11話 Memory Ⅰ
「おはよー」
「あぁ、綾乃おはよう」
次の日普段通りに登校する玖由に綾乃が声をかける。
「元気ないわね」
「昨日の整理がついてなくて」
「結彩さんの事ね…今は大丈夫なの?」
「えぇ…体調とかは問題ないのだけど」
玖由は昨夜の結彩を思い出す。
ーーーーー
玖由を見た結彩は不思議そうな表情を浮かべてこう言った。
「君は…誰…?」
「……覚えてない?」
表情は変わっていなかったが震えた口調で玖由は問いかける。
「ごめんね…なにも覚えて無くて…」
「謝らなくて良いよ…」
寂しそうな表情で謝る結彩を見たくなかったのか目を逸らしてそう言い放った。
ーーーーー
(やっぱりあの時の事が…)
ふと視線を下に向けると右手に痛々しく巻かれた包帯が目に入る。
「右手…大丈夫?」
「動かせないのは不便だけど問題ないわ」
(問題ない…の?)
そう思いながらも綾乃は
「なら良かったわ」
と答える。
「はぁ……」
玖由はため息をつく。
「そう言えば今日は京也くんは一緒じゃないのね」
「家に行ったけど居なかったみたいだからてっきり学校に居るのかと思ったのだけど…」
「居ないみたいね」
玖由はふと不安な気持ちが過ぎる。
「綾乃…京也が心配なら今すぐ京也の家に向かった方が良いわ」
口調は変わらないが冗談を言っていない玖由の言葉に疑問を持つ前に身体が動いた。
「分かった」
「こんなの綾乃に見せられないよな…」
鏡に映る赤い眼を見て京也は呟く。
(これが力に…)
その時階段を駆け上がる音が聞こえ次の瞬間勢い良く扉が開く。
「京也!」
「な…なんで入って来てんだよ!」
「合鍵つくったから」
「いつの間に…」
呆れたように呟き視線を合わせないように目を逸らす。
「どうしたの?」
「なんでもない、はやく学校いけよ」
その言葉を聞き綾乃はまるで自分の部屋に居るように椅子に腰を掛ける。
「私も学校休むわ」
「本気なのか…」
「私は冗談なんて言わないよ~」
といつもの口調で答える綾乃
「そうか、休むのも気分転換になって良いんじゃないか」
京也は右目を抑えながら答える。
「嘘」
京也の言葉を綾乃は否定する。
「京也は私に休んで欲しくないのよね、最近、私も少しだけど人の心が分かるようになってきたの…」
「玖由さんの影響で?」
「…そうね」
目標としてライバルとして誰よりも玖由を見てきた綾乃だからこそ得られた才能だと京也は感じた。
「っ!?」
気配を感じた京也は綾乃を抱き上げ窓をから飛び出す。窓ガラスを割り飛び出した京也は地上からこちらを見る集団が視界に入る。
(アイツらが…!)
慌てて銃口を向けた集団に向けて手をかざす。
すると銃口が曲がり使い物にならなくなる。
「その目は…」
京也の目の変化に驚く表情を見ないように目を逸らし、眼下の集団に再び手をかざすと結晶がそれらの身体に現れる。
悲鳴を上げもがく姿を見て綾乃は止める。
「殺したら駄目!」
「でもアイツらは!」
「どんな奴でも殺したら駄目、後悔するわよ!」
「…分かった」
手をそらすと結晶が消滅し結晶がまとわりついていた者達は気を失い倒れる。その隙に京也達は姿を消した。
ーーーーー
「……っ…」
「結彩…!」
意識を取り戻した結彩に呼びかける憐斗を見て、大和は部屋から出ようとする。しかし何かが向かってくる気配を感じ素早く武装を纏う。それと同時に武装した集団が部屋に押し入ろうとする。しかしそれを大和は砲塔を突き出し動きを止める。
「それ以上動いたらどうなるかな?」
しかし大和を押しのけ2人に近づくが次の瞬間、武装集団を巨大な結晶が包み一瞬で生命を奪い結晶が砕ける。
「…つぎは…ない…よ」
奪った生命を武装集団に返し息を吹き返す。1度死を体験した者達は悲鳴を上げながらその場から逃げ出していく。
「結彩っ…」
憐斗は結彩を抱きしめる。結彩は表情を変える事無く
「きみ…は…」
と問いかける。
「やっぱり覚えていないか…」
どこか覚えているのではないかと淡い期待を抱いていた憐斗は結彩の言葉に悔しさを感じた。しかしそんな憐斗の頭を結彩は優しく撫でる。
「…おぼえていない…けど…きみの…かなしむかおはみたくない…かな」
「何でだよ…!どうして優しさだけは結彩と同じなんだよ…!」
「………」
憐斗の言葉を理解出来なかった結彩は戸惑いながら手を離す。
「すまない…」
憐斗は謝り部屋を出ていく。大和は憐斗を追うべきか再び襲ってくる者達がいる可能性を考え留まるべきか迷っていた。
しかし先程の結彩の力なら大丈夫だと判断し憐斗の後を追った。
「なんで、あのことばを…」
1人となった結彩はそう呟き窓の外を眺めた。
(居た…)
大和は木にもたれ掛かり座っていた憐斗を見つけ駆け寄る。
「なぁ大和…俺はどうしたらいいかな…」
「えっ…?」
今まで憐斗は自分のやるべき事だけは人に頼る事をしない様に心掛けていた。その憐斗が他人にどうするべきかを問いかけた事に大和は戸惑う。
「どうするも結彩の記憶を戻すようにするしかないんじゃないか?」
「それがどうすればいいからこうなってるんだ」
「思いつく事は全てやる最初ダメなら次、次がダメならまた次に…それが憐斗のやり方だっただろ!」
「っ……」
「憐斗の為なら私はなんでもしてやる!だから…」
と大和は憐斗に飛び付き
「諦める姿を見せないでくれ…」
「大和…」
大和の服を掴む力が強くなるのを感じ憐斗は決意する。
「そうだな、やるだけやってみるか」
憐斗と大和はお互い笑みを向けあった。
その姿を遠くから見ていた結彩は自分の頭に触れ
「わたしの…きおく…」