24.防寒具の準備
お読みいただきありがとうございます。
いろいろと迷った挙句、ガールズラブのタグを追加しました。
なぜ、結界を超えるときに気候が急変することをわかっていて、防寒具を用意していなかったのか。
街で買い物をしながら、私はふと疑問を抱く。
荷物を軽くするためだとか、防寒具が使い捨てだからだとかいろいろ考えたのだが、防寒具が必要最低限のものだと考えれば、最初から用意しておけばいいだけの話といわれてしまえばそれまでだ。正直な話、そのことについて質問をすればいいだけの話なのだが、その疑問を感じた頃にはすでにメニーと私とでワイワイキャッキャしながら防寒具を選び出していたのでそんなことは言い出しづらいというのが正直なところだ。
別段、今すぐ知りたい疑問ではないのでとりあえずこの買い物が終わってからでもいいから聞いてみよう。そう考えて、私は防寒具選びに戻る。
「こっちなんかはどうでしょう。ピンク色でかわいいですよ」
「えっと……私はこっちの水色の方が……」
今、メニーが持っているのはピンク色の防寒着だ。ついでに言うと、なぜかフリルがついている。彼女としてはそれがかわいいと思ってお揃いを着たいといっているのだが、私としては可愛さ全開のそれを着るのに多少の抵抗を覚え、代わりに無駄な装飾が一切ない水色の防寒着を着たいと意見する。
「せっかくですから、おそろいでこれを着ましょうよ。そのために家に防寒着を置いてきたのですから」
「えっ? あぁそうなの?」
思わぬ形で私の疑問が解消される。こうなってくると、メニーは私の心の中を読み取っているのではないかとすら思えてくるのだが、おそらくそんなことはなくただの偶然だろう。というか、偶然であってほしい。仮に心の中を読まれていたとすれば、いろいろとまずいことが起こってしまう。主に転生のこととか、転生のことだとか、転生のことだ。
とにかく、自分には今横で笑っている友人にすら話せない秘密があるという事実だけは変わることなく存在している。
別段、話してしまってもいいのかもしれないが、それをしたことによってメニーという唯一無二の大切な友人を失うのが怖いのだ。
普通に考えれば、異世界転生などありえない話であり……いや、それ以前に異世界の存在など小説の中の話だと一蹴されて終わるだろう。それでも、友達でいてくれるのならいいのだが、おかしなことを言う人物だと認識されて、そのまま距離を置かれてしまっては悲惨だ。そういった意味合いも込めて、私は前世のことは家族にすら話していないのだ。
「あっこれなんかかわいいですね」
そんなことを考えている私の横でメニーは防寒具選びに夢中になっている。
「……お似合いですよ。お嬢様」
考え事をしていて、すっかりと黙ってしまった私に代わって返事をするのはポールだ。
「本当? なら、これを二着買って、ターちゃんとお揃いにしようかしら」
「それはいいですね。ターシャ様もそれでいいですか?」
今、メニーが手に取っているのはシンプルなピンク色の防寒具だ。余計な装飾はなく、ポケットもたくさんあるように見受けられる。
「うん。私もそれでいいよ」
ピンクであることに多少の抵抗はあったが、フリルがついていないだけましであろう、そう考えて、私はメニーの提案を受け入れる。
「うん。それじゃ買ってくるね」
「えっあぁうん……」
私の返事を聞いたメニーは嬉しそうに奥の会計まで走っていく。その後姿を見て、ふと思う。今、彼女は二つの防寒具を持って買ってくるといっていた。これはもしかしなくても、私の分まで買ってくるということだろうか?
「あっメロンちゃん! 私の分は自分で!」
「大丈夫大丈夫! これぐらい私が出すから!」
それに気づいた時にはすでに遅く、メニーはすでに会計を始めていて、二着分のお金を店員さんに手渡していた。
旅に必要最低限のものは自分で買いなさいと言われて、それなりにお小遣いをもらっていたのだが、この調子だとそれに手を付けることなく学校に到着してしまう。事前に両親同士で宿代についてはやり取りがあるからいいものの、それ以外のところをメニーに出してもらうというのはあまりに申し訳ない。
「メロンちゃんお金払うよ」
「大丈夫ですよ。私に任せてください」
幼女体系ではあるが、胸を精一杯に張ってメニーは立っている。私からすれば、小さな女の子に防寒具を買ってもらっている状況に対して、大丈夫とか大丈夫じゃないとかそういうの以前の問題だと思うのだが、間違っているのだろうか?
ともかく、結果的にメニーに服を買ってもらうという形になったわけで、これはどこかでお返しをした方がいいかもしれない。
私は小さく息を吐いてから笑みを浮かべて彼女の眼をまっすぐと見る。
「ありがとう」
そういうと、メニーの顔がパッとあかるくなって、そのまま私に抱き着いてくる。
「どういたしまして。ターちゃん」
今の言葉がそんなにうれしかったのだろうか? それなら、結果的にはよかったのかもしれない。
それはさておいて、毎晩寝るたびに抱き枕にされているために多少の体制はついたつもりでいたのだが、これはさすがに恥ずかしいと思えてしまう。はっきりと言えば、いやというわけではないのだがなるべく早く離れてほしい。
おそらく、今自分の表情は熟れたリンゴのように真っ赤になっているだろう。そう思えるほどに頬に熱を感じているのだ。
「ねぇメロンちゃん……」
「どうしたの? ターちゃん」
「……あの、たくさんの人がいるところでこれは……少し恥ずかしい」
「えっあぁごめんなさい」
私が素直に心情を伝えると、メニーがパッと離れる。その表情が先ほどよりもいい笑顔になっているのは気のせいであろうか?
「それじゃ宿に戻りましょうか。明日も早いですし」
「うん。そうしようか」
お互いに言葉を交わしてから、私とメニーは手をつないで歩きだす。
その風景を、ポールは微笑ましそうに眺めていた。
*
宿に到着した後、私は一足早く部屋に入り、ベッドに顔をうずめていた。
その理由は主に羞恥心だ。街中で友達と抱き合ったりとか、そのまま手をつないで歩いて行ったりだとか、そういった行動はまるで恋人同士がするものではないか。もちろん、私とメニーは親友であり、恋人ではないのだが、そういった行動に出られるといやでも相手が女の子だと意識をしてしまう。この世界にきて約六年。男としての意識は徐々に薄れていっているはずなのだが、やはりそういうところは残ってしまうらしい。こんなことぐらいで恥ずかしがっていては普通の女の子になれないのかもしれないが、少なくとも今は無理だ。
いや、それ以前に普通の女の子同士は抱き合ったり、手をつないだりするものなのだろうか?
メニーが何を考えてあのような行動に出たのかわからないが、いずれにしても彼女の行動には早くなれる必要があるといえるだろう。
「はぁ……まだ頬が熱い気がする」
宿に帰って十分ほど経つが、まだ頬が熱い。それほどまでに恥ずかしかった。今度、彼女があのような行動に出たらはっきりと、恥ずかしいからやめてほしいといってもいいのかもしれないが、そうしたことによってメニーが落胆するような様は見たくない。
「ターちゃん。入りますよ」
部屋の外からメニーの声が聞こえてきたことによって、私はいったんその思考を中断させて扉の方を向く。
「いいよ」
私が返事をすると、先ほど購入したピンクの防寒着を持ったメニーが部屋に入ってくる。
「ターちゃん。もうすぐ夕食の時間だそうですよ」
そういいながら、メニーは防寒着を机の上に置く。
「うん。わかった。それじゃ、一緒に行こうか」
「はい」
私はベッドから出てメニーの横に立つ。すると、メニーは私の方へと手を差し出してきたので、その手を取って私とメニーは夕食を食べるために食堂へと向かった。




