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B.Warline  作者: A門
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第一話

ビアンカは目を覚ました。

時計を見ると、朝の9時になっていた。


「カロリーナ!私、遅刻する!皆勤賞もらえなくなるよ!」

「ビアンカ様、落ち着いてください。今日のスケジュールを確認致します」


ビアンカは主人、カロリーナはメイドという関係であるのだが、この家に暮らしているのは2人だけ。

豪邸とまでは言わないが、それなりに立派な土地に家が建てられている。

周りには木々も生え、様々な種類の花も咲いているのだが、それらは全て『機械』が育てたものだ。


“機械都市・ヴァルゲリオン”。

彼女らはそう呼ばれているこの国に、生まれた時から生きている。

建物のほとんどが、人によって造られた機械で建立されたもので、大工という職業で食べている人間はいない。

ヴァルゲリオンにいる人間の主な職業は、機械を指揮するエンジニア、飲食店のシェフ、パティシエ、教師、本屋などだ。

ヴァルゲリオンにあるほとんどのものが機械によって造られたもののため、機械で賄えるものは全てそれに頼っているのが現状だ。


「ビアンカ様、本日の“ヴァルキリー・スクール”はお休みでございます。開校500周年ですよ」

「あ、そう言えばそうだった。いつも8時45分から授業が始まるから、どうしようかと思った。リン先生にどやされるところだったよ」


“ヴァルキリー・スクール”は、ヴァルゲリオン開国当初に開校されたこの国随一の魔法学校である。

この国にも魔法学校は他に存在するが、いわゆるエリートが通っているのがヴァルキリーだ。

ヴァルキリー・スクールと言ってもここはあくまで他国にある本校の分校となっているのだが、

本校に次ぐ分校のなかで一番の成績を誇っている名門校として有名だ。


飛び起きたものの安堵の息を吐いたビアンカは、カロリーナに紅茶を用意するように言うと、とぼとぼと1階のリビングに向かった。

玄関に飾られている鼻に水をやると、甘い香りがするリビングのソファに腰を預けた。今日の朝食はパンケーキだ。


「学校が休みってことは、ヴァルゲリオンも開国500周年ってことだよね。各国の中でも、まだ歴史が浅い方なのに、長いよねぇ」

「そうでございますね。一番歴史があるのは、ヴァルキリー・スクールの本校がある、女性が多い国“ワルキューレ”で1000年以上ですから。ただ、後継問題がなかなか解決せず、陛下は悩まれているそうです」

「ヴァルゲリオンも血筋を重要視してる部分があるけど、ワルキューレはそれ以上かもねぇ」

「そうですね」


カロリーナにアップルティーを差し出されたビアンカはそれを受け取った。

生クリームがたっぷりかけられたプレーンのパンケーキと一緒に味わう。


朝食、昼食、夕食ともにカロリーナが全て用意しており、ビアンカの身の回りの世話は全て彼女が行っている。

それは、ビアンカの亡くなった両親からの遺言にあったからだけではなく、カロリーナ個人でビアンカを尊敬しているからでもある。

実際は友人のように接しあっているものの、カロリーナはビアンカとは違う、料理を主とした魔法学校に通っている。彼女に、最高の料理を振舞うために。


「ってことは、開校記念日と開国記念日がダブルであるから、今日はパレードがあるよね」

「はい、9時30分よりお祭りが始まります。機械によって映し出される女性ダンサーのダンスもございますし、もちろん本物の方々のパレードもあります。飲食店も盛り上がりますよ」

「全部機械でなんかやっちゃってる感じがあったけど、ヴァルゲリオンって案外そうでもないよね。王国だし」

「はい。歴史こそは浅いですが文明開化も早い国ではありますし、ヴァルゲリオンにある機械は最初は全て人が造ったものです。最終的にメンテナンスをするのは人ですから、根本的な原動力は人間です」

「うんうん。だから、私は機械都市・ヴァルゲリオンが好きなんだよね」


ヴァルゲリオンは空に浮かぶ世界各国の中でも最も歴史が浅い国だが、人による文明開化がかなり進んでいる国でもある。

あの1000年以上の歴史を誇るワルキューレよりも現代化に進んでおり、ワルキューレから技術を求められるほどだ。


「ヴァルゲリオン、ワルキューレの他に空に浮かんでる国は、“虹のアルコバレーノ”、“水を統べるウォーティ”の合わせて4カ国ですね。陸にももちろん人は住んでいますし、国は様々あります」

「でも、私たちはずっと空に住んでいるから、陸のこと、何も知らないよね。人が住んでいることすら驚くレベルだもの」

「私も、当初は大変驚きました。陸はもう何千年も前に廃れてしまったのかと…だから、人は魔法で空に住む場所を造ったのだと、母から教わりました」


人は、空にも陸にも暮らしているのだが、お互いにお互いの存在をあまり知らなかった。

ビアンカ達は、魔法学校では『陸は滅びつつあり、空に助けを求めている』と教わっていた。


だが、空と陸の人間は不仲であり、助けなど必要ないと述べる者も出てきている。

何故なら、陸には海があるからだ。

どこまでも続く大きい湖のような真っ青な水。

空の人間はウォーティより水を与えられているため、永遠に困ることはない。

しかし、陸の海は、人が生活に使えるようなものではないという。

戦争を繰り返した結果、まともな水が存在しているのは“一滴の湖・フォニン”という国にある湖のみだそうだ。


空は空で、陸は陸でお互いに差別する人間がいる。今まで空と陸との間に戦争は起こったことはないが、各国の王室は今でもそれを懸念している。


王室同士は比較的に仲が良く交流も盛んなのだが、一部のみ“支配”を目論んでいる者もおり、気が抜けない時代となっているのだ。

何かあった時に、戦争に参戦するために、ビアンカ達は魔法学校で勉強していると言っても過言ではない。

もちろん、本当の目的は、ヴァルゲリオンの繁栄に貢献するためなのだが。


「落ち着いたらさ、一緒にパレードに行ってみない?」

「え、ご一緒させて頂いてもよろしいのですか?」

「もちろんだよ、カロリーナ。私はあなたのことを親友だと思ってるし、気にしなくて良いんだよ」

「あ……ありがとうございます、ビアンカ様」


カロリーナは少し涙目になった。

彼女また家族を亡くしており、代々ビアンカの家に召使いとして生きてきた人間にとって、主人は自分の命より大切な存在だ。

そんなビアンカから、手を差し伸べられた。

嬉しさよりも、幸せを感じだ。


「いつもありがとう、私のことを全部やってくれて。カロリーナ。パレードの時ぐらいは、2人でぱぁっと盛り上がろうよ」

「――はい!」


朝食を終えた2人は片付けをしたあと、テレビの電源を入れた。テレビではもちろん、パレードの報道おしていた。

開催時間10分前にも関わらず、ヴァルゲリオンの中心部の噴水場にはたくさんの国民が集まっていた。

パーティの時に着る衣装で賑わったり、着ぐるみを身につけて小さい子供たちに風船を渡す大人もいる。

車の移動販売で食事を用意しているおじさんもいた。


「今年もパレードは盛り上がりそうだね、カロリーナ」

「はい、ビアンカ様」

『本日は、機械都市・ヴァルゲリオンとヴァルキリー・スクールが始まってからちょうど500周年でございます!王室と校長殿はこの日を大変喜ばれており、国王陛下が忍びでパレードに参加するとの噂も流れております!』

「マジ!?私、まだ国王陛下のお顔を拝見したことないんだよね。カロリーナは?」

「私もです。とても恥ずかしがり屋の可愛らしいお方だと、両親から聞いております」


朝食後の軽いお茶を飲みながら、ビアンカとカロリーナはテレビの報道を見つめていた。


ヴァルゲリオンの国王は人見知りは激しい性格だということで、即位式の時も顔をマスクで隠して王位継承をしたのだとか。

だが、全ての魔法を習得しており、歴代最高の国王と評されている部分もある。

空に浮かぶ各国との交流が盛んになったのも現代の国王が誕生してからで、戦争を回避する力を持つh鳥の人間だ。


「そういえば、国王陛下って何歳だっけ?カロリーナ」

「確か…40代前後ではなかったでしょうか」

「なるほどね…確かに、ここ20年はアルコバレーノやウォーティ、ワルキューレからの観光客も増えてるし、凄いよね」

「“人間ではない”者が住んでいますからね、他国は。きっと、皆様は驚かれることでしょう」


機械都市・ヴァルゲリオン以外に浮かぶ空の国は、実は人間が統べている国ではなかった。

二本足で立つことのできる獣や水の中で生きる人魚、人の姿を借りた精霊たちなどの様々な生き物が暮らしているのだ。

ただ、人魚は水の魔法により人の姿に変わってヴァルゲリオンの観光を楽しんでいるらしい。


『国王陛下はお忍びでご参加されるという噂ですが、ヴァルゲリオン皇太子は公式にご参加されるとのことです!今年で19歳になられます』

「皇太子?お子様がいらっしゃったのですね」

「あの歳で子供がいなかったら色々ヤバいって。というか、私達と同い年じゃん、皇太子殿下」


皇太子もまた、国王と同じように公の場に出てきたことは今まで一度もない。

噂によると、箱入り“息子”として育てられており、相当な我儘王子だというのだ。

ビアンカもカロリーナも、国王と同様、皇太子の顔を見たことがない。

名門校であるヴァルキリー・スクールにもそんなVIPな人間はいないし、いたらいたで毎日パニックになるだろう。


『お名前は、皆様もご存知の通り、アレックス・ヴァルゲリオン皇太子でございます。パレードにご参加されるのは、お昼の12時からとなる予定です。お楽しみにお待ち下さいませ』


インタビューを受けているのは、ヴァルゲリオン皇太子の乳母だという中年の女性。

今年は王室もパレードの準備に特に協力をしており、スクールの生徒からも何名か演劇や演奏で参加する者もいて、王室特務の楽団と合同で催すのだそうだ。

残念ながら、ビアンカは演劇も楽器もやっていないため、声はかからなかった。


「ビアンカ様も参加されれば良かったのに。魔法で、色んな催しが出来ますでしょう?」

「そうだけどさ…人前でそういうことするのとても恥ずかしいんだもん」

「勿体無いですわ。……あ、パレードが始まりましたよ!」


噴水場に大きな時計が、9時30分を指す音楽を流し始めた。

それと同時に人々は踊りだした。

パレードが、始まったのだ。


「私たちも、学校の宿題が終わったら行ってみようか。12時に。皇太子殿下の顔を見てみたいし。できれば国王陛下も。カロリーナの息抜きにもなるしね」

「はい、かしこまりました」


ビアンカの家の前には、踊りながら開国と開校を祝う曲芸師の集団が歩いていた。

バイオリンをメロディにしてカスタネットやスネアでリズムをとる人たちが大勢いた。

中にはアルコバレーノ、ウォーティ、ワルキューレからやってきた曲芸師もおり、他国と一緒に祝っている。

2人は窓からその光景を見て、嬉しく思った。


しかし、ビアンカとカロリーナは知らなかった。

このパレードが、戦争を巻き起こす前兆になることを……。



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