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B.Warline  作者: A門
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第二話

「お昼はパレードの飲食店でとろうか」

「そうしましょうか」


朝から始まったヴァルゲリオンとヴァルキリー・スクールの創設500周年のパレードは、変わらず賑わっていた。

他国からの協力もあり、怪しい動きも見られず順調に進んでいる。


「うーん……」

「ビアンカ様、どうかなさいましたか?」

「何か、嫌な予感がするの。この、パレードで」

「まさか…そんなわけは」

「気のせいだと思うんだけど、何か一瞬だけ悪寒がした」


少しだけ、ビアンカは身震いした。テレビでは平和的に行われているパレードに、闇を感じたのだ。

ヴァルゲリオン皇太子の乳母だと名乗った女性の周りに、黒い霧が纏われているように見えた。


昔から、ビアンカには妙な力と経験があった。

例えば、彼女が道を通りかかった時に肉屋と魚屋の主人が突如喧嘩を始めたり、使っていた皿が真っ二つに割れたり、目覚まし時計が急にただのガラクタとして壊れてしまったりと様々なことに出くわしていた。

結局は魔法で喧嘩を落ち着かせたり、皿と時計を元通りに直したり、全てそれで解決してきたが、ビアンカが今感じている悪寒は、そういう類ではないような気がした。


「ちょっと、早めにパレードに見に行ってみよう。あの乳母さん、ちょっと、やばいかも」

「ビアンカ様がそう仰るなら、私も何かがあった時は魔法で応戦致します」


2人はヴァルゲリオン皇太子の乳母が怪しいと見た。

少し急ぎめに準備をしながら、テレビでパレードの様子を伺う。


「そういえば、ヴァルゲリオン皇太子殿下って一人息子なんだっけ?箱入りの」

「えぇ。皇太子殿下はそれはもう大切に育てられたという話ですわ。ビアンカ様とご一緒」

「ば、馬鹿なこと言わないのっ」

「1度お会いして、お話してみたいものですわね」


陸の国では定かではないが、空に浮かんでいる国々に住む人間は、王室にはまず直接会って話すことは叶わない。

何よりも最優先にして守るべき存在であり、神格化されている存在なのだ。


その代わり、王室はその品質と強さを保ち続けるという義務がある。

自分たちが造り上げた国と国民を守るため、子々孫々のため。


「とりあえず、行ってみよう!」

「はい」



外に出た途端、パレードに参加しているヴァルゲリオンの国民たちが、ワルキューレ、アルコバレーノ、ウォーティからの観光客と共に踊っている姿がそこにあった。

国全体であげているお祭り行事とはいえ、“人ではない”者がこんなにいるのも珍しい。

子供たちが大人からお菓子をもらったり、カップル同士でパレードを楽しんだりしている。

機会によって生み出された映像の女性たちが投げキッスをすると、男性陣は何故か顔を赤くする。

現実ではない存在ではあるが、ヴァルゲリオンの技術はその気持ちにさせるほどの力を持っているのだ。


ダンスの行列はどこまでも続いていた。

ビアンカとカロリーナの2人も、ピエロに扮した男から記念のお菓子をもらった。


「私達、もう子供じゃないって思っていたけれど、まだ19歳だもんね。国王陛下を始めとする大人にとっては、まだまだ子供なのかも」

「ですわね…。ヴァルゲリオンを子供を非常に大切にする国民性があります。子は宝ってよく言うでしょう?」

「うん、それそれ」


街道を歩いていくと、自動的に水を与えられていた花が、徐々に咲き始めた。

それは機械に施された魔法によるものであり、ヴァルゲリオンでは不思議な現象ではない。

パレードに合わせて、エンジニア達の魔法が機械に与えられたのだ。


季節に関係なく咲くヴァルゲリオンの花は、他国でも評判があった。

特に花の魔法を使う花屋の女主人は大変人気があり、異種族を超えて結婚をした者もいる。


「今は11時30分か…時間が早く感じる日もそうそうないね。皇太子殿下があと30分で噴水場にお出ましだよ」


腕時計に目をやると、歩き始めて2時間近く経っていた。まだ街中にはヴァルゲリオン皇太子と見られる男の姿はなく、国民はぞろぞろと噴水場に集まり始めた。

噂によれば、皇太子は大変な美貌の持ち主で、ヴァルゲリオンの貴族の女性との見合いが絶えないだとか。

毎日毎日それが続くと皇太子殿下もさすがにストレスが溜まるだろうな…と、ビアンカは彼に同情した。会ったことはないけれど。


「すみませーん!ブルーベリーベーグルを2つください」

「はいよっ」


途中で噴水場近くの飲食店で足を止め、12時になるまでベーグルを食べながら休憩をとることにした。

ベーグルの中にはブルーベリージャムとクリームチーズがたっぷり入っており、ビアンカとカロリーナはそれを口にする。


「カロリーナ、ずっと聞きたかったことがあるんだけれど…」

「はい、何でございますか?」

「恋人とか、できた?」

「えっ!?急に何をおっしゃいますか、ビアンカ様!私にはそのような男性はおりませんっ」

「そうなの?料理メインのあの学校って、結構な美男子が入学してくるって話だよ。カロリーナはとても美人だし、モテモテだと思うけどなぁ」

「私はビアンカ様専属のメイドです。ビアンカ様がご結婚されるまでは、あの家を出るつもりは毛頭ございませんよ」

「またまた~」


生まれて19年間、お互いにまだ恋人が出来たことがなかった。

告白こそは数回あったが、全て断ってきた。


カロリーナはビアンカを守るため。

ビアンカは、空の世界で一番の魔法を極めることが夢。

2人にそれぞれ使命と目標があるから、恋愛には全く縁がないのだ。


「ヴァルキリー・スクールはカップルだらけで甘ったるいんだよ!リン先生もさっさとあいつらのベタベタさを規制するべき」

「でも、成績優秀で本校に次ぐ分校で一番の成績を誇っているのでしょう?なら問題ないのではありませんか?」

「そうじゃないんだよ。休憩時間に人前で普通にキスするのが理解できないんだよ!」


別に羨ましいわけではない。ビアンカは魔法の勉強一筋なのだから。

人前で恥ずかしいことを堂々とできることが、とても気に入らなかった。


「だけど、私たちのお父さんとお母さんって、すっごく仲が良かったんだって。ほぼ毎日デートしていたし、毎年このパレードにも一緒に参加していたって、小さい頃死ぬ前によく聞かされたわ。家族ができることって、そういうことだったんだろうなって今になって思うよ」

「私もです」

「今は、私とカロリーナは姉妹みたいなものだよね。19年間、ずっとあの家で一緒に暮らしているんだもの」


カロリーナは頷いた。

ビアンカの両親とカロリーナの両親は、いわゆる主従関係にあった。

だが、決して下僕として扱うことなく、もう一つの家族として共に暮らしてきた。


「それが……立て続けに死んでしまうって、それも何かおかしいよね。私、パレードが終わったら調べてみる。どうして、お父さんたちが死んじゃったのか」

「でも、どうやってお調べになるのですか?手がかりは、ほとんど、何も……」

「大丈夫、心配しないで。私には、ヴァルキリーで鍛えられた魔法がある。魔法が導いてくれるはず」


ビアンカはベーグルを喉に流し込み、立ち上がった。ミルクティーを一気飲みし、噴水場へと走り出す。


「お、お待ちくださいビアンカ様!」


カロリーナもビアンカの後を追いかける。


噴水場とベーグルの店はとても近かった。

数千人近い国民と観光客が集まっており、この状態では、アレックス・ヴァルゲリオン皇太子の姿を拝むことができない。

背伸びをしても、見えなさそうだ。


「せっかくここまで来たのに、足止めされるのってすごいムカつくんだよね!」

「そうですわね……」


ビアンカがため息をついたその時、ちょんちょんと肩を叩かれた。

振り向くと、スラっとした背の高い男が立っていた。


「君、ヴァルゲリオン皇太子殿下を近くで見たいんだって?」

「う、うん…そうだけど?」

「近衛兵に頼んでもらって、近くで見れる場所を確保しているんだ。2人とも、良かったらどう?」

「本当?カロリーナ、どうする?」


急にそんな話を持ちかけられても、信じられるはずがないと、ビアンカは思った。それはカロリーナも同じで、すぐに首を縦には振らなかった。

男は見た感じビアンカ達と同い年ぐらいで、身長もビアンカが見上げるほど高い。

黒髪と宝石のような青い瞳が特徴の、ヴァルキリー・スクールにいたらすぐに女子が寄ってくるような容姿を持っていた。


「僕は嘘はつかないよ。ただ、近衛兵に知り合いがいるんだ」

「んー……そういうことなら、大丈夫じゃない?ねぇ、カロリーナ」

「ビアンカ様がそう仰るなら、私も信じます」

「ありがとう。君がビアンカで、そちらの女性がカロリーナだね?僕の名前は――……」


――バァン!!

男が名乗ろうとした次の瞬間、噴水から大きな爆発音がした。

モニュメントがばらばらになり、破片が空中に散っていく。

人々の悲鳴が響き、あたりはパニックになった。


(何!?どういうことなの?まさか…皇太子殿下を狙った、テロだというの?)


腕時計を再度見ると、針が12時をさしていた。そしてそれと同時に、噴水が突然爆発した。


モニュメントの破片が身体に刺さり、大怪我を負った国民がいた。

ビアンカとカロリーナは即座にその国民に近寄り、怪我をした部分に手をかざした。


「不滅のヒーリングスペル…!」


2人が同じ呪文を唱えると、破片が徐々に消えて行き、手足の傷も塞がっていた。

泣きじゃくっていた子供はすぐに泣き止み、母親に抱きついた。その姿が、ビアンカの心に、ほんの少しだけ傷を作った。

母親は深く頭をさげ、子供を抱き抱えて逃げていった。


「もしかしたら、ヴァルゲリオン皇太子殿下を狙った攻撃かもしれない。あの乳母はどこにいる!?」

「そういえば、インタビューを受けている時はここで皇太子殿下を待つって言っていましたが…おかしいですね。やはり、ビアンカ様の勘は当たっていたかもしれません」


噴水場に仕掛けられた爆弾の魔法。それは上級者の使い手ではないと扱えない魔法であり、ビアンカは皇太子の乳母が彼を殺害しようとしかけたものと推測した。

だが、まだ彼女が犯人だと決まったわけではない。

近衛兵に、乳母には黒い霧がまとわりついていると言っても、きっと戯言だと言って信じないだろう。


(一体、この状況をどうやって打破すればいいの?)

(そもそも、皇太子殿下はここに来ているの!?)


まだ怪我をしている国民が大勢いる。近衛兵も彼らの手当で手一杯だ。


「2人とも!」

「あ、さっきの美青年!君は大丈夫だった!?」

「おれ…ぼ、僕は大丈夫。ビアンカとカロリーナは?」

「私達は平気。これからみんなの手当を魔法で……」

「それは助かるよ、ありがとう」

「あなたも無事で良かったよ。そう言えば、名前はなんて言うの?」


「――アレックス・ヴァルゲリオン。この国の皇太子だよ」



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