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57.メリーの部屋での話

 夜。

 バイトを終えて帰った私はどういうわけかメニーとともにメリーの部屋に向かっていた。


「ねぇメロンちゃん。どうして、メリーの部屋に行くの? それも、こんな時間帯に」

「こんな時間帯だからいいんですよ。ほら、黙ってついてきてください。見つかったら大変ですから」


 見つかったら大変だからというぐらいなら、消灯時間のあとに出なければいいのに。こんな時間帯に私たちが訪れたらメリーも迷惑するはずだ。

 私としてはそのあたりについてじっくりと尋ねてみたいところだったが、ここで話をして見回りをしている人に見つかるようなことがあれば大問題だ。


 注意をされるぐらいならいいかもしれないが、下手をしたら何かしらの処分が下される可能性も否定できない。


 そんなリスクを背負っているというのにメニーは、ほとんど隠れることなく堂々と廊下を進んでいく。


「ねぇ大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。多分先生には見つかりませんし、メリーさんが私たちを追い返すこともないはずですから」


 その自信はどこから来るのかと聞きたいところだが、メニーが大丈夫だというのなら、何かしらの根拠があるはずなのでそれに従うほかないだろう。


 しばらくの間、緊張の時間が続き、私たちはようやくメリーの部屋の前に到着する。


「メリーさん。今、いいかしら?」


 メニーは周りを少し見まわしてから、少しだけ大きい声を出して部屋の扉をたたく。


「……メニーさんですか? どうぞ。入ってください」


 少しだけ時間をおいてから返事が返ってくると、メニーは部屋のドアノブに手をかけて扉を開く。

 まず最初にメニーが入り、それに続いて私が入っていくと、メリーは少々驚いたような表情を浮かべる。


「これはこれは。メニーさんだけではなくターシャさんも一緒でしたか。ちょうどよかった」

「ちょうどよかった……というと?」

「ちょうどターシャさんと話がしたかったんですよ。どうぞどうぞ、二人ともそこに座ってください」


 部屋に入るなり、私たちはメリーに促されるような形で席に座る。


「ちょっと待ってくださいね……あぁそうだ。そこの棚から適当に紅茶でも引っ張り出して飲んでいてください。私はちょっとやることがありますので」


 そういってから、メリーは先日買った聖書を片手に何やらぶつぶつと唱え始める。


「ですって。一緒に選びましょう」


 選ぶというからにはいくつか種類があるのだろう。

 そう考えて、私はメニーとともにメリーが指さした棚を見る。


 そこには各地から集められたと思われる様々な銘柄の紅茶がおかれていて、どれを選ぶのか迷うところだ。


 そんな中で横の棚、横の棚と順番に見ていくと、一つだけビンに入っている紅茶が視界に入る。


「なんだろ」

「紅茶の棚にありますし、紅茶なんじゃないですか?」

「……でも、これだけ銘柄書いてないよね……うーん。でも、まぁすぐに飲めそうだし、これにしようかな」

「そうですか。でしたら、私は前に飲みやすかったやつを探しますね」

「うん」


 紅茶が入っているビンを手に取ると、それを容器に移して持っていく。今、淹れたわけではないので常温なのが残念だが、電子レンジ等々があるわけでもないので我慢するしかない。


「決まりましたか?」


 聖書を読み終えたらしいメリーから声がかかったのはちょうどそんなタイミングだ。


「えぇ私は」

「メリーさん。前に私が飲ませてもらった紅茶ってどこにありますか?」

「あぁそれなら、一番右の棚に入ってますよ」

「ありがとうございます」


 メニーが礼をいって離れていくのを横目で見ながら、私は席に戻る。


「あぁお湯は棚の横にあるポットに入っているので使ってくださいね。温度が足りないと思ったら、その横にあるの魔術式温度調整機も使っていいですよ」

「魔術式温度調整機?」

「物を暖めたり、冷たくしたり出来るんですよ。ある人にもらったんです。中に入れて、その横にあるつまみを回すと使えるので、使ってみてください」


 元の世界でいうところの電子レンジというところか。いや、冷やすことも出来るならもっと便利だといえるだろう。


 私はカップに移した紅茶をその機械に入れて、温めると書いてある方につまみを回す。


 透明になっている扉を覗きこむと、中がオレンジ色の光で包まれているのが確認できる。おそらく、温めているという合図なのだろう。


 中の様子を見ていて、湯気が出てきたところで私はつまみを元のところに戻して機械を止める。


 その横では目的の銘柄の紅茶を見つけたらしいメニーがポットのお湯を注いでいた。

 メニーの紅茶が出来るのを待って、席に戻ると、メリーが紅茶が入っている棚とは別の方にある戸棚からお茶菓子をもって来るところだった。


「お待たせしました。あぁターシャさんは使ったんですね」

「えぇ。使ってみたくなって」


 別に私としては常温でも良かったのだが、せっかくだから使ってみたくなったのだ。


「それではいただきます」

「いただきまーす」

「どうぞ」


 私とメニーはほぼ同時に紅茶を飲み始める。


「……うーん。なんか独特の味」


 なんだか私がイメージしている紅茶の味とは違う。それが正直な感想だ。

 苦いわけでもなく、甘いわけでもない。匂いはないし、なんというか、無味無臭の出がらしのような感じだ。


 あれは紅茶を保存していたビンではなく、抽出に失敗した紅茶を入れていたビンだったのかもしれない。


 不味いなと思いながらも、もったいないので私は少しずつ紅茶を飲んでいく。


「それにしても、すごい紅茶の数ですね」


 無味無臭の紅茶に四苦八苦する私の横で、メニーはお茶菓子をつまみながら、メリーに話しかける。


「えぇ。まぁ……それで? この時間に来た理由は何ですか? まぁターシャさんまで連れているあたり、何となく理由はわかりますけれど」

「えっ? 私だけ状況がつかめないんだけど」


 この時間に私を連れてここに来た意味に何があるのだろうか? この三人の中で私だけが完全に取り残されているような形だ。


「はぁまぁ……いいでしょう。いつから記憶があるんですか? 有栖川陸人さん」

「えっ? どういうこと?」

「いいから答えてください」


 なぜ、メリーが私の前世のことを知っているのだろうか? メニーが私の友達に勝手にバラすなんてことはなさそうだし、何よりも彼女が聞いている内容が引っかかる。なぜ、記憶があるかではなく、いきなりいつから記憶があるのかという質問なのだろうか?


「……5歳ぐらいの時からだけど……」


 いろいろと疑問は感じつつも、私は正直に答える。

 すると、返ってきたのは大きなため息だ。


「5歳……なるほど。私の監視下に入った時点で記憶があったわけですか……」

「えっと……どういうこと? 何の話?」

「……まぁちょっと話すと長くなるんですけれどね……」


 そこから、メリーは順を追って説明をしていく。


 メリーは光の神ルーチェの巫女であること、そして、有栖川胡桃は光の神ルーチェから使命を受けてこの世界にメニー・メロエッテとして生を受けたこと、意図はわからないながらも有栖川陸人もターシャ・アリゼラッテとしてこの世界に生を受けたこと、ターシャ・アリゼラッテは通常の転生の手続きを経ており、本来なら前世の記憶を持ち合わせていないはずだということ、そして、私たちに告げられた神託のこと……


「……なるほど。でも、そのルーチェ様は私と胡桃に神託を告げたんだよね。だったら、なんで私は前世の記憶がないはずだっていう話になるの?」

「……そこがよくわからないんですよね。まぁあなたの記憶に関してはルーチェ様に相談ですね。ついでにルーチェ様に面会ができるかどうかも聞いてみましょうか?」


 先ほどからルーチェと直接対話ができるかのようなことを言っているが、会えるかどうか交渉してみるというあたり、本当にそれができるのだろう。

 そんな彼女からされた提案は少し前なら魅力的なものだが、私は今はそうではないと首を横に振る。


「今はいいよ。とりあえず、私が前世の記憶を持っている理由はわかったわけだし」

「そうですか。わかりました。夜も遅いですし、この話はこれぐらいで……また、明日の夜あたりにルーチェ様と話した結果をお話ししますので、ご足労ですけれどこちらまで来てください」


 そういって、メリーは笑顔を浮かべる。


「うん。わかった。ありがとう。あとおやすみ」

「はい。おやすみなさい」


 私とメニーはそれぞれメリーとあいさつをした後、部屋を出ていく。


「……なるほど。世界の変革ねー」

「はい。といっても、何をしていいのかさっぱりですけれど……」


 メリーの部屋を出た後、私たちは少しだけ会話を交わしてから自分たちの部屋に戻り、眠りについた。

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