プロローグ
休日のある日、天気がよく公園にてジョギングしていた「僕」は野球場前を通りかかり、鵜飼という男に出会う。草野球のチームを作りたいので勧誘の誘いに乗ったものの、僕と彼の2人だけという。とりあえず、僕は連絡先を交換した。しばらくして、和気、藤澤、印南という3人の野球経験者の勧誘に成功した。しかし、まだ4人足りない。鵜飼は充分だと言い、周囲も納得していた。草野球チーム、ではなく、草野球同好会。野球経験者のみで構成された野球経験者ならではの独特な感性で野球を楽しむ。最初は皆ガチガチだったが、次第に打ち解けていく。特に鵜飼は頭の回転が良い上、野球以外の相談も親身に乗ってくれていた。ある時、僕と鵜飼が2人きりで話す機会があった。そこから始まる。
「おう、作者。よう来てくれた。ささ、ここで飯でも食べよか。」
「はい、お世話になります。」
「僕」という何の変哲もないただの人間に対して、鵜飼は不思議なことに、「作者」というあだ名をつけてくれた。なぜなら、鵜飼はそういうのが好きだったからだ。ちょっと変わり者な彼だが、彼を否定しては生きていけない、むしろ彼の存在がそうさせているのかもしれない。鵜飼の生みの親は両親のはずだが、血の通ってすらいない、かすりもしてないのに僕を作者、いわゆる生みの親と呼ぶのはどうも違和感があった。しかし、話してみてなるほどなと思った。彼は僕から気を感じるのだ、と。
変な宗教がましいことでは決してないだろうが、彼は僕のことなどお見通しであった。
「あんた、最近女に振られたんやろ?い、いや、何も隠さんでもええで。誰にも秘密にしたる。」
「女に振られたというか、飽きられたというか、なんか自分的にもどうでも良くなってきた感じはあるね。」
「やろ?顔にそう書かれとる。別に呪われとるわけやないねんで。人は生きてたら自然とそうなるもんやで。なんかきっかけとかあったん?」
「まぁ、それは・・・」
「何が聞きたいかっていうと、身辺調査でも何でもないねんで。大丈夫やって。思ったことそのまま言うてもオッケーやで。」
「実は僕・・・」
僕は誰にも言わなかったことを勇気を振り絞って言った。
「僕、借金を抱えてるんです。」
「ホンマ?金額は言わんでもええけど、ちゃんと返せてる?」
「はい、今のところは毎月コツコツと。」
「ふーん。ほな、続き話してや。」
「まぁ、早い話が現状の生活に困窮を究めていたっていうことと、」
「うん。苦しかったんやな。」
「あと、贅沢ってわけでもないんですけど、自分が今の生活に困らないようにプラスアルファ必要かなと。」
「うん、何か使いたい事情があったんやな。本来なら30代で手に入るはずのお金を20代で手に入れて、利息つけてまで借りなきゃいけなかった。」
「幸いなのはギャンブルにのめり込まなかったことです。お酒は飲んでもタバコは吸いません。」
「偉い。何て優秀なお客さんなんやろ。お金を大事に使うておるのがよう伝わる。そんな紳士今時中々いるもんやないで。」
「まぁ、単純にお金という商品を利息という名のお金で購入したってことだから、責任は感じてますし、早くゼロにしたいな、ゼロにして迷惑かけたこともチャラにしたいな、っても思いますね。」
「立派立派。わかってるなら何も文句ないし間違いでもない。差し支え無かったら答えてくれへん?なぜ借りようと思ったん?」
「劣等感の固まりという一言に尽きます。これ以上は話したくありませんが、他人になめ腐れられてるのが嫌で嫌でたまらなくて、見返してやりたかった。ただそれだけなんです。」
「あぁ、それでか。いや、話聞いててもわかるわ~。これで全部繋がったわ。」
鵜飼という男は話がわかるのか、単に僕がうまく伝えたのか。
どうも彼は僕の心境の察しようが敏感で、的確なアドバイスをくれた。
彼は両親が滋賀県出身のため、近江商人のプライドは少なからず抱いていた。
士魂商才、薄利多売、三方よしの話、
大学時代に部活とバイトの掛け持ちの上に学業に取り組んだ話、
彼の父の実家の近所の寺で修行した話、
彼の母の経営している店で恥をかいた話。
僕は色んな話を聞くことができて勉強になった。
真面目な話もさることながら、酔った勢いでジョークも飛ばし合っていた。
あっという間に時間になった。
店を出て別れる時
「なんだかんだで楽しかったな。また一緒に話そうな。」
と言われたのが嬉しかった。
自分の未熟さを思い知らされるけど、鵜飼君ほど思いやりのある人間って中々いないと思う。
僕は鵜飼君にとって重要人物の1人と考えると、楽しさの中に妙な緊張感が入り混じって、何だか複雑な気持ちになった。
熱血!ダイヤモンドの作者です。ここに出てくる「僕」と鵜飼君の話、なんだかほっこりしますね(個人差あり)。ここではこんな感じで進めていきたいと思います。不定期更新にさせて頂きます。まだ始まったばかりですが、よろしくお願いします。