172・席位争奪戦――
五日間に渡って開催された席位争奪戦。
そんな席位争奪戦も数時間前には決勝戦を終えており。
すべての試合を終えた事で、その幕を下ろそうとしていた。
しかし、そう考えたのは早計だったようで――
『これより! 席位争奪戦授与式を行います!』
職員がそう告げると、観客席から割れんばかりの歓声があがり。
授与式が行われるリングの上に立つ生徒達。
僕を含めた総勢十五名からなる生徒達へと歓声が降り注ぐ。
そして、決勝戦か数時間経過した現在。徐々に陽は傾き始めており。
本来なら、きっと夕食の準備や、お気に入りの酒場に立ち寄ろうかと迷う時間なのだろう。
だが、そんなものは関係ない。
そう言わんばかりに、観客達は声を張り上げており。
そんな観客達の姿や会場の熱気を感じると。
『幕を下ろすにはまだ早そうだ』
そう実感をさせられる事となった。
そして、そのような実感をしていると。
『それでは、学園メルワ―ルの学園長であられるテオドール様の入場です!』
職員の言葉に、再度観客席から歓声が上がり。
会場にテオ爺が姿を見せた瞬間、更に歓声は大きなものへと変わる。
「テオドール様ーーー!!」
「賢者様ーーー!!」
「学園長様ーーー!!」
テオ爺に投げられる歓声の多くは、只の呼称でしか無かったのだが。
そんな歓声からは敬意や敬愛と言った感情が含まれているように感じられ。
自分の事では無いのに、何処か誇らしいような、それでいて少し寂しいような。
なんとも言えない気持ちにさせられてしまう。
だが、そんな気持ちなど知る由もないテオ爺。
観客達の歓声に軽く手を振る事で答えながら歩みを進め。
会場の中央に設置されたリング。
その上へと立つ事と、職員から声を拡散する魔道具を受け取り。
リング上に整列する生徒達の顔を一瞥する。
そんなテオ爺の視線を何気なく追ってみれば。
そこには、ダンテやベルト、ソフィアにラトラ。それにグレゴ先輩といった友人達の姿があり。
コーデリア先輩や本戦へと進んだ生徒達の姿が並んでいる。
そしてその際、この場に居る筈の二名。
コールマンとランドルがいない事にも気付くのだが……
彼等がやった事を考えれば自業自得で。
授与式に呼ばれなかったのも仕方がない事のように思えてしまう。
……本当、不正などに頼らず、まっとうな方法で席位争奪戦に挑んでいたのであれば。
今とはまた違った未来があったかも知れないのに……
そう考えると、なんとなくもどかしい気持ちになってしまうのだが。
現状が変わらない以上は、彼等が改心し、まっとうな生き方をするよう願う方が建設的なのだろう。
そんな風に考え。
『どうか二人が改心してくれますように』
などと胸の内で唱えていると、テオ爺と目が合い。
目を合わせたテオ爺は、好々爺然とした笑みを浮かべた後に口を開いた。
『まずは、席位争奪戦に参加してくれた生徒諸君に感謝の言葉を――
席位争奪戦に参加してくれた生徒諸君、本当にありがとう。
今回の席位争奪戦。本当に素晴らしい試合が数多くあり。
老骨ながら、思わず胸が躍ってしまう様な試合の数々じゃった。
そして、そんな試合を繰り広げた生徒諸君――生徒諸君には、本当に感謝の気持ちで一杯じゃ』
テオ爺は更に「本当にありがとう」と付け加えると、僅かばかりの間を作る。
『――そして、その中でも本戦へと進み。
より深く記憶に刻まれる試合を繰り広げた十数名からなる生徒達!
そんな生徒達を表する為! これより! 席位の授与を行う!』
そして、そう言葉を続けた瞬間。
再度、観客席から割れんばかりの歓声が巻き起こり。
それを煽るようにテオ爺は声を張り上げる。
『それでは席位の授与を行う!! 第十席! ミランダ=ロペス!』
「はいっす」
十席として呼ばれたのは、ソフィアとの試合を繰り広げたミランダ先輩。
どこかやる気ない返事を返すと、テオ爺の元へと歩み寄る。
『ミランダ君は、実力はあるのに手を抜きがちなところが玉に傷じゃが……
何はともあれ、おめでとうと言っておこうかのう』
「いやぁ……ははっ了解したっす」
そして、そんなやり取りを交わすと頭を垂れ。
テオ爺はミランダ先輩の首に懐中時計のようなものを掛ける。
恐らくだが、この懐中時計のような物が席位持ちの証か何かなのだろう。
などと考え居ている内に、ミランダ先輩は元居た列へと戻り。
それを確認したテオ爺は再度声を張り上げる。
『第九席! ダッカス=コルトバ!』
「……はい!」
九席として呼ばれたのは、コーデリア先輩と一回戦から当たってしまったダッカス先輩。
確か、ダッカス先輩は第三席だった筈なのだが……
どうやら、組み合わせに恵まれなかったようで、大きく席位を落としてしまったようだ。
だからだろう。返事もどことなく覇気が無い。
そして、ダッカス先輩もミランダ先輩と同じ手順を踏んだ後、元居た列へと戻っていく。
『第八席! コルト=ミューシャ!』
「ははは、はい!」
ん? ……誰?
いや、本当誰だろう?
そう思い記憶を探ってみると、何試合か観戦していない試合があったのを思い出し。
更に記憶を探ってみれば、確かソフィアが二回戦で戦った相手がそんな名前だった事を思い出す。
そうして、コルト=ミューシャと呼ばれた女性に視線を向けてみれば。
前髪で目を覆っているという所為もあってか、どこかオドオドとした印象を受けてしまい。
『本当に強いのだろうか?』
といった疑問を浮かべてしまう。
しかし、第八席を与えられている事からも、相応の実力者である事が予想出来。
『一体、どのような戦い方をするんだろう?』
今度はそんな疑問を浮かべながらコルト先輩を眺めてしまう。
そうしている間にもコルト先輩に対する席位の授与も終わったようで。
コルト先輩は懐中時計を授かると、元居た列へと戻っていくのだが……
「あひゃっ!?」
次の瞬間には大きく転び、あろうことか下着まで披露する事になってしまう。
そんなコルト先輩を見た僕は一転して。
『……本当に強いのだろうか?』
そのような疑問を浮かべる事になってしまった。
そして、次に呼ばれたのは――
『第七席! ラトラ!』
「んにゃ!? ウチが七席!?」
そう、ラトラだ。
しかし、何処か不満があるようで、露骨なまでに顔を顰めている。
『ラ、ラトラ君? 第七席でも充分立派なんじゃよ?』
「それは分かってるんだけどにゃ……と言う事は……はぁ」
テオ爺の慰めの言葉を受けても顔を顰めたままのラトラだったが。
それでも滞りなく授与は進行し、懐中時計を首に欠けたラトラは、肩を落としながらも元居た列へと戻っていった。
そして、次に呼ばれたのは――
『第六席! アルベルト=イリス!』
「はい!」
どうやらベルトのようなのだが。
それと同時にラトラが顔を顰めた理由を何となく理解する事が出来た。
まぁ、二人の試合は引き分けと言う形で決着がついてしまった為。
どちらが上かについては明らかになっておらず、勝敗は有耶無耶のままであった。
だが、試合内容からベルトの方が上であると判断され。
席位という形で勝敗がついてしまい、負けてしまった事がラトラは悔しかったのだろう。
そんな風に納得し、ふとベルトに視線を向けてみれば。
どうやら、ラトラに勝てたと言う事が嬉しかったようで。
あまり表情を表に出すタイプでは無いベルトなのだが。
その頬は僅かに上がっており、喜んでいるのであろう事を僅かな表情の変化から察する事が出来た。
そして、そんな二人の様子を眺めていると。
対照的な反応を見せる二人に、どう言った言葉を掛けていいのか少しだけ迷ってしまう。
だが、変な気を使うよりはいつものように接した方が良いように思えた僕は。
『ベルトには素直にお祝いの言葉を贈るとして。
ラトラには後で購買のプリンでも奢ってあげようかな?』
そのような結論を出すと、テオ爺へと視線を戻した。
そして、その瞬間。
『第五席! ダンテ=マクファー!』
「はい!!」
ダンテの名前が会場に響き、それと同時にダンテは大きく返事を返す。
しかし、今のダンテの状況と言えば、車椅子に乗っていると言う状況で。
テオ爺の元へ向かうのにも一苦労といった状況だ。
それを見兼ねた僕は、車椅子を押してあげようと考えたのだが。
僕がそう考えるよりも早く、テオ爺の傍に控えていたミエルさんがダンテの元へと歩み寄り。
車椅子を押して、テオ爺の元へと向かう。
『儂が不甲斐ないばかりにダンテ君には迷惑を掛けてしまったのう……本当に申し訳ない』
「ぜ、全然っすよ! むしろ、テオドール様には感謝しか無いっす!」
『……優しい子じゃな』
そして、そんなやり取りを交わした後に首に懐中時計を掛けられたダンテ。
隠す事無く笑顔を浮かべると、優しい手つきで懐中時計を撫でてみせた。
そうしてダンテに対する授与も終わり、元居た列へと戻る最中。
ふと、ダンテと目が合うと、ダンテは嬉しそうにピースサインをして見せ。
そんなダンテを見た僕も周囲にばれないよう、腿の横で控え目なピースサインを送る。
すると、ソレを見てダンテは満足したのだろう。
ダンテは歯を出してニカッ笑い、ミエルさんに車椅子を押されるままに列へと戻っていった。
『第四席! グレゴリオ=ガレアス!』
「はいッ!」
四席として呼ばれたのはグレゴ先輩。
確か、前回の席位争奪戦では五席だった筈なので、席位的には一つ上がった計算になる。
と言うか……グレゴ先輩の二回戦は観戦する事が出来なかったので、どのような試合展開を見せたのか知らないのだが。
この様子だと、きっと素晴らしい試合展開を見せたのだろうと予想する事が出来。
そう思うと同時にしっかり試合を見れなかったことを勿体無く思えてしまう。
しかし、グレゴ先輩は前期組の五年。
卒業まで一年ある事を考えれば、グレゴ先輩の試合を見る機会はあるのだろうし。
自ら手合わせする機会だってある事に気付くと、気持ちを前向きなものへと切り替える事にした。
そして、次に呼ばれたのは――
『第三席! ソフィア=フェルマー!』
「はい!」
それは、ソフィアだった。
赤いツインテールを揺らしながら、テオ爺の元へと歩み寄るソフィア。
ソフィアは前回の席位争奪戦では第七席だったので、第三席となれば大躍進と言っても過言では無いだろう。
そんな大躍進を遂げたソフィア。
その背中を見ていると、幼い頃から知っているからか?
それとも、ソフィアの努力を知っているからか?
――いや、恐らくその両方なのだろう。
そう思うと、なんとも感慨深い気持ちになり、思わず目頭が熱くなってしまうのだが。
この場で涙を見せるのは流石に恥ずかしく。
どうにか堪えてみせると、少しばかりぼやけた視線をソフィアの背中へと定める。
『ソフィア君は大躍進じゃな、次回の席位争奪戦も期待しておるぞ?』
「はい! ありがとうございます!
次回の席位争奪戦では今よりも上の席位を目指したいと思います!』
そして、テオ爺とソフィアはそのようなやり取りを交わした後。
他の皆と同様に首に懐中時計を掛けられ、懐中時計を首に掛けたソフィアは元居た列へと戻っていく。
その途中。
ソフィアと目が合ったので、声を出さず口の形だけで「おめでとう」と伝えてみたのだが。
ソフィアの反応と言えば一瞬目を見開いた後、すぐさまそっぽを向いてしまうといったもので。
少しばかり素っ気無く感じた僕は、その反応に肩を落としてしまう。
だが、もう一度ソフィアに視線を向けてみれば。
相変わらずそっぽは向いているものの――その口は「あ り が と う」と形を作っており。
そんなソフィアを見た僕は思わず頬を緩めてしまった。
そうしていると――
『第二席! コーデリア=マルシアス!』
「はい! ですわ!」
コーデリア先輩の名前が呼ばれる。
正直「はい」の後の「ですわ」の必要性に疑問を感じてしまうのだが……
まぁ、それがコーデリア先輩の流儀なのだろう……
そのように納得させている内にも授与の手順が踏まれ。
首に懐中時計を掛けられたコーデリア先輩は元居た列へと戻って行く。
その際にコーデリア先輩と目があったのだが……
僕と目が合うとコーデリア先輩は歯を見せ、威嚇するように口をイーっとして見せた。
そんなコーデリア先輩の姿を見て。
『もしかして嫌われてしまったのかな? いやそんな事は……』
そのような葛藤をしてみたのだが、どちらかと言えば嫌われる要素の方が多く感じてしまい。
僕としては仲良くしたいと考えているだけに、少しばかり寂しい気持ちになってしまう。
その所為か「はぁ」という小さな溜息が漏れ。
もう一度溜息を吐くことで気持ちを切り替えようとしたのだが――
『そして! 最後に第一席――』
テオ爺が声を張り上げた事で、溜息を飲み込んでしまい――
『第一席! アルディノ!』
「は、はひっ!!」
その所為か、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
その事により、本戦出場者だけでは無く。
観客席からもクスクスという笑い声がおきてしまい。
笑い声を聞いた僕は、締まらない自分の行動に頭を抱えたくなってしまう。
しかし、そんな僕の心境を他所に、授与式は進行されるようで。
急いでテオ爺の元へと歩み寄った僕は、慌てて居住まいを正してみせた。
『……ま、まぁ、返事は兎も角として。
席位争奪戦優勝者のアルディノには第一席を授ける!』
「あ、ありがとうございます!」
若干呆れ気味のテオ爺に対して頭を垂れると、皆と同じように懐中時計を掛けるテオ爺。
そして、首に懐中時計を提げた僕は、皆に倣って元居た場所へと戻ろうとすると――
『ちょっ!? ど、何処行くつもりじゃ!?』
「へ?」
テオ爺に呼びとめられてしまい。
間の抜けた声を出すと同時に足を止める事になる。
『へ? じゃないわい!
第一席になった者には一言お願いすると言う決まりがあるんじゃから、戻られては困るわい!』
「へ?」
そんな話は聞いていなかったし、そんな記憶は一欠けらもなかった為。
僕は再度間の抜けた声を漏らす羽目になるのだが、それは単に僕の確認不足なだけだったようで……
「出場の注意事項や規約のところに書いてあっただろうが……」
「……本当、アルって抜けてるわよね」
「ああ、実力は申し分ないんだが……アルディノが第一席となると少しばかり不安を感じるな」
「にゃはは、流石アルにゃ! ある意味期待を裏切らにゃい!」
友人達のそんなヒソヒソ声が耳へと届き。
「そもそも、授与式が始まる前に伝えた筈なのですが……」
ミエルさんの一言で、僕が全面的に悪かった事を再確認させられる。
『と、兎に角! 一言を頼む!』
更にはテオ爺に急かされてしまい、声を拡散する魔道具を渡されるのだが。
急に一言と言っても、何も考えていなかったので、すぐに言葉が浮かんで来る筈もなく――
『……………………えー、あー、えー』
要するに、僕の頭は真っ白になってしまった訳だ。
そして、そんな状況に観客達も痺れを切らしてしまったようで。
「どうした!? 早く喋れよ!!」
「見直してやったのにそりゃあねぇだろ!!」
「やっぱり俺達が見たの幻だったんじゃねぇの!?」
「確かにな! なんか今のあいつ見てると俺でも勝てそうな気がするわ!」
観客席からそんな声が上がり始めるのだが……
『えー、あー、はい』
未だ頭が真っ白な僕は、観客達の声を受けてもやはりそんな言葉しか出てこず。
言葉が出ない事も相俟って焦りを感じると共に混乱して来てしまう。
だからだろう。
「ああー分かる分かる。
本当、俺でも勝てる気がするわ、なんかナヨナヨしてるし、モテなそうな面してるもんな〜」
『は?』
一番拾ってはいけない言葉に反応してしまい。
『普通にモテモテですけど?』
あろうことか訳の分からない強がりを口にしてしまう。
そして、それがいけなかったようで。
「おい、ヤベぇよアイツ、なんか必死じゃん?」
「ああ、あれほど分かりやすい嘘は初めて聞いたわ……」
「お、おい! なんか可哀想になってきたから謝ってやれよ!」
「な、なんでだよ! だって事実じゃねぇか!」
誹謗中傷や憐れみを含んだ言葉がそこかしこから上がり。
そんな言葉を聞いた事で、羞恥の臨界点を突破した僕はますます混乱してしまい――
『ど、どうせモテませんよ! だから何なんですか!?
別にモテたからといって第一席にはなれませんんよね!? だから僕はコレで良いんです!!』
訳の分からない持論を展開してしまう。
そして、この言葉を煽りと受け取った一部の観客達。
「は!? 自慢か!? モテない癖に偉そうにしやがって!」
「どうせ後期組の第一席なんてすぐに奪われるのがオチだろうが!」
「お前なんてすぐに追い落として、肩書きの無いただのモテ無いヤツにしてやるよ!」
観客席は声を荒げると、そんな言葉を僕に対して投げつける。
更には――
「ソフィアさんとかラトラちゃんとかと仲良い癖にモテないとか図々しいぞ!」
「そうだそうだ! 何かやたら綺麗なおねーさんとか、かわいい女の子と一緒に居るの見たぞ!」
「モテないってのは俺みたいなヤツの事を言うんだよ! 手前ェのは自虐風自慢だ!!」
おかしなことに、そんな言葉まで投げつけられてしまう。
実際、本来の僕であるならば、顔を引き攣らせながらもグッと堪える場面で。
どうにかして穏便に済ませる場面なのだろう。
だがしかし。
如何せん、僕の頭は絶賛混乱中である為。
『も、モテるかどうかはどうでもいいんですよ!
こ、ここは学園なんですから、学業とか席位の方が重要だと僕は思いますけどね!』
止せば良いのに、強がりという名の煽りを入れてしまう……
当然、そんな事を言われれば観客達――学園の生徒達も黙って居られる筈もなく。
「上等だ!! 首洗って待っとけよ!!」
「絶対に追い落としてやるからな!!」
「だけど、アイツをぶっ飛ばすには実力が足らなくねぇか!?」
「しらねぇよ! だったら今まで以上に頑張るしかねぇだろう!?」
「あ、ああ、そうだな! おい! 覚悟しとけよ!!」
宣戦布告とも言える言葉が幾つも会場に響き渡り。
おかしなことに、前期組だけで無く、後期組らしき人達からも宣戦布告の声が上がる。
そして、そんな言葉が響き渡る中――
「ははっ! やっぱアルと居ると退屈しねぇわ!」
「流石アルさんだわな、本当退屈させてくれそうにないわ」
「退屈はしないが……なんだか頭が痛くなってくるな」
「にゃはは! にゃんだか楽しくにゃりそうだにゃ〜」
「モテないとか……脳みそ腐ってるんじゃないのかしら……
あれ? でも、そう思ってた方が私にとっては都合がいいのかしら……?」
友人達は半ば呆れた様子で、そのようなやり取りを交わし。
「次の席位争奪戦では私が第一席に返り咲いて見せますわ!」
「おいおい、あのアルディノとか言うヤツ変なヤツだな! 戦ってみたかったわぁ!」
「ミランダさんは流石だね……あの試合を見た後で彼と戦う気が起きるなんてさ」
「ダッカス先輩でもそう思うんですか? まぁ、確かに異常でしたもんね……」
席位を持つ先輩達はそんな会話を交わす。
「アルに一言を頼んだ儂が悪いのか……それとも……はぁ」
「テオドール様、落ち込まないで下さい。これはアル君の策だと思われます。
恐らくですが、アル君は悪役を演じる事で、前期組、後期組の共通の敵となり。
そうする事で確執を無くそうと考えているのでしょう」
「か、買いかぶりな気がするのう……」
更には過大評価であり、見当外れの会話が耳へと届くと。
会場の熱気はますます過熱して行き、幾つもの言葉が会場を飛び交うことになる。
そして、そんな熱気に包まれる会場の中。
混乱する頭に加え、会場の熱気に当てられてしまった僕は妙なテンションになってしまい。
『だ、だったら掛かってくればいいじゃないですか! ですが――』
その結果――
『――ですが! 卒業するまでの三年間!!
僕は誰にも第一席は譲る気はありませんので、それを理解した上で掛かってきて下さいね!!』
止めの一言を発してしまい。
その一言によって、水を打った様な静けさが会場へと広まる。
しかし、それも一瞬の出来事で――
「おおーーーー!! あの餓鬼言ったぞ! 逆宣戦布告だぜ!」
「やるねぇ!! 来年も再来年も見に来てやるから、第一席を守り続けろよ!!」
「お前等! あんなこと言わせていいのか!?
前期組とか後期組とか関係ねぇ!! 卒業までにアイツを第一席から降ろすぞ!!」
「アルディノオオオオオオ!! 唾飲むんじゃねぇぞ!!」
今日一番とも言える程に会場が沸き。
耳が痛くなる程の歓声や罵声、怒号に嘆声、様々な声が会場に響き渡る。
なんとも混沌として席位争奪戦の会場。
そんな混沌とした空気の中――
短く長い五日間であり。
様々な物語の舞台となった五日間。
僕にとって初めての席位争奪戦は様々なモノを胸へと残すと共に。
痛いほどの歓声の中、騒がしくも賑やかにその幕を下ろすのであった。
「くふふっ、アルも言うようになったじゃないか。
随分と成長したとは思わないか? なぁウルフ?」
「わふふっ、ええ、私達の手を離れるのも、そんな先の事じゃないのかも知れないわね?」
「なっ!? い、今の発言は嘘だ!
ア、アルは全然成長してないし未熟者だ! 私達の手を離れるのはまだまだ早い! うむ!」
「……私も人の事言えないけど、メーテも大概よね?」
「う、うるさい! ほっとけ!!」
そんなやり取りを添えて――
席位争奪戦編は楽しんで頂けたでしょうか?
今回の投稿で席位争奪戦編は終了となりますが楽しんで頂けたなら嬉しいです。
活動報告では報告させて頂いたのですが。
今回の投稿を持ちまして、投稿をお休みさせて頂こうと考えております。
理由は、活動報告にも書いていますが、書き貯める期間を設けたいと言うのが大きな理由です。
投稿を楽しみにしている方には、本当に申し訳ないと思うのですが。
何卒、ご了承のほどお願い致します。
それとですが、出来るだけ早い投稿再開をと考えていますので。
続きが読みたい、登場人物が好き、面白いなどと感じて頂けたなら。
執筆の励みになりますので、ブックマークや評価をして頂けると嬉しいです。
今後も面白いと思って頂けるようなお話を書いていきたいと考えておりますので。
これからも「魔女と狼に育てられた子供」と言う作品にお付き合い頂けたら幸いです。