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73.シッチリ島脱出作戦(前編)

 脱出作戦を開始してから数日。

 島民を一人一人洗脳していって、これで何人目だろうか? 時には名前を引き出せずに失敗することもあったが、作戦は確実に前進している。


「……さて、そろそろかな」


 ある程度の人数は確保できた。そろそろ、作戦を実行に移してもいいだろう。


「クルミ。次の人に誘導してもらって部屋からでるよ」

「うん。わかった」


 前は昼食だったので、次は夕食が来るはずだ。となると、外は暗いはずなので、もしもの時は暗がりに紛れて逃げればいいだろう。


「本当に。大丈夫?」


 クルミが心配そうな表情で私を見る。


 私は彼女の頭にてをおいて、安心できるようにゆっくりと撫でる。


「うん。大丈夫だよ」

「そう。なら、信じる」


 本当に安全を考えるなら、島のすべてを支配下におくべきだろう。

 しかし、私たちの世話をする人間はある程度決まっているだろうし、全員の名前など覚えきらないので、このぐらいでちょうどいいかもしれない。


「来るよ」


 クルミが島民の来訪を告げる。


「うん。わかった」


 名前の知っている人なら手間が省ける。そう考えながら、私は扉の方へと視線を送る。


 それから少し間をおいて、扉が開かれると、二人の女性……エマとレミーが姿を現す。


「夕食だよ」

「ありがとう。ところで、エマ。レミー私たちを外に案内してくれる?」

「……はい」


 夕食を食べても良かったのだが、あまり時間がかかると怪しまれる。そんな考えから、私は夕食を諦めてエマたちにお願いをする。


「こっちよ」


 エマは夕食の盆を近くに置くと、扉の方へと二人を誘導する。

 私たちは慎重に扉の方へと近づくと、そのままゆっくりと通り抜ける。どうやら、この扉自体には内側から空かない以外の仕掛けはなさそうだ。


 こうして、ようやく外の通路に出ることのできた私たちは通路を通じて教会に出る。


「……エマ。レミー。私たちをなるべく目立たないように、集落から離れたところに案内して」

「はい」


 無事に部屋の外に出ても、他の島民に発見されては意味がない。本当の勝負はこれからだともいるだろう。


 シッチリ島からの脱出手段として考えられるのは三つ。

 船を拝借して脱出するか、いかだを作るか、私がクルミを担いで泳いで逃げるかの三択だ。


 私としては、二番目の案を押したいところだが、近くに島があるなら三番目の手もありだろう。一番目については、いろいろと申し訳ないし、魔力を使った船の操作法などわからないので却下だ。


 というころで、私がとった選択はまず、目立たないところに移動するというものだ。


 いかだを作るにしても、泳いで逃げるにしても島の中で見つかってしまっては意味がないし、なによりも、私のもうひとつの目的のためにはその方が都合がいい。


 教会を出た私たちは周囲に気を配りながら、移動していく。

 幸いにも教会は集落から少し離れたところにあるため、人に見つかることなく森の中に入ることが出来た。


「ここでいいよ。村長を連れてきて。必ず、村長が一人で来るようにしてね」


 ある程度森の中に入ったところで、私は次のお願いをする。

 島から出るだけなら必要のないことだし、それなりにリスクもあるが、私の目的をすべて達成するためには必要なことだ。


「どうして、村長を?」


 私の行動が不可解に写っているであろうクルミが首をかしげる。


「……必要なことだからよ。村長が役に立つかは別として」


 その疑問にたいして、私は簡単に答える。といっても、何をするか間では間だ話さないのだが……


 そのあとは、しばらく会話はなかったのだが、唐突にクルミが口を開く。


「……そういえば……」


 クルミはキョロキョロと周りを見る。そのしぐさがかわいくて、なんというか、抱き締めたくなるが、そこはグッと押さえる。


「外の世界って、こんなにたくさんの、音があって、明るいんだね」


 今は夜で、ここは森で、灯りと言えば木々の間から差す月明かりぐらいだが、それでもあの薄暗い部屋で過ごしていた彼女にとっては明るい世界ということになるらしい。


「これで明るいっていっていたら、昼間は眩しくて目を開けられないかもよ」

「昼、昼は、そんなに明るいの?」

「えぇ。とっても」


 灯りだけではない。私よりも耳がいい彼女にはいろいろな音が聞こえていることだろう。


 私はそんな彼女の姿を笑顔で見つめる。


「……私の顔、何かついてる?」

「そうじゃなくて……なんというかな。幸せそうでかわいいなって思って」

「そう。なんだ」


 クルミは私の方を向いてから、顔をグッと近づける。


「だったら、私と……お楽しみとか。する? 本でしか、見たこと、ないけど」

「……嫌な予感がするから遠慮しておくわ。というか、あそこにおいてある本も問題かもしれないけれど、あなたは恥じらいというか、羞恥心をちゃんと持った方が……」

「……それは、一応あるよ? でも、ターシャなら何をされても平気な気がする」


 私の言葉を切って、発言をしたクルミはまっすぐと私の目を見ている。


「……出会って数日なのに?」

「うん。なんかね。ターシャといると安心する。だから、何をされても平気……だよ? ターシャの望む、ことなら……頑張る」


 クルミの顔がさらに近くなる。


 私はそんな彼女を押し退けて、小さくため息をつく。

 どうして、出会って数日の少女にここまで信頼されているのだろうか? 脱出に疑い無くついてきてくれたことはありがたいが、望むことをなんでもするというのは少々行きすぎている。


「クルミ。そういうのは私みたいな人間に言うべき言葉じゃないわ」


 なによりも、私がそれほどまでの信頼を受け止めきれる自信がない。だからこそ、彼女を傷つけてもいいというぐらいの覚悟をもって、拒絶をする。


 おそらく、彼女からしたらはじめて出来た()()だから、盲目的になっているのだ。だとしたら、この場の勢いで何かをやってしまうと、後で彼女は後悔することになるかもしれない。


「……ターシャは。私のこと、きらい?」

「そんなことはないわよ。ないから、そういっているの」


 私が懸命に彼女を説得していると、クルミの耳がぴくぴくと動く。


「……誰か。来る」

「うん。わかった」


 一応、来たのが村長ではなかった場合を考えて、私たちはいったんやぶの中に隠れる。そして、隠れたところで考える。そういえば、私は村長の顔を知らない。つまり、着た人物が村長かどうか確かめるすべがない。


 そう考えながらも、私は恐る恐る顔を出す。


「出てこい。わしが、村長のオルだ。出てこい小娘ども」


 すると、見えてきたのはものすごく偉そうな態度をしているオルと名乗る人物だ。


「オル。三回回って」


 一応、本人かどうか確かめるために茂みに隠れたまま、洗脳の魔法をかけてみる。

 すると、彼は素直に三回回る。どうやら、本人らしい。


「こんにちわ。村長さん」


 それを確認した私はクルミを引き連れて茂みから出る。


「お前がターシャか。その小娘を連れ出した上に、わしをこんなところに呼びつけるなどどんなつもりだ」

「それはこっちの質問よ。あなたはこの娘を……クルミをどういった心情から監禁しているのかしら?」

「そんなものお前みたいなガキに教えるか。とっとと教会の地下に戻れ」

「……はぁせっかく、おとなしく質問してあげているのに……だったら、アリゼ領の領主の娘であるこの私、ターシャ・アリゼラッテの名において、あなたから真実を聞き出させてもらうわ」


 名乗った後、私はにやりと口角を上げる。


 そんな私を前にして、オルは明らかに動揺したような様子を見せる。


「アリゼ領主の娘? そんなはったりなど……」

「はったりかどうかはこれからわかることよ。そういうわけだから、オル。私たちが島を出て、一日が経過するまで私の言う通りにしなさい」


 明らかに動揺するオルに私はゆっくりとした口調でそう告げた。

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