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153・ソフィア対ミランダ

 

『これより! ソフィア=フェルマー選手対ミランダ=ロペス選手の試合を開始したいと思います! それでは両選手開始位置へ!』



 場所は本戦会場のリングの上。

 私は審判員の指示に従い開始位置へと移動する。

 

 私と同じように開始位置に着くのはミランダ=ロペス先輩。

 学園第四席を冠する実力者であり――



「去年同様、今年も私が勝たせてもらうから覚悟しとけよ?」



 ミランダ先輩の言葉からも分かるように。

 去年の席位争奪戦、その準々決勝で私が敗北を喫した相手であった。



「今年は去年のようには行きませんよ。ミランダ先輩の方こそ覚悟しておいて下さいね」


「はっは! 中々言うじゃないか! だったら気合入れ直さなきゃなんねぇな!」



 少しでも精神を乱す事が出来るのであれば儲けもの。

 そう思って口にした煽りの言葉を笑って受け流すミランダ先輩。 

 

 短く揃えた髪に鋭い目つき、高身長な上に筋肉質な身体。

 こう言うのも失礼だとは思うんだけど、見た目は脳筋と言った感じのミランダ先輩だと言うのに。

 煽りを受けても揺らぐどころか、恵まれた体格を活かせるだけの冷静な判断力を持ち合せているのだからタチが悪い。


 その上、男勝りな性格と言うか竹を割った様な正解の持ち主で。

 異性どころか、女子にまで好意を持たれるような人格者と言うのだから本当にやりにくい。


 まぁ、かく言う私もミランダ先輩の事は尊敬している訳なのだが……


 などと考えている間にもお互いの準備が整ったようで――



『これより、ソフィア=フェルマー選手対ミランダ=ロペス選手の試合を開始します!

それでは! ――試合開始!!』  

  


 審判員が試合の開始を告げた。






「さて、一年でどれだけ実力が上がったか確かめてやろうじゃないか?」



 ミランダ先輩はそう言うと、鉄の球体が付いた棒――メイスを肩でトントンと弾ませる。



「余裕を見せていて良いんですか?」


「ん? 後輩の成長を確認してやるのも先輩の務めだろうが? 良いから来いって」



 試合の最中だと言うのに、面倒見が良いと言うのかなんと言うか……

 これならランドルみたいな相手と戦った方が気持ち的には楽なように感じてしまい。

 感情のままにランドルと戦えたダンテの事が少しだけ羨ましくなってしまう。

 

 それと同時に、舐められているとも感じてしまった私は、鞘から剣を抜くとミランダ先輩へと向ける。



「おっ? 『魔法剣』は使わなくて良いのか?」


「ええ、折角実力を見てくれると言うんですから、まずは只の剣技だけでどこまで近づけたのか確かめよと思いまして」


「あー成程なー、理解したぜ。

んじゃ、確かめてやるからかかってきな!」



 ミランダ先輩の言葉が終わると同時に、私は一歩踏み込むと剣を薙ぐのだが――

 


「おっと危ねぇ! いいねいいね! 去年より早さに磨きがかかってんじゃん!」



 私の剣は、そう言ったミランダ先輩のメイスによって阻まれてしまう。


 しかし、それは予想出来たことだ。

 焦らずに体勢を立て直し、隙のある個所を見つけると剣を振るう。



 ガキィーン   



 金属と金属がぶつかり合う音と小さな火花が舞う。


 それと同時に痺れるような感触が手に残り、まるで骨を叩かれてるような錯覚をしてしまうけど。

 その感覚に堪えると、剣を落とさないように柄をギュッと握りしめ。

 私は新たな隙を見つけては剣を薙ぎ、防がれては剣を振り下ろす。


 剣とメイスによる攻防。

 その速度は徐々に増していき、速いリズムの金属音が会場に響き渡る。



「おお! やるね! 随分と腕をあげたじゃねぇか!」



 私の剣激を全てメイスで捌きながら、余裕の表情を持って私の事を評すミランダ先輩。


 もしかしたら、純粋な剣の実力だけで勝てる可能性もあるかも知れない。

 そう考えていた部分もあっただけに、思わず悔しさが込み上げてくる。


 しかし――



「まだまでこれからです!」



 私はそんな言葉と共に敢えて使用していなかった身体強化を使用すると。

 メイスに狙いを定めて全力で斬りあげる。



「なっ!?」



 恐らくだが、ミランダ先輩は、私が既に身体強化を使用していると考えていたのだろう。

 急激に跳ねあがった一撃の重さに耐えられず、ミランダ先輩はメイスを持った腕ごと跳ねあげられる事になる。


 そして、此処が好機だ。


 私は一歩踏み込むと、胴めがけて全力の一撃を放つ。

 剣と胴の間には障害物など無く、内心で「貰った!」と確信するのだが――



「甘いッ!!」



 その言葉と共に届いたのは、右のわき腹への衝撃。



「ぐっ!?」



 思わず苦悶の声が漏れ、胃に伝わる衝撃により、昼食を吐きだしそうになってしまう。

 しかし、それをなんとか堪えると、全力で後方へと飛びミランダ先輩との距離を取る。



「惜しかったな? どうだ? 私の演技も中々だろ?」



 ミランダ先輩はそう言うとメイスを担ぎ、肩でトントンと弾ませた。



「演技……もしかして、メイスを弾かせたのはワザとですか?」


「そういうことだな。

若干、剣に重さが足りない気がしたから身体強化を使ってないんじゃないか?って思ってな。

だから、敢えて隙を見せる事でソフィアに身体強化を使わせて、ソフィアが油断したところを狙い打ったって訳だ。

どうだ? 演劇女優になれるとおもわねぇか?」


「……そんな筋肉質な女優居ませんよ」


「はぁ? お、お前! 私だってこんな筋肉質になりたかった訳じゃねぇよ!」



 憤慨してます!と言わんばかりに顔を赤くするミランダ先輩。

 実際、女優になれるかは分からないが、顔だけ見れば整ってる方だと思うし。

 最近では大きな動きを取り入れた演劇などもあるので、無くは無い話だった。


 だけど、見事に嵌められたと言う悔しさから思わず否定してしまい。

 自分の事ながら少しばかり狭量だと自覚してしまう……


 それは兎も角。


 残念な事に剣技だけではミランダ先輩には未だ及ばないのだろう。

 凄く悔しいし、認めたくないけど、下手な自尊心で負けてしまっては笑えない。

 そう思った私は、魔力を練り始める。



「これからは全力でいかせて頂きます」


「ああ来い! 筋肉質って言った事後悔させてやる!」


『火天渦巻き剣を纏えッ!!』



 その瞬間、剣が炎を纏い。

 チリチリとした炎の熱が頬を伝う。



「魔法剣、相変わらず面倒臭そうな技だが……てか、去年より火力落ちてんじゃねぇーか!?」



 魔法剣を見たミランダ先輩は、「駄目じゃん!」と言いながら呆れた様な視線をむけるのだが――



「それはどうですかね?」



 含みを込めて私がそう言うと、ミランダ先輩は一瞬で何かを察したのだろう。

 剣と身体の間に滑り込ませるようにメイスを挟む。


 だがしかし――


 私の魔法剣はただのメイスで防げるほど温くは無い。

 

 滑り込ませたメイスは何の役割も果たさず。

 ジュウと言う金属の溶ける音と共に柄の半ばから切断される事になる。



「……はぁ?」



 切断されたメイスをの柄を見つめ、呆けた声を出すミランダ先輩。

 メイスから視線を切ると私に視線を向け、その視線を鋭いものにする。


 ミランダ先輩の視線を受けた私は、これからが本番だろう。

 そう思うと武器を奪った事で緩みかけた意識を張り直すのだけど――



「やめだやめ! こんなん本気でやりあったら割に合わないわ!

審判員さん、私の負け! 降参! お手上げです!!」


 

 ミランダ先輩は一転して表情を崩すと、無造作にメイスの柄を放り投げ、自らの負けを認める。

 


「へっ?」


 

 あまりにもあっけない幕切れに、今度は私が呆けてしまうのだけど。

 


『み、ミランダ選手が降参を宣言した事により、この勝負ソフィア選手の勝利となります!』



 そんな私を他所に審判員は私の勝利を告げる。


 何とも言えない試合結果に、試合を見ていた観客達も盛り上がっていいのか分からないと言った感じなのだろう。

 会場内に響く歓声もなんとなくまばらだ。

 

 そして、そんな微妙な会場の空気の中、ミランダ先輩は私に歩み寄ると。



「残念だけど、私は今年で卒業だから、こう言った舞台でソフィアと戦う機会も無いんだろうけど。

もし、今度戦う機会があったら、今度はこんなちゃちい武器じゃなく『本気』でやり会おうぜ!

そん時は負けないから覚悟しとけよ?」



 そんな言葉を口にした。

 

 ミランダ先輩の言葉を聞いた私は、もしかしたら負け惜しみなのでは?とも思ったんだけど……

 私に向けられたミランダ先輩の瞳からは、嘘や偽りと言ったものが感じられず。

 何故かゾッとしたものを感じてしまい、肌が粟立つのが分かった。


 その所為か、出来る事ならミランダ先輩とは2度と戦いたくないなぁ……

 

 などと思っていたのだけど、ミランダ先輩はそんな私の手を取り――



「とりあえずはおめでとう! 去年より強くなったな!」



 そう言うと、勝者が誰であるかを会場に示すように私の手を掲げて見せる。


 そして、その瞬間。

 会場は大きな歓声に包まれる事になる。


 正直、ミランダ先輩が女優になれるかは分からないけど。

 会場の雰囲気を一瞬で変えて見せた『役者』としての資質の差に、私は苦笑いを浮かべてしまうのだった。


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