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64.シチリの海岸

「海だー!」


 シチリの街の乗合馬車乗り場から歩いて大体二十分。


 帝都魔法学校シチリ合宿場に荷物を置いた私たちはさっそく着替えをして学校の施設のプライベートビーチに来ていた。

 かわいい系の水着を着る勇気のなかった私は、スクール水着のような形をした紺色の水着(しかも胸元にはきっちりと自分の名前入り)に身を包み、海に向けて走っていく。


「なんだかんだ言って元気ですね。ターちゃん」


 そんな私を追いかけるのは、緑色を基調としたワンピース型の水着に身を包んだメニーとピンク色のビキニに身を包んだサントルだ。


「本当ですね。馬車の中でターシャ様が読書を始めたときは関心がないのかと思いましたが……」

「まぁターちゃんが一番楽しみにしていましたし、予想通りの展開ですけれど」


 後ろの方から何やら聞こえてくるが、私は気にせずに海へ向けて走り続ける……不老不死になる以前だったら、海岸にたどり着くよりも前にばてていただろうが、この状態になってからは体は常に最善の状態に保たれるため、体力が尽きて走れなくなるなどといったことはなくなった。そういった意味ではこの体に感謝するべきだろう。どうせ、すぐにこの体になったことを恨むのだろうが……


 そんなことはさておいて、海に到達した私はそのままの勢いで海に入る。


 正直な話、海に行ったら試してみたかったことがある。


 それは、海の中での活動についてだ。


 一応、あの後何回かに分けてメリーから必要最低限の情報を引き出したのだが、それによるとこの体は基本的には何があっても最良の状態を保ち続けるようになっているらしい。


 体が常に最善を保ち続けるという状況の中で海に潜るとどうなるのだろうか? これが今回検証したい一番の疑問である。

 それぐらい別に海でやらなくても、部屋の風呂でやればいい話かもしれないが、風呂はあまり大きさがない上に普段はメニーと向かい合う形で入っているので、目を開けてそのまま潜り続けるというのは、いろいろと見えそうで、なんだか恥ずかしいものがある。


 そこで私は海の中でしばらく潜ってみるという選択肢をとることにしたのだ。

 幸いにも今回のメンバーは私が不老不死であるということを把握しているし、このプライベートビーチには一般人の影もない。実験をするにはもってこいの環境だ。


「メロンちゃん! サントル! エミリー先生! ちょっと潜ってくるね!」


 私は水位が腰ぐらいまでのところまで走っていくと、みんなを心配させないようにこれから潜ると宣言をした後にもう少し進んで海に潜る。

 海の中で目を開けてみると、透き通った水で周りが満たされていて、外が熱いせいか、少し暖かいというのが正直な感想だ。


 水の中には小魚が泳いでいたり、海藻が生えていたりして、海ならではの光景を作り出している。


 そんな風景をしばらく見続けているが、時々苦しくなってきたりはするのだが、それもすぐに解消される。


 そこまで確認したところで、私は海面に顔をだす。


「ターちゃん。どうでしたか? 海の中は」

「うん。すごくきれいだった」

「そうなんですか。確かにここから海の底が見えますからね」


 海の底が見えるほど透き通っている。確かに立った状態でも海の底まできれいに見えるが、潜ってみるのとはまた違った風景だ。

 海の深さとしては、小柄な方である私の腰ぐらいまでしかないので浅いといえば浅いのだが、それでも海の底まで見通せるというのは海がきれいな証拠ともいえる。


「……ターちゃん。こっち見てください」


 メニーに言われて声のした方を振り向くと、勢いよく水をかけられた。


「ひゃっ」


 突然の不意打ちに思わず変な声が出てしまう。


「やったわね!」


 笑っているメニーに対して、私はお返しといわんばかりに思い切り海水をかける。


 そこからは私とメニー、サントルの三人で水の掛け合いが始まり、しばらくの間それを続ける。


「ねぇターちゃん。今度は泳ぎの勝負をしましょうか」


 メニーが水をかける手を止めたかと思うと、そんな提案をしてくる。


「……いいよ。どこまで泳ぐ?」


 こちらの世界にきて、この体になってから泳いだことはないが、前世の知識を活用すれば泳げないことはないだろう。

 そう考えて、私はメニーの提案に応じる。


「プライベートビーチの端から端まで……サンちゃんは泳げますか?」

「私は泳げないので砂浜に上がって様子を見てますね」


 海に来るのは初めてだというだけあって、泳いだことのないらしいサントルは勝負を辞退して、砂浜で日光浴をしているエミリーの方へ向けて歩いていく。


 そんなサントルの姿を横目で見ながら、私たちはプライベートビーチの境界である網が張ってあるところまで行って二人で構える。


「……それじゃあ、()()()()()。泳ぎ方は問わないということで……」

「うん。それでいいよ」


 ここまで離れれば、サントルたちに聞こえないと思ったのだろう。メニーは胡桃として私に声をかける。

 それに応じるような形で私も陸人として返事をする。


 毎年、夏になると二人でプールに行って泳ぎの対決をしたものだ。今回はこの世界に生を受けてから初めて、それをすることになる。


「それじゃあ……よーい……どん!」


 メニーの合図で私とメニーは同時に泳ぎだす。

 プライベートビーチの幅はそこまで大きくなく、体感で50メートルほどだ。私は体力が尽きるといった心配がないため、最初から全力で泳ぎ始める。


 最初こそ、メニーはむきになって私を追いかけるが、やがて体力の限界が近づいてきたのか、徐々にペースを落としていく。


 そんな姿をチラチラと確認しながら、私はペースを落とさずに反対側の網にタッチをしてゴールをする。


 それから、かなり遅れて息を切らしたメニーがゴールする。


「……お兄ちゃん。早すぎ……体力ないんじゃんなかったの?」

「何か月前の話をしているのさ。今の私の体力は無限だよ」


 ゴールしてからの勝者としての言葉はターシャとして彼女に語り掛ける。


 私の言葉を聞いたメニーは小さくため息をつく。


「全く……その原因のせいで私の陰に隠れていたターちゃんはどこに行ってしまったのでしょうね」

「……どこだろうね。正直な話、今でも不安になることはあるけれど、私は今という大切な時間を楽しむって決めたからには楽しみつくすよ」

「そうですか。それならよかったです」


 メニーは小さく笑みを浮かべて私の方を見る。


 せっかく遊びに来たのだ。目一杯楽しまなければもったいない。


 この時間は私の長い人生においては、わずかな時間でしかないのかもしれないが、メニーたちと過ごせる時間は限られている。だからこそ、私は今という時をできる限り楽しんで過ごしたい。メニーとたくさんの思い出を作りたい。


 今回の小旅行もそんな思いからの企画だ。


「そろそろサンちゃんのところに戻って、みんなで遊べるようなことをしましょうか」

「うん。そうしようか」


 私としてはもう一戦ぐらいしてもよかったのだが、メニーの体力が限界を超えてしまう可能性もあるし、何よりも海で見守っているだけのサントルがさみしい思いをしてしまっては、一緒に遊びに来た意味がない。


「せっかくですから、ボールで遊ぶか……砂浜でお城でも作ってみますか?」

「うーん……そうだね。お城作ろうか」


 二人して、中身は高校生なのだが、まるで年相応の子供のような会話を交わしながら、私たちは砂浜へと戻った。

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