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9.メニーとの文通

 メニーがアリゼラッテ家に遊びに来てから約半年。

 再開の約束こそ叶っていないが、私とメニーは頻繁に手紙のやり取りを行っていた。

 頻繁にと言っても、メールのように一瞬で届くわけではないので、返事が返ってくるまで時間がかかるので、手紙自体は5通にも満たないのだが、手紙が届くまでの時間を考えると頻繁と言っても差し支えないだろう。


 その内容は主にお互いの近況報告だったり、また会いたいという内容だったり、他愛のない雑談だったりと様々だ。


 手紙のやり取りをはじめてわかったことは、私が今住んでいるアリゼ領とメニーが住んでいるメロ州との間で意外と距離があると言うことだ。

 実際問題、手紙を出してから返ってくるまでに二ヶ月弱はかかる。ということは、手紙が向こうに届くまでに一か月近い時間がかかっていると言うことだ。


 その事も踏まえると、私がそう易々と彼女のところに遊びに行くということはできないと考えて間違いないだろう。もう少し経ったら、改めて父親にメニーのいるメロ州へ遊びに行きたいと要望を出しに行くつもりだが、それが通るかも不透明だ。その理由としては、どういうわけが父親が私を家の外に出したがらないというのが大きい。


 生まれて、記憶にある限りで屋敷の外に出たのは片手で数えられるほどの回数しかない。それも、そのすべてはルナを洗脳して、外を見てみたいと頼んだ時だけで、屋敷の周りをぐるりと回ったときぐらいだ。

 領主の娘という立場上、あまり外に出られないのは納得できないこともないのだが、いくら何でもこれは出れなさすぎではないだろうか?


 こうなってくると、屋敷の周りに何かあるのではないかと疑いすら持ちたくなるが、ここまでやって来たメニーがなにも言わなかった辺り、なにか問題があると言う訳でもないはずだ。となると、単純に父親が過保護なだけであろうか? この調子では私がただの箱入り娘になってしまうのだが、そのあたりについてどう思っているのかぜひ聞いてみたいところである。


「はぁ……メロ州に行きたい」


 メニーから来た手紙を見ながら、私は小さくため息をつく。

 最初こそ、相手は子供だからとばかり思っていたのだが、やはりこちらの世界で対等な立場の人間というのはとても貴重だということをひしひしと感じる。おそらく、学校生活が始まれば、学友として毎日のように顔を合わせるのだろうが、そうなるまでにまだ一年以上は見ておかないといけない。となると、どうしてもその前に会いたいなどと思ってしまうのだが、それはおかしな話ではないだろう。


 別にどこかの誰かのように幼女趣味があるわけではないのだが、どうしても彼女に会いたい。その一心で父親に連夜頼み込むもことごとく、遠いからという理由で却下される。


「ねぇメイドさん。何とかならないかな?」

「……そうですね。領主様の許可がないととしか……」


 サニーに解決方法を尋ねたところで、彼女は困ったような顔を浮かべて父親の許可が下りないと連れていけないというばかりだ。

 そうなると、今のところ定期的に届く彼女からの元気いっぱいな雰囲気がひしひしと伝わってくる手紙を見て癒されるしかないようだ。


「はぁ会いたいな……」


 思わずそんな言葉が漏れてしまう。


「まっまぁそのうち会えますよ。ほら、また手紙を書きましょう?」


 そんな私を必死に励まそうとしているのか、サニーは手紙とインク、ペンを持ってきて私の前に差し出す。

 それにしてもだ。こちらの世界において、手紙というのはどういう立ち位置になっているのだろうか? 根本的な話として、幼少期(今も幼少期なのかもしれないが……)から文字を教えてもらっている私のような立場の人間ならともかく、一般庶民まで視点を広げると、やはり識字率が低いなんて言うことはあったりするのだろうか?


「ねぇメイドさん」

「何でしょうか?」

「この世界に文字がちゃんと読める人ってどのくらいいるの?」


 抱いた疑問はとりあえず口にするという私の主義にのっとって、そのあたりのことをサニーに尋ねてみる。


「文字が読める人ですか? そうですねーこの屋敷の人は大体読めると思いますよ。私たち使用人はここで雇われると同時にある程度の教育を受けますから。でも、屋敷の外の人はそうですね……あまり字は読めないのではないでしょうか? そういった文字を教育するような場はないですし、屋敷からの知らせなどは基本的に公示人が街中で読み上げますから……」


 彼女の言い方を考慮すると、この世界……は言い過ぎかもしれないが、すくなくとも私が住んでいるアリゼ領はあまり識字率が高くないらしい。もっとも、公示人という職業があるあたり、必ずしも文字が読めるということが必須というわけではないのだろうが……


「そうなんだ。じゃあ、こーじにんっていう人はみんな文字が読めるんだね」

「はい。そうですね。公示人以外にも商人なんかは文字が読める人が多いですよ」


 公示人と商人。確かにこの二つの職業は確実に字が読める必要がある。となると、それ以外の農民などは字が読める人が少ないということなのだろう。そのあたりのことも、無料で子供たちが学べるような学舎を造れば、ある程度改善することができるかもしれない。

 ただ、そうするにはお金を払わないで学校に通うのはおかしいというルナたちの常識を何とかするところから始めるべきなのだろうか?


「……どうかしましたか?」

「ううん。なんでも」


 どうやら、難しい顔でもしていたらしい。心配そうな表情を浮かべてこちらを見ているサニーに問題はないと伝え、私は手紙を書き始める。




 *




 親愛なるメニー・メロエッテさんへ


 お元気ですか? 私は元気です。

 近頃は秋も終りに近づいており、だんだんと寒くなってきています。

 お風邪などひかないようご自愛ください。


 さて、最近メイドのルナが夜中に歩き回るのをやめました。

 そもそも、なぜ彼女が夜中に歩き回っていたのか知りませんが、それがなくなったことにより、私の周りに平和が訪れたような気がします。


 そのほかにも屋敷の庭で紅葉した木々を見ながら食事会をしました。


 私とメイドのサニーと二人でやったのでとても楽しかったです。


 早くメニーのところに遊びに行きたいです。


 これからも元気でね。


 ターシャ・アリゼラッテ




 *




 私は書きあがった手紙を満足げに眺めてから、ふと考える。


 これでは手紙の内容が少し子供っぽくないのではないかと。ルナの話や紅葉を見ながらの食事会の話はともかくとして、はじめのあいさつが子供にしては少々硬すぎるような気もする。いや、しかし、手紙の書き方についてはある程度サニーから指南されているし、それを一生懸命まねして難しい文章を書き、背伸びした子供という印象を抱くことも可能だ。


 だがしかし。この文章を5歳同士の子供のやり取りで使っていいものだろうか? やはり、ここは“メニーちゃん元気にしてる?”ぐらいで済ませた方が無難かもしれない……いや、しかし、それでは領主の娘が出す手紙としてどうなのだろうか?


「……あのーターシャ様? また、手紙の内容で悩まれているのですか?」


 手紙を前にして頭を抱えているという状況を前にして心配になったのか、サニーから声がかかる。


「大丈夫。自分で考えるから大丈夫」


 とりあえず、今の手紙の状況を見られるわけにはいかない。そんな判断から私は必死にサニーが手紙を覗き込もうとするのを拒否する。


「まぁ相談に乗らなくてもよいのならいいですけれど……」


 その後、私の手紙は紆余曲折を経て、ある程度子供らしい手紙に改良されたうえでメニーのもとへ向けて発送されたのだった。

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