水奈椿
今回の終わり方はちょっとキツい……かもしれないです。
それは、少しやりすぎた、可哀想な少女の物語。
彼女は、1人の神の逆鱗に触れてしまった。
霊斗ですらも恐れおののく、しかし普段は一切無害なその神に。
その神は、通称『概理定礎』と呼ばれる。
あらゆる概念、術理の定礎。
それがその神の通称であり、実態であり、逆らえる者はどこぞの甘味屋だけだという。
「霊斗さん、まだですか〜!!」
その少女……水奈 椿は、人里のとある家屋の中で叫んだ。
と言っても、椿にとってはこの程度の声は、囁き声ですらない。
あまりに強力な戦闘力のために、この世界に着いてからいくつもの失敗を犯したが、それも慣れた物だ。
「……失礼するぞ」
「霊斗さん!?」
椿の期待を裏切り、入ってきたのは1人の少女。その少女に、椿は霊斗への愛のあまり、殺意を覚えた。
「霊斗? あぁ、あの雑魚じゃな」
「は? 霊斗さんを愚弄するんですか?」
「こちらとしては、お主の方が評価したもんじゃがな。よくもこの世界の管理者であるあやつの目をかいくぐり、生き抜いてきたものじゃ」
少女はそう言うと、赤い瞳の輝きをさらに増した。
「……ていうか! あなたは誰なんです!?」
「ワシか? ワシは……そうじゃな。ワシは術理定礎……いや、その戦闘力に免じ、お主には本名を教えてやろう。ワシは世界の具現にして屠る者。あらゆる概念の発端にして、あらゆる力の発端にして、あらゆる術の発端。そのあらゆる物を存続させ、やがて破壊に導く者。あらゆる神の総統『ディス・クリエイ・メンス』」
自分の名を名乗った少女の発した創造の能力は、椿の無効化能力を無視して、別惑星に2人を移した。
「ここなら被害はあるまい」
「は? 返してくださいですよ!!」
「煩い」
「キャンッ!?」
少女はそう言って椿の攻撃を、ひ弱そうな腕の一撃で跳ね返した。
「な、何が……?」
「ふん……お主に説明するのは不満じゃが……まぁ、良いじゃろう。ワシの力は全てを司る力じゃ」
「は? それなら霊斗さんと変わらないですよ……?」
「あぁ、言い方が悪かったな。もう説明せん」
「は、はぁ……?」
全く、意味がわからない。そう言った顔で、椿は少女を睨みつける。
「まったく、あの小僧も概念破壊の術なんぞ持っているじゃろうて……」
概念破壊。その言葉に、まだ幼い椿は顔を傾けた。
「わからんじゃろうな。まぁ、良い」
少女は元はとある『特例』によって連れられた1人の人間だった。
彼女は、特例によって三柱の衰弱した神々と出会った。
今でも、その不思議な光景は少女の脳裏に焼きつき、瞼を閉じればそこに現れそうなほどである。
三柱に分かれていたからこそ、あらゆる神と同じ立場で会話できていたその神々は、1柱になり、破壊、創造、維持の全てを支配した。結果、最強の神、神の総統となるに至った。
三柱に分かれていた頃、この神々は世界の存続のために、あと三つの魂を取り込める存在を欲していた。
それがこの少女だった、というわけだ。
今でこそ大層な名前を名乗っているが、彼女の当時の名は『飛扇 優』。アーサー王やジャンヌダルクと言った英雄たちと同じ才覚を持つ体の器と輪廻に消えた魂を継ぎ、シヴァ、ブラフマー、ヴィシュヌの魂を背負いし者。
ブラフマーの能力によって作り出され、ヴィシュヌによって寸分の狂いなく維持されてきた『全て』を支配する者である。
「はぁ……まったく、くだらんことはせんで欲しいもんじゃがな。早くお主の世界に帰ることじゃ!」
「霊斗さんに会うまで、絶対帰りませんから!!」
「なら、実力行使といこうかの」
戦いの火蓋は、切って落とされた。
◇◆◇◆◇
「神霊『夢想大結界』」
「これは……防御スペルじゃな?」
少女はそう言うと、椿の貼った超硬度の結界をいとも容易く粉砕する。
「な!?」
「ふん……この程度でワシに勝とうなんざ、百年早いわァ!!」
「吸血『魔の呪い〜ナイトメア』」
続いて、椿は少女に対して、異常なまでの速度を持つ弾幕を展開する。が、少女はそれらが被弾してもなお、まったくのノーダメージであった。
「な……! 何なんですかあなた……!」
「もう終わったのか? ならば、こちらから行かせてもらうぞ?」
「くっ……! 夢想『平凡で奇跡の夢想天性』」
椿は最後の悪足搔きとばかりに、全てを破壊するスペルを使おうとして……失敗に終わった。
「な……! なんで!? 何が起こってるんですか!?」
「お主じゃあ、ワシには勝てん。謳歌『滅波朧』」
少女がそのスペルを宣言する。その瞬間、椿の体は足の先から消滅していく。
「な……なんなんですか……!」
「汝は、世界の掟を破った。全てを消しかねない、反逆じゃ。その処罰は受けてもらわねばならぬ。……さよならじゃ」
「やめ……!」
そう言って、椿は完全に消えた。
罰を執行した少女の頬には、一筋の涙が伝っていた。
終わったあと、ちゃんと再生して元の世界に戻してます。こっちの世界での記憶は消えているかな?
次回コラボ最終話です!