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21.シャルロッテ家旧宅へ

 朝食を食べ終えた私たちはそそくさと準備をして宿を出た。

 昨日とは違い、私はメニーやポールと並んで歩く。


 私の歩調は彼女たちに比べると早い方らしく、彼女たちが離れれば歩みを遅くし、また離れれば歩みを遅くするという行動を繰り返している。


 そんな状況を知ってか知らずか、メニーはのんびりと周りを見回しながら歩いている。

 豊富な知識量を持つ彼女であるが、やはり本で情報を得るのと、実際に町を見て肌を感じるのとでは違いがあるのだろう。


「ターちゃん。もうすぐシャルロッテ家旧宅に着きますよ」


 そんな中、メニーから声がかかる。どうやら、第一の目的地であるシャルロッテ家旧宅が近づいてきているらしい。と、そこまで考えて私はあることに気が付く。

 そういえば、シャルロッテ家旧宅という名前を単純に聞き流していたのだが、私はシャルロッテという一族がどんな一族なのかという予備知識が全くないのだ。名前の響きというか、“シャルロ”という言葉が入っている時点でシャルロ領の関係者……というよりも、領主一族である可能性が高いのだが、その推論が正解であるという保証はどこにもない。だがしかし、ここまで来てしまってから、“シャルロッテ家って何ですか?”という質問を飛ばすのもナンセンスだろう。そんなことを言えば、“そんなことも知らないのですか?”とか、“何で知らないのについてきちゃったんですか”とか言われてしまう……ことはなくても、そう思われても仕方ないだろう。いや、ここはあえて何も知らない幼女ということで通すのもありだろうか? よくよく考えれば、メニーがあまりにも勉強が出来すぎているのだ。それに、メニーの今までの言動を考えていると、そんなに人を下げずんだような思考回路を持っているはずがない。


「……ねぇメロンちゃん」

「何ですか?」

「そういえばさ……シャルロッテ家って何?」


 そこまで考えたうえで、私はメニーに疑問を投げかける。

 質問を受けたメニーは少しの間をおいてから話し始めた。


「あっあーえっと、シャルロッテ家はこのあたり一帯……シャルロ領を領地とする領主の一族です。なんでも、かつては鍛冶職人でそこから一気に領主の座に上り詰めたのだとか。まぁ最も、翼下十六国の領主たちというのはカルロ領のカルロッテ家を除くと庶民から抜擢された一族ばかりなのですけれど……」


 そんな解説を聞きながら、私はシャルロシティに到着する直前の会話を思い出し始めていた。


 確か、メニーはこの土地の初代領主はマミ・シャルロッテだと語っていたはずだ。そうなると、ここにあるシャルロッテ家旧宅というのはその人物の屋敷という方向で間違いないだろう。


「……まぁもっとも、初代領主であるマミ・シャルロッテがシャルロシティに住んでいたのはほんの数か月ほどの話ですぐに今の屋敷に移ってしまったのですけれど……って聞いてますか?」

「えっあぁうん。聞いているよ」


 ついつい考え事にふけってしまい、途中から彼女の話がちゃんと耳に入ってきていなかったのだが、そんなことを正直に言うわけにもいかない。彼女は今、町に到着する前の会話からシャルロッテ家が何かということをちゃんと理解できていなかった私のために説明をしてくれていたのだ。その説明をちゃんと聞いていませんでしたなどというわけにもいかないだろう。


「ターちゃん。仮に聞いていなかったのなら、ちゃんと聞いていなかったと正直に言ってくださいね。私たちは友達なんですからそんなことぐらいでは怒りませんよ」


 しかし、当のメニーは私がちゃんと説明を聞いていなかったというのを見破っていたらしく、ジト目でこちらを見つめている。


「ごめん……その、途中ちょっと聞いてなかった……」

「そうですか。まぁいいでしょう。どうせ、シャルロッテ家の旧宅でそれなりに解説が聞きますし……」


 言いながら、メニーは大通りから外れて路地に入る。


「あぁ先ほどの続きですけれど、シャルロッテ家の方が……もっと言えば、マミ・シャルロッテ初代領主が屋敷を一度街中に作っておきながら、郊外に移した理由についてはいろいろな説が唱えられていますが、何せ百年ほど前の出来事である上にそれに関する文章などは残っていませんので何が起因でそういったことが行われたのかはよくわかっていないそうです。まぁ一番有力なのは街中ではどうしても屋敷が手狭になってしまうからというものですけれど……といっている間に着きましたね」


 メニーの解説を聞いている間にどうやらシャルロッテ家旧宅の前に到着したようだ。


 メニーが指さす方向に視線を向けると、そこには周りの家に比べて5倍はあろうかというほど大きな屋敷がたたずんでいた。

 ただ、そのたたずまいはイメージしていたものとは違い、敷地面積いっぱいに建てられていて、馬車で乗り降りするための馬車回しすら建物の中に埋め込まれるような形で設置されている始末だ。


 見た目でいうと、三階建てのその建物は真っ赤なレンガで作られており、白い石を組み合わせて作られた二階建て程度の建物が多いこの周辺では非常に目立っている。


「これが領主の屋敷……」

「あくまで元ですけれどね。今のシャルロッテ家の屋敷はこれの非ではないぐらいに立派なものだそうですよ。まぁもっとも、この建物自体も先代領主の時代までは領主がシャルロッテ家に滞在するときの宿代わりとして使われていたそうですけれど」


 今の領主がシャルロ領を治めるようになってから何年がたっているかはわからないが、メニーの解説通りだとすればこの建物自体はかなり最近まで使われていたということなのだろう。となると、今は何に使われているのだろうか? 日本なら、建物の外観はそのままに中は資料館になっているなどということがあったりするのだが、この世界でもそういったことはあるのだろうか?


「今はこの建物は何に使われているの?」


 残念ながらこの世界ではどうだとかそういう知識はないので、ここまで案内してきてくれたメニーに尋ねてみることにする。

 彼女は少し空を仰いでからポールの方へと視線を向けた。どうやら、知らなかったらしい。


 メニーからの視線を受けたポールは小さく咳払いをした後に解説を始める。


「えーこの場所は現在、マミ・シャルロッテ初代領主に関する資料を集めた資料館となっています。時間は決まっていますが、誰でも自由に出入りできますよ」

「……だそうですよ。さっそく入りましょうか」


 前々から思っていたが、メニーの知識は多いように見えて実は底が浅かったりするのではないだろうか? 単純な知識についてはこれでもかというほどに語り続ける割には深くなってくると、ポールに説明を丸投げする。いつもとは言わないが、こういったパターンがこの度の中で何度か見られる。


 彼女も自分と同じく幼女なのだから、その時点で大人顔負けなぐらい博識であることに期待しているわけではないのだが、それぞれの知識があと一歩のところでなかったり、肝心なところが抜けていたりするあたり、彼女が言う勉強も多少なりともいい加減なところがあるのかもしれない。


 そういった彼女の行動に際して、別に問題があるとは思わないし、不快に思うわけではないのだが、なぜだか少し懐かしいような気すらしてくる。


 近頃はすっかりと薄れてきた元の世界での記憶であるが、おそらく向こうの世界にいた知り合いで似たような性格の人物がいたのだろう。


「……ターちゃん。中に入りましょう」


 メニーから声がかかり、私は現実に引き戻される。


「うん。今行くよ」


 そんな彼女に私は元気よく返事をしてから、建物の入り口で待つメニーの方へと歩き始めた。

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