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美人さんと赤ん坊

さっそくブックマークがついて少し嬉しい作者。

ふふ、頑張っていこう。

 『恋愛美麗譚』は乙女ゲームである。ヒロインであるプレイヤーが操作する女性主人公が、それぞれのルートで主人公となる男性キャラと恋愛劇を繰り広げる話で、ルートは全五ルートある。


 第一のルートは幼馴染ルート。ヒロイン―――つまりはプレイヤーだが―――の幼馴染である少年、ルーク・トワイライトと恋愛を繰り広げる話。話全体の流れとしては共に平民出であるルークは病弱な母を援けるために名門校ヴァナハイム学院に入学し、死んだ父のような立派な軍人となることを目指して学業に励む。その過程で貴族に絡まれたり、怪魔と呼ばれる敵と戦ったり、ヒロインを守ったりとRPGの王道的な展開で進行する。波乱の日々を送る過程でヒロインは努力を続け、研鑽の道を歩む彼を何時しか支えたいと願い彼と共に歩む……それが第一ルートの大まかな流れである。


 第二のルートは先輩ルート。権力闘争激しい貴族社会が舞台となるストーリーで、主役はクリストフ・アトラシア=シックザール。フランドールにおいて四大貴族と呼ばれる王族の血も流れる超名門貴族の嫡男であり、差別意識の強い貴族社会に幼い頃から揉まれているにも関わらず偏見が無く快活な性格をした美男子。戦闘シーンがあった第一ルートと違い、主に政治や政争がメインで徐々に思いを寄せるヒロインに対し、周囲が血筋や身分を理由に猛反発する中、やがて両思いとなる二人が添い遂げんと必死に足掻くストーリとなっている。


 第三のルートはヨハン・フレイス・フォン・フランドールが主人公の王子様ルート。言わずと知れたフランドールの王子様との恋愛が展開されるモノで第二ルートと同じく政治や血筋、家柄などが関わる政治メインのルートだが、『恋愛美麗譚』のメインシナリオと呼ばれるモノでその文字数もストーリーも一番濃厚だ。何せ、隣国との戦争の話まである。因みにラストは第四ルートの主役、隣国の王子である将真・ハガル=雪風との決闘でこの戦闘シーンが何故か乙女ゲームにあるまじき熱い戦闘であり、このシーンだけ男女問わず人気である。


 第四ルートは先に上げた隣国王子、将真・ハガル=雪風との通称「ロミオとジュリエット」と呼ばれるルートで、このルートは第三ルートに分岐した後、中盤でさらに分岐することで辿り着くルートで、幼き日に両親をなくし、一人孤独に愛を知らず生きてきた少年の凍った心を癒しながら禁断の恋愛に発展するというルート。共に敵国の者同士である葛藤や王子の想い過去話などもあるシリアスなルートだ。


 最後のルートは作中唯一ラスボス系主人公で有名なトバルカインとのルートである。第一ルートで僅かに言及される世界の敵、怪異とヒロインの秘密。これが明かされる他ルートと全く異なる異質なルート。主人公のトバルカインは大陸誕生の黎明期にある罪を犯した大罪人の末裔で怪異という存在を世界に産み落としてしまった元凶の家系。それがために周囲から常に批難と罵倒を受け続け、復讐を誓って、トバルカインの家系が持つ禁断の術理・失楽園を行使し世界を破滅に導くというルートである。他ルートも大概だったが、一番乙女ゲームシナリオから遠い別ファンタジー作品に成り果てているということで話題となったルートだ。というのも実はこのシナリオを書いていたライターは独自世界を展開して、一つのテーマに対してシナリオ全体を通して言及するという癖のあるライターだったがために他のルートは全く違った話になっている。因みに、ライター曰く、このシナリオのテーマは「復讐」である。


 以上五ルートが『恋愛美麗譚』の主なシナリオとその主人公となる少年達だ。―――ゲーム会社「オペラ」の攻略サイトから抜粋。





「ばぁ~?(おおっ?)」


 ふと、目を覚ました。―――っていやいや、可笑しいだろう! 未だ嘗て体験したことの無い衝撃と身体の心から冷え切る冷たさは今でも抜けきらないほどに印象に残っている。とどのつまり、俺は先ほど一秒前に交通事故でお亡くなりになられたはずだ。それが闇から目を覚ますなりハッキリと意識を保ったままで居られるなんて………いや、まて。


「だーぶー?(あ、れ?)」


 妙だ、視野がボケる。ゲームは人並み以上に嗜んでいたが、それでも俺の視力は1.0台。目の前の天井がボヤけて見えるほど目は悪くないはずだ。いや、事故のせいで視力に支障が出たのか? それに見上げる天井も妙だ。真っ白な清潔感のある病院の天井には程遠い。白色に塗られた天井に木製の幾つもの木が格子を組む何と言うか昔の日本の木を中心とした家作りの天井にそっくりだ。


「ぶー、ばー、あ? ああ?(病院じゃないのか)」


 状況を確認しようと首を動かそうとして……動かない? じゃあ寝返りも……こちらもダメだ、できない。というか、先ほどから気になっていたんだが、言語がどうも変だ。言葉を出しているはずなのに何故か声が言葉にならない。声帯が使い慣れていないみたいに言うことを聞かない。


「あーあーあー(こーえーがー…)」……駄目そうである。まあいい、きっとアレだ。事故の衝撃のせいで身体の節々がオカシくなっているんだろう。リハビリは大変だろうが、これから頑張っていけばいい。というかその前に一番オカシイのは生き残っていることだ。完全に死んだと思ったが……と、不意にスーと、まるで襖を引くような木と木の擦れ合う音が耳に入る。そして足音。


「あら? 起きていたの? フィート? ふふっ、おはよう」


 視界に入ったのは超絶美人な女性だった。黒と白の髪が入り混じる腰まで伸びた長髪。慈しむように笑う真っ白な肌の美人さん。外人のモデル染みた美しい人だがその顔つきは日本人……いや東洋人のそれだ。てか、誰だこのウチの姉の数百倍のポテンシャルを秘めた女性は? ………つーか、フィート? それに横になっているとはいえ妙に美人さんが大きく見える。


「相変らず大人しいのね。赤ちゃんを育てるのは寝る間もなくて大変だって聞いたけれど……フィートは大人しくて助かるわ。……でも母親になった身としてはもう少し手を掛かるほうがいいかな、ねえ?」


 えいえい、と俺の頬突く美人さん。可愛い。―――じゃなくて、今聞き捨てなら無い言葉が聞こえたような気がする。え? 赤ちゃん? 母親? くっそ、手足が確認できれば分かるんだが……手が上手く上がらないし首も動かない、筋肉の発達が甘いのか? ってか、いやいや、これじゃあまるで……。と嫌な予感に追撃をかける様に美人さんがその細腕を俺の脇に通して持ち上げる―――てことはつまり?


「ふふ、フィートー……って、あらあら?」


 持ち上げられる肉体。あり得ん。俺は少なくとも百七十と少しの身長、六十キロの体重があった。目の前の美人さんに持ち上げられるほど軽くは無いのだ。そして持ち上げられて初めて気付く身長差。俺の全身は彼女の半分にも満たない大きさであった。もはや認めなければなるまい。どうやら、


「ぶー、だー……びぇえええええん!!(俺、転生したのかああアアアア!?)」


「あ、あらあらあら! ご、ごめんなさないね!? あ、それともご飯かしら!? えっと……!?」


 死んだと思っていたら生きてた……ではない。死んだと思ったら生き返ったが正解であった。驚愕の事態に叫ぶ俺、それは赤子の肉体では泣いたことにされたらしく、目の前の美人さん……即ち、俺の今生の母に当たる人物は慌てる―――さて、どうするんだこれ………!






(さて、まずは現状を受け入れなければなるまい……)


 俺が泣き止むとほっと息をついて、用事があるのか俺の傍を離れていった美人さんもとい、母さん(名前は不明)を見送った後、俺は冷静になって状況を把握することを心がけた。死んだと思ったら生き返った……その動揺は案外凄まじいもので未だ心は落ち着かないが騒いでいてもしかたない。今やるべきことはどうなって、どうするか、それを把握し決めることだ。


(まず生き返った、オーケー。次に赤ちゃんに転生した、これもオーケー。それで母さんは美人さん……は置いておいて、重要なのはここが何処で俺がどういう立場かだ)


 この際、何で生き返ったか、何故赤子姿か、そして俺は生前の俺の自我を保ち続けられているのか。そういった疑問は一旦傍らにおいて現状から得られる情報とそこから今の状況を探らねばなるまい。


(まずあの美人さん。東洋人だけど白と黒の交じり合った髪なんて現実で見たこと無い。老成の白髪や染めてる訳でもない地毛っぽかったし、かといって病気のせいとかそういうわけでもないみたいだった)


 抱え上げられた時に彼女の髪の毛に触れてみたがまるで絹のような滑らかな髪だった。手入れがしっかり行き届いているのだろう。それから染めているのかとも思ったが、その割には手触りが良かったし手に色が付くこともなかった。多分地毛だ。


(それから何故か日本語。耳で自動翻訳できるとかそんな感じじゃない。アレは間違いなく日本語だった)


 最初は大陸、中華の方の人にそっくりだと思ったが喋る言語は日本語。の割には俺の名前はフィートという東アジア圏の名前というよりヨーロッパの方の名前だ。にも関わらず日本語を話す。違和感が半端無い。


(ここは日本なのか? 建物のしっかりとした造りと言い、京都で見た日本邸みたいだったが……言語も完全に日本語だったし)


 これも持ち上げられた時に確認したがこの五畳、六畳ぐらいの部屋は日本の建築のそれとよく似ている。何せ、床は畳が引かれ、壁は石でも煉瓦でもコンクリートでもなく木。扉は横引きの襖だ。


(ともかく現状得られたのは東洋系の美人さんが俺の母さんで日本語を話して、日本っぽい作りの家に住んでいて俺の名前が思いっきり外国のそれってことぐらいか……ワケわかんねー)


 ともかく情報が足りない。その一言に尽きた。しかも肉体は赤ちゃんで生まれて間もないせいか碌にいうことも聞かない。現状、寝返りすら出来ないのでは大人しくしている他無い。


(探索行動不能、か。じゃあ次だ。俺はどういう立ち位置だ?)


 あの美人さんが母なのは結構。何処となく現状把握できる世界が日本っぽいのも結構。じゃあフィート少年はどういう立場か。


(何処かのネット小説を参考にするとこういう時大概は異世界で生を受ける感じだが……)


 異世界というには現実のそれと余りにも似通っているがまあ、そこら辺は置いておこう。ここを異世界と仮定した場合、俺はどういう立場の人間だ? 平民か貴族か、はたまた王族?


(乳母っぽい人は周りに居ない……ってことは普通の平民ってことでいいのか?)


 赤子を一人ポツンと放置……人が居ない証拠だろう。生まれたばかりの赤子から目を離して放置など貴族や王族の息子だったら絶対にしないだろう、いや、案外愛人の子で俺と母さんは不遇な生活を送っているとか? いやいやあり得ない。だってあの超絶美人だぜ? アレは正妻だろ。正妻だよ。正妻じゃなきゃ可笑しい。俺だったらそうする―――おっと、話がそれた。


(文化の違い、人が足りない、平民、の割にはしっかりとした家の造り……生活レベルの平均もわからないから全く推測ができん)


 つまり最初の情報が足りないに帰結する。どうやら現状を把握しようにも余りにも情報が足りていないために把握できない。そして肉体はいうことを利かないのだから情報収集も不可能である、と。ふむ、こういう時はアレだ………


(寝よう)


 人は時として諦めも肝心なのである。この赤子の身体がもう少し制御できるようになるまでは大人しく何も考えずに赤子を演じている方が得策だろう。転生も身分もこの世界も、後で考えればいいや。


 そんな楽天思考で俺は考えるのを一旦止めた。すると突然、眠気が俺を襲う。どうやら赤子の肉体に引っ張られているようだ。どうせ今寝ようと思っていたのだ。このまま身を任せるとしよう…。フィートは心地よい感覚に身を任せ、眠りについた。

後、数話は同じような話かな? 早く学園編に行きたいぜ。

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