34話 Truth is Ridicule IV
蒼嵐失踪から3日ニュースでは連日様々な場所で 変死体があったという報道があった。
「これも全て蒼嵐が…」
「でもこの事件を真似た他人の犯行の可能性も」
「強盗、殺人、強姦、詐欺…今まで亡くなった人物が犯した事、全て罪人が亡くなっているわ、それも全員心臓を潰されてる…万が一でも蘇生されないようにしてるみたい」
露から貰った資料を片手に手を伸ばしコップをとる。
「あ…」
コップの中が空なのに気づき呟くが、気を利かせて小冬が飲み物を入れる。
「ありがとう…迷惑かけるわね…」
「い…いえ、そんな事ありませんよ」
小冬は共に寄りかかり寝る京也と綾乃を見る。
「兄さんいつもは何処かヒリついた雰囲気なんですけど先輩と綾乃さんがいる時はなんだが安心しているように見えるんです」
「そうなんだね」
その事は玖由も薄々理解していた。だからこそ可能な時は一緒に居てあげるようにしていたのだ。京也を生徒会に入れたのもその考えがあったからだった。
「それで何か掴めそうですか?」
「今の所は期待に添えそうに無いわね…」
「そうですか…」
小さく欠伸をする小冬を見て
「小冬ちゃんも休んだ方が良いわよ」
「そう…させて貰います…」
と小冬は部屋に戻る。
「悪意が…悪魔を呼ぶか、悪意ってなんなんだろ…悪魔も」
(憐斗に聞けば教えてくれるのだろうか…いや憐斗にばかり頼ったいたら何も出来ない)
玖由は再び資料を見返し手掛かりを探した。
ーーーーー
「お姉ちゃん!」
病室の扉を開けベッドに横たわる羽根を見る。
「一命は取り留めている、安心して大丈夫だ」
大和はそう答えるが松音は大和に詰め寄る。
「大丈夫じゃないです!誰が…お姉ちゃんを!やっと…出会えたのに!絶対に…許せないんです」
「そ…それは」
大和は言葉を詰まらせ憐斗を横目で見る。
「羽根を殺ろうとしたのは蒼嵐だ」
「そんなはっきりと…」
憐斗は蒼嵐が殺った事を隠さずに伝える。
「なんで蒼嵐さんが!」
「その原因は今突き止めている」
「いつ分かるんですか!具体的に教えてください!」
今までの松根とは思えないように声を荒らげ背が倍以上ある憐斗を掴む。
「それは分からない…」
「なら!私が勝手に調べます!」
松根は部屋を飛び出した。そして追うようにして葵も部屋を出た。
(蒼嵐がどうして羽根を…悠長にしてる時間も無くなったという訳ですか…)
「松根はこれからどうするのですか?」
「探します!些細な手掛かりでも!何としてでも!」
「そうですか…なら少しお別れですね」
「何かあるの?」
頷き自分の胸に手を当てる。
「私自身の事です」
「それ以上は聞かれたくないみたいにだから聞きません、ご武運を」
少しの時間も惜しいのか短く言葉を伝え松根は葵とわかれた。
資料を漁る玖由の手元にある携帯が震え手に取る。
「もしもし」
「私露です、今時間大丈夫ですか?」
「えぇ…」
「なら今から言うところに来てください、なるべくはやくお願いします」
「わ…分かったわ」
露の切羽詰まった声に焦りを感じながらも冷静を装い京也と綾乃を起こし露の元に向かった。
露から送られた場所は永遠と田畑が広がる場所でその中に突き刺さる大鎌が目に入った。
「来ましたか…」
「これって夕立の大鎌…」
玖由は大鎌に触れ調べ始める。
「やはりそうですよね」
「京也君、綾乃手伝って」
玖由は二人の力を借り大鎌を抜き取る。
「何か分かった?」
「えぇ…これが飛んできた大体の方角と位置なら」
畑の土を摘みながら答えた。
「湿った土に突き刺さった深さからだいぶ勢い良く降ってきて突き刺さったみたい…」
「ここで戦ったあとじゃないの?」
玖由は綾乃の問いに首を振る。
「刺さり方の角度からして空から降ってきたとしか考えられない」
「そう…なんだ…」
小難しい事が苦手な綾乃はそれ以上聞くことをやめた。
「飛んできた方角は南西方向ね…」
タブレットを取りだし地図を開き操作する。
「ありましたか?」
「えぇ…恐らくここよ」
タブレットの画面を京也達に向ける。
「これは…工場よね?」
「名目上は、ですけどね…そこにはワーストの重要拠点らしいですよ」
「そんな所に夕立は一人で…でもどうして…」
「この件にも関係しているとか?」
「私もまずそれを疑ったけどそれは無いって明歌さんが言ってたわ」
「そうだったんだ」
考える二人に京也は1つの考えを伝えた。
「だとしたらもう片方の勢力が絡んでるとか…」
「ヘルプの事?」
京也は綾乃の質問に頷く。
「確かにその可能性もあるわね…」
「でもそうとしたらなんで夕立はワーストを襲撃したのかという疑問が残るか…」
「そうかしら?」
議論をする二人に割って入るように玖由は口を開いた。
「ワーストは過激で大胆な行動が主そのため足取りも掴みやすい、反対にヘルプは隠密行動を主にしているから足取りが掴みにくい、それもあって『私達は』ヘルプの拠点は一つも特定出来ていないの」
「まさか…ワーストにヘルプの拠点を聞き出そうとしてたって言いたいの!?」
「そうよ」
当たり前のように頷いた玖由を見て
「敵を知る為に敵に聞くなんて…よくそんな考えに至るわね…」
呆れた綾乃はため息をつく。
「私でもそうしてたと思うから」
「で…どうするの?」
「もちろん私達も行くよ、露さんあとは任せます」
「分かりました…ですが玖由達だけで向かわすのは危険すぎますね…冬菜を向かわせますので合流してください」
「了解」
そう答え玖由達三人はその場から離れた。
「さてと…これで良いんですよね」
露は三人の後ろ姿を見送り小型の無線マイクを取り出しそれに向けて話しかける。
「あぁ…すまないな」
無線の先から返ってきた声は憐斗だった。
「これぐらいの事問題ないですよ、ですが玖由達に何をさせる気ですか?」
『三人の考察通りヘルプの拠点を見つけ出してもらう』
「憐斗さんは蒼嵐がどうしてあんな事をするのか分かってるんですよね?」
露の問いかけに僅かに沈黙の時間が続いた
『…もし分かっていたらどうなんだ?』
憐斗は露の質問には答えず聞き返した。
「その事実を知って玖由達も蒼嵐のようになったらどうするのですか?」
『大丈夫だ、心配するな』
「そうですか分かりました」
露は憐斗との通信を切る。
「無責任なのか信頼をしているのか…」
玖由達の無事を露は祈った。
「あの言い方だと誤解されるんじゃないか?」
大和は憐斗の不器用さに呆れため息を付く。
「そうなのかもしれないな…でも俺がしようとしている事は全員を裏切る…だから誤解されても問題ないさ」
「そーいう事じゃないんだってばぁ…」
大和は頭を抱えた。その時扉を叩く音が聞こえ
「入って大丈夫だ」
扉を開け結彩が入ってくる。
「憐斗…」
「分かってる、結彩にも三人の事を任せる」
不安そうな結彩の表情が少し和らぐ。
「分かったわ!任された」
「なぁ結彩…」
部屋を出ていこうとする結彩を憐斗は止め、結彩は振り返った。
「……っ…」
言葉を詰まらせる憐斗に結彩は微笑み
「大丈夫、私はどんな結末になっても憐斗と一緒に居るから」
「ありがとう…」
自身の気持ちを伝えた結彩は憐斗の返答を聞き部屋を出て行った。




