟に身を翻し銃弾の直撃を避けるが頬を掠め血が流れる。
「くっ…!」
着地し憎らしそうに玖由を睨む。しかし頭に強い衝撃を受けた玖由は真っ直ぐ立てず足取りが不安定な玖由を瑞鶴が実態化し支える。
「瑞鶴…」
クユは再び悔しそうな表情を見せる。
「はぁぁっ!」
再び玖由に襲いかかろうとする。
「もうやめて!」
二人の間に割り込み綾乃はクユに向けて砲撃する。そんな綾乃に驚いたクユはそれをかわしその場で立ち止まる。
「いい加減にして!自分を殺してどうなるの!?殺さなくてもいい手段とかあるでしょ!」
声を荒らげ綾乃は訴える。
「あなたが私達を守ろうとしているのだとしても私達の玖由はこっちなの!」
と玖由を見る。
「だから玖由を殺らせない!運命は私達が変えてみせるんから!」
「綾乃…」
「なら変えてみなさい、私はあなた達を見てるわ、その中で無理と判断したら今度は容赦なく私を消す」
そう言い武器を仕舞い五人に歩み寄る。近づくクユに身構えるがそんな事は気にせず
「夕立は地下2階の牢獄に幽閉されていたわ、損傷は激しかったけど無事よ」
そう玖由にだけ囁き姿を消した。
「何言ってたの?」
「挑発…よ…」
頭を抑え痛みに耐えるのが精一杯な素振りを隠しきれない玖由を見て冬菜は
「玖由はここにいて下さい、夕立とヘルプの情報は…」
「いや…夕立は…私が探すわ…」
「でもそんな辛そうなのに!」
「問題…ないわ…少し休めば大丈夫…だから…」
玖由の言葉に折れ冬菜は
「分かりました、任せます玖由」
綾乃と京也を連れその場から離れる。
「はぁ…」
(駄目だ…まだ…いし…き…を…)
深く呼吸をし玖由はその場に倒れる。
「玖由!玖由っ!」
瑞鶴は玖由を受け止め何度も呼びかけるが玖由は目を覚まさなかった。
ーーーーー
「?」
京也は壁に違和感を感じ立ち止まる。
「どうしたの?」
「この壁…」
と触り探ろうとするが手は壁をすり抜ける。
「ダミー!?」
躊躇うことなく京也はくぐり抜ける。一瞬強い風に吹かれ目を細めたがすぐに視界は開け自分達の居る場所が把握できた。
「外…?」
辺りを見渡すと障害物が全くない広場が広がっていた。そして至る所に戦った跡が残っていた。その跡から戦いの激しさが理解出来た。
「まさかここで夕立が…」
「恐らくそうでしょう」
その時だった
「あははっ!また来たまた来た!」
「またバレてるじゃん、ここのシステムやっぱりポンコツじゃないの?」
雰囲気が正反対の声が交互に響きあう。
「何だ…この声…」
「っ……」
綾乃は目を閉じ声の主を探す。
(集中…声の響き方から…感知出来れば…)
「なにこれ…四方から聞こえる!?」
「恐らく動きながら言葉を発しているのでしょう」
「っ!」
綾乃は気配を察知し振り返り砲塔を振り落とす。
「かはっ…」
衝撃をくらったそれは小さく悲鳴を上げ吹き飛ばされる
「お姉ちゃん!?」
一方のそれはそう叫ぶ。その声を聞き綾乃は再び照明弾を装填し放つ。眩い光が二人の視界を奪いその隙に京也と冬菜が二人を取り抑えようとする。
「「なーんて」」
「演技!?」
二人は京也と冬菜に蹴りを打ち込む。
「ぐっ…」
不意打ちを諸に受けた二人は綾乃の元まで吹き飛ばされ、そんな二人を綾乃は受け止める。
「大丈夫!?」
「あぁ…」
「お姉ちゃんどーする?」
「もちろんいつもどうりにするだけ」
といい二人の姿が消える。
「消えた!?」
「気をつけろ敵は素早い!」
京也は二人の前に立ち結晶を掲げる。すると結晶から光が放たれ曲線を描き拡散した光が地面に降り注ぐ。
「なにあれ!?」
「分からない、けど当たったら駄目!」
二人が攻めの立ち回りから防御の立ち回りに変わったのを見計らって綾乃は姉と呼ばれた少女との間合いを詰め
「ゼロ距離!?」
「はぁっ!」
砲撃に吹き飛ばされる姿を見て
「お姉ちゃんっ!」
叫び姉を救出しようとするが
「よそ見しない!」
冬菜が目の前に現れ砲撃が打ち込まれる。
地面を滑るように転がる2人に向けて京也は光を放つ。
歯を食いしばり姉の方が立ち上がりその光の前に装甲を展開する。しかし光はそれを透過し武装を貫く。
「お姉ちゃん!」
武装を奪い京也はその力を利用しもう一人に攻撃を仕掛ける。
「よくもお姉ちゃんおぉぉっ!」
突き出した拳は京也が展開した装甲を砕き吹き飛ばす。
「あぁぁぁぁぁっ!」
脚を地面に打ち付ける。すると地面が砕け綾乃と冬菜の足場を奪う。バランスを崩した二人に地面を蹴り間合いを詰め体当たりをする。直撃は免れたが巻き起こった衝撃波により吹き飛ばされた。
入れ替わりに復帰した京也が姿を現す。
「お姉ちゃんの装備を返せぇぇっ!」
多重の装甲を展開するがそれを一撃で粉砕し京也の武装を掴み更に動かれないように押し倒しながら引きずる。そんな中奪った武装から銃を取り出し銃口を向けるがそれを見て武器を掴む手を離し銃を蹴り飛ばす。
「っ!」
同時に隠していた結晶に気づく。
(気づかれた…!)
放たれた光を寸前で身をのけぞらせ回避をする。その隙を突き地面に埋めていた光が転がる銃を弾き手元まで飛ばしそれを掴む。
「しまった!」
垂直に動く身体の軌道を身体を捩ることで並行に軌道を変える。そして銃弾を掠めながらかわし地面を転がった。
「あんな体制からそんな動き動きが…」
「京也っ!」
京也を助けようと綾乃は近寄ろうとするが目の前にもう一人の少女が現れ妨害する。
「邪魔なのよ!」
綾乃は少女を振り払って進もうとするが京也を助けたいと思うあまり相手が人である事を忘れ手加減をしない一撃を打ち込んでしまう。
「あ…」
少女の右腕が吹き飛ばされる。その断面に綾乃と冬菜は目を疑った。
「機械…?」
スパークが弾ける肩を隠すように抑え綾乃を睨む。
「見られた…」
少女は悔しそうに呟く。そんな少女の元にもう一人の少女も合流する。その少女も京也の銃撃を掠めた跡から内部の機構が露出していた。
「あなた達二人は一体…」
すると二人は自ら自身の正体を明かした。
「「機械人形」」