18話 Team Ⅰ
「憐斗の予想どうりだった」
大和の言葉に合わせ隣に立っていた夕立が憐斗に調査の結果資料を差し出す。
「やはりか…」
「予想どうりでしたわね」
「どうする憐斗?」
「ならおびき出すしかないな」
憐斗は別の冊子を取り出し大和達に見せた。
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「全国試合…?」
「そこまで嫌そうに言われると思ったが…そうだ」
予想以上に嫌な表情を露骨に出しながら答える玖由を見て憐斗はそう答える。
「でも、いきなり試合なんて…なにかあったのですか?」
「その逆、何も無いから今のうちに互いの技術を見せあって力をつけるってのが目的だって」
綾乃の疑問に大和が答える。
「会場もここで行う事になった」
「それで私達を呼んだ理由ってなに?もしかしてチームメイトを集めて出ろっていうの?」
「チームはいつもの分隊で行うのたが通常一分隊は5人なんだ」
「あ、私達の所だけ1人足りないのね」
玖由達が所属している分隊は公には公表していなかった為、正式な分隊の人数を揃える必要は無かった。
「なら問題ないわ、すぐ見つかるから」
「目星ついてるの?」
「えぇ、ちょうど良いわ」
「?」
なにかを企むような笑みに理解できない綾乃は首を傾げた。
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「ってな訳で一緒に出てもらうわよ」
「俺がですか?」
事情を聞き強制参加させられた京也は困惑気味に尋ねる。
「嫌なら別に構わないけど」
と京也に判断を委ねる。京也はつくづくこの先輩が卑怯だと思った。京也の口から参加すると言わせようとする先輩の表情には自身のその考えすら見通されていると感じた。
「分かりましたっ、やります!」
ほぼやげやりに近い口調で京也は承諾する。
「ほんとに良いの!?」
「あぁ…それに教わるだけだと得られない事もあると思うから…」
「教わる…?誰に?」
「玖由先輩にだけど」
「いつからそんな師弟関係みたいな感じになってるの?」
「玖由先輩はし…ぐっ!?」
これ以上喋られると綾乃までもが『弟子になりたい』といった事を言い出し面倒臭い事になると考えた玖由は京也に肘を腹部に打ち込み黙らせる。
「京也君とは親友だから、強くなりたいみたいだから色々教えてたの」
何事も無かったかのように話す玖由の横で京也は冷や汗をかきながら小さく悶絶していた。
「そ…そうなんだ」
これ以上聞くと自身の身も危ないと感じた綾乃はそれ以上聞くのを止める。
「そ…そうなんだ」
小さくため息を付き玖由は綾乃に近づく
「!?」
「なんでそんな身構えるのよ、何もしないわよ」
そう言いながら綾乃の横を横切り扉の取っ手に手をかける。
京也は玖由が横目でこちらを見ている事に気づく。気づいた事を見て玖由は視線を扉に向け再び京也に戻す。この動作を2回繰り返し部屋を出る。
(今のは…来いって事なのか…)
「ちょっと俺もしないと行けない事思い出したから行ってくる」
「あ…うん」
そう考えた京也は玖由の後を追い部屋を出る。
「出てきたわね」
扉の横で待っていた玖由は京也の手を持つ
「とにかく来なさい」
手を引き玖由は京也を屋上に連れてくる。
「あれで気づかなかったらどうしようかと思ったけど良かったわ」
「それで…俺を連れてきたのは…」
「人との戦い方を教えてあげるわ」
そう言い京也をフエンスに押し倒し逃れられない様に京也の顔の横に手を押し当て
「好き…付き合って」
頬を赤らめながら放つ玖由の言葉に京也は動揺を隠しきれない表情で戸惑う。
「はぁ…京也君はすぐ顔にでるわね」
呆れたようなため息を付く。
「人はアルマとは違って考えて行動するだから表情とか簡単出さないように相手を見て次の行動を読む、これが対人の戦い方、戦闘技術なんて要らないわ」
そう言いながらフェンスに押し付けた手を離し京也の目の前でその手を握り拳を作る。そしてその手を開き再び握る。玖由はこの動作を数回繰り返す。
「私が嘘をつく時はこの動作をするわ、観察力を鍛えるトレーニングよ」
「は、はい」
そう答えた京也だったが告白をされた事のない京也にとって先程の玖由の行動が頭から離れず、未だに動揺をしていた。この気持ちを晴らす為に
「先輩…さっきの告白も嘘なんですよね?」
と尋ねるが先輩は無言で手の平を頭に当てため息を付かれただけでそれ以上の返答は無かった。
その日の夜日付変わる頃に憐斗は家に帰宅した。いつもなら玖由や蒼嵐が寝て暗いはずのリビングが明るく不審に感じた憐斗は慎重に中に入る。が、そこに座っていたのは玖由だった。
「珍しいな玖由がこんな時間まで起きているなんて」
「そう?任務とかて深夜まで起きている事が多いから私は普通だと思ったんだけどね」
コップに残ったお茶を飲み干し玖由は憐斗に尋ねた。
「ねぇ、あの大会を開催する理由ってなに?」
「今朝も言ったが、お互い…」
「私が聞いてるのは建前の理由じゃないの」
憐斗の言葉を遮り僅かに強い口調で言葉を放つ。
「なら玖由はどう考えて居るんだ?」
「裏切り者の炙り出しって感じかしら、そしてそんな危険な事を他の所でさせたくないから私達の居る所で開催させたんじゃないの?何があっても良いように、違う?」
「玖由は玖由の考えを信じれは良いさ」
その返答に気に食わなかったが、多方の察しはついたのでそれ以上問い詰めるのをやめた。
部屋を出て行こうとする玖由の後ろ姿を見て
「毎回…すまない」
という言葉をかける。
「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないの…」
玖由は小さく呟くように答え足を止めることなく部屋を出ていく。
「良かったのか?」
実体化した大和は憐斗に問いかける。
「何がだ…」
「憐斗も分かってるんだろ?玖由が何を言って欲しかったかを」
「もし分かっていたら俺はどう言ってやれば良かったんだろうな」
憐斗は大和に答えを求めるように問いかけた。