17話 Memory Ⅶ
「お待たせ京也くん」
驚異的な回復で1人で立つことができるようになった玖由が歩きながら声をかけてくる。
「もう大丈夫なんですか?」
「まぁね、でも走ったりは出来ないかな」
と玖由は京也の腕を掴み自分の胸部に押し付ける。
「さ、デートしよ」
今まで見せた事のない女の子の玖由に戸惑いながら京也はどうしてこうなったのかを思い出した。
ー1週間前ー
「ね、京也くん暇な時ある?」
突然玖由にそう言われ
「来週の日曜日なら…」
「ならその日開けておいて、デートしましょ」
「えっ!?」
京也の返答を待たず玖由は身体を回転させまるで京也を見ないようにしているかのように小走りで歩いていく。もちろん玖由も理由なく誘った訳では無かった。
ー更に1週間前ー
ツクヨミの目的を知った玖由は京也を守れないかを考えていた。
「兄さんの事考えてるんですか?」
「えぇ…」
「なら、デートしてみるとかどうでしょうか?」
「はぁぁ私が!?」
今まで見た事の無い程の動揺を見せる玖由に小冬はくすりと笑い
「先輩って以外と経験ないのですね」
「え、えぇ…」
恥ずかしそうに目を逸らす。
「なら、私が色々教えてあげますから!」
「ま…待って!まず京也とデ…デートする意味ってある!?」
「兄さんの事を知れば何か思いつくかも知れませんし、それに…」
小冬は玖由の耳元で囁くように
「兄さんの事気になってるんじゃないですか」
「っ!?」
いつもとは違い明らかに動揺を玖由はしてしまった。
ーーーーー
(見事に小冬の策にハマったわ…)
と思いつつ京也の腕を掴む玖由は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「な、なにしようか?」
少し背の高い京也を見上げながら問いかける玖由。
(小冬に言われたようにやってみたのだけどこれで良いのかな、恥ずかしいわ…でもノープランなのは事実だし…)
「先輩のしたい事ならなんでも良いですよ」
「そう?なら付き合って貰おうかな」
と玖由は京也の腕を引っ張り歩く。そんな二人に影からカメラを向ける人物、小冬の姿があった。
「良いですよっ!」
いかにも不審者と思われるような挙動をしながら小冬は二人の後をつけた。
「ゲームセンター…ですか?」
「そうよ、でも甘く見たら駄目だからね」
玖由はシューティングゲーム機の前に立ち銃を模した機械を両手に取り片方を京也に渡す。
「こういうゲームはイメージトレーニングになるからね」
その言葉が終わると同時にゲームが始まる。
「言い忘れてたけど負けた方がお昼ご飯奢って貰うわよ」
「えっ!?」
京也は慌てて構えた。
「嘘だろ…」
ゲームをクリアし『GAME OVER』の文字が画面に映り二人の点数を見た京也はそう呟いた。
「10000点ってなんですかこの点数…」
「ちょっと大人げなかったかしら」
からかうわけでもなく真面目な声で首を傾げながら答える玖由に
「ちょっとじゃないですよ」
と、咄嗟に突っ込む。
「どうやったらそんな点数を取れるんですか」
「先読みしただけよ、相手はコンピュータなのだから次の行動なんて人間より読みやすいでしょ?」
さも当然のように答える玖由に京也は玖由の規格外さを改めて実感した。
「それじゃお昼よろしくね」
「冗談じゃなかったんですね…」
「冗談じゃないわよー」
そう言い向かったのは加奈の経営する喫茶店だった。
「はい、持ってきたわよ」
「ありがとう」
玖由達に料理を出したマチルダはそのまま玖由の横に座り
「にしても、あんた達よくつるんでるよねぇ」
と不思議そうに尋ねる。その言葉に京也の動きが止まる。
「友達だからね」
京也とは裏腹に玖由は顔色ひとつ変えずに答え料理を口にする。
「友達…ねぇ」
マチルダは向かいに座る京也に探るような視線を向ける。
「なんですか…」
「何も無いよー」
食べ終えた玖由は小さくため息を付き立ち上がる。
「先に外に出てるわね」
と外に向かう。
「あの子も素直じゃないよね」
玖由が外に出ると入れ違いに厨房から加奈が姿を見せた。
「あんな感じやけど京也くん達と出会うまでは氷の棘みたいな感じやったんよ」
「そうなんですか…?」
「綾乃や京也と出会ってからよ、今の玖由になったのは」
「ありがとね、京也君」
加奈にお礼を言われ京也は思わず顔を赤くする。
「今日はタダで良いわよ、これからも仲良くしたってな」
「はい」
喫茶店を出ると空を眺めていた玖由は京也を見る。
「お金は払った?」
「タダで良いって言われました」
「あら、良かったわね」
そういう玖由の後ろ姿を見て京也は
(どこまでこの人は理解していたんだ…)
全てを理解しているような玖由に京也は恐怖と共にそれ以上に彼女に魅力を感じた。
(綾乃もこんな感覚になったのか…)
「どうしたの?」
「あ、いやなんでもないです」
京也はそう答え先輩の背中を追った。
玖由の最後の目的地はそう遠くなく広場のような場所だった。そして広場の中心には巨大な石碑があった。
「ここは…」
「今までの戦いで亡くなった人達のお墓よ」
石碑の裏には多数のお墓があり玖由はその一つに向かう。しかしそこには先客が居りその人は玖由に気づき立ち上がる。
「玖由も来たんだ」
青髪を靡かせる葵は梨絵の墓を見る。
「私のせいで亡くなったから…」
自分の手を見て葵は呟く。
「私がアームズが嫌いなのは事実だけどそれを理由に償わないなんて出来ない、だから梨絵さんがしたかった事を私がするの」
「それで私達と協力なんて言ったのね…」
葵の言葉を聞き今までの葵の行動を理解した玖由だったが新たに一つの疑問が浮かび葵に問いかける。
「どうして…梨絵のしたかった事が分かったの?」
「だって私…死者の声が聞けるから」
葵の言葉に二人は耳を疑ったが葵の表情からは偽りを言っていると感じられなかった。しかし
「なーんてね、うそだよ」
先程までの真剣な表情とは真逆で2人をからかうような笑みを見せて答える。
「そんな力なんて私には無いわよ、梨絵さんならどうしたいか私なりに考えた結果よ」
笑いすぎて過呼吸気味になる葵を見て思わず玖由をくすりと笑う。
「そうだったのね」
玖由は梨絵の墓に花を添え
「私達はそろそろ行くわ」
と京也の手を掴み歩いていく。
「うん、またね」
二人を見送り葵は
「久々に話せてよかったわ、ありがとう」
と言い目をつぶる。が、すぐに目を開き
「償いとか気にしなくて良いのですけどね…」
白髪の葵はそう言い玖由達とは反対の方向に向かった。
「ごめんね、あまり聞いても楽しい事じゃ無かったでしょ」
石碑の下は浜辺となっておりそこへ繋がる階段を降りながら玖由は京也に言う。
「いえ…」
京也は命を奪う事がどれだけ容易く残酷な事なのかを改めて認識した。
「いつまで後悔してても駄目だって事ぐらい分かってるんだけどね」
悲しい表情を見せた玖由だったがすぐに表情を変え背を向けた先輩の後ろ姿を見て京也はある決心をした。
「先輩…俺強くなりたいんです」
「知ってるよ…両親も無くして小冬ちゃんを守るには自分がどんな事をしてでも強くならないといけない、その結果がその力だよね」
「どうして…」
玖由の発言に京也は驚きを隠せなかった。自分が強くならないとと思っている事は誰にも言っていなかったが薄々勘づいていた綾乃や小冬から聞いたと考えたが、強くなりたいが為に力を得た事まで見透かされていた事に動揺した。そんな自分の両手を重ねて優しく握り
「分かるよ、私も京也くんと同じでどんな事をしてでも強くなりたかった…同じ事を繰り返さない為にね」
浜辺から見える巨大な海を眺める彼女の横顔を見て京也は今日一日言い出せなかった事を口にする。
「先輩の…弟子にしてください」
「えっ!?」
(んんんん!?)
二人の近くの小岩から盗撮・盗聴していた小冬は驚きのあまり声を出してしまいそうになり口を抑えた。
「え…えっと…私の、だよね?」
流石の玖由も動揺しているのか京也に聞き返す。
「はい」
そう力強く京也は答えた。