32話 Truth is Ridicule Ⅱ
「ここですね」
旧学校だった場所を図書館として利用していた。
「なにが狙いなの…?」
「世界の本ですわ」
夕立が代わりに答えた。しかし蒼嵐には更に疑問が浮かぶ。
「何それ…」
「この世界の歴史が書かれているという本ですわ、そして未来の出来事まで書かれてるという本…」
「ならその本を見れば今までになにが起きたのかが…」
「そう簡単に分からないのです」
残念そうに羽根は蒼嵐の言葉を否定する。
「その本は誰にも開けない、世界の種を持つ物以外は…その本の表紙にそう書かれてあるんです」
その時建物内から爆発音と振動が伝わった。
「こうして居られませんね…行きましょう」
建物内に入った蒼嵐達だがその足はすぐに止まってしまった。
「なに…これ…」
目の前に血を噴き出したような跡が残る死体が至る所に転がっていた。
「全員…自分で心臓を一突きしていますわ」
「全員自殺と言いたいのですか?」
夕立は死体の様子を見終えゆっくりと立ち上がり無言で頷く。
「誰がこんな事を…」
「グェァァァァァ!?!?」
その時発狂している人物が飛び出し蒼嵐に襲いかかる。刀に手をかけたが殺せないと考えギリギリまで間合いを詰めさせ素早く鞘を突き出し相手の腹部を突き吹き飛ばす。
「この人は…!?」
「自我を感じられませんわ…誰かに操られている…?」
再び立ち上がり襲いかかろうとするが横から放たれた針が刺さり痙攣を起こしながら倒れる。
「スタンガンです、威力は少しあげてありますが…」
羽根は蒼嵐のもとに駆け寄る。しかし羽根の背後で麻痺しているはずの人は立ち上がる。それに気づいた蒼嵐は羽根を引き寄せる。突進をし蒼嵐の服を切り裂きその下に着るアーマが姿を見せる。
「っ!」
更に振り返り攻撃をしようとするが次の瞬間動きが止まり人の首から上にあるモノが落下する。断面から噴水の様に血を噴き出し倒れるそれの背後に夕立が大鎌を振り下ろした状態で立っていた。
「これは命のやり取りですわ、今まで味方でも敵意を向けられたら殺らないと殺られますわよ」
「うん」
「そうですね…」
人手を必要と考えた蒼嵐は流星を実体化させ、さらに奥に進む。更に発狂した人間が襲いかかるがそれを夕立と流星が容赦なく殺害していく。
散る血が身体に飛び散るが羽根と蒼嵐は足を止めなかった。
(誰が…こんな事を…人を殺さないといけないなんて…絶対に許さない…ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ×××ユルサナイユルサナイ×××ユルサナイ×××)
「っ!わぁっ!?」
我に返った蒼嵐はつまづき転ぶ。
「大丈夫ですか!?」
「問題ないわ、急ごうこれ以上人が死ぬ前に!」
何事も無かったかのように振る舞う蒼嵐に夕立は
「蒼嵐…無理なら外の警戒をしても良いのですわよ?今なら間に合いますわ」
その言葉に僅かに蒼嵐の身体が震える。そして流星は目を逸らした。ただ一人羽根だけが夕立の言葉を理解出来ず不思議そうに蒼嵐を見た。
「無理じゃないわ…ただ…人を守らないといけない私達が人を殺さないと行けないこの状況が許せないだけ」
込み上げる怒りを抑えながら自分の気持ちを口にした。
その時接近する物体に気づき夕立はアームから大鎌を切り離しそのアームを突き出し蒼嵐を突き飛ばす。同時にアームが破壊される。
「もう手に入れたのですわね…」
足音が聞こえ一人の人物が歩いてくる。
「やはりあなたでしたか…」
姿を隠そうとしないその人物を見て羽根と蒼嵐は目を疑った。
「ハウ…なの?」
無言でハウは蒼嵐を見る。
「だめですわ!」
大鎌で蒼嵐の視界を遮る。
「ハウの目は狂気ですわ!直接見てはだめです!」
精神干渉が出来ないと見たハウは距離を詰め切り抜けようとするがそれを流星と夕立が立ちはだかり止める。
「奪ったものを返すまでは逃しませんわ!」
「どうして…?」
なぜ返さないといけないのかという表情で聞く。
「それは」
「私達…ヘルプの…もの…だから」
夕立の言葉を遮りハウは口を開く。
「奪われたから…奪い返した」
その言葉に夕立の目が鋭くなる。
「ならあなた達がそれを持ってどうするのですか!」
「この…世界の…破壊を…阻止する」
「憐斗を止める手段があるの?」
大鎌を押しのけ蒼嵐はハウに問い詰める。
「教えなさい!」
胸ぐらを掴みハウを睨みあげる。しかしハウの目を直接見てしまった蒼嵐は意識を呑み込まれる。
「しまった!」
夕立達は蒼嵐を救出しようとするがハウの瞳により身動きが取れなくなる。
「ここは…」
「君の…意識の中…」
「それで、教えてくれるの?」
小さく溜息をつきハウは口を開く。
「簡単な…事…殺せば良いだけ」
「殺せば良いって誰を…」
するとハウは2本の指を立てる。
「憐斗と玖由」
「嘘じゃないの!?どうして玖由もなの!」
「彼女は…存在しては…いけない」
「どうして!ハウは梨絵が亡くなったのは玖由のせいだと、だから殺さないといけないと言いたいの!?」
「違うっ!」
そう思われるのは心外だと言うように強い口調でハウは否定した。それは蒼嵐も分かっているはずだった、しかし玖由を殺さないといけなくなる現状を知り動揺がそんな言葉を発させていた。
「…ならなんでなの?」
「神の…幼子だから…憐斗の力がなくても…玖由が望めばこの世界…次元は無くなる…」
ハウの言葉に蒼嵐は理解が追いつかなかった。
(そんな事が玖由に…!?)
信じ難い言葉に蒼嵐はハウを見る。
(嘘をついているような雰囲気も感じられない…それにハウにすぐに嘘と見破られるような事を言うメリットが考えられない)
まだ信じられないといった表情の蒼嵐に
「八年前。あの戦いの…後から今までの…記憶ある…?」
「それは…あれ、何してたんだっけ」
どう頑張っても1つも思い出せない記憶に戸惑う。
「八年間そのものが…消滅…しているの」
「これも玖由がした事」
頭を抑え蒼嵐は呟いた。
「どうして…玖由が時間の存在を消滅させたのかは分からない…けど…」
「二人を殺すしかないと…言うわけね」
その時ふっと蒼嵐の思考がなにかに切られる感覚に襲われ一つの考えから離れられなくなる。
(二人だけ殺さないといけないなんて理不尽だ…なら…すべて×××せばいいんだ)
次の瞬間蒼嵐から放たれた衝撃波によりハウは意識から飛ばされる。同時に夕立達に向けられていた束縛がとかれる。
「蒼嵐…さん?」
「羽根…ごめんね、死んでくれる?」
「危ないっ!」
夕立が羽根の前に飛び出し大鎌を前方に重ねるように構え蒼嵐の一撃を防ぐ。
(殺意しか感じませんわ…)
「はあっ!」
大鎌を振り上げ蒼嵐の体制を崩させる。更に砲塔を向け放つ。吹き飛ぶ蒼嵐に見向きもせずに夕立はハウに詰め寄る。
「蒼嵐になにをしたんですの!?」
「分から…ない…」
夕立は舌打ちをし
「質問を変えましょう、何を吹き込んだのですの!?」
「世界を…救う方法」
「そんな事が」
その方法を聞き出そうとする夕立だったが復帰した蒼嵐が二人の間に飛び込む。しかし蒼嵐は二人には目もくれずに羽根に向かって襲いかかる。その攻撃をかわし羽根は反撃の隙を狙うが相手が蒼嵐の為傷付けずに無力化したいという思いが羽根に隙を作ってしまい胸部を武装諸共貫かれる。
「!?」
素早く流星が倒れる羽根を支えた。武装が解除され意識の無い羽根を見て蒼嵐は屋根を突き破りその場から離れる。
「流星!羽根を任せますわ!わたくしは蒼嵐を追います!」
そう伝え夕立は蒼嵐の後を追った。
「ハウ、あなたは一緒に来てもらうよ!」
「そういう訳にも行かないんだよねぇー」
と声だけが響き流星は銃口を四方にむけ警戒する。
「ハウもどるよ」
その声にハウは従いその場から離れる。
「待ちなさい!」
「早くした方が良いよ、今なら彼女は生きれるからさ」
「っ!」
羽根を抱き上げ流星はハウに背を向け出口に向かった。
(羽根を×××した時罪悪感を感じると思った。しかし実際はそんな事は全くなくそれどころか清々しさを感じたぐらいだった、これが人を×××した感覚なんだ)
ふと蒼嵐は鏡に映る自分を見た。
(笑ってる)