ハイド・天之御中主・ミラ
とある幻想郷に、巨大な、大きさにして1メートル強の隕石が降ってきたという。
しかし、その衝撃は周りの人を一人も殺さないほど。建物も倒壊しない程度の衝撃しかなかった。
それは、『隕石自体』がその威力を消したからだろう。
隕石によって、幻想郷に降り立った人物。
これは、『ハイド・天之御中主・ミラ』が降り立った幻想郷から移動させられた先のとあるパラレルワールドの話──。
◇◆◇◆◇
博麗神社で、妖怪と人が仲良くどんちゃん騒ぎをしていた時のこと。彼らは、奇跡なんて非現実的な力よりも、絶対的な力という現実に縋って生きるようになっていた。人里には、そんな絶対的な力を祀る神社の建設が30秒ほど案件として上がったという。
しかし、その神社は祀る対象によって廃案となった。
曰く「俺がこういう状況で神になって、よかったことが一つもない」と。
まあ、それもそうだろう。絶対的な力の持ち主『博麗霊斗』は超がつくほどの霊夢好き。霊夢もまた、霊斗を愛している。
博麗霊斗が神社に祀られれば、霊夢とは暮らせなくなる。ここで博麗神社を廃止するという案も出たが、それを言った者が妖怪の賢者と博麗の守護者によってどうなったかなど、もはや言う必要もあるまい。
そして。
そんな幻想郷の妖怪の賢者、八雲紫のさらに上司に当たる人物は、妖怪の山に皆が気づかぬ間に墜落した隕石に『同類』の匂いを嗅ぎ取った。
「……やあ」
『あなたは誰ですか?』
一見、意味も成さない数奇な文字列。
しかし、龍神、『龍崎神斗』はその意味を理解し、返答した。
『話がしたい。こちらの言語で対話はできるか?』
『……少しお待ちを』
◇◆◇◆◇
〜神斗視点〜
俺の言葉を受けて、隕石……もといハイドは、首に手を当てる。
すると、首が少し光ったかと思うと、唐突に滑らかな日本語で喋り始めた。
「すみませんでした、少し混乱してしまって」
「ああ、気にすんな。お前のことは、霊斗から聞いている」
「霊斗? 誰ですか、それ?」
「あー……気にすんな」
俺はそう言って、ハイドから伸びる特徴的な白く長い尾や羽に目をやる。
そして俺は直感的に、こいつの正体を察する。
「……お前が俺たちの始祖というわけか」
「……あなたも、龍人……ですか?」
「正確には、龍神な。お前たちを統べていた者の後継者って所か」
俺はそう言って、聖剣エクスカリバーを鞘から抜く。
「敵対反応あり、ですか」
「敵対反応というか、興味本意だけどな。俺たちの始祖がどんななのか、少し気になった。その程度だ」
俺はそう言って、目を赤く光らせて警戒するハイドに言葉を投げかける。
「もし俺に勝ったら、この幻想郷での永住権をやってもいいが」
「本当ですか!?」
俺は喜ぶハイドに対して、切っ先を向ける。
それと同時に、赤黒い光を放つ霧がハイドから発生した。これがこいつの能力か……おそらく、俺が龍牙によってもたらされた物と同じような力だろう。
やはりというか、俺の力が吸収されていくような感覚を受ける。が、俺はハイドの対象へと動いていく能力の中でハイドをじっと見据える。俺の吸収される魔力と、俺の中で超速回復する魔力が入り混じる。
能力に対しての干渉が効くなら、能力の対象を俺以外に動かせばいいんだが、この能力に干渉すると、おそらく力が吸収されてしまう。そう直感した。
「なぜ逃げないんですか?」
「俺には能力は効かないぜ」
「……おかしいですね……」
ハイドは俺にそう言うと、黒曜石のような戟の先を俺に向ける。
「穿符『日射ル雷龍』」
炎、雷、龍神力を纏った戟が振るわれる。
俺はその威力を動かし、静止していた戟を折った。
「な!?」
ハイドが驚いている間に、能力でハイドの足元に穴を開ける。
「そんなことまで!?」
俺はそこにハイドを叩き落そうと、空中前回りからかかと落としを決める。が、ハイドには一切ダメージは入っていないようで、それは無効化された。
「なるほど……俺の能力を合わせたような感じか」
「いったい、何のことです?」
「さぁな」
俺はそう返して、重力を操って俺から穴に飛び込むようにする。
ハイドはそれを追いかけるように穴に飛び込んでいった。
ハイドの能力は、認識した力を消すことができるという物だろう。
痛みを消したのは、おそらくそれによるものだ。
なら、気づかれないように攻撃をすればいい。よくあることだ。
突然、ハイドは岩に叩き落とされる。
「うぐぅ!?」
「まだまだァ!」
そのままハイドは岩を対処しようとするが、次々と一箇所に岩が落ちていく。
それによって、岩を処理しても次の岩によってダメージを受けていた。
上から降ってくる岩に気を取られている間に、俺は準備をする。能力で重力を動かし、マグマの発射砲を擬似的に作る。
やがて、ハイドはどこからか太刀を取り出し、岩を切り裂き始めた。
その威力の向きを操り、ハイドにぶつける。
太刀の威力により、ハイド自身が傷ついては回復していく。
「まさか、この力は……。いや、そんなことがあるはずが……」
ハイドは困惑しながら、剣にかかる力を消した。
その瞬間。ハイドが認識できないスピードで、俺はハイドに肘打ちをぶつける。
「ガァッ!!」
その勢いで壁にぶつかったハイドは、肘打ちを防いだ手を解き、むくりと起き上がる。
その瞬間。準備されていたマグマ砲が発射された。
大量のマグマに飲み込まれたハイドは、マグマを消して再び現れた。
視界が遮られた中で、連撃。
マグマが消えた瞬間、壁に押し込められるように俺の膝蹴りをくらい、壁にさらに食い込む。
「ウラァッ!!」
ハイドに認識されるより早く、何よりも早く、ダメージを与える。
だが、ハイドはそれを受け止めた。そのまま、その圧倒的な力で押し返す。その時に俺から返される力も、ハイドは無効化したのだろう。
結局、戦局はこのまま動かない。……いや、動かせない。
俺は少し距離を取る。その隙にハイドには逃げられるが、まあ良いだろう。
さて、こいつは何を持って俺の攻撃を認識しているのか。俺の動きをゆっくりにしても、それはハイドの視界に認識される。
……いや待て。動き? ……そうか。動けば何らかの力が発生するということだ。力を動かす能力でありながら、そんなことにも気づけなかったとは……。
まあ、推測の範囲を過ぎないが、もしかしたら、ハイドは空気の動きを探知しているんじゃないか?
俺はそう思い、速く動かすことで周囲にかかる力を消しながら、ハイドを殴る。
ハイドは、予想通り壁に突っ込んだ。
それでも、少しずつ回復していく。俺や霊斗ほどではないが、それでも回復量は多いようだ。
「一体、何が起こって……!」
ハイドが困惑している間にも、俺は連撃を叩き込む。おそらく、気づかれたらその瞬間終わりだ。
しかし、ハイドも埒があかないと思ったのか、龍神力を増加させた。
俺はそれによって、龍神力を動かすまで一瞬の隙ができる。その瞬間、ハイドは「絶死空間」と宣言した。
俺はそれの対応のために、少し距離をとる。すると、瞬く間に龍神力が広がり、半径10メートルほどの球体が出来る。
「……試してみるか」
俺も不完全だが、龍人といえば龍人だろう。そう思い、球体に手を突っ込んでみるが、みるみるうちに手の力が消滅した。……まさかとは思ったが、ハイドが始祖っていうのは……勘違い?
「うわ……恥ずかし」
俺の呟きを無視するかのように、ハイドは絶死空間の中で自由に動き回り、再戦の準備を始めた。
俺に折られた戟を修復すると、鎧のような物に身を包む。
「『ツュッヒティゲン・アイ』」
ハイドがそう呟くと、戟は目の模様がついた数メートルにもなる大剣に変化する。
「『力球・龍神黒刃』」
ハイドはそう唱えると、絶死空間の内部から俺に対して戟の刃のようになった龍神力を飛ばしてくる。
「うぉ、危ねぇ危ねぇ」
俺はそれを狭い地下内でかわすが、地下内の壁がどんどん抉れていく。
やがて、絶死空間が消滅し、その途端ハイドは全力で俺に斬りかかる。
「ラアッ!!」
それを回避し、そのまま壁を伝うように飛翔する。
「さあ、第二ラウンドといこうか」
俺がそう言うと同時に、ハイドは片手に力を込め、俺に対して思いっきり解き放つ。
「『力線・雷火龍神波動砲』」
ハイドがそう宣言すると、マスパのような、だがマスパとは到底思えない火力の波動砲が飛んでくる。
「おいおい……大爆発でも起こす気かよ」
ハイドは気づいてないのか疑問だが、この場所は地下のマグマによって凄まじい量の水蒸気や上昇気流が発生している。まあ、それは爆発物である水素が多いということで……。
予想通りというか何というか、波動砲に含まれる炎によって、波動砲を包むように大爆発が起きている……が、その爆発はハイドには届いていないようだった。
「逃げてばっかりじゃあ僕には届きませんよ!」
「分かってるって」
まったく、この敵はどれだけ俺に頭を使わせる気だ。俺はそう思いながら、波動砲を上に飛んで避ける。
……ふむ。そろそろ、アレを使うか。丁度水素の量も減ってきた頃だしな。
「『西方七星陣』『南方七星陣』『北方七星陣』『東方七星陣』『全方獣王陣』」
俺は連続で5つのスペルを発動、体を四神とその王、麒麟を模した装備に包み、右腕をハイドに向ける。
星をも飲み込む龍、虎、雀、亀型のエネルギーが、ハイドへと向かう。
ハイドはそれを当然の如く消滅させ、大剣を持って俺に向かってくる。俺もまた、黄金の鎧と伝説の盾で、能力を用いて下から風を送りながらそれに立ち向かう。
ハイドが俺に対して斬りかかる。が、俺は伝説の盾『アキレウスの盾』を召喚して防ぐ。
アキレウスの盾はボロボロと崩れ落ちるが、アキレウスの盾の能力である棘のカウンターがハイドを包み込んだ。
その途端。俺の左脚に装備された、朱雀の炎を司る鎧から、炎が発生し、眩い光、巨大な力となってそれは起こった。下から吹き上げる風によって運ばれたそれに、威力はドンドンと上乗せされる。
「水素爆発」
先ほどの波動砲の時よりも強大なそれは、棘で視界が阻害されているハイドを巻き込む。
「アァァァァァ!!!!」
だが。ハイドはまだ死んでおらず、紅く光る目をより強力に光らせた。おそらく音で判別して防いだのだろう。俺はさらに追撃をかけるべく、スペルカードを宣言する。
「禍龍『ヴリトラ』」
ハイドの周囲を包み込むほどの巨大な……いや、巨大とも錯覚する、数多の弾幕。
それはギッチリと並べられているが、ハイドに対してはある一点を除いて有効的とは言い難い。
ハイドには、霊力や妖力、またそういった類の技は効かない。……だが。これまで実践してきたように、ハイドの視界を奪うということは、重要な武器となる。俺なら空気の動きである音やその他諸々の力、動きといった物も極限まで無くせるからだ。
ハイドは、認識してない物理攻撃に対しては無効化出来ない。力を動かすのも3度目は上手くいかないだろうが、予想外の攻撃にも弱い。
俺にとっては、非常に戦いやすい相手、ということだ。
「これで決める!」
俺は如意棒を召喚し、ハイドに対してマッハ20で伸ばす。ハイドは音も無く近づくそれに不意を突かれ、またもや壁に押し付けられた。
「ガアッ」
ハイドは吐血するが、それと同時に如意棒を握りしめてグシャリと潰した。俺の能力を龍神力で無効化したのか……!
ハイドは忌々しげに俺を紅い目で見つめる。
俺も如意棒を捨て、ハイドを見つめ返す。お互い、もう技がない。必然的に、これが最後の一撃になるだろう。
「龍符『画竜点睛』『スーパーノヴァ』」
俺から放たれる妖力でできた赤黒い槍は、ハイドの能力によって消滅した……が。
超新星爆発を発生させる玉が、眩い光を放った。
ハイドはそのダメージも無効化する。だが、まだだ。
超新星爆発は、何度も起こる。スーパーノヴァは、もう一度現れる球体によって起こる。
それは、星の爆発によって新たなる星を生み出す……いわば、一種の輪廻転生だ。
尽きることのないスーパーノヴァをハイドは対応しきれなかったのか、ハイドは超新星爆発と共に煮え滾るマグマへと落下していった。
それを俺が救出するのに一苦労するのは、また別の話。
◇◆◇◆◇
幻想郷、人里のとある甘味処。ハイドにとっては土地として少し見覚えのあるそこに、暖簾を潜って2人の客が訪れた。
一人は、大きな翼や尾がなくなったことでガラリと印象が変わった青年、ハイド。
そしてもう一人はこの幻想郷でもっとも畏怖されるべき存在の一人。龍神、龍崎 神斗。
「いらっしゃい。……初めまして、かな。ハイド君」
「あの、あなたは?」
「ん? ああ、僕?」
聞かれたことに対して、強調するようにうざったく2回も聞き返すそいつは、満足そうにハイドの問いに答える。
「僕はこの店の店主、有栖川だよ」
ニコニコと笑顔で返すそれの正体は、本来なら幻想郷外の存在。超絶鬼畜神の悪名を持つ、地獄の王。ヘルや閻魔といった者たちと同列に並べられる、ギリシャ神話のオリュンポスの神々の序列3位、ハデス。
「こちらは……」
「いや、自分で言う。俺の名前は博麗 霊斗。一応、この幻想郷で一番強い……ってことになってるんだよな」
「うん。霊斗が全力を出せば、神斗も超えるからね」
自分を打ち負かした龍崎神斗を超える超戦力の存在に、ハイドはゾワリも背筋を伸ばした。そうして、覚悟する。神斗はわけもわからぬまま、高スピードで連撃を叩き込まれたのだ。今回の敗因はほとんどがそれであるし。
その神斗をも超えるのだ。いくら龍神と同じ戦闘力を持つとはいえ、自分が勝てるとは限らない。
「あー……そう身構えるな。もし時間があるなら、この幻想郷の観光名所でも巡ってみると良い。面白い物がたくさん見られるぞ」
「では、お言葉に甘えて」
こうして、ハイドは一時的に遊楽調と呼ばれる世界に滞在することになった。