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7.初めての会食(後編)

 私とメニーの会食は比較的穏やかに進んだ。

 食事前の二人きりの会話でも特に問題はなく、普通に5歳児らしい(?)に心がけ、この世界における幼児期の遊びなどについて学ぶことができた。


「おいしいですね。ここの食事は」


 その後、始まった会食では主に肉料理が出され、メニーは満足げに食事をとっている様子がうかがえる。

 メロ州は海沿いにある州だとのことなので、おそらく食事は海鮮料理が中心なのだろう。そう考えると、彼女にとって肉料理というのはある意味で新鮮なのかもしれない。


「それにしても、お肉を使った料理がここまでおいしいとは。文化が違うと食事も違うのですね」

「……メロ州は肉料理はあまりないの?」

「そうですね。お魚を使った料理がどうしても多くなってしまいますね。たしかにメロ州にも山はありますが、狩猟を生業としている人よりも漁業を生業としている人の方が多いので」

「そうなんだ……」


 それにしても、彼女は本当に自分と同じ5歳児なのだろうか? 別段、彼女の見た目はまさしく5歳児そのものなのだが、言動が少し大人びすぎているような気もする。それに関してはあまり人のことは言えないのかもしれないが、それもこれも、ちゃんとした教養があるゆえなのだろうか? いや、教養があるにしても少し語りすぎているような気もする。


「メニーさんはどこかでそういったことをお勉強されているのですか?」

「お勉強なんて……ただ、興味のあることを周囲の使用人に聞いているだけですわ」


 なるほど。彼女自身の興味とその周辺にいる優秀なメイドが彼女の頭の良さの理由らしい。


 そこまで考えて、ターシャは自分の歴代の専属メイド……というか、ルナとサニーの顔を思う浮かべ、心の中で小さくため息をつく。いや、サニーに関してはまだいいだろう。ちょっと、気が利かなかったり、勘違いが多かったりするが、仕事はちゃんとするし、すくなくとも変態ではない。変態じゃ……ないよね。


 ルナがまじめな顔をして、変態的な日記を残していたという事実はいまだに私の中で深い傷跡となって残っているらしい。いっそのこと、今度サニーを洗脳して、そのあたりについて問いただしてみるのもありなのかもしれない……いや、そんなことをしたらまたいらない真実を知ってしまう可能性が……


「どうかしましたか?」


 しまった。来客中だということをすっかりと忘れていた。


「いっいえ……その、少し考え事を……」


 来客中にもかかわらず、考え事にふけってしまったことを反省しつつ、正直に答えてみると、メニーはくすくすと笑い声をあげる。


「そんなに魚料理が食べたければ、今度こちらにご招待しますよ」


 どうやら、考え事をしていた理由については、メニーが勝手に勘違いしてくれたらしい。まぁ最も、考え込んでいたタイミングからして食事について考えていたと思われるのはある意味で自然かもしれない。


「はい。その時はぜひ、お願いいたします」


 一応、そのことについて考えていたということにして、この話は終結へと持っていく。もし、これ以上突っ込まれて自分の専属メイドが不出来だと知られてはいい思いがしないからだ。


 その後も食事中は、時々給仕係が料理をもって時々出入りするだけで基本的には二人きりだった。そこでも大した問題は起こらず、デザートが出て、食べ終わっても会食は問題なく進行していた。

 問題が起こったのは、食事が終わってからだ。


「ターシャさんは洗脳の魔法を使うのですよね」


 きっかけはメニーが発したこの一言だ。

 その時点で私は嫌な予感がしていていたのだが、残念ながらそれは的中してしまう。


「ねぇ、私にその魔法をかけてくださらない? 私、洗脳されるとどうなるか気になっていたの」

「……やめておいた方がいいよ。そもそも、洗脳されている間のことは覚えていないし」


 興味本位でせがまれたからといって洗脳の魔法をかけて、あとからいろいろと問題になったらたまらない。そんな感情から私はメニーからの頼みを退ける。誰だって、今日知り合ったばかりの人間……それも、ほかの州の州長の娘に魔法などかけて、あとから面倒なことが怒ったらいやだからだ。


 そもそも、こうやって申し出るほうも申し出るほうだ。


 自分の立場が分かっているのだろうか? ここで仮に私が彼女を洗脳し、メロ州にとって不利益になるようなことを命令する可能性もあるのだ。いや、それは考えすぎだろうか? 相手は子供、自分も一応子供だ。それにメニーは先の食事中の話でも見せたように好奇心旺盛な性格だから、本当に興味本位だけでそういいだしているのかもしれない。


「ねぇお願いだからかけて!」


 そんな風に分析をしている間にもメニーは私に洗脳の魔法をかけてほしいと詰め寄ってくる。それほどまでに彼女にとって洗脳されるというのは魅力的なのだろか?


「だから、やめておいた方がいいって。どうせ、洗脳されている間のことなんて覚えていないんだから」

「それでも! それでもですよ! 私は体験してみたいの!」


 もはや、子供のわがままである。子供だから、したかないのかもしれないが……というか、さっきまでのちゃんとした敬語はどこへ消えてしまったのだろうか? さっきまでネコをかぶっていて、これが本省だということは言われるまでもなく理解できるが、せめてネコをかぶるなら最後までちゃんとやってほしいものだ。


「とにかく! ダメなものはダメですから!」

「ダメじゃないもん! ちょっとだけならいいでしょ! ちょっとだけなら! ちょっとって言っても、起きたときにわかるやつにしてよ!」


 ダメだ。この調子だと彼女が引き下がることはないように見える。

 瞳に涙まで浮かべて、魔法をかけてほしいと懇願するメニーを前にして、私の心は折れかかっていた。外交とか何も知らない。自分も子供、相手も子供だ。もし、あとから怒られることになったとしても、とりあえず今のこの状況を乗り切れればいいのではないかと……


「あぁもうわかりました! やりますから! やるからそれ以上やめて!」


 ついに言ってしまった。ついに完全にこちらが折れてしまった。


「本当! ありがとうございます!」


 こちらがやるといった瞬間にメニーは満面の笑みを浮かべる。もしかしたら、先ほどの涙は演技だったのではないかとすら思えてきたが、相手は子供だ。ちょっと感情が豊かで切り替わりが激しいだけなのかもしれない。


 いずれにしても、やるといってしまったからには後には引けない。何とかして、簡単かつばれずにすぐに終わる洗脳の魔法をかけなければならない。


 まず、洗脳状態の彼女を外に出すのは危険だ。あの虚ろな目で外に出られた暁には彼女が洗脳されたのだと周囲にばれてしまう。

 続いて、時間がかかってはいけない。あまりにも時間をかけていると、途中で誰かが入ってきて、目撃される可能性がある。


「あっそうだ」


 そこまで考えて、私はある可能性に気が付く。


 もしかしたら、“普段通りのあなたでいて”と付け加えてみたら、あの虚ろな目にならないのではないだろうか?

 もしそうだとしたら、途中で目撃されたとしても何とかごまかしがきく。


 そうと決まれば、続いて洗脳して命令する内容だ。普通の命令では彼女は満足しないだろう。洗脳される前と後で明らかな違いがなければ彼女はきっと満足しない。

 いや、そこに関しては部屋の端から端まで歩いてぐらいでいいかもしれない。


 そこまで考えて、私は改めてメニーに向き直った。


「洗脳する内容決めたよ。準備はいい?」


 私が聞くと、メニーは小さくうなづいた。

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