1話 Encounter Ⅰ
「京也ーっ!」
「うっ…!?」
木佐京也は腹部に与えられた強い衝撃により飛び上がる。
「やっと起きた…今日から高校生なんだからしっかりしなさいよ」
「だからといっていきなり溝落ちに拳叩きこむやつがいるかっ!」
「だって確実に起きるでしょ?」
(この…ゴリラが…)
「ん〜?今ゴリラって思ったでしょー?」
「思ってない!思ってない!ってかなんで分かんだよ!」
すると彼女は嫌なものを思い出したように顔を顰め
「知り合いに心を読むのが上手い奴がいるから…有り難いことにそのコツまで教えて頂けたし!」
不機嫌になる彼女をほっておき着替えパンを手に取り家を出る。
「はぁ…」
学校は嫌いだ、周りと違う事をするだけでイジメが起きる。多数からハブられたくないから周りは見て見ぬ振りをする。そんなくだらない場所なんて必要ないと思っている。普通ならイジメられたら人は不登校になるか自殺をする。けどあえて学校に行く。相手からすれば不愉快極まりないだろうが理不尽な世界に対抗するにはそれで良いと思っている。
「なーにーボーッとしてるのよ」
追いついた彼女に背中を叩かれる。
「だから痛いってば綾乃…」
朝茅綾乃はムッとした表情で京也を見る。
「いいじゃん愚痴がいえるの京也ぐらいなんだからさー」
「はぁ…」
「その代わり色々して上げてるんだからさぁ〜」
「誤解を招くいい方をするなって!」
綾乃は2歳上の幼馴染、と言っても生まれた頃からの付き合いで京也にとって姉の様な存在だった。
「素直じゃないな〜嬉しいくせに〜」
そのためこの様に京也の考えを的確に見抜いて来るので素直になれなかった。
初めて歩く通学を堪能する間もなく校門の目の前まで到着してしまう。
「ここが…」
「いい?京也、何かあったら綾乃に言ってよ!」
「うん…」
「それじゃね!」
と綾乃は駆け出し綾乃の友人と思われるグループの中に一瞬で溶け込む。
その姿をみながら歩いて居ると
「よお、京也じゃねぇか」
「っ……!」
聞きたくない声が響き立ち止まる。すると男の集団が京也を囲む。
「奇遇だなお前もこの学校か」
それは中学校で京也を虐めた者の集団だった。
「ちっシカトかよ」
「まぁいいじゃねぇか高校生活も長いんだからよっ!」
と京也を突き飛ばし地面を転がる姿に指をさしながら笑い歩いていく。
「ちっ…」
痛む身体を奮い立たせ立ち上がろうとする京也に手が差し出される。
「大丈夫?」
感情が感じられない声が京也に問いかける。京也が差し出された手の人物を見上げる。緑色が基調な制服とネクタイリボンを見て綾乃と同じ先輩だという事が分かった。そしてやや短いと思えるスカートから黒いスパッツが見え腕まで覆う手袋に動きやすい様に後ろで髪を束ねた女性だった。
「何か気になる?」
京也の視線に疑問を持ち問いかける。
「いえ…どうして俺に話しかけたのかと思って…」
「どうしてって言われても…助けたかったから、それ以外に理由っているの?」
「あっ…いえ…」
戸惑う京也のネクタイを撫でるように優しく持ち上げる。
「君は新入生ね、よろしくね」
その人によって身体を持ち上げられた京也はお礼と自己紹介をしようとするが学校の鐘の音が聞こえた。
「まずい!」
と駆け出そうとする足を止めもう一度その人を見る。
「また、お礼に伺います!」
「そんなに急がなくても君の担任なら大丈夫よーって聞こえてないかな…」
と冷静に歩きながら呟く。
「それにしてもあの子…一応伝えておけば良いかな」
慌てて教室に飛び込んだ京也だったが先生の姿は無くそれぞれが新たな輪で会話をしていた。
(助かった…)
とその時勢いよく扉が開き透き通るような水色の長髪の女性が息を切らしながら飛び込んでくる。
「ギリギリセーフ…」
誰も予想しなかった登場の仕方にその場の全員が戸惑う。
「みんな…席に着いて…」
「先生がまず落ち着いて!」
クラスの女子達が先生を落ち着かせる。
「ごめんね…改めましてこのクラスの担任の優羅蒼嵐です、みんなよろしくね」
そう言い笑顔を向け説明を続けた。
「みんなは半年でアームズについての基礎を学び一年の後半から各科に分かれて行きます」
各科というのは航空科・陸上科・海上科の3つの事だ。綾乃は陸上科に所属している。
「まぁおいおい説明していく事にして…改めてよろしくね」
こうして新生活が始まった。その日の昼休み朝出会った先輩にお礼を伝えようと3年生館にやって来たが3年生という事しか知らない為まずは綾乃のクラスを覗いた。
「どうしたの京也?」
「いや…人を探していてさ…」
と容姿などを伝えるが綾乃は首をかしげ
「そんな人聞いた事ないけど」
「えっ…確かにそんな容姿だったんだって」
「遂に京也が目覚めてしまったかぁ…」
顔に手をあてながらそう呟く綾乃を否定する。
(目覚めるって何にだよ…)
「まぁ一応他の科も探してみるわ、それじゃあ次移動だから気をつけて帰るのよ」
京也は帰り道でも謎の人物が頭を離れ無かったがその事を深く考える間を与えないと言わんばかりに背後からの殺気を感じ振り返ると同時に身体を後ろに引く。同時にピンポン玉位の大きさの石が目の前をする。
「……っ!」
「おいおいちゃんと当てろよ」
自身を指さしながら笑う男子達を見て京也は舌打ちをする。それを聞いた1人が京也の胸ぐらを掴みあげ体を浮かす。
「誰に対して舌打ちしてんだよ」
睨みあげ尚も反抗的な態度の京也の視線に更に逆撫でされ拳を振り下ろし京也を突き飛ばす。
「連れてこい」
と人気ない路地に連れられる。
「さぁリンチタイムだ」
と拳を振りかざす。それを見て京也が歯を食いしばった瞬間、その拳と振り上げた男子は地面に突っ伏していた。
「あら、居たんだ気づかなかった」
聞き覚えのある声だった。感情の篭っていない言葉。
「あの時の…」
本当は居ない人が見えたのかと言う疑惑が晴れた。確かに目の前に立っている。
「こいつどっから飛んできた!?」
見上げると6階以上はあるビルが囲んでいただけだった。
「そんなに上ばかり見てたら…」
その人は素早い動きで二人の顎を突き上げ宙に浮かせひっくり返す。
「なっ…」
「このガキがっ!」
「一応あなた達の先輩なんだけど」
そう言いながら突き出された拳を受け流し反対から襲おうとしていた1人に拳をぶつけ怯んだ隙を狙い2人を巻き込む蹴りにより吹き飛ばされる。
「くそっ!」
最後の1人が鉄パイプを持ちその人に襲いかかる。
「そんなんじゃ駄目」
振り下ろされる鉄パイプを舞うようにかわし地面に叩きつけられた鉄パイプを勢いよく踏つける。衝撃で手から離れた鉄パイプを拾い上げる。
「武器はこうやって使うの」
と鉄パイプを振り上げる。視線がそれに集中した瞬間手放す。鉄パイプに意識が釘付けにされていた為そのままそれを見続けてしまう。その顔に向けてその人の膝が叩き込まれる。折れた歯が宙をまい倒れる。
「大丈夫?」
再び差し出されたその人の手を見て
「また…助けたかったからですか…?」
「それもあるかな」
とその人は相変わらずの口調でこう言った。
「君が気になったから」
意味が分からなかった、初めて出会った人にいきなり気になる理由が思いつかず困惑する。そんな京也を気にする事は無くその人は話を進める。
「私は椎名玖由、よろしくね京也くん」
京也を立ち上がらせその人は自己紹介をし笑みを向けた。