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19.意外な要求

「あれ? ここは?」


 気がついたら知らない場所にいた。正確に言えば、天井と壁、床がすべて石で構成されている寒い部屋の中央で椅子に縛り付けられている。


 周りの状況を把握しながら、私は記憶を整理していく。


 確か、自分はシルクと名乗るエルフにメニーのところまで案内してもらう代わりに店の片付けをしていたはずだ。残念ながら、そのあとの記憶はない。おそらく、片付けが終わると同時に意識を刈り取られて、ここに連れて来られたのだろう。となると、ここに私を拘束したのはあのエルフである可能性が高い。


「油断したな」


 誰かに聞かれる訳ではないのだが、私は思わず今の心情を口にする。

 領主の娘と名乗ってないから大丈夫。悪い人そうじゃ無さそうだから大丈夫。そんないくつもの油断が今の現状を産み出している。


「……はぁ」


 幸いなことに口は塞がれていない。最悪の場合、相手の名前を把握できれば、洗脳の魔法を使ってここから脱出することも夢ではないだろう。

 それにしてもだ。現状こそ洗脳の魔法があるからこそ、それを切り札にすればいいと考えて、落ち着いていられるのだが、それがなかったと考えるとゾッとする。


 私を拘束した連中の目的はわからないが、大方人身売買目的の誘拐だろう。一応、私が領主の娘だと知った上で接触してきた可能性もあるのだが、仮にそうだとすると洗脳の魔法に対する何かしらの対策が組まれている可能性も否定できないのだが……そうなると、事態は一気にややこしくなってしまう。私はここからそう簡単には脱出できないだろうし、メニーにも危害が及ぶ可能性が出てくるからだ。


「おや、いつのまにか目覚めてきたんだね」


 突如、室内に声が響く。


「どこにいるの?」

「それは教えられない。さて、ターシャ・アリゼラッテ……いや、あえてこう呼ばせてもらおうか。有栖川陸人(ありすがわりくと)。ようそこ、エルフ商会へ」


 その声が聞こえてくるのと時をほぼ同じくして薄暗い石造りの部屋に灯りが灯る。

 突然の光に思わず目をそらす。


 そして、視線をもとの場所に戻すと目の前にローブをとったシルクと幼い少女の姿があった。

 ローブをとったシルクは予想通り女性だったらしく、薄緑色の髪を首元まで伸ばしている。肌の色は白、瞳は髪と同じく薄緑色だ。

 対して、その横に立つ幼女はフワフワとした銀髪を腰の辺りまで伸ばし、目は青色だ。肌はシルクと同じ様に真っ白だ。二人には身長差もあり、シルクは屋敷にいたメイドたちよりも背が高く、銀髪の少女は私と同じか少し高い位の背しかない。様々な点で違いが見られる二人であるが、そんな二人にはある特徴がある。


 それは耳だ。


 彼女たちの耳は異様に長く、先がとがっている。その特徴が彼女たちが何者であるかを私にひしひしと伝えてくる。


「……エルフ」


 先ほど、シルクは“ようこそ、エルフ商会へ”と発言した。その事実も勘案すれば、目の前にいる二人はエルフであると考えて間違いないだろう。

 加えてもう一つ重要なことがある。それは、シルクが私のことを有栖川陸人と呼んだことだ。有栖川陸人は自らの前世での名前であり、この世界においては一度も口にしていない名前だ。それなのに、なぜ目の前の二人はそのことを知っているのだろうか?


「なぜ、有栖川陸人という名を知っているか? そう思っているのではないか?」


 図星をつかれた。いや、この状況下においてそういった疑問に行き着くのは自然なことなのだろうからそういう疑問に行き着くのはある意味で当然なわけで、考えを推察することも容易いだろう。

 私はそこまで考えてから小さく首をたてに動かす。言葉を発したところで問題がないことは確認済みだが、下手なことを言って不必要な情報を与えるわけには行かないからだ。


「警戒しなくてもいいなり。なにせ、こちらはそちらの情報をすべて読み取っているなりからな」


 ここに来て銀髪のエルフが口を開く。


「読み取っている?」


 読み取っているというのはどういうことなのだろうか?


 この世界で話したことがない以上、誰かから聞いたというのはあり得ないわけなのだが、読み取ったという言い回しはまるで私の頭の中を直接覗きこんでいるかのような発言だ。そんな疑問から出た言葉に対して、銀髪のエルフはニヤリとした笑みを浮かべながら回答する。


「エルフの特技の一つなり。私たちは相手の頭に手をかざすだけでその人物の記憶等々を読み取れる魔法が使えるなりね。まぁ一部の落ちこぼれは使えないなりけど」

「それは魔法?」

「そうなるなりな。正確にはエルフが得意とする魔法の一つなり」


 彼女の言うことが本当だとすれば、エルフに隠し事をしても無駄だということになる。実際に占いと称されてシルクが頭をさわっているし、銀髪のエルフの方も自分が気を失っている間に頭をさわっている可能性がある。ともなれば、私が領主の娘であることも、前世の記憶があることもお見通しだということなのだろう。


「……そこまで明かした上でどうする気? なんで私はここで捕まっているの?」


 そうなれば、やれることは限られている。この場からの脱出はもちろん、相手の意図を知るべきだろう。相手の言葉次第ではなんとかこの場を切り抜けられるかもしれない。


「……単純なり。あなたはちょっとした要求を飲むだけで友達のところに帰れるなりよ」

「もし、要求を飲まなかったら?」

「そのときは壮絶な拷問の末の獄中死。とは言わないなりが、それなりのことはさせてもらうなり」


 どうやら、ただでは帰してくれなさそうな雰囲気だ。となれば、この場を無理に切り抜けるべきかとも思ったのだが、今の自分は6歳の女児である上に、椅子に縛り付けられていふ状態だ。さらに言えば、シルクはともかく、もう一人のエルフの名前は知らないため、洗脳の魔法でどうこうすることも出来ない。もっとも、シルクという名前が本名であるという保証はどこにもないのだが……


「さて、早速本題なりけれど……」


 銀髪のエルフが口を開く。それから少し遅れて私は唾を飲んだ。


 どんな要求をされるのだろうか? こんな風に拘束してまでのお願いだ。とんでもない要求をされるかもしれない。


「……亜人追放令。知ってるなりな?」

「はい」

「私からのお願いは新しい世代を担うであろうあなたにそれの維持に勤めるという約束をしてほしいなり」

「えっ?」


 シルクから出された要求はあまりにも予想外のものだった。


「まぁ意味がわからないのはわかるなり。まぁそのうち理解するなり」


 それだけ言うと、銀髪のエルフは小さく笑みを浮かべる。


「それで? 約束してくれるなりか?」

「えっと……なんでそんなことを言うのでしょうか? そもそも、私が領主の座を引き継ぐ可能性はそんなに高くないですし……なんで私に?」


 質問に質問で返すような形になってしまったが、仕方がない。疑問はしっかりと解消するべきだからだ。

 普通に考えればシルクたちエルフはあの法律によって不利益をもたらされている立場である。それに私は中身はともかく体は女だ。よほどのことがない限り、領主の座は兄が継ぐだろう。頭の中を覗けるぐらいなのだから、その程度の事情は理解できているはずなのだが、どうしてそのような要求をするのだろうか?


「まぁそのうちわかるなりよ」


 残念ながら私の疑問に対する答えは返ってこなかった。


「理由も知らずに協力しろと?」

「そうなるなり。それで? どうするなりか?」


 私の疑問には答えようとはせずに銀髪のエルフは回答を迫る。


「私は……」


 そんな状況の中で私は思考をフル回転させながら、口を開いた。

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