閑話 それぞれの休日、夜の話(サントル編)
「今日は楽しかったな」
サントルは自室のベッドに寝転がってつぶやく。
「ふん。田舎者と遊んで楽しいとは、レベルが低いことの証明みたいなものですわね」
そんな彼女のつぶやきに対して、わざわざ返事をしたのはサントルのルームメイトであるローラだ。
彼女はピンクのドレス風の寝間着に身を包み、いすに座って読書をしている。
「何を言っているのですか。私のような庶民がターシャ様のような方と遊べたのですから、それだけでも光栄です」
「ターシャ様ね……あのチンチクリンのどこがいいのだか」
「チンチクリンは言い過ぎではないですか? 私も、あなたも、ターシャ様も子供なんですから。それに、いくらターシャ様のことが気に入らないからといってやりすぎですよ。体育の授業はせめて参加しませんと……」
サントルの小言に対して、ローラは鼻を鳴らしてから返事をする。
「そんな配慮は無用ですわ。あなたはターシャなんかではなく、私に尽くす。それですべて解決しますわ」
「はいはい。そうやって、人のものを欲しがるのはよくありませんよ。そんなにやりたかったんですか? 新入生代表のあいさつ」
サントルの言葉に対して、ローラは無言で返す。
その行動こそが、彼女にとっては肯定の意を示すものだと若干ながら学習し始めたサントルは小さくため息をつく。
「……素直じゃありませんね」
「……私に素直など不要ですわ」
サントルは素直になれないローラを見て笑うが、ローラはどこか不機嫌そうに眉を潜める。
「どこがおかしいんですの?」
「だって、素直に新入生の代表をしたかったで言うだけですよ。それを指摘されただけですねすぎですよ」
「何をいってますの! 私は!」
「はいはい。わかってますよ」
どうせ、そんなことはないだとかそう言うことをいって否定するのだろう。それぐらいのこともわかっている。たった数日の付き合いのはずなのに、サントルは徐々にローラ・グローリエという人物のことがわかってきたような気がしてきていた。
そして、同時に自分が心底慕っているターシャ・アリゼラッテのことを自分と同じように慕ってくれるのではないか。という期待すら持っている。
しかし、新入生の代表という、彼女から見れば輝いている場所を取られてしまったという謎の嫉妬心がローラの中で燻っているのだろう。だからこそ、ローラはターシャに対して、敵対心を持ち、田舎者呼ばわりして彼女を怒らせ、戦おうとしているのだ。もっとも、当のターシャはローラの言葉を軽く受け流し、そういったものに応じる気配はまったくないのだが……
それに、仮にではあるが新入生代表のあいさつが、ローラの手によって行われたら、サントルがターシャに近づくことはなかっだろう。おそらく、ルームメイトのローラに着いていっていたかもしれない。
別に家柄がどうとかで、友達を決めることはないのだが、今後の学校生活において、集まるであろう同級生の中心になり得る人物。それこそが、サントルが着いていくべきだと思っている人間だ。
「サントル」
「何ですか?」
「いや、やっぱりなんでもありせんわ」
「……そうですか。暇でしたら、明日買い物でも行きますか? 二人で」
サントルが買い物に誘うと、ローラを目を輝かせる。その様子を見て、サントルはターシャたちと買い物に行った私のことを羨ましいと思っていたんだな。と考える。
本当にローラは素直ではない。
もっと素直になれれば、取り巻きではなく、本当の意味での友人ができるはずなのに。
その事を指摘しようかとも考えたが、指摘したところで彼女が素直に聞き入れるとは思えないので、その言葉は心の中に仕舞いこんでおく。
「さて、さっそく計画を立てましょうか」
サントルは今日商店街に行ってきたばかりなので、行った店なら、どこにあったかなんとなく覚えているし、服屋でもらった地図も手元にある。
サントルはローラの前に地図を広げて、商店街について説明をし始める。
「最初に私たちが集合した広場を起点にして、一本道がありまして、その両側にお店が並んでいます。一番奥が教会ですね」
「教会まであるんですね」
「はい。光の神様であるルーチェ様の教会だそうです」
「光の神様……」
どうやら、ローラは教会に興味があるようだ。だからといって、彼女が素直に行きたいということはないだろう。
「せっかくですから、行ってみますか? 朝は早くなりますけれど」
「いいですわ。あなたが行きたいのなら行きますわよ」
素直じゃないな。サントルはつくづく思う。
そこからは、素直になれないローラの意向を上手に引き出しながら計画を組み立てていく。
別に教会に最初に行くだけ、決めておいてあとは現地でというのもありなのかもしれないが、ローラの性格を考えると、速やかに計画が決まるとは思えないので、最初から計画を決めておいて、回りきれなかったら修正という方が効率的だろう。
幸いにも今日商店街に行ってきたところなので、所要時間はなんとなくわかっているし、店の一つ一つが小さいこともわかっている。なら、ある程度計画を詰めても問題はないだろう。
「せっかくですから、教会に行ったあとは服屋に行ってみるのはどうでしょうか? おしゃれな服がたくさんありましたよ。雑貨屋さんも面白かったですし、装飾品を売っているお店なんかもありましたね」
「いろいろなお店がありますわね」
「えぇ。ですから、あらかじめ行くお店を決めておく必要があります」
別にその場で地図とお店の雰囲気を見て決めてもいいのだが……
その言葉をグッと飲み込んで、サントルは説明を再開する。
「それでですね……」
そこから、いつも寝るぐらいの時間に至るまで、サントルによる説明が続いた。
*
「明日、楽しみですね」
計画も立て終わり、就寝の準備も済んだ二人はそれぞれのベッドに入っていた。
下の段で寝ているサントルが声をかけると、まだ起きているらしいローラから返答がくる。
「……そうですわね。庶民の商店街の視察。楽しみですわ」
「庶民のって、市勢にあるものとはまた違いますよ」
「そうなのですか?」
ローラが意外そうな声を上げる。
「えぇ。商店街にあるお店はみんな生徒が運営していて、競争がないんですよ。なので、競争が産み出すようななんというか……そう。活気が足りないというかなんというか……」
「要は普通の商店街とは違うと言いたいのですね」
「……えぇ。まぁそういうことですね」
「……そう。でも、面白そうですからいいですわ」
確かにローラにとっては関係のない話かもしれない。
おそらくであるが、彼女はあまり屋敷の外に出たことがないのだろう。
メニーは前に屋敷の外に自由に出してもらえて、好きなように遊んでいたと話していたが、そのような貴族はとても少ない。むしろ、ローラやターシャのように屋敷の外に出してもらえなかったという人の方が多いだろう。
この学校にはいる前、親からそういうった貴族は人との接し方がわからない人がいる。と言っていた。
貴族同士との交流会などで多くの人と接する機会のある人ならともかく、そういったものすらない場合は、どうしてもコミュニケーション能力が欠如する傾向にあるのだという。
サントルは貴族の暮らしなど知らないが、なんとなく想像がつく。
何から何まで使用人たちに世話をしてもらう生活。それに慣れてしまうと、自分で動かなくてはならない学校生活に適応するのは大変なのかもしれない。
「……明日は早いですよ。おやすみなさい」
ローラのことを考える一方でサントルは早々に話を切り上げて目をつぶる。
「おやすみなさい」
上段から聞こえる声を聞きながら、サントルは眠りについた。
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