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131・演劇とお祭り

 『始まりの魔法使い』その演劇を見た僕は開いた口が塞がらないでいた。


 それもそうだろう。


 僕が見た『始まりの魔法使い』と言う演劇は、以前御者から聞いた学園都市の成り立ちを演劇にしたと言う感じだったのだが。

 どちらかと言えばそれは前置きと言った感じで。

 その演劇の大半は一人の青年にスポットが当てられた内容だった。


 そして、その青年なのだが……

 若かりし頃のテオ爺だと言うのだから開いた口が塞がらない。

 

 

 それに加え、演劇で語られる内容も衝撃的で。

 『始まりの魔法使い』のお付きだったと言う話に始まり。

 冒険者として活動しながら『始まりの魔法使い』の行方を捜し、その過程で単独でSランクまで上り詰めたと言う話や。

 冒険者を引退してからは学園メルワ―ルの学園長として、長きに渡りその運営を続けている。

 そんな内容だったのだから尚更だ。


 まさか、テオ爺が自分の通う学園の学園長だなんて想像もしていなかったし。

 そんな大人物だなんて想像すらしていなった為。

 随分と言うか、心臓が飛び出る勢いで驚かされてしまったと言う訳なのだが。


 それと同時に随分と失礼な対応をしていた事に気付かされた僕は、思わず頭を抱えてしまう。


 知らなかったとは言え、歴史に名を残すような相手を捕まえてテオ爺なんて呼んでいたのだ。

 聞く人が聞けば、嫌な顔をするだろうし、厳しく注意される可能性だってある。

 その事を考えれば、今後テオ爺に会う機会があったとしても畏まって接するべきなのだろう。

 

 そう思った僕は。



「今後は、テオ爺って呼ばない方が良いのかな……」

 


 そんな言葉を溢してしまう。

 

 畏まって接するべきだと言うのは分かっているのだが。

 正直に言ってしまえば、出来る事なら今までの関係を崩したくないと言うのが本音で。

 そう思っていた所為か、思わずそんな言葉が溢れてしまい俯いてしまったのだが……



「いたっ!?」



 頭にコツンと言った衝撃があったことで顔を上げると、メーテの拳が頭に置かれおり。

 その事で頭を叩かれたことが分かったのだが。

 どうして叩かれたのだろう?と言う疑問を浮かぶと、その答えを知る為にメーテへと視線を送る。


 そんな僕の視線を受けたメーテ。

 呆れたように溜息を吐いた後に口を開いた。



「アルはまた難しく考えてるな?

アルはそんなの気にしないで、今までみたいに茶飲み友達と接しておけばいいと私は思うぞ?」


「で、でも、失礼に当たるんじゃないかな?」


「まぁ、人によってはそうするべき相手も居るとは思うが。

アルの知っているテオ爺は、そんな事を気にする相手か?」


「テオ爺はそんなこと無いと思うけど……」


「なら、変わらず接すれば良い。

まぁ、これは長く生きている者にしか分からないとは思うが。

長く生きると言うのはそれだけで敬意の対象になる場合が多くてな、それが結構息苦しかったりするんだ。

それに加え、テオ爺には『賢者』や学園長と言った肩書があるのだから尚更だろうな」



 メーテは頭に置いた拳を解き、僕の頭に手のひらを乗せ――



「私はテオ爺では無いから、絶対にそうだと言い切れないが。

私がテオ爺の立場なら、テオ爺と呼んで気安く接してくれることにきっと安らぎを感じている筈だ。

だから、アルは今までと変わらずに茶飲み友達として接すれば良いさ」



 そう言うと、クシャクシャと頭を撫でた。


 そんなメーテの言葉を聞いた僕は、そう言うものなのだろうか?

 とは思ったものの、長く生きている者にしか分からない事があるのだろうと頷く。

 それと同時に、本音の部分を後押しして貰えたような気がした僕は。



「ありがとうメーテ。テオ爺とは今まで通り接してみる事にするよ」



 後押ししてくれたメーテに感謝の言葉を伝えると。

 僕の言葉を聞いたメーテは満足そうに頷いて見せる。

 

 もしかしたら、これまでの茶飲み友達と言う関係では無くなってしまうかもしれないけど。

 それでも、テオ爺とは変わらない関係でいられたら良いな――そんな風に思った。






 演劇を見終わった僕達は、小腹がすいたと言うこともあり。

 近くの屋台で串肉と飲み物を注文すると、空いているベンチに腰を掛ける。


 先程の演劇を思いかえしながら、串肉を頬張っていると。



「先程の演劇は中々に面白い内容だったな。

殆どがアルの茶飲み友達のテオ爺の話ではあったが。

出会いや別れ、挫折に栄光。様々な要素が詰まった良い演劇だと思ったよ」



 メーテは演劇の内容に満足したようで、そんな言葉で演劇を称した。



「うん、演劇なんて初めて見たけど、想像した以上に面白くて驚いたよ」



 僕も素直な感想を口にすると、メーテは少しだけ驚いた様な表情を浮かべ。



「ああ、そう言えばアルを演劇に連れて行ったことは無かったな。

ふむ……で、では時間がある時にでも演劇を見に連れてってやろう!」



 そう言って演劇に誘ってくれるのだが。



「さっきの演劇面白かったものね。

私も演劇を見るのは嫌いじゃないみたいだから、その時には声を掛けてよね?」


 

 ウルフが声を掛けてと言った瞬間、目に見えて狼狽えてみせる。



「……ウ、ウルフは行かなくていいんじゃないか? お、狼は演劇に興味ないだろ?」


「狼でも演劇には興味あるわよ?

と言うかメーテ? 抜け駆けしてアルと2人で出掛けようって事じゃないわよね?」


「ななな、何のことだか全然分からんな!

そ、その話はさておき! 他にも色々な屋台が出てるみたいだし見て周ることにしようじゃないか!」



 恐らくだが、抜け駆けしよう考えていたのだろう。

 目を泳がせ、露骨に話題を変えようとするメーテなのだが。

 当然そんなことで誤魔化せる筈も無く……



「……誤魔化したわね」


「……うん、誤魔化したね」



 ウルフと僕から、冷めた視線を向けられる羽目になっていた。 






 それからの僕達は、祭りの喧騒の中へと身を投じ。

 様々な屋台に目を楽しませては、屋台で売られている食べ物に舌鼓を打った。


 もしかしたら、前世で馴染みのある食べ物なんかが売っているのではないか?

 などと思い、屋台を眺めていたのだが。

 国が違うどころか、世界すら違うのだ。

 前世で馴染みのある商品を扱ってる店など見つかる筈も無く、少しだけがっかりしてしまう。

 

 だが、粉物なんかは少しだけ似ている部分もあり。

 これならばと思い、懐かしさから手を出してみたりしたのだが。

 やはり、似ているだけの別物と言った感じで再度がっかりしてしまった。


 しかし、屋台特有とでも言うのだろうか?

 独特のチープさは記憶を呼び起こすのに充分で。

 そんな懐かしさを感じながらお祭りを楽しんでいたのだが。

 ふと空を見上げて見れば日が傾き始めていることに気付く。


 なんだかんだ言って、陽が傾くまで祭りを満喫している自分に少し呆れてしまい。

 そろそろ帰った方が良いかな?などと考えていると。


 日が傾き始めたと言うことで、ぽつりぽつりと魔石灯の淡いオレンジ色が灯り始め。

 その光景からは、先程までのお祭りとはまた違い、夜のお祭りと言った独特の雰囲気が感じられた。

 

 そんな光景を見た僕は、夜のお祭りと言う雰囲気に当てられてしまい。

 再び気持ちが高揚していくのが分かると、帰ると言う考えを頭から追い出してしまう。


 もう少しだけ。

 そう自分に言い聞かせて、再び喧騒の中に身を投じようとしたその時――



「あ、アル!」



 そんな声が聞こえ、声のする方に視線を向けて見れば。

 そこに居たのはソフィアとラトラ。

 2人もお祭りを楽しんでいたのだろう。手には林檎飴に似た物が握られていた。



「あれ? どうしたの?

今日は寮関連でお祭りの手伝いだった筈じゃ?」


「そうそう。 ちょっと前まで手伝いをしてたんだけど。

思ったより早く終わったから、こうしてラトラとお祭りを楽しんでたのよ」


「そう言うことにゃ!

と言うかやっぱり都会のお祭りは凄いにゃ~。こんなに賑やかだと思わなかったにゃ」


「都会って……学園都市は有名だけど割と田舎よ?

城塞都市とか王都の祭りなんてもっと凄いんだから、これで驚いてたら腰抜かしちゃうわよ?」


「にゃんですと!?」


「え? 本当に?」



 ソフィアの話を聞き、2人が居る理由が分かったのだが。

 僕もラトラと同様に、充分過ぎる程に大きなお祭りだと思っていたので少し驚いてしまう。

 そんな僕達を見たソフィアは。



「ま、まぁ、機会があれば案内してあげるから感謝しなさいよね!」



 そう言ってソフィアらしさを見せつける。

 僕は素直に感謝の言葉を伝えると、折角だし一緒にお祭りを周ることを提案しようとしたのだが――



「あいたたー、どうしたことだー?

急にお腹が痛くなってしまったぞー、あいたたたー」


「あらー? それは大変ねー。

これは急いで家に運ばなきゃいけないわねー」



 何故か棒読みの三文芝居を始めるメーテとウルフ。



「でも困ったわ―、私一人だけじゃメーテを運ぶのは大変そー。

誰か手伝ってくれる人は居ないかしらー?」



 いや、ウルフなら余裕で一人で運べるよね?

 思わずそんな突っ込みを入れそうになってしまう。

 

 しかし、2人が何をしたいのか分からない状態で下手に突っ込むのは迂闊にも程があるだろう。

 そう思った僕は成り行きを見守ることにしたのだが。

 メーテとウルフの視線は僕にではなく、何故かラトラへチラチラと視線を送っていた。

 


「……!! そ、それは大変にゃ!!

ここはウチの筋肉の出番みたいだにゃ!」



 そう言ったラトラは二の腕を露わにし、力こぶを作って見せるのだが、言う程筋肉は見られない。

 本当一体何がしたいのだろう?そんな風に疑問に思っていると。



「名残惜しいがー、後はアルとソフィアで楽しんでくれー」


「そうねー、それが良いわー」


「んにゃ! ウチらの分も楽しんで来るにゃ!」



 そんな言葉を残し、腹痛を感じさせない速さで人混みの中へと消えて行く3人。


 その様子を見た僕は、結局何がしたかったかを理解できずに呆けていたのだが。

 まぁ、メーテとウルフの行動が理解できないと言う事はざらなので、気にしない方向で行くことにすると。



「……とりあえず、お祭りを見て周ろうか?」



 折角なので、お祭りを見て周ることをソフィアに提案する。

 

 そんな僕の提案を聞いたソフィア。

 ソフィアは顔を伏せながら、黙ったまま頷くのだった。


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