19話 Team Ⅱ
いつからか他人に任せるという事が嫌いになっていた。以前は共に戦場に立ち戦っていた為迷い無く指示を出す事が出来ていた。しかし今は違う、自分は指示を出すだけで結果を祈って待つしか出来なかった。そして傷ついて帰って来る玖由達を見て自身の非力さか腹立たしかった。そんな感情から『任せた』という言葉を避けるようになっていた。その結果、玖由にあんな表情をさせてしまった。
目を覚ました憐斗は窓から差し込む光を浴び
「朝か…」
と呟く。目覚めの悪い朝を不快に感じながらも体を起こし一階に降りる。
「あ、おはようー」
エプロン姿の蒼嵐が憐斗に声をかける。
「おはよう」
憐斗は玖由や大和の姿が無いことに気づき蒼嵐に問いかける。
「2人なら朝早くから出掛けてたわよ」
「そうか」
「憐斗は今日はどうするの?久々のお休みでしょ?」
憐斗の前にパン等朝食を差し出しながら尋ねる。
「お父さんの所に行こうかと思ってる」
「そうなら私も一緒に行くわ、茉莉さんにも会いたいし」
蒼嵐と茉莉は気が合うのか仲が良く様々な事を教わって居る。その中の一つが今憐斗に出されている料理だった。
「悩み事?」
憐斗が琢斗達親の元に行く時は憐斗自身が限界に感じている時だった。その事を考え蒼嵐は心配そうに問いかける。が、大方の予想はついていた。
「玖由と何かあったの?」
「どうしてそう思うんだ」
「今日の玖由いつものように装おうとしてぎこちなかったからさ」
「そうだったんだな」
食べ終えた憐斗は
「蒼嵐の準備が終わったら行くか」
そう言う。話をそらされた蒼嵐だったが弱みを見せようとしない憐斗に対して怒る気にならなかった。
仕度を済ませ鉄路を使用し約二時間半かけ駅を出る。
「ほんとに出てきた…」
瑞鶴が呆れたように呟く。
「瑞鶴…どうしてここに?」
蒼嵐の問いかけに
「玖由にそろそろ来るだろうから迎えに行ってって言われたから…まさかドンピシャで来のは予想外だったけど」
「じゃあ玖由達もここに居るのか」
「えぇ、合宿だって」
瑞鶴の後を追い琢斗達の元に向かう。マンションの跡地となった空き地に玖由達は居た。
「力を入れすぎ」
振り下ろした竹刀を軽く弾かれた京也は仰け反りその隙に玖由が竹刀を振り上げ京也に接触する寸前で止める。
「力任せにしたら隙をつくるだけ力を込めるのは触れる直前だけ、もう一回」
京也に再び身構えさせる。その様子を見ていた綾乃は
「玖由ってこういう事になるとスパルタだよね…」
「ならわたくしも厳しくしましょうか」
と、夕立はスカートの中からアームに繋がれた鎌を出し膨らました風船を背中に付ける。
「この風船を割ってみなさい」
そういい三人にも膨らませた風船を渡す。
「わたくしがあなた達の風船を割ればわたくしの勝ちわたくしの風船を割ればあなた達の勝ちですわ」
五本の大鎌を構え綾乃、葵、松根に指示する。
「さぁ来るのですわ」
それを聞き三人はそれぞれの方向に分かれ夕立に攻撃を仕掛ける。最初に綾乃が正面から砲撃する。向かう砲弾を切り裂く。しかしその間から綾乃は手を伸ばして夕立のアームを掴む。更に夕立の足を引っ掛けバランスを崩させる。が、同時に大鎌をアームから引き抜く。
(押し倒してわたくしの体重で風船を割ろうとしてるのですわね)
綾乃の考えを読み背に大鎌を突き出し地面に突き刺す。
「なに…!?」
大鎌の支えで転倒しなかった夕立は素早く身を回転させ綾乃を地面に叩き付ける。
「「隙ありっ!」」
左右から松根と葵が銃口を夕立に向け銃弾を放つ。しかし夕立は大鎌を横に出し銃弾を防ぐ。アームを大きく振り勢いを付けたままアームから大鎌を切り離し大鎌を投げ放つ。
「そんな無茶苦茶なっ!」
咄嗟に装甲を展開し防ぐがその隙を狙い間合いを詰め松根を蹴り飛ばす。葵は大鎌の軌道を逸らし夕立に近づき風船に手を伸ばす。
「甘いですわ!」
「っ!?」
振り上げられた大鎌に気づき葵は後ろに飛ぼうとするが地面に入った亀裂に気づき葵は後ろに引かず小さな動きで横に動く。大鎌は狙いどうりに亀裂に突き刺さりアームを踏み大鎌を更に打ち込む。
「抜けない…」
「そこだぁっ!」
突き刺さった大鎌により身動きが取れなくなった所を狙い、起き上がった綾乃は大鎌を手に正面から夕立に突き出す。夕立は残った一本の大鎌で防ぐがお互いの鎌が粉砕する。
「葵っ!」
「それを狙ってたんです!」
「っ!?」
短剣を手にした葵が背後から伸ばす。それを想定していなかった表情を見せたが次の瞬間その表情が笑みに変わる。
「えっ…」
その表情に葵は一瞬動きを躊躇う。その躊躇った時間に夕立はアームから大鎌を切り離し三人から距離をとりアームから砲塔を出し三人の風船を撃ち抜く。
「あぁ…」
項垂れるように綾乃は座り込む。
「あなた達は連携はよくとれてますわ、ただ三人とも詰めが甘いですわね」
「うぐっ…」
「みんなお疲れ様」
結彩が飲み物が入った入れ物を三人に渡す。その姿は運動部のマネージャーみたいだと夕立は思った。そんな綾乃達を木の木陰から見ている大和の元に瑞鶴達が歩み寄る。
「本当に憐斗も来たんだ」
「大和はどうして居るんだ?」
「玖由にばかり結彩を任せるわけにはいかないだろ?」
「大和…す…」
「言葉が違うわよ」
憐斗の口を人差し指で抑え蒼嵐囁く。
「ありがとう…」
若干ぎこちない言い方だったがそのありがとうが嬉しかったのか大和は照れ隠しをするように目を逸らし一言小さく
「うん…」
と答えた。
「父さん達は?」
「多分家、みんなの昼食作ってると思う」
大和の予想通り昼食の用意をしていた茉莉に声をかける。
「憐斗おかえり〜」
のんびりとした声だったが手際良く昼食の準備を終わらせていた。
「出来たから外に出すの手伝って〜」
「手伝いますっ」
茉莉と蒼嵐、流星によって外に広げたブルーシートに次々と料理が並べられる。その匂いを嗅ぎつけたのか玖由達も戻って来る。
「お、今日も美味そうだな」
と、家の奥からひょっこりと浴衣姿の琢斗が現れる。その姿を見た憐斗は
「完全に隠居しましたって感じたな」
皮肉を込めた言い方をするが
「憐斗に任せれば安心だと思ってるからな」
という言葉で返された憐斗は戸惑う。その姿を見て蒼嵐はくすりと笑った。
そしてそれぞれが料理を口にする中少し離れた部屋の窓に座りながら昼食をしている憐斗の元に手に酒を持った琢斗が歩み寄る。
「何を悩んでるんだ?」
「父親の酒をどうすれば止めさせられるかって」
「はっはっは!それは悩むな」
まるで他人事の様に笑う琢斗に憐斗はため息をつく。
「で、本当は?」
「…俺が指揮官で本当に良いのかって思って」
「やっぱりお前もその事を考える時が来たか」
「やっぱりって…父さんも?」
「あぁ…同じ事を茉莉に相談した事があった」
憐斗と琢斗は茉莉を見た。
「そしたらこう言われたんだ、お前達を見ていれば答えが分かるってな」
「それで答えは出たのか?」
「答えは分からない、だが自分がお前達にどうしてやれば良いかは分かった、それをお前も見つけるんだ」
「玖由達を見て…分かる事」
昼食を素早く済ませた玖由達は再び訓練に戻る。
その姿を見ていた憐斗の元に結彩が歩み寄る。
「玖由、憐斗にかくしごとされたのがよっぽど嫌だったみたい」
「隠し事…」
「信用されてないから憐斗は隠し事をするんだって」
「俺は玖由達を信頼していないわけじゃない」
「それも分かってた、信頼しているからこそ危険な事に巻き込みたくないって思ってだまってるんでしょ?」
「……」
黙る憐斗に結彩は更に話を続けた。
「だから玖由言ってたわ、どんな危険な場所からでも帰って来れるぐらい強くなるって」
人の心を察する事が出来てしまう玖由だからこそ考えてしまう事だと思う。それと同時に自分がどうしなければならないかを理解した。
(玖由達をもっと信頼すればいいのか)
簡単な答えだった。だがその答えを受け入れたくなかった。
「他人ばかりに任せて自分が何もしないのが無責任だって思ってる?」
憐斗の心の中を見たかのように的確に言い当てる。
「そんな心配しなくていいんじゃないかな、だってお互いが自分の出来る事を全力でやる、それがチームでしょ」
(って玖由から聞いたなぁ…)
その言葉を聞き吹っ切れた様子で憐斗は
「そうだな」
と呟く。そしてその言葉と同時に夕立の風船が割れた。
その夜、全員を集め憐斗は口を開いた。
「みんなに頼みたい事がある」