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8・授業とある夜の一幕

 基本五属性の基礎を覚えてから数日が経過した。


 基礎を覚えたその日。

 一人と一匹は、なにやら不穏に聞こえる会話をしており、その会話に一抹の不安が過った僕であったが。

 どうやらそう感じたのは間違いではなかったようで、基礎を覚えた翌日からの授業は午前中は座学、午後は実技と言う予定は変わらないものの、その内容は日に日にハードなものへと変わっていった。


 そんな中、午前中の座学は今までと変わらなかったのが唯一の救いではあったが。

 それも慰め程度にしかならないくらいには午後の実技はハードなものであった。



 では、午後の実技の何が辛いかと言うと。

 それは体内の魔力が枯渇するまで魔法を使用しないといけないと言う事だ。


 基本五属性の錬度をあげる為の復習から始まって、それを魔力が枯渇するまでやり続けなければいけない。


 何故こんな事をする必要があるのかと言うと、メーテ曰く。



「前も話したと思うが、どれだけ魔素に干渉できるかによって魔法使いとしての格が変わってくる。

じゃあどうすればうまく魔素に干渉出来るようになるか?

と言うのが問題になってくると思うのだが。

その答えの一つが、今アルがやっている魔力を枯渇するまで使う。と言う事だ。

 

魔力を空にする事によって、体内ではどうにか魔力を補おうと言う危機本能が働く。

そうすると、魔力が枯渇した体は大気中にある魔素を取り込もうとするのだが、これを繰り返す事によって、自分の体と魔素の間に通り道を作ることが出来る。

 

要するに。

魔素に干渉する為の通り道を整地、拡張していると考えてもらえれば間違いは無い」



 との事らしい。



「この行為には他にも利点があり、幼少の頃から魔力を大きく消費する事によって魔力の総量の底上げも出来る。

それとこれは私の推測だが……」



 そう言うとメーテは僕の頭、頭頂部より少し前のあたりをそっと触る。



「まだここが柔らかい内に魔力や魔素に触れる機会が多いと、より魔力を行使しやすい身体になると私は考えている。」



 そんなメーテの話を聞いて、昔、親戚に赤ん坊が生まれた時に頭を撫でさせて貰った事があり。

 確かに柔らかい個所があった事を思いだすと、それと同時に母親から教えて貰ったことを思い出した。


 そうして思い出したのは、赤ん坊の頭の骨がくっついていないと言うこと。


 どうやら、赤ん坊と言うのは産道を通る際に頭が圧迫されて頭蓋が変形しないように、骨がくっいていない状態で生まれてくるようなのだが。

 それが徐々に歳を重ねるにつれてくっついて行き、2歳を過ぎたあたりで完全に塞がるらしい。


 そんな話を思い出したはいいものの、それがどうして魔力を行使しやすいと言う話に繋がるのかが理解で出来ないでいると、

 メーテは補足するように口を開いた。



「詳しくは分からないが、幼い内は頭蓋骨に隙間でもあるのだろう。

その隙間があるうちに直接脳に魔力や魔素と言った物を理解させることで、魔力を行使しやすい身体になると考えているのだが……まぁ、あくまで推測の話だがな」



 聞かされた話はやはり理解するのに難しい話で。

 いくら考えても答えが出そうにもなく、僕は考えることを諦めると、そう言うものなのだろう。と無理やり納得させる事にした。



 少し話が逸れてしまったが、そう言った理由で魔力が枯渇するまで魔法を使用する毎日が続いている訳だ。


 では何故、午後の実技が辛いと言うことと魔力枯渇が結びつくかと言うと。

 この魔力枯渇と言うものが相当身体に負担が掛かるのだ。


 まず魔力が枯渇すると倦怠感から始まり、酷い時には頭痛や吐き気に眩暈と言った症状が出てしまい、更に酷い場合になると身体がまったく動かせなくなるような状態まで陥る。


 意識はあるのに身体がまったく動かせない上に、容赦なくそう言った症状が襲うのだから対処のしようが無く。

 初めて魔力枯渇状態になった時は、その辛さに早くも音を上げそうになってしまった程だ。


 そう言った症状に毎日進んでならなければいけないのだから、午後の実技が辛いと言うのも理解して貰えるのではないかと思う。


 だが、メーテが言っていた通り。

 魔力枯渇状態になると大気中の魔素と言うものを少なからず感じる事が出来、魔力が枯渇した身体が魔素に向けて身体を開いているような感覚も実感することも出来た。


 これを繰り返す事によって平常時でも大気中の魔素を感じられるようになるらしいのだが……

 それまでに何度この最悪の症状を味わう事になるのだろう?

 そう思うと、深く溜息を吐くこととなった。






 そして、魔法の進み具合はと言うと、こちらには新しい発見があった。


 魔法を使う際、僕の場合だとライターや水道などを想像する事によって魔法を使えるようになったのだが。

 それは発現するきっかけに必要だったらしく、感覚さえ覚えてしまえば毎回そう言った物を想像せずに魔法が使えるようになった。


 魔法を使う際に現代的なものを思い浮かべるのには多少の抵抗があったので、それをせずに済むのは地味に嬉しかったりする出来事だったりする。


 まぁ、魔法を覚えてから数日と言うこともあり、これくらいしか新しい発見はなかったのだが、

授業を重ねて行く内にそう言った機会も増えてくるだろう。

 そう考えると、今はしっかりと基礎を学んでいこうと気を引き締め直した。



 何はともあれ。

 基本五属性の基本を魔力が枯渇するまで繰り返し、魔力が枯渇して身体が動けなくなったら、身体が動かせる様になるまで魔素の流れを感じる。

 そして、身体が動かせるようになったら日の授業は終了。


 こんな感じで最近の授業は進められ、そんな辛い毎日を送っていたのであった。






 そんな毎日を送っていたとある日の夜のこと。



 テーブルの上には料理が並べられ、僕達はいつものように三人でテーブルを囲む。

 正確にはウルフはテーブルの下なのだが。


 それは兎も角。


 テーブルの上には、サラダに白パン、それに細かく刻んだ野菜や豚肉が入ったシチューが並んでおり。

 出来たてのシチューは湯気をあげ、その湯気と共に食欲をそそる匂いを運んでくる。


 そんな匂いにお腹が鳴るのを必死に我慢しながら「いただきますと」と言うと、それを合図に木の匙をシチューに沈め、そして口へと運ぶ。


 その瞬間、ミルクの風味と野菜の味、それと豚肉のコクが口内に広がり、思わず顔が綻ぶ。

 僕はもう一度木の匙をシチューに沈めると口へと運ぶと、今度はその味が消えない内に白パンを一口大にちぎり口へと放り込んだ。


 そうしてメーテの手料理に舌鼓を打っていると。



「魔法はどうだ? 辛くは無いか?」



 メーテに尋ねられる。



「まりょくなくなるとちょっとつらいけど……

でも! まほうおもしろいよ!」 



 僕がそう答えると、メーテは「そうか」と満足そうに頷き、木の匙ですくったシチューを唇へと運ぶ。


 そんな仕草でさえ絵になるな。


 そう思い見惚れていると、ふとメーテと視線が合い思わず目を逸らしてしまう。


 見惚れてしまった事が気恥ずかしくなった僕は、その恥ずかしさを誤魔化すように食事を一気に平らげると、食器を重ねキッチンへと運び。



「ご、ごはんありがとう! おふろはいってくるね!」



気恥ずかしさから、そそくさとリビングから逃げ出した。




 そうして無事にお風呂場まで逃げることが出来た僕は、浴槽に溜めてあったお湯を桶ですくうと、

そのお湯を布に染み込ませ、その布で身体を拭いていく。


 本当なら浴槽に身体を沈ませ、ゆっくりとお湯を楽しみたいところなのだが。

 僕の身長だと一人で浴槽に入るのが難しく、仕方が無いので最近ではこのようにして身体を拭いて済ませるようにしている。



 たまにはゆっくりお風呂につかりたいな。

 そんな事を考えているとお風呂場の外からウルフの「わふっ」と言う鳴き声が耳に届いた。


 最近ではウルフの身体を洗ってあげる機会も多く。

 今日も身体を洗って欲しいのかな?

 そう考えると、ウルフをお風呂場に招き入れる為にドアを開けた。


 開けたのだが。


 そこにはウルフの他に、何故か裸体に布を巻いたメーテの姿があった。


 その姿を見た僕は、一瞬思考が飛んでしまい思わず立ち尽くしてしまう。


 そんな僕を他所に、メーテは嬉しそうな表情を浮かべると口を開いた。



「最近は一緒にお風呂に入ってないだろう? たまにはと思ってな」



 その瞬間。

 思考を取り戻すと、それと同時に脱兎の如くお風呂場から逃げ出した。


 そして、その場に残された一人と一匹。



「……逃げられた」


「ワォン?」



 そんな悲しそうな声を背中越しに聞きながら。


 精神的には思春期真っ盛りなので刺激が強すぎます!


 そう心の中で叫ぶ。


 魔力枯渇以上に精神を削られるのを感じると言う、とある夜の一幕であった。


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