16話 Memory VI
「っ……」
朝日で目を覚ました玖由はいつもの様に起き上がろうとするが思うように動かない身体に違和感を感じ昨日の出来事を思い出した。
「そうだったわね…」
足を引きずりながら部屋を出る。
「玖由!大丈夫なの!?」
玖由の姿を見た蒼嵐は心配した表情で駆け寄る。
「動けるから問題ないわ」
「そう…」
「ふたりともおはよう」
そんな2人に後ろから結彩が声をかける。
「おはよう結彩」
手早に朝食を終え私服に着替えた玖由は京也の元に向かおうとするが身体が思うように動かない玖由は何度かバランスを崩し転けそうになる。それを素早く蒼嵐が受け止める。
「っ……」
「やっぱり良く無かったわね」
「これくらい大丈夫よ」
「大丈夫じゃないんだけどね…」
と蒼嵐はレントゲン写真を見せる。身体中の骨特に腕の足の骨に亀裂が入っていた。
「これが私の身体…」
「うん…だから無理はしたら駄目」
「……」
それでも大人しくしようとしない玖由を見て溜息をつき結彩に顔を向ける。
「結彩、お願いできる?」
「えっ!?」
ーーーーー
「ふぁぁぁ…」
玖由達の事が気になり寝不足の綾乃は大きなあくびをしていた。
「寝不足?」
家が壊されているため綾乃の家に泊まっていた小冬が尋ねる。
「うん…」
「ならまだ寝てても…」
「そうしたいんだけどねぇ」
そう呟いた時家のベルが鳴る。
「来たわね」
扉を開けると車椅子に座る玖由とそんな玖由を支える結彩の姿があった。
「その姿…大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないんだけど言う事を聞かなくて…」
「く、玖由らしいわね…ま…まぁ中に入って」
苦笑する綾乃と結彩に支えられながら部屋の中に入り椅子に座る。
「京也くんは?」
「兄さんはまだ部屋で寝てますよ」
「そう…昨日は無理をさせてしまったからね…」
「憐斗さん達は?」
「まだ帰って来てなかったわよ」
そう結彩が答える。
「なにか分かると良いんだけどね…」
「そうだ…!」
玖由の呟いた一言に小冬が思い出したように手を叩く。
「あの時兄さんと結彩さんが使った力は一体…」
その言葉に結彩はビクリと身体を震わせ自身の手を見る。
「私にも…分からなくて…」
申し訳なさそうに答える結彩。その姿をみて
「恐らくあの力だと思う…ツクヨミ…」
玖由が口を開きそう答える。
「ツクヨミ…?」
「正解」
「「っ…!」」
聞きなれない声に一同は声のした方を見る。そこに立っていたのは京也だった。しかしその声と口調は全くの別人だった。
「あなたは誰!?」
「ツクヨミさ」
「……ツクヨミの力は結彩だけが持っていたはず、なのにどうして…!」
「どうして?察しの良い玖由なら分かるでしょ?」
「まさか…記憶と肉体が分離してると言いたいの!?」
問いただすような口調で身を乗り出してしまった玖由は足の痛みに顔を顰めてしまう。
「正解教えてあげるわ、あのあとの事を」
そう答えツクヨミはその場の全員に自分の記憶を見せた。
ーーーーー
「ここは…」
果てしない暗闇の中に居た。ツクヨミは力を使おうとするがその力は消滅し使う事が出来なかった。
「よくもやってくれたわね…」
ツクヨミは悔しそうに呟き自身の身体の持ち主である結彩を恨む。
「悔し…そうで…なにより…よ…」
途切れ途切れの声でその恨めしい人物結彩の声が届いた。
「結彩っ!」
「あなたの…野望は…実現させない…わ…よ」
と結彩はツクヨミから身体を奪い返そうと意識の中に割り込む。
「何故…契約で抗えないはずなのに…っ!」
「契約…笑わせないで…そんなもの無かった…でしょうがっ!」
「……っ!?」
目の前に現れた同じ姿をした結彩が現れる。
「この空間だとこんな事が出来るのね、やっと解放されたわ」
自分の身体の調子を確かめるように動かしながら結彩はツクヨミを見る。
(ヘルは何処に…)
「あーあいつならどっかにやったわ」
「何処にっ!」
「知らないわ、それぐらい聞かなくても分かるでしょ」
「そう見たいね、お互い考えている事が分かるのね」
「そろそろ私と話すのも飽きたわ」
「奇遇ね私もよ」
「「決着を付けましょうか」」
お互いの声が重なりそれを合図に二人は距離を詰める。ツクヨミの拳を受け流し結彩の拳がツクヨミの腹部に向かう。それをツクヨミは受け止めた。
「やるじゃないっ!」
とツクヨミが膝を突き出すがすかさず結彩は両手を離し距離を置く。しかしその距離をツクヨミは詰め再び拳を突き出す。その拳を受け止めようとするがそれを読んだツクヨミは一瞬拳を引きタイミングをずらす。その行動すら読んでいた結彩はツクヨミの拳を無視し頭を突き出す。
「なにっ!?…くぁっ!」
頭突きを受けたツクヨミは頭を抑え結彩を睨む。
「っ〜!さ…さすがにこれは読め無かったようね」
同じように頭をさする結彩は不敵な笑みを向ける。その表情がツクヨミの感情を逆撫でる。
素早く結彩はツクヨミとの距離を詰め拳を振りかざす。
「お前の動きなんて…読めない!?」
拳より先に肘がツクヨミに命中し吹き飛ぶ。
「どうして…!」
「簡単なこと何も考えなければいいだけよ!」
「……して…どう…して、どうしてどうしてどうして!この私がこんな奴にっ!」
発狂に近い叫び声を上げながら結彩に向けてて手をかざす。すると衝撃波が結彩を打ち付ける。
「かはっ…」
腹部に感じた痛みと吐き気に結彩は口を抑え耐える。
「今のは…」
「こうなればお前を永遠にさまよわせてやる!」
右手に力を収縮させ結彩に突き出す。
「ここは永遠に続く次元、壁も何も止める物はない」
「吹き飛ばされたら永遠に彷徨うわけかっ!」
力の収縮体を押し付けられる直前ツクヨミの身体を掴む。
「ぐっ!?」
「なにっ!?」
「あなたも…道ずれに決まってるでしょ!」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!」
ツクヨミは結彩の頭を掴む。
「「はぁぁぁぁぁっ!!」」
次の瞬間二人の間の空間に亀裂が入る。
「なにっ!?」
「っ!?」
ツクヨミの身体が薄れ消滅する。結彩は亀裂に引き寄せられる。薄れる意識の中
(憐斗…)
と意識が消滅し亀裂に吸い込まれた。その後を追うようにツクヨミの意識も亀裂に飲み込まれる。
ーーーーー
「「っ!?」」
「今のが…私の…」
「そう分かったかしら、私の狙いはお前だ!」
ツクヨミは結彩を指差す。それを見て綾乃達は身構える。しかしツクヨミは何もせずため息を付く。
「けど、この子には私ですら制御出来ない力がある、今の私はこの事に興味があるの」
「制御できない力?」
「その力を支配するまではなにもしないでいてあげるわ、それじゃ」
「待てっ!」
と綾乃はツクヨミに飛びかかり押し倒す。しかしツクヨミの意識は消え京也の意識に戻る。
「な…何してるんだ…」
戸惑う京也の声を聞き綾乃は顔を赤く染め飛び跳ねるように下がる。
「ご、ご、ご、ごめん!」
「京也くん、身体なんともない?」
「えっ…あ、はい」
玖由の問いかけに状況が分から無い京也はきょとんとした表情で答える。
「良かった…」
安堵のため息を付き玖由は呟く。
(なるほど…良い事を思いついたわ)
綾乃達3人の姿を見て小冬はふふっと笑った。