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139・対戦表

 ランドルとコールマンに絡まれた日から約一ヶ月が経ち。

 あっという間に席位争奪戦当日を迎える事になったのだが。

 この席位争奪戦と言うイベント、僕が想像していた以上に大きなイベントだと知ることになった。



「だ、大盛況って感じだね」



 思わずそんな言葉を零してしまった僕の目に映るのは、正門から伸びる長蛇の列。

 学園内には幾つもの屋台や多くの人によって賑わいをみせており。

 その様相は先日の『還御祭』を彷彿とさせた。



「そうよ、争奪戦って言うのは生徒達の実力を測ることが出来る貴重な機会だもの。

今の内に優秀な生徒を見つけて声を掛けておこう、って言う人達とか。

単に試合を楽しみにしている人達が大勢集まるのよね」



 僕の質問に答えたのはソフィア。

 学園に登校したところ偶然遭遇したので、2人並んで屋台で賑わう学園内を散策しているところであった。



「要するに、青田買いってヤツかな?」 


「そんな感じだと思うわ。

まぁ、かく言う私も去年の争奪戦を見た『蒼薔薇の騎士団』からお声が掛かってるんだけどね!」



 どうやら席位争奪戦と言うのはそう言った側面もあるようで、スカウトされた事を自慢げに語って見せるソフィアなのだが。

 その『蒼薔薇の騎士団』と言うものが分からない僕は「へ〜」と言う気の抜けた返事をしてしまう。


 そんな返事がソフィアにとっては不服だったのだろう。



「王都の女性だけ構成された王都の騎士団よ! 知らないの!?

『蒼薔薇の騎士団』から声が掛かるって言うのは凄いことなんだからね!」



 そう言うと頬を膨らませ、睨まれれてしまうのだが。

 その姿が小動物のように見えてしまい、思わず笑いそうになってしまう。

 

 しかし、それをどうにか堪えた僕は「ごめんごめん」と伝え。

 それで少しは機嫌が直ったのだろうか?

 少し不服そうではあるものの、ソフィアは話を続けてくれた。



「まぁ、悪い言い方かも知れないけど、争奪戦と言うのは品評会みたいな物なのよね。

だから、卒業した後、良い職場に付けるように生徒達も張り切るって訳なのよ」


「良い職場か~。

それじゃあソフィアは卒業したらその『蒼薔薇の騎士団』て言うのに入るの?」


「わ、私はそれも選択肢だとは思うけど……

ア、アルは卒業しても冒険者をするんでしょ?」


「僕? うん、冒険者をしながら迷宮都市を目指すつもりだけど……どうして?」


「ベ、別にどうってことは無いけど……

ア、アルは……私が『黒白』を抜けて『蒼薔薇の騎士団』に入るって言ったら……どう思う?」



 僕は顎に手を当てて考える。

 

 僕としては、折角パーティーを組んだんだし、気心の知れた相手であるソフィアに抜けて欲しく

ないと言うのが本音ではある。

 

 だがしかし、冒険者や探索者と言うのは不安定な職業であり、当然ながら危険も伴う。

 騎士団がどう言ったものかは分からないが、王都の騎士団と言う事や声が掛かるのが凄いとソフィアが言ったことから察するに、恐らく学園でもエリートと呼ばれる様な者しか入る事が出来ないのだろう。

 その事から冒険者や探索者なんかよりも安定した職業で、尚且つ好待遇なのであろう事を推測することが出来た。


 ――それにだ。

 ソフィアにはソフィアの人生がある。

 僕の我儘で冒険者を続けて欲しい。と言うのは何だか違うように感じてしまい。

 


「うーん、もしソフィアが『蒼薔薇の騎士団』に入るって言うなら、仕方ないことだし応援するよ」

 


 従って僕の口から出た言葉はこうだったのだが――



「……アルの馬鹿!」



 不機嫌そうに頬を膨らませたソフィアに罵られてしまう。

 

 何故「馬鹿」と言われてしまったのかが分から無い僕はキョトンとしてしまい。

 思わず呆けてしまったのだが。

 そんな僕を見たソフィアは呆れるように溜息を吐くと。



「本当馬鹿!」



 追い打ちを掛けるようにそう言って見せた。



 その後、ソフィアの機嫌を宥める為に出店で焼き菓子を御馳走することで、どうにか機嫌を直してくれたソフィア。

 そろそろ、予選一回戦が始まると言うことで別れる事になったのだが。



「それじゃ、私はアル頑張ってきて――やっぱり程々にね?

アルが本気出したら予選の相手程度じゃ死んじゃいそうだから」



 別れ際の一言が素直な応援じゃない事に少しだけ肩をこけさせてしまう。


 死んじゃうって言うのは言い過ぎなような気がしないでもないが。

 一般的な生徒と比べたら実力が上だと言う事は理解しているので「程々に頑張るよ」とだけ返し、人混みの中へ消えて行くソフィアを見送る。


 ちなみにソフィアなのだが。

 聞いた話によると、席位持ちは無条件で本戦からの参戦となる為、本戦までは暇らしく。

 予選が行われる二日間は友人達と屋台巡りなどをして、席位争奪戦と言うイベントを楽しむそうだ。


 その話を聞いた際に、卒業した生徒が席位を持って居た場合は席位に空きが出るのでは?

 と言う疑問を持ったのだが。

 学年の変わり目で空いた席位は、席位争奪戦の成績によって埋められるようで。

 席位に空きが出ると言うことは無いようだ。


 その際に、席位の繰り上がりと言うこともあるそうで、ソフィアもその対象だったらしいのだが――



『私は自分で勝ちとった席位以外興味ないから辞退したわよ?』

 

 

 などと言うのだから、ソフィアらしいと思い、何となく頬が緩んでしまった。


 ――そんなやり取りを思い出し、再び頬が緩むのを感じている間にも時間は経過していたようで。

 本格的に予選の時間が迫っている事に気付く。

 その事に気付いた僕は、緩んだ頬を叩いて気持ちを切り替えると。

 予選会場へと急いで向かうのだった。






 学園内を歩き、少しした所で予選会場へと到着する。

 

 予選会場は、入学試験やグレゴ先輩と戦った際など、度々お世話になっている修練場なのだが。

 席位争奪戦が開催している間は会場として利用され、本戦も修練場で行われることになっている。


 そして、その修練場なのだが。

 席位争奪戦の為の特別仕様とでも言えば良いのだろうか?

 その中央には石材で出来た四角い闘技場が設置されていた。

 

 そんな修練場もとい予選会場を眺めながら歩いていると受付へと到着する。

   


「えっと、君は参加者かな? それとも見学?」



 そう声を掛けてきたのは受付の職員で。

 僕が参加者である事と名前を伝えると、紙束をめくってなにやら確認を始める。


 

「アルディノ、アルディノっと……確かに参加者のようだね。

じゃあ、そこを曲がって少し行った所に選手用の控室があるから、指示があるまで待ってて貰えるかな?」


「控室ですね。わかりました」



 職員に軽くお辞儀した後にその場を離れると、僕は選手控室へと向かう。


 そうして控室へと辿り着き、控室へと入ると、既に大勢の参加者が集まっており。

 身体の調子を確かめるように身体を動かす者や、集中するように瞑目する者。

 緊張しているのだろうか?

 貧乏ゆすりが止まらない者や、壁に向かいなにやら呟いている者なんかが目に入った。


 そして、そんな独特な雰囲気の控室を眺めていると声が掛かる。



「おっ、遅かったな」


「随分と余裕じゃないか?」


「これが強者の余裕ってやつかにゃ?」



 声のした方を向けばダンテ、ベルト、ラトラの姿があり。

 僕は3人の元へいそいそと駆け寄る。



「ここに向かう途中ソフィアに会ってね。

少し話してたら遅くなっちゃったみたいだね」


「そうなんか? てか、ソフィアはいきなり本戦だから良いよな〜」



 ダンテはそう言うと少しだけ不貞腐れた様子を見せるのだが。



「まぁ、色々なヤツと戦えるんだからそれもそれで有りっちゃ有りか」



 そう言って納得した様子を見せる。

 自分で不満を口にし、勝手に納得しているダンテを見て器用なことをしているなー。

 などと思っていると、ベルトから声が掛かる。



「アルディノは対戦表を見て無いだろ?

そこに張ってあるから確認してきたらどうだ?」



 ベルトの視線の先を見れば、大きな布が貼られており。

 そこには幾つもの名前が記載されているようだった。


 僕はその布に近づき内容を確認する。


 すると、そこには1〜12番と書かれた枠組みがあり、その中に幾つもの名前が書かれていた。


 その数字の4番の中に自分の名前を見つけた僕は、なんとも不吉な番号に思わず顔を顰めてしまうのだが……

 そんな僕とは違い皆の顔は何故か晴れやかだ。

 それを不思議に思った僕は尋ねてみる事にすると。



「いやぁ〜運が良かったぜ! なんだかんだ言ってアルと違う組だったからな」


「ああ、アルディノと当たらないで済んだと言うのを手放しで喜ぶのも違うとは思うが……

本戦に出場したいと言うのは本音だからな、当たらないで助かったよ」

 

「んにゃ! 前日からアルと当たらないように祈った甲斐があったにゃ!」



 どうやらそう言う事のようで、対戦表を見て見れば綺麗にバラけている事に気付く。


 事前にソフィアから聞いた話によれば。

 予選第一試合は、4番であれば4番内に振り分けられた全員で勝ち残り戦をするようで。

 それに勝ち残った一名だけが次の試合へと進めると言う話らしい。


 予選第二試合は勝ち残った者同士で戦い。

 僕の場合だと3番内に振り分けられた勝者と戦うことになるのだが。

 対戦表を見る限りでは、僕達がカチ合うとことも無さそうであった。

 

 僕としても折角なので全員揃って本戦に進みたいと考えていたので、対戦表を見て潰し合う事はなさそうだとホッとする。


 だがしかし――



「うわっ……第一試合勝ち残ったら……次の試合は下手したらランドルだ……」



 3番と書かれた枠組みの中にランドルの名前を見つけた僕は顔を顰めてしまい。

 そんな僕の表情を見たダンテは不憫そうな目を僕へと向ける。



「アルも災難だよな、あんな面倒なヤツに目を付けられて……まぁ、俺じゃなくて本当良かったわ」 


「随分と執着されているようだし、ご愁傷様としか言えないな」


「まぁ、でも、良い機会にゃ! ガツンとやって黙らせればいいんじゃないかにゃ?」



 ダンテの言葉に続くベルトとラトラ。

 

 確かにラトラの言う通り、不正の出来ない場でちゃんとした決着を付けるのは良い案だとは思う。

 まぁ、決着が付いたところで放ってくれるかと言えば怪しい所ではるのだが……


 兎も角。

 

 自分が出来る限りの事をして、まずは予選突破を目指すべきだろう。


 そう考えた僕は、ひとまずランドルの事は頭の隅に置くことにすると。

 その瞬間ガチャリと扉が開き。



「席位争奪戦に参加する選手の皆さん、これから予選が行われますので。

職員の指示に従って、行動するようお願いします」



 職員がそう告げたことで、気持ちを引き締めなおすのであった。


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