4・五大属性と素養
今日も絶好の青空教室日和。
雲ひとつ無いとは言えないが、暖かな日差しが気持ち良い。
切り株を加工した椅子に腰を下ろし、ノート代わりの紙束をテーブルの上に置くと、右手には羽ペンを握る。
「さて、今日は五大属性についてと素養の話をしよう」
「はい、めーてせんせー」
授業の始まりを告げるメーテに僕がそう返すと、メーテの隣に座るウルフが、「せんせー」と呼んでくれと言わんばかりの視線を向ける。
「うるせんせーもよろしくおねがいします」
仕方が無いので「せんせー」と呼ぶと、ウルフは千切れんばかりに尻尾を振り、その事からも喜んでいることは分かるのだが……
今、僕の目に映るのは「ワォ――ン!」と吠えるウルフに、「くふくふっ」と言いながらニヤニヤするメーテの姿で。
なんだろうこの状況? そう思い、首を傾げてしまうのも仕方が無いことに思えた。
一人と一匹の余韻が冷めた所でしれっと授業は再開された。
「魔法についてだが、まず五大属性と言うものがある。
それは、風、火、土、雷、水の五属性だ。
それに加え闇魔法と聖魔法がある。
大きく分けて7つの属性がある訳なのだが、それには理由がある。
この7つの属性には素養と言うものがあり、その素養と言うものが今あげた7つの属性に存在しているからだ」
メーテは話を続ける。
「あくまで素養が存在する7つの属性と言うだけで、他にもこの枠に括る事の出来ない魔法なども存在する。
例えば空間魔法である転移などがそう言った魔法の例に挙げられるな。
まぁ、今はそう言う魔法も存在すると言う事だけ頭に入れておけば良い。
まずは五大属性からしっかりと学んでいこうか?」
そう尋ねられ「はいめーてせんせー」と答えると、また「くふっ」と言う声が漏れた。
メーテは「んっ」と咳払いを一つすると授業を再開する。
「風、火、土、雷、水の五大属性だが基本五属性とも言われている。
まずはこの五つを理解することで、他の魔法への応用への足がかりになる。
例えばお風呂のお湯などは、水を火で温める事でお湯にしている訳だが、魔法でも同じ事が出来る。
これは初期の混合魔法の一種だな。
こう言ったことも基本五属性を正しく理解していれば出来るようになると言えば、いかに基本が大切かと言う事が解ってもらえるかな?」
その問いかけに「はい」とだけ返事すると、メーテは何故かしょんぼりしてた。
「せんせー……んっ、今日は説明だけだが、近い内に実技も交えていく。
基本五属性については実技が始まってからが本番だと思っててくれればよい。
それでは、素養の話をしよう。
素養とは、素養のある属性の効果を効率的に使えるようになる。
まぁ、端的に言ってしまえば素養とは才能と言ったところだ。
簡単に説明すると、2の出力で火球を放ち、2の効果を得られるのが普通の者だが。
2の出力で3や4の効果を得る事が出来るのが素養持ちと言う存在だ。
それと、そう言った恩恵があるのだから、当然素養と言うものは誰しもが持ち合わせている訳では無く、何千人に一人居るか居ないかくらいの割合しかいない。
持って生まれた者は幸運だったと言えるだろうな。
実際、同じだけ頑張って同じ魔法を放ったとしても、素養持ちと、素養無しでは2倍、酷い場合は3倍や4倍の効果の差が出る事もある。
さて、今回素養の話をしたのは、素養持ちと言う人種が居ると言う事を教えておきたかったのと言うのもあるが、それよりも伝えておきたかった事がるからだが、アルには分かるか?」
その質問に頭を悩ませる。
素養持ちが居るのは分かったけど、メーテが何を言いたいのかは、ぜんぜん見当がつかなかった。
強いて挙げるなら、努力が才能の前では無力と言う事。
そう考えた僕は「ずるい」とだけ言葉にした。
その言葉に対し「……またせんせーて言ってくれなかった」と、ボソッと呟いていたが、聞かなかった事にした。
「そうだな、ずるいと思ってしまうの仕方がないことだと思う。
同じ努力をしてきたのに、2倍も3倍も差がついたら誰だってやる気をなくしてしまうと思う。
だけどアル、そこで相手をずるいと思わないで欲しい。
そこでずるいと、敵いっこないと諦めないで欲しい。
魔法と言うものは本当に奥が深く懐が深い。
素養の有無に限らず魔法と言うのは可能性に満ちているんだ」
メーテはそこまで言うと「ふぅ」と一息つき言葉を続ける。
「なにより私は努力が報われないと言うのが嫌いだ。
私は努力したらその分、努力した者が報われてほしいと思ってる。
そして、魔法には素養の差をひっくり返す事の出来る要素がある。
その一つが混合魔法だと私は考えているが、それよりも重要なのは『想像力』だと考えている。
だから、私が言いたいのは才能の差に縛られるのではなく、アルには素養の有無に関わらず真摯に魔法と向き合ってほしい。
そう言うことを伝えたかったんだ」
話をそう締めくくったメーテ。
確かに努力が報われないと言うのは辛いと思う。
万人が認める程の努力をしたかと聞かれれば、それに「はい」と答えることは出来ないが、それでも学業や部活に、自分なりの努力をしてきた経験がある。
人から見たらとるに足らない努力かもしれないが、出来るだけのことをやった。
その結果。目標に届かず辛い思いをしたことも何度かある。
正直、僕も才能と言う言葉で片付けるのは好きではないが、それでも才能と言うものを疑うことが出来ない場面もあり、そんな才能の前に悔しい思いをしたことを覚えている。
だが、そんな才能の差を魔法でならひっくり返すことが出来るとメーテは言う。
メーテの考え方や姿勢は素直に尊敬させられるもので、なによりもその言葉は僕の胸を強く打ち、胸を高鳴らせた。
高揚感に包まれる中、逸る鼓動をどうにか押さえながら「わかりました。せんせー!」と伝えた。
その言葉を聞いたメーテはものっすごくニヤニヤし、そして気分を良くしたのだろう。
ニヤニヤしたままのテンションで、
「せんせー……くふっ。
ま、まぁ私は素養あるんだけどな!」
凄いことをアピールしたかったのだろうけど、前後の話を無視した発言は、色々と台無しにしていた。