1章 クティルの戦い方
主人公の話すときは「僕」考えてるときは「俺」になっています。
「ここか…」
ギルドの受け付けに教えて貰った場所に行くと他の建物に比べて明らかに違うものが見えた。
まず、建物の壁が高い。これはおそらく魔法が外に出ないようにするためだと思われる。また、壁の厚さも二十センチ程あり、他の建物よりも三倍程あった。魔法の威力が高い場合、これくらいの厚さがないと粉々に粉砕されてしまうため、とても頑丈に作られている。まあ、やる人がやればこの壁も壊せるのだが、そんな奴はまず壊すような威力で魔法を使うことは無い。そんな威力が出せる者程魔法の怖さを知っているからだ。
「よっと」
訓練場の入り口をくぐって中を覗いてみるとちょうど今からクティルが戦い始める所だった。
(クティルも採取じゃなくて魔物にしたのか?とても戦えそうな感じじゃあ無いような…いや、学園の試験を受けるって言っていたからには魔法が使えるのだろう)
一瞬クティルが戦えるのか考えてしまったが直ぐに思い直してクティルを応援する事にした。
「クティル頑張れー!」
戦う前でガチガチに緊張していたみたいだが、俺の出した声に気づいたようで、こちらに手を振り返してくれた。そのおかげかどうか、さっきよりは肩の力が抜け、リラックスしているように見える。
ちなみに、クティルがいる場所は決闘場のような場所である。およそ15m×15mの正方形でその真ん中らへんで大柄の大盾を持った男と睨み合っていた。
審判のような男が二人に注意事項を伝えている。
簡単に纏めると
・相手に致命傷を与える攻撃はしない。
・ステージの外に出たらそこで終了。また、どちらかが降参したときや審判がストップをかけても終了。
・なるべく魔法をステージの外に出さない。
といったものだった。
二人が了承したのを見て、審判はステージの外に出た。
「始め!」
「!?」
俺は思わず立ち上がりながら驚いてしまった。
審判が掛け声を出した瞬間にクティルの体が消えたように見えたからだ。いや、よく見てみると消えてはいない。しかし、注意深く見ないと分からない程に気配が薄くなっていたため、消えたように錯覚したのだ。
(魔法か?いや、そんな魔法はこの世界にはなかったはず…しかし、生身の体でこれをする事は不可能に近い…いや、何か前にこんなことがあったような…)
そう一人で考査をしている間にクティルは攻撃を仕掛けていた。
しかし、その動きは素人に近く、とても先程のことをやってのける人には見えなかった。さらに、攻撃の瞬間に不自然に気配が強くなっていた。
(なぜ攻撃の瞬間だけ気配を出す?そんなことをする意味は無いように思えるが…いや、出てしまっているのか?自分が攻撃しようと思う気持ちに反応して…そうか!無意識魔法だ!)
『無意識魔法』正式名称は『無意識領域下による魔法行使』である。
これは本人が気づいていない間に魔法を使っていることを指す。
例としては、怪我の治りが他の人よりも早い者、これは回復の無意識魔法を使っている。他の人よりも力が明らかに強い者、これも身体強化の無意識魔法を使っていると言える。しかし、これらの無意識魔法は感情などに左右されやすく、効果の上げ下げが大きい。
いくら気配が薄いといっても攻撃する瞬間に気配が漏れてしまっては意味は無く、全ての攻撃を盾に防がれてしまっている。
だんだんとクティルに疲れが見えて来た。そこでクティルは一瞬攻撃する振りをして、相手を撹乱すると一気に距離をとった。
「吹き荒れる風よ!我が前に立ちはだかるものを打ち倒せ!」
(魔法か…ここで使うのは悪手だな)
その証拠に詠唱を聞いた男が大盾を地面に立て体勢を固めていた。
「ウィンドバレット」
そしてクティルの魔法が発動した。が、来ることを予想していた男は両足でしっかりと踏ん張り、いとも簡単に耐えてみせた。
クティルはそれが最後の攻撃だったのか、地面に崩れ落ちた。
「それまで」
審判が待ったをかけ、試合が終了したと同時に俺はクティルに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「あっ…レスターくん…」
一人で立てなさそうだったので手を引っ張って立ち上がらせた。
どうやら疲労によって倒れただけのようだ。そうしてクティルと話していると先程戦っていた男が近寄って来た。
「いやー嬢ちゃんさっきのは凄かったな。一瞬消えたかと思ったぜ」
「あ、ありがとうございます…けど、結局一回も当てられなかったですし…」
「いやいや、流石にこの道で三十年近く食ってきてるしな。そう簡単に負けるわけにはいかねぇよ」
男はそう苦笑した。
しかし、そこにはギルドの一員として積み重ねてきた確かな自信が見えた。
「それで…坊主が次の相手か?」
「はい。前の人が終わったら相手してもらえと言われました」
「そうか、じゃあ早速やるか…っとその前に嬢ちゃん、文句なしで合格だ。あれだけのことができりゃあ初級で戦う魔物に負けることはまずないだろう」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます」
「おう、俺が保証するぜ。それじゃあ坊主、やるか」
「そうですね、やってしまいましょうか。そうだ、クティル僕の動きをよく見ておいて。面白いものを見せてあげるよ」
何のことか分かっていないクティルは頭に疑問符を浮かべながらもコクリとうなずいた。そのことを確認してから俺はステージに向かった。