謎の鎧
あたしはシグニアさんの無事を確認した後に荷車のもとまで戻った。
「大丈夫だった?」
「大丈夫だったわ。お気遣いありがとう」
「助けてもらってる側だから」
あたしが行っている間に馬も落ち着いたようで安心した。
しかし、また来る可能性はあるし油断はできない。
「ひとまず、この山道を抜けてしまいましょう。目撃例は山の中でしか今の所は聞いていないので」
「わかりました。護衛よろしくおねがいします」
改めてあたしとコノミさんの無理ない速度で馬車が進み始めた。
進み始めてからひとまず道の山頂となる部分までは、問題なく来ることができた。
ただ、なぜだろう。妙な違和感がある。
わざわざ、サーベルウルフをけしかけておいて、それが帰ってこなかった場合に何もしないのだろうか。
自然発生というなら杞憂で終わることだけど、どうしてもあたしにはそこだけが引っかかりを覚えている。
サーベルウルフへの違和感が多すぎて、簡単に自然発生で終わらせたくない。
そう思っていた時だった。
少し離れた場所で轟音が聞こえた。
「なにっ!?」
「今の音……」
聞こえてきた方向を見ると、少し距離はあるが土煙が舞い上がっている。
そして、あたしの記憶が正しければその方向はシグニアさんがいた方向だ。
シグニアさんが何かを見つけて先手を打ったのか。それとも襲われたか、全く関係ないか。頭の中で正解を考える。正解にたどり着くための情報を目で探す。
そして土煙の中からこちらに向かってゆっくりと動いている影を見つける。
ただ、その影は明らかにシグニアさんではない。むしろ鎧を着ている大きな存在だ。
徐々に近づくに連れて、金属がこすれる音が耳に入り始める。
「いつでも逃げられるようにしておいて」
コノミさんは商人の男性にそう言いながら、鎧と荷車の間に位置どって剣を抜く。
あたしも改めてワンドを構える。
シグニアさんが気になりはするけど、この場をほうっておくわけにもいかない。それに、あれが人や魔族だとしたら狙いがわかるかもしれない。
シグニアさんも自衛能力はある程度あるはずだ。今はそう信じるしかない。
「そこの馬車をもらおう」
土煙の中から出てきた何かは、体全身を隠すほどの金属鎧をまとっていて、顔もヘルムによって何も見えない。
かろうじて声から男であるとわかるくらいだ。
「目的は?」
コノミさんは警戒をとかずにそう聞いた。
「貴様らに話す必要はない。拒否するならば、お前たちを蹴散らすのみだ」
「少なくとも目的もわからずに強盗を許す気はない」
しかし、この全身を守って身分を隠す鎧は、シグニアさんを襲った奴らの特徴とも一致する気がする。
もしかして、狙いはシグニアさんや他の共存派の魔族で人族との対話を妨害するつもりだとか。
そう考えれば、商人の荷車という身を隠すには十分な大きさのものを襲うのも理解できる。仮にシグニアさんや同じ村の逃亡者がいたと仮定して探しているとすれば、行動範囲は海路を除いたらこの道が人族との対話を目的と考えれば理にかなっている。
他の道からいける町や村は地図で見る限り規模は小さくて、共存のためと考えれば大きめの町や国を選ぶ。
まあ、ここまで考えた結果シグニアさんの様子をいち早く確認しなければならなくなったわけか。
「ちょっと、あたしも野暮用ができたから手加減はできないかもしれないわよ」
「お前たち、やるぞ」
鎧の男がそう言うと、さらに土煙の中から同じ鎧が2人でてくる。
そして、それぞれ武器を取り出すとこちらへ向かってゆっくりと走り出してきた。




