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16.最初の宿場町

 私の家を出てから約半日。

 私とメニーを乗せた馬車は一番最初の宿がある宿場町の入り口に差し掛かっていた。


「もうすっかり暗くなって来たね」

「えぇ。完全に暗くなる前に宿場町についてよかったですね」


 窓から見る外の風景は陽が傾いてきている関係で全面的に薄暗い。

 しかし、町の建物の間から見える夕陽はとても大きく、メラメラと燃え上がっているように見える。


「きれいな風景ね」


 石畳の街道と全体的に暗い色の石の壁が並ぶ宿場町は多くの人々が行き来をし、活気に溢れている。

 町を東西に貫く街道沿いにはそこを通る旅人や商人をターゲットにしたと見られる宿屋が並び、その前にはいくつもの露天が軒を連ねている。


 そんな風景の中を馬車はゆっくりと進んでいく。


「今夜の宿はこの町にあるの?」


 私が尋ねると、メニーは力強くうなづく。


「はい。事前に町から少し外れた場所にある宿がとってあるそうです」

「そう。楽しみね」


 家を出て半日。そろそろ、寂しさが顔をだしてもおかしくないようなタイミングなのかもしれないが、メニーと一緒にいるせいなのか、全くそういったものは感じない。むしろ、これから先のことを考えてワクワクしているぐらいだ。


「本当に楽しみね。帝都ってどんなところなのかしら?」

「聞いた話だとものすごく大きくて、立派な町なんだそうですよ。私も早く見てみたいです」


 大きな町か。帝都というぐらいなのだから、そこは私が今いる国の首都であり、一番大きな町なのだろう。

 これから、そんな町にある学校の寮で暮らすのだ。これまでの屋敷から出られない生活と比べると、その事が楽しみでしかたがない。


「ねぇターちゃん」

「どうしたの? メロンちゃん」

「……ありがとう。私、正直不安だったんです。一人で家を離れて学校に行くのが。でも、今はこうしてターちゃんが一緒にいてくれる。それだけでとても心強いです」

「……メロンちゃん。私こそありがとう。私と友達になってくれて」


 メニーの言葉に対して、返した私の言葉は少し恥ずかしいものだったが、満面の笑みでその辺りをごまかす。

 すると、どこか固い表情を浮かべていたメニーも小さく笑みを浮かべた。


「お嬢様がた。まもなく、今夜の宿に到着いたします。ご準備を」


 二人してちょっと気恥ずかしくなっていたところに御者から声がかかる。


「えぇ。わかりました。ありがとうございます。ターちゃん。もうすぐ宿だって。楽しみですね」

「そうね。どんなところかしら」


 そこからは話題は切り替わり、今夜の宿の話が始まる。


「宿屋って初めて。どんなところかな」

「……そうですね。たくさんの部屋があって、食堂とか、お風呂とかがありますよ」

「そうなんだ」


 私の疑問に対するメニーの答えは、どこか月並みなものだったが、大方私がイメージしている宿屋と大差はなさそうだ。

 私は宿屋に期待を膨らませる。


「到着いたしましたよ」


 そうしている間に馬車は町の中心部を通り抜け、少し外れの方にある宿屋の前で停車する。


「ここが今夜の宿ですか」


 私は目の前の宿を目にして、そんな声をあげる。


 町中の他の宿と同じように暗めの色であるダークブラウンの石の壁を持つその宿屋は、町の中の他の宿屋に比べて大きく、立派なものだ。


 さすがに領主の娘となると、町中の普通の宿というわけには行かないのかもしれない。


「えぇ。なんでもこの町で一番立派な宿だそうですよ」


 私のつぶやきに対するメニーの返答もある程度予想通りものだ。

 ごくごく普通の宿を期待していた私としては若干期待外れなのだが、汚くてぼろぼろの宿に泊まるのに比べれば何十倍もましだろう。


 私はそんなことを考えながら、馬車を下りてメニーと並んで宿屋に入る。


「いらっしゃいませ。アスナロの宿へようこそ。メニー・メロエッテ様御一行ですね? お待ちしておりました」


 宿屋に入るなり、店主とみられる男性が奥の方から出てくる。

 どうやら、馬車を見て自分たちがメニーの一行であると見破っていたらしい。


 確かにここまで来るのに馬車に乗っている人はほとんどなく、徒歩での移動の人が多くみられたので馬車に乗っているというだけでそうみられるのはある意味で当然なのかもしれない。


「えぇいかにもメニー・メロエッテですわ」


 宿屋の主人の言葉に対して、メニーが代表して返答をする。

 すると、宿屋の主人は深々と頭を下げた。


「ようこそいらっしゃいました。さぁさぁ奥へどうぞ。二人部屋を一つと一人部屋を一つご用意しております」

「はい。ありがとうございます」


 二人部屋と一人部屋が一つずつということは、御者が一人部屋で私とメニーが二人部屋ということだろうか?


「ねぇメロンちゃん。私とメロンちゃんが二人部屋かな?」

「はい。もちろんですとも」


 メニーから帰ってきた答えは期待通り物だ。

 私はその事実に心を躍らせながら、案内されるままに二階へと上がっていった。




 *




 宿屋の二階にある二人部屋。

 風呂から上がった私たちはベッドに寝転がりながら、またそれぞれの会話を楽しんでいた。


「そうだ。そういえばこんな話がありましてね……」


 とはいっても、話題のほとんどはメニーから持たされるものであり、これまでと同様に私は基本的に聞き役に回る。


「それでね。それでね」


 それにしても、前々からそうだが、メニーは自分の話をするときはとても楽しそうだ。

 自らの周りに起こったちょっとしたトラブルから町に出ているときにおこった出来事、出発前に別れを告げてきた友人の話までどんな話をしていても彼女はいつも、とても楽しそうにしている。


 私もまた、彼女の話を聞くのは楽しいし、とても癒しになる。


「それにしても、メロンちゃんが住んでいる町はすごいですね。港もあって、市場もあって、住んでいる人も優しくて……」

「ありがとう」


 自由に外を出歩けてうらやましい。

 そんな思いを乗せた私からの言葉をメニーは好意的にとらえたらしい。


「……でも、ターちゃんが住んでいる町もすごいよ。市場も人も森も。私が住んでいるメロメーアとはまた違ったよさがあるの。ターちゃんも私みたいに自由に出歩けたらよかったのにね」

「そうだね。でも、これからは寮のルールさえ守れば一緒にお出かけとかできるね」

「そうですね」


 これから行く学校の学生寮ではどのようなルールがあるかわからないが、全く外出ができないなんて言うことはないだろう。

 そうなれば、学生寮のルールの範囲内という限定はあれども、二人で買い物に行ったりちょっとしたピクニックに行くことだってできるかもしれない。


 そうなると、これまでの屋敷の中での窮屈な暮らしとは違い、制限付きとはいえ自由に出歩けるような生活を送れるということになる。


「学校に学生寮……今から楽しみですね」

「えぇ。私も新しい生活がとても楽しみです。はぁ早く学校につかないですかね」


 各地を観光しながらゆっくりと行きたかったという割には彼女も学校に行くのが楽しみで仕方ないらしい。

 もっとも、それは私も同様でこれから先の学校生活を考えると楽しみでしかない。


 こちらの世界と自分が元居た世界の学校はどう違うのか? 魔法学校というぐらいなのだから、魔法を学ぶのだろうが、それがどのような魔法かという点についてもかなり興味がある。屋敷にいたときにサニーに“学校ではどんな魔法を習うの?”と聞いたところで、返ってきた答えは“私は学校に行ったことがないので……すみません”というものだったため、私にとって学校での学習内容というのは全くって未知の領域だ。


「そろそろ寝ようか」

「そうしましょう」


 いろいろと考えている間にすっかりと夜も遅くなってしまった。


 私とメニーはそれぞれ就寝のあいさつを交わしてから二人して同じベッドに寝転がった。

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