21話 Team IV
「憐斗どうしよ!玖由が!」
「ちょっと落ち着いた方が良い」
血相を変えて飛び込んできた瑞鶴に大和は落ち着くように言う。
「何があった?」
ただ事じゃないと察した憐斗は落ち着いた声ながらも険しい表情で尋ねる。
落ち着きを取り戻した瑞鶴はここに来るまでの出来事を話す。
「内通者らしき人を追いかけて行って行方が分からなくなったと…」
「途中までは居場所は分かっていたんだけど急に分からなくなって」
「その事もだけど私…その奥田ってやつの事も気になる、もしかしたら奥田とその内通者は繋がっているんじゃない?」
「確かに現状から見るとそれが可能性が高いかも知れないな、大和その奥田について調べてくれるか」
「了解」
憐斗の指示に大和は素早く部屋を出ていく。
「瑞鶴、玖由を探しに行くぞ」
「う、うん!」
ーーーーー
その頃、憐斗達と同じく試合が始まっても姿を見せない玖由を結彩達は探していた。
「どう居た?」
「いや、こっち側は居なかった」
「同じよ…」
綾乃と京也はスタジアム中を探したが見つからず合流していた。その時歓声と共に腕を振り上げる人を見る。
奥田はこちらを見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
(まさか…あいつが!)
京也は駆け出し、そんな京也を慌てて綾乃は追いかける。
「あ?」
「お前が…先輩を!」
「なんの事だかさっぱりだな」
見下すような言い方は変わらなかったが奥田は僅かに目を逸らし京也に合わせようとしなかった。それを見逃さなかった綾乃は
「さっぱりって言ってるのに何故目の逸らすのかな?目を逸らすのはなにか隠してるからじゃないの」
「なら俺がなにかしたっていう証拠見せろよ」
と綾乃に詰め寄り身体を掴もうとする。が、綾乃はその腕を振り払う。
「ごめんだけど私、あなたみたいな人に興味ないから」
殺気を隠さない綾乃の言葉に流石の奥田も怯む。そんな事は気にしないと言ったように綾乃は京也を連れその場を後にする。
「あいつが絡んでるのは間違い無さそうね…」
「でも、証拠が無いとどうする事も出来無い」
「何かお困りのようだね!」
二人の前に自信満々に立つ姿があった。
「誰?」
「あはっ!僕は海月秋って言うんだ!それよりも君達はなにか探してるの?捜し物なら警察にあったりしてね」
「そんな小さな物じゃなくて…」
「警察…」
京也は防犯カメラが視界に入り玖由を見つける手掛かりになるかもしれないことを思い付く。
「防犯カメラ…!綾乃行くぞ!」
「えっ?…ちょっと待って!」
2人を見送る秋は役目を終えた様に一息つく。同時に電話がなる。
「もしもーし、こっちは何とかなったよ」
『本当に良いんですか?』
電話の相手が心配そうに尋ねる。
「これ以上は問題ないさ!それよりもそろそろ試合だからみんなを集めといて」
『了解』
短くそう答え電話を切る。
「さーてお手並み拝見といきますか」
ーーーーー
「…っ!?」
(ここは…一体…)
意識を取り戻した玖由は目を動かし周りを見る。
(身体も動けない…?)
椅子に拘束され身動きが取れ無かった。
(息苦しい…筋弛緩剤でも打たれたかもしれないわね…)
「目覚めたか」
聞き覚えのある声だった。その声の主を睨むように見上げる。
(奥田…)
「そんな怖い顔すんなって」
そう言いながら玖由の頬に平手打ちをする。さらに玖由の髪を持ち上げ自分の顔に玖由の顔を近づける。
「安心しろ、お前は京也を絶望に落とす為の犠牲になってもらう、それまではあいつがここを見つけ出せれるのがはやいかお前の心が折れるのがはやいか楽しませてもらうさ」
そう言い薄暗い部屋を出る。
(みんな…)
ーーーーー
(…今のは…気のせいなの?)
「瑞鶴どうした?」
「一瞬だけ玖由の意識みたいなのを感じて…」
「そうか、玖由はまだ無事というのが分かっただけ収穫だな」
「そうね…」
そんな憐斗の元に大和と連絡を受けた夕立が合流する。
「確かに奥田ってやつやばいかも」
「軽く調べただけですが同様の事件を何度も起こしてるみたいですわ、そして賭けに負けた方々の消息はわかりませんでしたわ…」
「それであいつらは拠点を複数持ってる事が分かった」
そういい地図を広げ予め付けた印を見せる。
「こんなに…」
「これだけあれば特定は難しいな」
しばらく考え憐斗は
「虱潰しに当たるしか無いか…」
その言葉に瑞鶴が直ぐに反論する。
「これだけの数を!?無理よ、そんなことをしてる間に玖由が…」
「分かってる、だが正確に割り出す時間も人数も居ない、それに…同じ事をしていても意味が無いからな…」
最後の一言を小さく呟き瑞鶴に視線を向ける。
「それってどういう…」
「そのうち分かるさ」
憐斗は瑞鶴の疑問には正確に答えずそう答え指示を出す。
「俺と大和、瑞鶴と夕立の二手に分かれて潰していくぞ!」
「「了解」」
ーーーーー
「ここで市内と基地内の監視カメラの管理をしてるのか…」
と京也は扉に手を当てようとする。同時に背後から
「止まりなさい!」
鋭い声が京也の動きを止める。2人が振り返ると制服姿の女性の警察官が立っていた。
「その扉下手に触ると警報がなりますよ、それであなた達はここになんの用ですか?」
「カメラの映像を見せて欲しいんです」
「どうして?」
不信感を感じたのか表情が鋭くなる。
「仲間を…探してるんです!それで防犯カメラならもしかすればと思って…」
「その仲間の事は警察に知らせたの?知らせて捜索してもらった方が…」
「それじゃ時間が無いんです!先輩の命が…このままだと…」
警察官の言葉を遮り京也は訴える。その言葉にその警察官も折れる。
「分かったわ」
とモニタールームに京也と綾乃を入れる。見渡す限り四方をモニターに囲まれた部屋の中心に座る人物に警察官は事情を説明する。その人物は快く承諾し
「分かったわ、でも調べるにもその子の名前を教えて貰えますか?」
と二人に尋ねる。
「玖由って言う子で…」
綾乃の一言で二人の表情が変わる。
「もしかして椎名玖由ですか!?」
「そう…ですけどご存じだったんですか?」
「はい、それよりも玖由が危ないなんて緊急事態ですよ!」
「各方面に緊急捜索を発信しました!」
「玖由が誘拐されるとなると人混みは無いですね…そしてあなた達の供述どうりなら犯行慣れしてる、人気が無くても監視カメラがあれば嫌うはず…なら!」
と椅子に座る人物は慣れた手つきで流れる様にパソコンを操作する。その様子を見ていた二人は状況が理解出来ず隣に立つ警察官に尋ねた。
「この街には公にしていませんが迷彩を施したステルス監視カメラがあるんです、それは監視カメラの死角をフォローする様に設置してあるので恐らく映って居るかもしれないと考えているのかも知れません」
「来てください!」
二人を呼びモニターを見せる。そこには玖由の姿と複数の男の姿があった。そして一瞬で囲む男を倒すが次の瞬間地面に倒れる。
「「!?」」
そんな玖由を持ち上げた人物は迎えに来た車に玖由を乗せ連れ去った。
「今のが…」
「幸いナンバープレートが映っていたので現在追跡中です」
「出ましたヨー!」
緊迫した空気とは正反対に陽気な声が響き渡りモニターに位置情報が送られる。
「ここですね…」
「ありがとうございます!」
「あっ、待って…言ってしまいましたね」
勢い良く出ていく二人の後ろ姿を見て警察官は椅子に座る人物に話しかける。
「私も直ぐに向かいますよ!準備してください冬菜!」
「了解です!姉様」
送られた場所に向かおうとする二人だったが携帯が震えていることに気づき電話に出る。
『やっと繋がりました!今どこですか?』
「玖由の居場所を突き止めたから向かってる!」
切羽詰まった口調に心配そうに松根が尋ねる。
『大丈夫なのですか?』
「何とかするわ…それでどうしたの?」
『もうすぐ私達の試合の番なんです!このままだと相手が不戦勝になってしまいます!』
「えっ…もうなの!?確か次の相手は…」
『はい、奥田さん達の隊です』
「だって!京也どうする!?」
「…綾乃は試合に向かってくれ、あとなるべく長く持たせて欲しいその間に俺が先輩を助ける!」
「分かった!任せたわ!」
そう答え、再び電話相手の松根に
「今から行くわ!あとで事情も全部話すから!」
と言い通話を切る。
「それじゃ気おつけて!」
「あぁ!」
その言葉を交わし二人は別々の目的地に向かった。