20話 Team Ⅲ
合宿から二週間後、呉基地から少し離れた場所にある廃墟となっていたスタジアムを改築した場所に玖由達は居た。
「こんなに人が沢山…め、めまいが…」
綾乃がふらふらと歩き見かねた京也に支えられる。
「……」
そんな中で1人場違いな表情で見渡す玖由が居た。
「流石に目立ちますよ」
「……っ」
「!?」
鋭い目付きに少し恐怖し後ずさりをしてしまった松根を見て玖由は我に返る。
「あ、ごめん」
玖由は合宿の夜憐斗に聞かされた内容が頭から離れずに居た。
ーーーーー
「「内通者!?」」
「あぁ、それを見つけるのがこの大会の目的なんだ」
「でも本当に内通者が釣れると思ってるんですか?」
若干突っかかるような言い方で京也が尋ねる。憐斗が言わなければ危険な事に黙って巻き込まれていた事に怒っているのだろう。
「あぁ、餌は…君たち二人だ」
憐斗は京也と結彩の二人を見る。
「わ…私達なの!?」
「二人が共有して持つ力だ、あれはワースト、ヘルプからも絶好の力だ、心配するな君たちの身は必ず俺が守る、信じてくれ」
頭を下げて頼む憐斗に京也はそれ以上反論する気になれなかった。
「わかり…ました」
ーーーーー
「内通者…ヘルプそれともワーストの…」
「はいはい考えるのはそこまでです、憐斗さんも言言ってましたけど、何かがあるまでは表向きの目的を楽しみましょう!」
「そうね」
葵はそう言い玖由の背中を押す。
「あれがダークホースねぇ…そう見えないんだけど」
「お姉ちゃん、見かけで判断するのは失礼よ!」
「そうね、それよりも私達は妹達の元に行くか」
玖由達を見て居た2人組はそう話し走っていった。
「あ、小冬ちゃん」
貼られたトーナメント表を背伸びしながら眺めていた小冬に気づき玖由は声をかける。
「あ、みなさん!」
玖由はトーナメント表から自分達の部隊を探す。見つけるのには時間がかからず、端にシード枠として書いてあった。
「凄いですね!シード枠なんて」
「そうね、けどこれをよく思ってない人も居るみたいよ」
と横目でこちらを見る集団を見る。
「っ!?」
それは京也を虐めていた者達を含む集団だった。反射的に京也は身構える。それを見た集団はこちらに威圧感を出すような歩き方で来る。
「なんだよ」
「それはこっちが言いたい」
京也は睨み返しながら答えるがその態度がかにさわったのか胸ぐらをつかもうとするがその腕を玖由が掴み止める。
「あ?なんだてめぇっ!」
掴まれていない片腕を振り上げ玖由に殴り掛かる。しかしそれを僅かに後ろに下がるだけでかわし掴んだ腕を引っ張り寄せ指をその男の目の前で寸止めする。
「これ以上やったらあなたの目潰すよ?」
脅しではなく本気の表情でやる表情をしている玖由を慌てて松根と葵が制する。
「文句があるなら試合で決めれば良いでしょ!」
松根がそういうとその男は玖由達を眺めて笑う。
「良いだろう、その代わり負ければお前は俺達の奴隷だ」
「なっ!?」
「いいわ」
その返事を聞き男達は笑いながら歩いていく。
「な、なんて事をしてるんだよ!あいつらは本当にやばい奴らなんだ!」
あの集団のリーダーは木村奥田と言うらしく、以前から同じように虐めをしていたらしく京也が制したところ目標が京也に移ってしまったらしい。
「問題ないわ、負けないから」
そう言い残し玖由は1人歩いていく。その姿を影から奥田が見ていた。そこに
「あの子を狙ってる?」
黒服で全身を隠し変声機で声を変えている人物が接触してくる。
「お前は…?」
「協力者とだけ言っておくわ」
「なら手伝え」
「はいはい」
そう言い残し素早く姿を消す。
「面白くなりそうだ」
と取り巻きに指示を出した。
「どうするの?玖由あいつら絶対なにかしでかすわよ」
「分かってるだから憐斗達にも相談しに行くの」
そんな時に背後から肩を掴まれ玖由は咄嗟にその腕を掴み投げ飛ばそうとする。
「ちょっと待った待った!私よ!?」
聞き慣れた声に玖由は投げ飛ばす体制のまま振り返る。
「明歌さん!?」
「驚かせちゃったみたいだね、ごめんね」
手を合わせつ謝る明歌に
「どうしてここに居るのですか?」
と尋ねる。普段は暗部として活動する彼女がこのような場に出る事は珍しいと思った。その疑問にキョトンとした表情でしばらく止まり吹き出すように笑う。
「私、そんなに引きこもってるように見える?」
笑いながら話す明歌はそのままの口調だったがいつになく真剣な声で
「実はこの会場の何処かにアルマがいるかもしれないの…恐らくワーストの奴らよ」
「…そうなの?」
玖由は少し目を細めて尋ねた。
「えぇだから警戒中なの」
「…分かったわ私も探してみる、特徴とかないの?」
「ワーストは黒いマントで全身を覆っている、恐らくこの人混みなら目立つ筈だからすぐ見つかると思ったんだけどね」
「了解」
そう答えて明歌と別れる。
「黒づくめの姿、簡単に見つかりそうだけどね」
結晶体のまま周りを警戒する瑞鶴は玖由に語りかける。が、考え事をしていた玖由はその言葉に反応しなかった。
「おーい」
「あっ…ごめん」
その時、目の前から歩いてくる人に二人は目を向けた。全身を黒服で覆った姿だった。
「ねぇ、あれって見間違えじゃないわよね」
「っ!」
「玖由待って!」
追いかける玖由を実体化した瑞鶴は引き止めようとするが素早く動く玖由に追いつけずに見失ってしまう。
「待って!」
その人物の肩を持った瞬間、その腕を振り払われ、走り出す。それは人波を素早くかわしながら玖由との距離をあける。対して玖由はバリュキリーシステムを起動させようとするが周りの人に危険にさらしてしまうと考えた玖由は離れていくそれの姿を見失わないように必死に食らいつく。
「何処に…」
人混みとは反対に人気の全くない場所を玖由は歩いていた。
「どこに行ったの…」
その時周囲からの殺気を感じその場から飛び退く。同時にその場にワイヤーが伸びる。
「罠!?」
更に四方からワイヤーが放たれるがそれを玖由は軽々とかわす。
「まさか本当に釣れるとはな」
玖由は周りを囲む集団の顔に見覚えがあった。
「あなた達奥田の取り巻きね…」
「捉えろ!」
「っ!」
手足のバリュキリーシステムを起動させ交戦しようとするがいきなりシステムダウンを起こす。
「なに!?」
「お前がそのシステムを多様するのは知っているなら俺たちはそれを使えなくすればよい」
よく見ると周囲を粉のような物が舞っていた。
(原因はこれね…)
「ボケっとしてる暇ねぇぞ!」
鉄パイプを振り下ろされている事に気づき玖由はそれを掴む。そのまま飛び上がり男の後ろに回る。腕を180度以上回されそうになり思わず鉄パイプから手を離してしまう。奪ったそれで男を殴り倒す。一連の流れを見て周りの男達が更に襲いかかる。金属バットを鉄パイプで防ぐがパイプは真ん中からへし折られる。しかしそれを背後から襲おうとする者の顔面に投げつける。同時に金属バットを掴む手を蹴り一瞬動きを鈍らせ握る手の力を弱らせる。その隙に金属バットを押し上げる。握る力が弱まっている為滑るように勢いよく押し上げられたバットの持ってが男の顎を突き上げ飛ばす。
(残り一人っ!)
宙を舞うバットを拾おうとする玖由。しかし背後からの痺れるような衝撃にふらつく。
「いまの…は…」
遠のく意識の中後ろを見る。そこにはもう一人の姿があった。
(気づけなかった…!?)
それはふらつく玖由に近づき銃口を向ける。そして玖由の意識は途切れた。
「玖由っ!?」
異変を感じた瑞鶴は思わず玖由の名前を呼んでしまう。嫌な予感を感じ瑞鶴は一度憐斗の元に向かった。
「ご指示どうり捉えました」
その連絡を受け奥田は笑みを浮かべた。
「これであいつらは俺の奴隷だ」
高笑いと共に1回戦が始まる。