薬屋の男
倉庫を確認した結果言えることは、あたしが生活に必要なレベルでしか色々なものを整えてなかったということだった。
防具のたぐいはほぼないといってもいいし、武器も小さい魔物とか動物を狩るのに買ったものがあるけど、対人戦となったら心配なものばかりで、ポーション含めた薬なども数は足りない。
そういうわけであたしは現在街の薬屋へと来ていた。
「うぅん……」
しかし、今のポーションの値段を見ていると買うのに躊躇してしまう。勇者時代は旅してたから安い国とか町で補充してってことしてたせいで、最安値をしってしまっているのよね。
その感覚がいけないのはわかってるからこうして商品を眺めているわけなんだけど。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、ちょっと見てただけです」
「はあ……」
店員の男性に不審がられてしまった。まあ見ただけじゃ効果の良し悪しなんてわかるものじゃないし当たり前か。実際にあたしもわかるわけじゃなくて、ただ値段と葛藤して眺めてたわけだし不審者だと思う。
「あれ? もしかして魔女様ですか?」
「へっ?」
一度去ろうとした店員はあたしを二度見したかと思うと、そんなふうに話しかけてきた。
「そうですよね! ヒルダさんから聞いてます!」
「ヒルダさん……ああ、あの人ね。いや、というかその呼び方はちょっと……」
「えっと、すみません。本名の方は聞いてないもので」
「アンジュでいいわ」
「アンジュさん! ずっとお礼を言いたかったんです!」
彼はテンションを上げながらそう言ってくる。
「あたしって何かしたっけ?」
思い出そうとしてみるけど覚えはない。そもそも魔女って現状はあそこのみの通り名だった気がすると考えると間接的なものなのかな。
「アンジュさんの育てた物を使ったポーションなどがとても良い物になって、店が盛り上がり始めました」
「そ、そうなのね」
「ずっと別の大型の商業ギルドの店などに負けて店も危なかった時期でしたがよかったです」
「でも、薬草は売った覚えないんだけど」
「野菜の一部などでも使い方次第ですよ」
知らなかったわね。
「まあそういうことならよかったわ」
「それで、そのとても申し訳ないのですが、アンジュさんに出会ったら頼みたいことがあって」
「頼みたいこと?」
「はい。依頼という形で報酬を払うことも考えてるんですが、どうでしょうか」
予想外の出会いだけど、何か彼にとっては大事なことのようにも感じる雰囲気だ。まあ、話を聞くぐらいはしてもいいかな。それを受けるかは別としてね。




