魔族の奴隷
エルフの男性が経営している酒場の席に座る。
「ここもその宣伝をしているお店?」
「いえ、ここは単純に気に入っている店ですよ」
「そう……まあ、雰囲気いいわね。ここで、その物騒な話をして良いのか悩むところなんだけど」
「まあ大きな声で話さなければ問題ありませんよ」
小さいと言っても、たしかにテーブル席数個用意できるだけの広さはあるから否定はしないけど心配だ。
「それで、魔族の奴隷がなんて?」
ここはお酒と串に刺した肉焼きを主に出しているらしく、注文が届き終わってから本題に入る。
「この街からでて近くに小さな町があるのはご存知ですか? 距離は近いもので歩きでも半日かからないほどなのですが」
「地図にそんな場所があった気がするけど知らないわね」
まあ、正直言うと森であり家のある方角以外は地図でわかる範囲のことしか知らないのだけれど。
「まあ国的にはこの国の領地の1つなんですがね。そこにある奴隷販売をしている店で魔族が売られるという噂が、流れているわけですよ」
「それで、穴を突いたっていうのは?」
「ルールの穴といったところですかね。今まで魔族の扱いと言えば捕虜などが主で奴隷にするということは少なくとも表沙汰ではなかったわけです」
「そりゃないでしょうね。そんなことしたら国内からも何言われるかわからないし」
「ですが、奴隷制度は整っていて人族に対しては状況に応じて可能というのはいささか歪といえないですか?」
「まあ否定はしないけど、そういうルールだし仕方ないんじゃない?」
「はい。まあ、ただそのルールというのは今いったように人族のみの国として作られているものなんです」
そう言うと1つの本をルスマンはあたしに見せてくる。
「これが現在適応されている奴隷に対するルールになります。簡単に言えばルールに即した条件が適応された場合において奴隷の身分になることや、それの販売が行われることが許される。それでその1つに『自己の生存などの責任を持つ者が自身を売る』というものがあります」
「まああるけどそれがどうしたの?」
「今回はようするにその魔族は人族の国に来てまで自分を奴隷として売ったということになります。ルールでは人族であること現在は定義されていませんからね」
「つまり魔族であっても自我もあるし自分の人生を自分で決められる。簡単に言えば大人になっていれば、今はルールが適応されて合法の扱いになるってこと?」
「そういうわけですね。まあ、前例がないですし大きな戦いがないとは言え、魔族を奴隷にするなんてことは合法と言い切れるかは怪しいところです」
説明されれば理解できる。ただ、それが起きて後に何が起きるかを想像すると、戦争に発展してしまう可能性もないとは言い切れなくて厄介ということか。
「困ったわね。それ聞いて何もしないわけにもいかないって思ってる自分がいるわよ」
「正義感がお強いようで」
「正直、そういう自分とはもうお別れしたと思ってたんだけどね。でも、巻き込まれに行くか悩んでいる自分もいるから変わってはいるんでしょうね」
「お若いのに自分とお別れなんて中々過激な人生を送っているようで」
「そうかもね。でもある意味スタートはあなたに連れられていった奴隷店でもあるけど」
「これはまた、わたくしにも責任がありましたか。でしたら、こちらを渡しておきましょう。行くも行かないもあなたの自由です」
ルスマンはそう言うと本をしまって1つの手紙を渡してくる。
「その奴隷店の招待状です。普通に入るよりも話は進めやすいでしょう。それとこのお店はわたくしが持ちますよ」
「さすがにそこまでさせたら色々あれだから払うわよ」
「そうですか?」
「うん」
何より貸しに近いものは作りたくない。この男に限った話だけどね。
あたしは話と食事が終わってからゆっくりと家路についた。
あたしがその魔族を買う義理はないけど、友人であるアリアさんに場合によってはかなりの負担が起きそうなことだから放って置いて良いのか悩む。




