24話 Resume Ⅰ
試合が始まる四時間前蒼嵐は映月と共に警備室に居た。
「本当に来ると思うー?」
呑気な声で尋ねてきた映月を見てため息をつく。
「よく落ち着いていられるわね」
「いつも気を張ってたら身体が持たないのだよ」
「それもそうね」
「それで、蒼嵐は来ると思うのだ?」
「分からないわ、でも憐斗が来ると言うなら私は来るんじゃないかと思ってる」
「ふーん、でもおびき出す為の餌ってなんなんだろうね」
その発言に蒼嵐は不思議そうに
「聞いてないの?」
と尋ねた。その問に映月は頷く。
「五神…についてのデータらしいけわよ」
「ふーん…」
あまり興味がなさそうな返事をする。そこに露達が到着する。
「お待たせしました、交代ですね」
「そうね、任せたわ」
と蒼嵐は部屋を出る。追いかけるように映月も出ていく。
「映月はこれからどうするの?」
「まだやる事があるからそれを片付け無いと行けないのだよ…」
そんな映月に蒼嵐は手伝おうかと尋ねるが
「そんな大した事じゃないから大丈夫なのだよ」
と言われる。
「分かったわ、じゃあ頑張ってね」
映月と分かれ蒼嵐は人混みの中を歩いていた。
「さて…どうしようかな憐斗は昨日から忙しそうだったし…」
そんな蒼嵐の目の前から黒ずくめの人物が向かって来るのに気づきかわそうとするが蒼嵐と衝突してしまう。
「っ!?」
すぐさま横に避け駆け出す。
「今の…」
その人物を目で追っていると少し離れた所に人混みを軽々と避け走る玖由の姿があった。そんな玖由に声を掛けようとするが人混みに消え玖由を見失ってしまう。
更に後ろから追い掛けていた瑞鶴を見て追いつき腕を掴む。
「やっと捕まえた…」
「あ…蒼嵐どうしたの?」
玖由を完全に見失った瑞鶴は諦めたため息をつき蒼嵐を見る。
「玖由の姿が見えてなにかあったのかと…」
「確かに何かあったわね」
瑞鶴は蒼嵐に事情を説明した。
「やっぱりさっきのはそうだったんだ」
とアンテナを伸ばす。
「さっきすれ違った瞬間に発信機をつけておいたの、これで発信機を追えば玖由も見つかるでしょ」
携帯を起動させ発信機を追跡する。
「見つけた…行くよ!」
と発信機を追いかけようとするがすぐに瑞鶴は立ち止まってしまう。
「どうしたの?」
「玖由の…意識が切れた…どうしよう!?」
取り乱す瑞鶴を落ち着かせ蒼嵐は
「瑞鶴はこの事を憐斗に伝えて!私はこのままおいかけるわ!」
「う…ん…」
少し落ち着きを取り戻したたがまだ動揺している瑞鶴に
「大丈夫、玖由がそんなに簡単に殺られるわけないわ、それは瑞鶴が1番分かってるでしょ?」
「う…ん…」
「任せたわよ!」
瑞鶴の肩を優しく叩き発信機を追う。
「っ…!」
瑞鶴は歯を食いしばり憐斗の元に急いだ。
「本当…こういう時に走れないの不便ね」
足を負傷して以降走ることができない蒼嵐は歩きながら憎らしげにつぶやく。
「流星お願い」
「うん、分かった…」
蒼嵐を抱き上げ空に飛び上がる。
「敵の行く場所なら予想できるから向かって!」
流星は頷き指示された場所に向かった。指示され向かった場所は基地内に存在する情報処理室だった。
「なにかあればここに来るようにって憐斗に言われてたから」
「でも…」
流星は発信機の位置を見る。二人のいる場所から正反対の方向に動いていた。
「恐らくダミーね…」
と散らかる部品を拾い上げる。人手不足を補う為に製造していた警備ロボットの残骸だった。
「ね?」
二人はいつでも戦闘が出来るように銃の安全装置を外し蒼嵐は刀が仕舞われている鞘に結ばれた紐を解く。
「急ぐわよ!」
蒼嵐は靴のスイッチを起動させ、二人は情報処理室に向かった
「まだ使わない方が…良かったんじゃ…」
「そうかもしれないけどどこから敵が来るか分からない状況で流星にばかり負担をかけられないから」
足の不自由な蒼嵐の力を最大限に生かせられるように開発されたものだが燃費効率が悪く長時間稼働させることが出来ないのだった。
「それに予備の電池パックは持ってるから」
と部屋の扉を蹴り開ける。そこにはパソコンに向かおうとする人物を見つけ銃口を向ける。
「止まりなさい!」
その言葉の通りにその人物はその場で立ち止まる。
「ここで何をしてるのかしら」
「データを頂こうとしてるだけですよ」
「「っ!?」」
その声に二人は聞き覚えがあった。
(まさか…そんな…でも…!)
「データさえ頂ければ私は戦う気はありません」
「…それでも私には戦う理由があるの!」
「データをまもるためですか?それとも…」
「っ!」
蒼嵐は一瞬で間合いを詰め蹴りを打ち込もうとするがそれをしゃがんでかわす。初撃を避けられた蒼嵐は刀を抜き振り上げるが間髪入れずに立ち上がる勢いと共に後ろに飛びかわす。それを見た蒼嵐は銃に切り替え銃弾を放つ。着地した相手は左右に動き照準を定められないように動き距離を詰めていた。再び刀に切り替えようとするが蒼嵐の目の前で足を前に踏み込み、鞘に手をかける体制をとる。その体制に蒼嵐は見覚えがあった。
(居合い…やっぱり!?)
後ろに引こうとする蒼嵐だがそれよりも速く鞘から刀が抜き出される。更にその早さを上回る速さで流星が二人の間に割り込み居合いを出す。速度は流星の一撃が上だったが威力が乏しく相手の刀に触れた瞬間に弾かれ大きく後ろに仰け反ってしまう。しかしその状況でも身体を捩り背後で構えていた蒼嵐が居合いを出す。その一撃は相手の顔を隠すフードを切り裂き相手の正体をあらわにさせる。
「やっぱりあなただったんだ…羽根」
「久しぶりですね、蒼嵐」
纏めていた髪を解き長い髪を靡かせながら羽根は蒼嵐に笑みを見せた。