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138・コールマン

 席位争奪戦に参加することを表明してから2週間程が経ち。

 席位争奪戦が開催されるまで残すところ約一ヶ月に迫ったある日の事。



 昼食を終えた僕達は学園の中庭に集まり雑談に興じていた。


 僕達と言うのはダンテ、ベルト、ソフィア、ラトラの所謂いつもの面子と言うヤツなのだが。

 それに加え、今日はグレゴ先輩の姿もあったりする。


 そんな何時もの面子に僕を含めた6人で中庭に集まり。

 午後の授業が面倒だとか、今日のランチは美味しかった。

 そんな他愛もない話に興じている時の事だった――



「おやぁ? そこに居るのは前期組の面汚し2人ではないですかぁ?」



 不意に掛けられた声は実に粘着質なもので、顔を見るまでも無く気障ったらしい人物を想像させた。


 話の内容から察するに新たな手合いに絡まれているのであろう。

 そう察したことで、思わず顔を顰めてしまうのだが。

 渋々ながらに声の主を確認する為に振りむいて見ると、金色の長髪に厭らしい感じのタレ目。

 派手な刺繍の施された制服に身を包んだ、いかにもと言った風貌の男子生徒の姿があった。



「ちっ、何の用だよコールマン?」



 舌打ちと共に尋ねたのはグレゴ先輩。

 露骨なまでに表情を歪めており、その事からコールマンと呼ばれた男子生徒との関係があまり良好ではないことが窺える。



「第五席ともあろうものが随分と落ちぶれたものだと思いましてねぇ。

しかも、第七席まで一緒になって後期組とつるんでいるなんて……恥ずかしいとは思わないんですかぁ?」



 コールマンの言葉を聞いた僕は、またこの手の輩か……そう思うとげんなりしてしまう。

 そして、そんなコールマンの後ろを見て見ればランドルの姿があり。

 このコールマンと言う男子生徒もランドルに唆されたのであろう事を察すると。

 本当面倒なヤツに目を付けられたものだと思い、思わず溜息を漏らしてしまった。



「別に恥ずかしくはねぇよ。まぁ、最近まで俺もお前みたいな考え方だったが。

前期組、後期組と括ったところで、そんな枠に意味なんて無いって気付かされちまったからな」



 グレゴ先輩はそう言った後、僕の事をチラリと見るのだが……

 正直辞めて頂きたい……あっ、ほら……コールマンの視線が僕に向いちゃったじゃないですか……



「ふん、そいつが例のお前を倒したと言うヤツかなぁ?

全然強そうには見えないんだがぁ……ランドル君? コイツで間違いないのかなぁ?」


「は、はい! コイツです!

どんな卑怯な手を使ったかは分かりませんが、コイツがグレゴリオ先輩を倒したのは確かです」


「ほほぉ、卑怯な手ねぇ。

確かに、そうでもしなければ仮にも第五席を後期組が倒すなんてありえないからねぇ。

流石は後期組、その狡猾さだけは称賛に値するよぉ。

まぁ、薄汚なくてとても真似ようとは思わないがねぇ」



 コールマンがそう言うと、後ろに控えていた生徒達の間に笑いが起きる。


 思わず「卑怯な手を使ったのはそっちでしょ?」と反論したくなるのだが。

 それを言ったとしても、誤魔化されるのは目に見えているので敢えて口にしない。


 しかし、それが悪かったのだろう。



「おやぁ? ダンマリと言う事は認めると言うことでいいのかなぁ?」



 何も言い返さない僕の姿を見たコールマンは、卑怯な手を使ったと判断したらしく。そう言うとニヤニヤとした表情を浮かべて見せ――



「やはり後期組なんて言うのは碌でもないヤツらばかりだねぇ」



 更には、などとのたまい、侮蔑を含んだ視線を向けられてしまう。

 

 僕だけ侮蔑するなら兎も角。

 後期組全体を悪しざまに言われたのには流石に腹が立ち。

 反論の一つでもしてやろう。そう思い口を開きかけたのだが。



「てめぇ……いい加減にしろよ?

むしろ卑怯な手を使ったのは俺達の方だ、アルさんの使う武器に細工してな。

なぁ、そうだろ? ランドル?」



 僕よりも先にグレゴ先輩が反論して見せ、ランドルを睨みつけた。


 グレゴ先輩に睨みつけられた事により、一瞬だけ怯んだ様子を見せるランドル。

 しかし、平静を装うようにタイを締め直すと、毅然とした態度で反論して見せる。



「……何を言ってるんですかグレゴリオ先輩。

前期組である僕がそんな卑怯な手を使う訳ないじゃないですか?

と言うか、アルさんてなんです? 後期組なんかに負けて尻尾を振るとか貴方本当に前期組の面汚しですね」



 不正は無いと言い切るランドル。

 それだけでも納得出来ないと言うのに。

 あろうことか先輩であるグレゴ先輩を貶める様な言葉までも口にする。

 その見事なまでの手の返し様に呆れてしまい、思わずポカンと口を開けてしまうのだが。

 それはグレゴ先輩も同様だったようで、呆れたと言わんばかりの視線をランドルに注いでいた。


 そして、そんなランドルの言葉を聞いたグレゴ先輩。



「てめぇみたいなヤツに踊らされてと思うと情けなくなるが……

そこまで口ににしたんだ、虚仮にするだけの覚悟はあるんだよな?」



 そう言うと額に青筋を浮かべ、パキパキと指を鳴らしランドルを睨みつける。


 場の空気が一気にひりつき、ランドルの返答次第では殴り合いに発展する可能性も充分に考えられると言う状況。

 その所為か、ランドルの言動に自然と意識が集まってしまう。


 そんな状況の中、ランドルから出た言葉はと言うと――



「流石犬だ、良く吠えますね」



 その瞬間。



「てめぇええええええ!!」



 グレゴ先輩の口から咆哮にも近い怒声が漏れ。

 それと共に一直線にランドルとの間合いを詰めると、胸倉へと手を伸ばす。



「おやおやぁ? コレは穏やかじゃないねぇ?」



 しかし、コールマンの行動により、それは阻まれることになる。



「がぁっ! て、てめぇ!! 離しやがれっ!!」


「離す訳がないだろぉ?」



 ランドルの胸倉まで後数センチと言ったところまで伸びたグレゴ先輩の腕。

 その腕はコールマンに手首を掴まれる事によって阻まれており。

 恐らく、相当な力で手首を締めあげられているのだろう。

 グレゴ先輩の手首から先が徐々に変色を始めていた。



「ぐうっ! は、離しやがれぇ!!」


「この手を離したらぁ、君はランドル君に危害を加えようとするじゃないかぁ?

それは生徒会役員でアル私からすればぁ、黙認できない事態だよぉ?」


「ぐがぁっ!」



 コールマンは会話をしている間にもその指先に力を込めたのだろう。

 グレゴ先輩は苦痛の声を上げ、更に手首から先が変色していく。


 見た目は優男にしか見えないコールマン。

 しかし、大柄なグレゴ先輩をこうもいいように手玉に取るのだ。

 見た目とは裏腹に相当な実力がある事を窺い知れたのだが……


 グレゴ先輩の事を考えれば、悠長に考えている場合ではないだろう。

 そう考えた僕は、コールマンに声を掛ける。



「そろそろ放してあげて貰えないでしょうか?」


「放すぅ? 何故だい?」


「何故って、グレゴ先輩の手が変色して来ているじゃないですか。

それに苦しがってるようですし、放して貰えないでしょうか?」


「ふぅん、しかしだよぉ?

この手を放したらグレゴリオ君はランドル君に手をあげるんじゃないかぁ?

それは僕としては見過ごせない事態だよぉ」



 僕の言葉を聞き、懐疑的な視線を向けるコールマン。


 まぁ、先程のグレゴ先輩の様子を見ればそう考えるのも理解は出来るのだが。

 コールマンやランドルが煽らなければグレゴ先輩も手を出そうなんて考えなかった筈だ。

 そう思うと若干と言うか結構イラッとしてしまう。


 しかし、それを表情に出さないようにすると、手を出さないよう約束して貰う。



「それは大丈夫ですよ。グレゴ先輩には手を出さないと約束して貰いますから。

グレゴ先輩、憤るのは分かりますがここは一度怒りを収めて貰えませんか?」


「グッ……アルさんがそう言うのなら……」



 グレゴ先輩からすれば納得いかない点があるとは思うし。

 グレゴ先輩の内心を思うと悔しいと言うのが本音だ。


 しかし、更に状況が悪化し、思わず手が出てしまった。

 なんて事になった場合、僕達が悪者扱いされるのは目に見えており、下手したら再度謹慎なんて可能性も考えられた。


 本当、理不尽だと言いたくなるのだが。

 その言葉を無理やり飲み込んでから口を開く。 



「グレゴ先輩もこう言っていますし、手を放して頂けないでしょうか?」


「ふぅん、よぉく飼い慣らしてるみたいじゃないかぁ」



 僕達の話を聞いていたコールマンは、多分に厭味を込めてそう言い。

 面白くなさそうにグレゴ先輩の腕から手を放す。



「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。申し訳ないっすアルさん」



 そう言ったグレゴ先輩の手首にはくっきりと手形が残っており。

 加えて、爪でも立てていたのだろう。

 僅かに肉が抉れ、所々から血を滲じませていた。


 グレゴ先輩を止める為とは言え、爪を立てる必要性など一つも無く。

 随分な仕打ちだと思うと、思わず顔を顰めてしまう。


 しかし、ランドらからしたらそれが気にくわなかったようで……



「おいっ! なんだその面は!

折角コールマンさんがお前如きの言う事を聞いて下さったんだぞ、もっと感謝したらどうなんだ?

ったく、これだから後期組のヤツらは」



 忌々しい物を見る様な視線を僕へと向ける。


 本当、ランドルと言う男は後期組――いや、僕の事が嫌いなんだと実感させられ。

 呆れを通り越して、鬱陶しく感じてしまった。



「ランドルが僕の事が嫌いなのは分かったからさ、文句があるなら誰かに頼らないで自分で来たらどう?

虎の威を借りる狐っていうのかな? 中々滑稽だよ?

まぁ、一人じゃなんにも出来ない臆病者だって言うのなら仕方ないけどさ」



 その所為か返す言葉も強い言葉を選択してしまい。

 柄にもなく煽る様な事を言ってしまったのだが。

 ランドルに対しては効果覿面だったようで、見る見る内に顔を赤く染め上げて行く。



「後期組がっ!! 誰に口を聞いてやがるっ!!」



 そして、そんな言葉を口にすると、腰の剣に手を掛けるのだが。



「まぁ、待ちなよぉ」



 その行動はコールマンの言葉で抑えられる事になった。



「確かにランドル君が言っていた通り、後期組の癖に生意気な子だねぇ。

でも、ここで激情に駆られて手を出してしまったら、生徒会の一員としてランドル君を処罰しなければいけなくなるよぉ?」


「くっ……」



 心底悔しそうに呻くランドル。

 そんなランドルの肩にコールマンは手を置くと一つの提案する。



「そこでだ。

ランドル君はコイツ――アルディノと言うヤツが気に喰わないんだろぉ?

だったら、正々堂々と手合わせして決着を付ければ良いんじゃないかなぁ?」


「そ、それは……」



 その提案にランドルは渋い表情を浮かべ口ごもる。


 拳骨を避けられなかった事や、グレゴ先輩をけしかけたことから察するに、ランドル自身の実力はたいしたことが無いのだろう。

 だから、誰かの威を狩るようにして絡んでくるのだとは思うのだが……


 そんな風に思っていると、コールマンがランドルの肩にポンと手を置く。



「うんうん、分かる分かるよぉ。

グレゴリオの時にも卑怯な手を使う様な相手だ。

ランドル君が言葉に詰まってしまうのも当然のことだと思う」


「そ、そうです! この色無しは卑怯手を使って来ますからね!」



 お前が言うな? そんな言葉が浮かぶがやはり口にした所で変わらないのだろう。


 と言うか、色無し?

 色無しと言う単語の意味が分からず、疑問符を浮かべていたのだが。



「ほうほう、色無しねぇ、流石後期組と言ったところだねぇ。

素養もなしによく学園に通おうとおもったものだよ」



 コールマンの言葉で『色無し』の意味を知ることになる。

 色無しと言うのは恐らく属性の素養を持っていない人物を指す侮蔑の言葉なのだろう。


 素養の有無は重要だが、それだが魔法を使う上のすべてでは無く。

 素養が無いと言うことだけで差別するというのはどうかと思うのだが……


 まぁ、それは兎も角。

 コールマンとランドルの会話は続いており、会話に耳を傾ける。



「ランドル君、卑怯な手を使われるのが不安だと言うのだったら。

卑怯な手、不正が出来ない場所があれば良いと言うことかな?」


「え、あっ、はい……」


「ではこうすればいい。約一ヶ月後、席位争奪戦が開かれる。

その場で決着を付ければ良いんじゃないかなぁ?

まぁ、組み合わせ次第では当たらない可能性もあるけどねぇ」


「た、確かにそうですが……」



 ランドルはその提案を聞いて尚、浮いた表情は見せなかったのだが――



「実際に手を合わす事が無くても、ランドル君がアルディノよりも優れていることが証明できればいいんだろう?

ならアルディノより良い成績を残せば良いだけの話だ。


なぁに、ランドル君には僕が付いてる

この生徒会会長であり第二席でもあるコールマン=マクガレスがねぇ」



 その言葉でランドルはハッとするよに目を開くと、歪な笑顔を浮かべる。


 そんな2人のやり取りを見ていた僕は、僅かながら嫌な物を感じてしまう。

 しかし、席位争奪戦と言う不正の出来ない場でなら、万が一にも遅れは取らないだろう。


 そう考えていたのだが――






 ◆ ◆ ◆







「強化薬摂取の反応により、アルディノ選手は失格となります!」




 席位争奪戦、予選第二試合の会場。


 審判員が高らかに告げた「失格」と言う言葉に。

 ランドル達を甘く見ていた。そう思わされる羽目になるのだった…… 


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